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ある雨の日に

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ザァ――― ザァ―――



「……雨だねー」
「……そだね~」
「……雨、ね」
二学期の期末テストが迫り、そろそろ冬の足音が聞こえてきそうな十一月の終わり、
私は久しぶりに柊家に遊び……じゃなかった、勉強会をしに来ていた。
朝に聞いた天気予報によると、今日の天気は晴れだということで、傘を持たずに
家を出たんだけど、昼過ぎくらいからだんだんと雲が出てきて、三時過ぎにはついに
降り出してしまった。

「降水確率10%だったのに……まるであの某超監督のアニメみたいだー」
「え、何の話?」
「ほらほら、あの長回しで有名なー……」
「はいはい、一般人にわからないネタを振るな。だいたいその話が有名なのは、
オタクという一部の人間だけだ」
「……じゃあそれを知ってるかがみもオタクだよね」
「なっ、そ、そういうわけじゃ……」
ちなみに私達は午前中に勉強を切り上げ、雨が降るまで縁側でのんびりタイムを満喫して
いたんだけど、今は居間に避難して、恨めしく窓の外を見ていた。
……今の会話で少し和んだけどね。

「……でも、困ったねー」
かがみとのちょっとした言い争いをした後、私はこれからのことを考えた。

「ん? こなちゃん、どうし……あ、そういえば、傘持ってきてなかったよね」
「うん、どうしようかな……」
窓の外の天気は明るいうちには降り止みそうにもない。傘無しで帰ったらびしょ濡れに
なることは必至だ。


しばらく考え――
「それじゃあ、私達の傘、貸してあげるわよ」
「え、いいの?」
――る前に、かがみがひとつの提案をくれた。いや、私もそれは考えたけど、自分から
言うのはちょっと図々しいと思って抵抗が……

「いいっていいって。どうせそうでもしないと帰れないでしょ? あ、でも次の月曜日には
ちゃんと返すのよ」
……さすがかがみ。私への注意は忘れない。

「それじゃあ、お言葉に甘えて……」
「あ、待って、こなちゃん」
さっそく傘を借りて家に帰ろうと立ち上がろうと思ったら、つかさがそれを止めた。

「ん? どしたの? つかさ」
「私が駅まで一緒に行ってあげる」
「えっ、いいよいいよ。一人で帰れるし」
つかさの意外な申し出に一瞬戸惑ったけど、すぐに断った。でも、
「ううん、私もついていく」
と、つかさにしては珍しく頑固になっている。
うーん、つかさがこうして積極的になるのも滅多にないし……

「……わかった。いいよ」
「ホント?」
私はつかさが私についてくるのを許可した。つかさはとても嬉しそうに顔を明るくして、
玄関に向かう私の後ろについていった。



「もうすぐテストだけど、私達全然勉強してる感じしないよねー」
「うぅ~、今は勉強の話はしたくないよぅ……」
雨が降り続く中、私とつかさは横に二人並んで駅までの道を歩いていた。ちなみに私は
つかさから借りた青色の傘を持って、つかさは自分の水色の傘を持つとともに、同じ色の
合羽を着ていた。合羽が必要なくらいの大降りじゃないのに、なんでかなぁ? とも
思ったけど、人それぞれだよね、感覚っていうのは、と考えて自己完結させた。

今私達は、歩道のある比較的広い道を、つかさが車道側になって、二人並んで歩いている。
降り続いた雨のせいで、車道や歩道にはたくさん大きな水たまりができていて、私達は
それらを避けながら、駅を目指していた。

「受験も近いけど、テストが終わったらどうしてもその前の冬休みっていう楽しいことに
目が行っちゃうよねー」
「そだね~。クリスマスとか、お正月とか……」
「あと私的にはコミケとかねー」
「えっ、こ、コミケ……」
私の振りに始めは指折り数えて楽しそうにしてたつかさだけど、コミケという言葉を
聞いて、少し引いた様な、何かに恐れている様な表情になった。
……まだ去年のトラウマを引きずってるみたい。

と、その時、
「きゃ!」
「うおっ!」
一迅の木枯らしが私達に向かって吹きつけてきた。
私達は二人とも秋物のトレーナーを着て寒さ対策はしていたけど、真冬の風並みに強く
冷たいこの木枯らしには、冷たい雨も相成ってその防寒性能ほとんどは通用しなかった。

「うぅー、さ、寒いー……」
「そ、そだね~……手袋も必要だったかな……」
横を見てみると、隣にいるつかさも合羽があってもこの風はきつかったらしく、
両手を擦り合わせながら肩をしぼめていた……って、

「つ、つかさ!」
「ふえっ! ど、どうしたの? こなちゃん」
「か、傘、傘!」
「えっ、傘? ……ってああ~!」
私とつかさの二人は、つかさが持っていた傘を見て驚いた。なんと、笠の部分が
見事にひっくり返ってしまっている。おそらくさっきの強風のせいだと思うけど、
それにしてもまるで台風の中を歩いていたかのような有様だ。

そこへさらに、
「ひゃっ!?」
「えっ、うわっ!」
追い討ちをかけるように、バシャーンという音とともに車道方向から津波のような
水しぶきが襲い掛かってきた。それはつかさの背中に直撃し、つかさは合羽によって
服が濡れる事はなかったが、傘をさしていて合羽のフードを被っていなかったために頭が、
合羽が届かなかったため足元が、それぞれびしょ濡れになってしまった。ちなみに原因は、
後ろから走ってきたトラックがやや深い水たまりに突っ込んだから。水しぶきが
あがった後、トラックが走っていくのが見えたから、間違いない。

「ふえ~ん、びしょびしょだ~……」
「だ、大丈夫? つかさ」
泣きそうな声を聞いて視線をトラックからつかさに移した。
「う、うん……」
「そっか。それにしても、さっきの傘といい、つかさは相変わらずドジっ娘というか、
不幸属性持ちだよねー」
「うぅ……こなちゃんは大丈夫? 濡れてない?」
「えっ、私?」
ちなみに私はというと、その不幸属性に感謝すべきなのか、それともそう思って
しまった事を謝るべきなのか、つかさが壁になってほとんど濡れる事はなかった。
その事をつかさに伝えると、つかさはさっきの半泣きに近い様な表情から一転、まるで
太陽のように顔を明るくして、
「よかった~。さっきの水しぶき、すごかったから……」
と、ホッとした声で言った。


……あれっ?
つかさの今の表情と言葉に、私は少し違和感を感じた。
……つかさ、何で自分がびしょ濡れなのに、私の無事を聞いて笑ったんだろう……
あれ、そういえば……と思って、数分前のことを思い出してみる。家を出てすぐ、
つかさは車道側に出て私と並ぶように歩き始めたっけ。その時は余りにも自然だったから、
特に何も考えなかったけど……

もしかして……と私は考える。今私が偶然持っていたタオルで、濡れた頭を拭いている
つかさは、こうなることを予測してたんじゃないの? よくよく考えてみると、こんなに
雨が降っているなら車道にも水たまりができるのも当たり前。そんな中で交通量の多い
道の歩道を歩いていたら水しぶきに遭う可能性は十分高い。
……そっか、だからつかさは合羽に傘という完全防備で歩いてたのか。
自分が車道側で歩いて、傘しかない私を水しぶきから守るため。防御は完璧だから自分は
いつ水しぶきが来ても大丈夫。だから私が帰ろうとしたときも、一緒についていくって
意固地になってたのかも。
もちろん、私の考えすぎかもしれない。つかさはいつも合羽と傘を一緒に身に着けてるの
かもしれないし、たまたま車道側にいったのかもしれない。もし私の考えが当たって
いても、風で傘が壊れたり、足元にまで注意が行き届いてなかったり、抜けている
ところもある。
それでも――


「…………」
「……あれ、どうしたの? こなちゃん。もう頭拭き終わったから、傘はもう離しても
いいよ?」
「……ねぇつかさ。私が持ってる傘に入ってかない?」
「えぇ!? い、いいよ!」
「だってつかさの傘、壊れちゃったし」
「で、でも、私、まだ合羽があるし、フードを被れば……」
「いいのいいの! 私がしたいだけだから」
そういって私はつかさの真上に傘を持ち続けた。つかさは少しの間困った顔をしていた
けど、すぐに「うんっ!」と嬉しそうに返事をし、私に身を寄せた。




「……それでね、お姉ちゃんったらね……」
「アハハ、かがみらしいねー」
私とつかさ、二人が一つに傘の中にいて、つまり相合傘で、他愛もない話をしながら
歩いている。
歩いているうちに、私は朝の天気予報を思い出していた。
天気は晴れ。降水確率10%。
つかさの家にいるまでは外れたって恨んでたけど、今の私にとっては、案外外れてないの
かもしれない。
だって、つかさから借りた傘のおかげで雨を避けることができるし、傘の青色はまるで
青空みたいだし。そして太陽は――


「? どうしたの? こなちゃん。顔、真っ赤だけど……」
「えっ、あ、いや、な、なんでもないよ」
「ホント? 熱でもあるんじゃあ……」
「だ、大丈夫だいじょーぶ! ほら、早く駅に行こう!」
「えっ、あ、ま、待ってよ~、こなちゃん!」
私はまるでつかさから早く離れたいかの様に駆け出した。




だって、言える訳ないよね。顔が赤くなったのは――


「太陽はつかさの眩しすぎる笑顔だって考えたら、急に恥ずかしくなったから」


――なんてさ。










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  • フラグたったみたいですね〜! -- チャムチロ (2012-10-28 11:04:36)

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