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kairakunoza @ ウィキ

私は認めない

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だれでも歓迎! 編集
 分かってしまった。

「――勘違いしないで。そりゃ、私の言い方もマズかったけど、とにかく、誤解なのっ」
 私にとって、こなたとはなんなのか。
 私がこいつに何を求めているのか。
「ただ、あいつらが……私とあんたが仲が良すぎて間に入れそうにないだとか、私らにはお互い
さえいれば恋人なんか必要ないだろうとか……」
 だけど、違う。そんなのは認めない。
 こんな答え、認められるわけがない。
「べ、別に私はそんなのぜんぜん気にしてないのよっ? ただ、あんたはどう思うかな、って……
別に心配したわけじゃなくてっ、だから――」
 これなら恋愛感情だったって方がまだマシだ。
 どうしてこんな、チビの、オタクで、だらしのないヤツに。
「だから、つまり――ほら、あんただったらそんなの聞いたら、なに言い出すか分かったもんじゃ
ないじゃない? だから下手なリアクションをしないように釘を刺しとこうと思って……」
 ってゆーか。
 って、ゆーかっ!
「……」
「あぁもうっ!! あんたも何か言いなさいよっ!!」
 これじゃ本当に馬鹿みたいじゃない!

「何かって……」
 ぜぇぜぇと息を荒げる私をぼけーっと眺めながら、ようやくこなたは口を開いた。
「えっと……かがみ?」
 眉を寄せて小首を傾げる。
 反応が小さすぎる気がする。今日のこいつは色々とおかしいけど、いくらなんでも私のあんな
 発言にまったくの無反応というのはさすがに考えられない。
 もしかして……聞いてなかった、なんてことは……
「な、なによ」
「抱きしめて欲しいの?」
「そっ……!」
 ありませんでしたっ!
「そんなこと言ってないわよっ!!」
「いや、言ったじゃん。思いっきり言ったじゃん」
「だっ、だからそれは――言い間違いよっ!」
「だったらホントは何を言うつもりだったのさ」
 うっ。
「それは――だからっ! 今それを説明してんでしょうが! 黙って聞けよっ!」
「や、だって。何か言えって」
「うるさいっ!」
 ああ、もう。
 まったくもって支離滅裂だ。
「だから……つまり私は、釘を……」
 釘……釘ってなんだ。えぇと、確か……こいつが噂に下手な反応をしないように、みたいなことを
 言いかけて――それだ!
「そう! それよ! あんたが噂を聞いたときにちゃんと対応できるように! この件に対しての二人
の認識を共通のものにしておこうと思ったのよ! そのためにあんたがどう思うか聞きたいの!」
 上手く誤魔化せた! これでどうだ!
「はぁ……」
 だから反応薄いってばっ!
 って、あれ?
 でも、なんだか……気配、というか空気というか。それが、普段のこなたに戻ってる?
「……私が、どう思うか?」
「そ、そうよ。答えて。正直に」
「さっき言ったよね? イヤだって」
「……」
 確かに、言ったけど。
 だけど口調がさっきと違う……わよね?
「ん~……でも」
 そしてまた小首を傾げる、その表情も。
 糸目で猫口の、私のよく知ってるこいつの顔に、近い。
「で、でも、なに?」
 勢い込んで促すと――笑った。
 ムフフって、悪戯好きの猫みたいな、いかにもこなたらしい笑い方……って。なんか嫌な予感が。
「かがみと、って部分だけは、ちょっと嬉しいかな」
 的中した!
 こっのやろう。すっかり元に戻りやがって。
「あ、あんたが――」
 あんたが、そんなことばっかり言うからおかしな噂を立てられる――そう、喉まで出かけた。
 だけど、止まる。押しとどめる。
 奥歯を噛みしめて、無駄な言葉と感情を全部飲み下す。視線を逸らして、息を吐く、吸う。
 深呼吸。
 胸元を鷲掴みにして、肩で息を整える。
 落ち着け。落ち着くんだ。
 やっとこいつの、こなたの、“本来のこなた”の言葉を引き出せたんだ。ここで止まってなるものか。
 最後にもう一息吸い込んで、私はゆっくりと問いかけを口にした。
「……それは、どういう意味?」
「どう、って……」
 すると、揺らぐ。
 完全に本調子に返ったわけでもないのか。
「真面目に、正直に答えて。それ聞いて私がどう思うとか、そんなこと考えなくていいから。ってか
また変な気を回したりしたら今度こそぶっとばす」
 気がはやる。
 前に出たくなる気持ちをどうにか堪えて、しかし語気が強まるのは止められない。
「え、えっと……」
 比例するようにこなたの戸惑いも強くなる。私から視線を外し、そのまま周囲に彷徨わせる。
「と……とりあえず、座っていい?」
 逃げやがった。
「……そうね」
 けど、まあいい。
 立ったままだと掴みかかってしまいそうだ。あくまで冷静でなければならない。
 安心したように息をついてベンチに戻るこなたを確認し、私も再び腰を下ろす。
 と、こなたがなにやらきょろきょろと辺りを見回して、地面の一点で目を止めた。視線の先には、
 さっきぶちまけられた紅茶の缶。
 まったく、世話が焼ける。
「ほら」
「あ、ありがと」
 こちらは無事だった緑茶を差し出してやると、戸惑った様子ながらも素直に受け取り口をつけた。
 ほっと一息、といった顔。
「それで?」
「え?」
「どういう意味なの?」
 向き直った顔に、問いを繰り返す。
「あ……あぁ、うん」
 頷いて、再度視線が外される。
 そして震える声で、こなたは答えた。
「……面白い反応、してくれるかなって、思って」
「……」
「い、いつものかがみみたいな……だってさっきまでのかがみ、ちょっと怖かったんだもん」
 いつもの、ね。
 ため息が出る。
 そういうことを訊いてるんじゃないんだが……つまり言い換えれば、こいつが私に求めているのは
 そういう緩い関係だってことか。――いや、
 待て。
「じゃあ、質問を変えるわ」
 予断はよそう。
 変な作戦ももうやめだ。そろそろ薄暗くなってきたし、いっそストレートに訊いてしまおう。
「え……?」
 視線が戻る。忙しいやつだ。
 今度こそ逃さぬよう、私はぐっと身を乗り出した。

「あんた、私のこと、どう思ってるの?」

 意外とあっさり訊けるもんだな――そんな冷めた思考は、しかしほんの一部だけ。
 残りの大部分ではまたしても混乱と後悔が渦を巻いている。
 心臓がバクバク言い出した。ストレート過ぎるだろう。こんなのまるで告白みたいじゃないか。しかも
 自分は何も言わないで。汗が噴き出す。てか近すぎるだろう、顔。顔、顔が歪みそうになる。震える。
 こなたも震えてる。目を見開いて、息を呑んでいて、怯えたように揺らめく瞳が――
「ぁ……」
 まばたきを挟んで、定まった。
 目に意思の力が宿る。
 頬が血色を取り戻す。
 唇が、開いた。
「わたし、は……」
 そうして言葉が紡がれる――――その直前。

 ――みっ、みひっ、みらふるっ、みっきゅりゅんりゅんっ♪

「っ!?」
 突如鳴り響いた素っ頓狂なメロディーに、全身がびくりと竦み上がった。
 こなたもガクリとズッコけ、続いて全身をバタつかせる。
「なにっ! いったいなにっ!?」

 ――しゅぅなーうぉに~すひーとー、ひぃうぇ~なぁうぃキミーもー、ゅふうーきんおーだんすぃて~♪

 いや、本当になに、これ?
 さっぱり聞き取れないけど……歌?
「うるさいよっ!!」
 と、こなたが怒鳴りながらスカートのポケットから何かを引っ張り出して、二つに開いた。
 射殺さんばかりの視線で睨まれてるそれは……携帯電話。そうか。そういやこれ、こなた着メロだ。
「……もしもし」
 見ている前で通話ボタンを押して耳にあて、やたらと低い声で言う。低いというかドス黒いというか。
「……、……おとーさん……」
 あ、おじさんなんだ。そういやもうだいぶ暗いもんね、心配もするか。悪いことしたな――と、

「――空気読んでよっ! せっかく良いムードだったのにっ!!」

「っ!?」
 さらなる怒鳴り声。
 いや……無茶言うなよ、電話相手に。てかムードってなんだ。
「……。今日、遅くなるから」
「え?」
『っ……!? ――て――なた! ――!? おと――か!? ――――』
 ピッ。
 おじさんはまだ何か叫んでいるようだったが、こなたは一方的に通話を終わらせてしまった。
 一拍遅れて、携帯の発していた全ての光も消える。電源ごと切ってしまったらしい。さすがに焦る。
「ちょ、ちょっとこなた」
「ん?」
「なに、やってんのよあんたは。おじさんなんでしょ? そんな言い方したら誤解しちゃうじゃない」
「……いーんだよ。誤解させとけば」
 しかしこなたは構うことなく、少し顔をしかめて、携帯をポケットに戻してしまった。
「いいわけないでしょ。――ああもう」
 仕方なく自分のポケットに手を突っ込む。私から説明してあげないと。
「いいんだってば」
 が、その手も制される。
 もどかしい思いで振り返ると、
「それより、聞いて。返事するから」
 真剣な眼差しがそこにはあった。
「あ……」
 手が止まる。
 その一瞬の隙を突くように、こなたは言った。

「かがみのこと――私は好きだよ」

 目を見開く。
 固まる私を置き去りにするように、こなたは顔を正面に向けなおす。
「私さ、さっきまで様子がおかしかったでしょ」
「……うん」
 首が勝手に頷いた。
 でも、うん。
 あれは尋常じゃなかった。
「それね、かがみと離れなきゃいけないって思ったからなんだよ。たぶん」
 ……なんだって?
 そんなことで、あんな酷い有様になってたっていうのか?
 それはつまり――どういうことだ。
「そのぐらい、かがみのことが好きなんだと思う」
「……」
 やっぱり、私にはこいつが分からない。
 さっきまであんなにも泣き喚いていたくせに、それと同じはずの顔で、同じはずの声で、どうして
 こんなにもあっさりと、優しく言うことができるんだ。
 反則だ、そんな笑い方。
 そんなまっすぐに来られたら、私……
「でもね、安心していいよ。だからどうしろとか、そういうことは何も言わないから」
 ……え?
「好きは好きだけど、友だちとしての範囲内だから。付き合いたいとか、恋人になって欲しいとか、
そんなことは思ってない。私はかがみのこと、そんなふうには、見てないから」
「……」
 いや……待て。
 ちょっと待て。
 なんだそれ。そんなふうに見てないって。だったら私のこの、気持ちに応えてやらなくちゃみたいな
 決意っぽいものはどうすりゃいいんだってゆーか、いや、どうもしなくていいのか。……いいのよね?
 うん。丸めて捨てよう。ポイだ。
 それはさておき――そんなふうに見てないって。
 それじゃまるっきり私と同じじゃないか。
「だったら、『私と』って部分が嬉しいってのは、なんなのよ」
 私はそんなこと思わなかったぞ。
 また冗談だったとか言うなよ。そんな発想が出るって時点で既に、なんか、アレなんだから。
「……それは、正直よくわかんない」
 分かんないってなお前。
「――ただ」
「……ただ?」
「うん。ただ、これが例えばつかさやみゆきさんとって話だったら、喜べなかったと思う」
「……」
 思わず額に手を当てる。
 どういうことだよ。
「私は、つまり……」
「うん?」
「つまりあんたから見て私は、つかさやみゆきとは別ってこと?」
「ん……」
 こなたが小さく目を伏せて、小首をかしげる。一拍置いて頷く。
「そだね。――かがみは、特別かな」
「……」
「そんな顔しないでよ。性的な意味でってわけじゃホントにないんだからさ」
「べ、別にそんな心配してないわよ。ただ……」
「ただ?」
「私も……たぶんなんだけど……」
 うう、口に出すとなると気恥ずかしい。喉が渇く。
「――その前に。お茶返して」
「あ、はい」
 言って突き出した手に、こなたは素直に握らせてくれた。そのまま口に運ぶ。
「ありがと」
「ちなみに間接キスになりますが、よろしいか?」
「……」
 不意打ちのつもりか、このやろう。
「……んなもん、今さら気にしないわよ」
 勤めて平静を装いながら口をつける。
 いや、別に装ってなんかない。回し飲みも食べかけの交換も初めてじゃないし。平気だ。
「むぅ、つまんない」
「茶化すな」
 ペットボトルを口から離す。
「ってゆーか、私も同じなのよ。たぶん」
「え?」
「だから、」
 また、ひとくち。
「私もあんたのことは、好きか嫌いかで言えば好きだけど、あんたと同じで変な意味じゃないってこと」
「……好きか嫌いかの二択なら、好き?」
「そうよ。悪い?」
「うん。悪い」
 思わず、背けていた顔を向けなおす。
 すると待っていたのは、ニヤニヤ笑い。
「好きか嫌いか、どーでもいーか。三択で答えて」
「んなっ……!?」
「あーごめんごめん。ツンデレにはちとキビシー問題だったね」
「だから私はそんなんじゃないって!」
「じゃー答えて?」
「っ……!」
 こっっっのやっろぉ……楽しんでやがる。
「……嫌いじゃないし、どうでもよかったら今ここにいないわよ」
「むぅ……まぁいいでしょう」
「なんで偉そうだよ」
 腕を組んで無い胸を反らす馬鹿を、思いっきり睨みつけてやるが、動じない。
 さてはこいつ、既にまとめに入った気でいやがるな。今度こそもう話は終わったと。
 そんなわけが、あるか。
 大きく息をついて、私は気持ちを切り替えた。
「ってゆーかね、そんなことは分かってんのよ。問題なのはその先なの」
 重要なのはここからなんだよ。
「先って?」
「だから――」
 大きく息を吸い込む。
 力を込めた視線をこなたの瞳に叩き込む。
私は……私も、あんたのことは普通に友だちだと思ってた。――つかさの、とかじゃないわよ?
最初はそうだったかも知れないけど、今は違うんだからね」
「……うん」
 同じだけの力が帰ってきた。
 やっと伝わったか。手間取らせやがって。
「でも、あいつらが噂してるのを聞いて、分かんなくなったのよ。私にとってあんたは、本当に“ただの
友だち”なのか、って」
 本当に、やっとだ。
 やっと本題に入れた。
「どういうこと?」
「例えば……他の、みゆきとか日下部とか峰岸とか相手なら、それで納得できるのよ。友だち――
ううん。親友、かな。でもあんたの場合はそうじゃなかった」
 説明を重ねると、こなたは気弱そうに眉を下げた。
「私は、親友じゃない?」
「違くてっ」
 ああ、もう。
 なんでそう細かいところにこだわるんだ。
「別に、親友でもいいわよ。あんたさえ良ければ。ただ、それだけじゃない何かがある気がするの。
ただし、れ、恋愛感情とかじゃないわよっ。それは何度も考えたし確認もしたから、間違いないわ」
 どもるなよ私も。
「確認って、どうやって」
「……今もやってるわ。正面から顔見てもドキドキとかしないし、さっき教室で手とか握られたけど、
それも別に平気だった。恋愛感情だったらそれじゃ済まないでしょ?」
 そう。
 それは間違いないのだ。残念なことに。
 ――いや、そうなるとさっき浮かんだ“あの答え”ぐらいでしか説明がつかなくなるというだけで、
 別にそういう方向でこなたのことが好きになりたいなんて意味ではない。断じてない。絶対ない。
「ええと、つまり……」
 と、こなたが首を捻る。
 どうにも理解しかねる、とでも言いたげに。
「それが何か、マズいの?」
「マズいってゆーか……」
 プライドが許さないというか。
「つまり私は、私とあんたの関係を、はっきりと定義したいの」
 言うと、捻った首を上向ける。
「親友、じゃダメなの?」
「だから……」
 私は額に手を当てて、ため息。
「別にダメってわけじゃないけど、それだとみゆきとか日下部とか峰岸と一緒になっちゃうじゃない。
あんただけは、なんか違うのよ」
「そりゃ違うでしょ。私とその三人とじゃ、タイプがぜんぜん」
「それを言うなら三人ともそれぞれ違うでしょ。あんただけおかしな方向にズレてるの」
「おかしな方向って?」
「それが分からないから言ってんでしょうがっ」
 分からないというかソッチには行きたくないというか。
 って、そんな困り果てた顔しないでよ。投げないで考えてくれるのは嬉しいけどさ。
「……意識しすぎなんじゃないの?」
「どういうことよ」
「だから、その――男子たち? ソレがヘンなウワサしてるの聞いたせいで、釣られてヘンに意識
しちゃってるだけなんじゃ、ってこと」
「……その可能性なら、私も考えたわよ」
「でも違った?」
「うん」
「……」
 うわぁ、なんかもう湯気でも噴きそうだ。
 さすがに申し訳なくなってくる……が、一方で疑問にも思う。
「ってゆーか、あんたは気にならないの? あんたも似たようなもんなんでしょ?」
「ん? ……うん。かがみだけは特別だよ。でも、それで十分じゃない? 特別な親友」
 ええい、恥ずかしげもなく。
 すっかりいつものこなただな。
「……でも、それじゃ……」
「なに?」
「…………それじゃ、困るのよ」
 いや、分かってる。
 困ってるのは私の方だけだ。
 こなたもさっきから首を傾げっぱなし、眉根を寄せっぱなしだけど、それは私につきあってくれてる
 だけで、こいつ個人としてはもう結論は出ているんだ。
 親友という、ただそれだけで、こなたは満足している。
 でも、だったら私はどうすればいい。
 この気持ちにどうやってけりをつければいい。

「――ってかさ」
「うん?」
 呼びかけに、知らず俯かせていた顔を、上げる。
「別に今日中に答え出す必要とかないなら、続きは明日にしない? もう真っ暗だよ?」
「あっ……」
 そして言われて、軽く息を呑む。
 本当だ。もう星まで出ている。
「……そうね。ごめん」
「や、いいけど。――よっと」
 なんでもないようにこなたは言って、ぴょんとベンチから立ち上がると、落とした紅茶の空き缶を
 拾い上げた。私も立つ。
「……悪かったわね、ヘンなことに付き合わせて」
「いいよ。必要だったんでしょ?」
「うん……」
 私の方にだけ、ね。
 まったく余計な手間をかけさせてしまった。余計なこと言って泣かせそうにもなったし。
「ま、確かに解決しなかったけどさ、でもコレって、たぶんそんなすぐに答えが出るような問題じゃない
と思うよ? だからとりあえず、今日のところは問題の共有ができたってことで満足しとこーよ」
 なのに笑顔でそんなふうに言ってくれるということは、つまり本当に、親友だと思ってくれている、と
 いうことなのだろう。
 ならばここは笑い返すべきところだ。
「……そう、ね」
 だけど、目を逸らしてしまった。
 駄目だなぁ、私。
 信じてないわけじゃない。お義理で言ってくれてるわけじゃないと、それは分かる。分かってる。
 だからこそ、いたたまれないのだ。
 こいつはきっとこれからも考えてくれるのだろう。私の『疑問』の答えを。
 本当はもう分かっているのに。
 私はそれを、言えずにいる。
 同じだ。
 これじゃ、そもそもの始まりとまったく同じだ。“かわりばんこ”の理由を話せなかった一件と。
 また私は繰り返すのか。
 また擦れ違ってしまうのか。
「――ねぇ、かがみ」
 立ち尽くす私を見上げながら、こなたが言った。
「ん……?」
「一つお願いがあるんだけど」
「……なに?」
 問い返すと、どこか嬉しそうな顔をする。
「目、閉じて?」
 一瞬意味が分からず、そして次の瞬間、気付いて思わず後ずさる。
「そんな警戒しないでよ。別にキスなんかしないからさ」
 こなたの苦笑い。顔が熱くなる。
「そ、そんなこと思ってないわよ……でも、本当でしょうね」
「信じてってば」
「……分かったわよ」
 まぁ、いい。
 来るにしてもせいぜいほっぺにだろう。こいつもソッチの気はないって言ってるんだし。
 息を吐いて、目を閉じる。
 少しの間を置いて――胸元から腰の辺りまでが、温かい何かにつつまれた。
「!?」
 跳ねるようにまぶたが開く。
 しかし見て確認するまでもなく。

 私はこなたに、抱きしめられていた。

「ちょっ……!」
 とっさに周囲を見渡す。
 誰もいない。
 いないけど!
「じっとして」
「じっとしてじゃないわよっ。い、言い間違いって言ったでしょっ。私は別にこんなこと――」
「私がしたいから、だよ。――言ったでしょ? お願いだって」
「……っ」
 喉に何かがつっかえた。
 腰に回された腕にはごく弱い力しか込められていない。たぶん簡単に振りほどける。
 だけど、できない。
 この、温かみ。
 慣れてないけど馴染みのある、こなただけが与えてくれるこの感覚。
 他の誰も、私にこんなことはしない。つかさも、みゆきも、日下部も、峰岸も。お母さんもお父さんも
 姉さんたちも、少なくとも今現在は。昔はあったけど、今はない。
 だからこそ、こんなにも満たされる。
 ちくしょう。
 やっぱり。
 やっぱり、そうなのか。

 こなただけが、私を抱きしめてくれる。

 それが答えなのか。
 この変に捻じ曲がった感情の正体は、そんな幼稚園児みたいな甘え心だと、そういうのか。
 認められるわけがない。
 言えるわけがない。
 こんなことなら本当に、恋をしているという方がまだましだよ、ちくしょうめ。

「――ねぇ」
「……なによ」
「その、定義? はともかくとしてさ、つまり今までどおりでいいってことだよね? 私たち」
「……できれば自重して欲しいけどな、こういうことは」
「わかってる。人前じゃやらないようにするよ。……でも二人っきりのときなら、いいよね?」
「だっ――なんであんたはいちいちそういう言い方なのよっ!」
「ふひひっ、さーせん」
 あー……でも、別にいーかなー。
 正解を知られるよりは、そんな誤解をされた方が、まだ。

「――よっし! かがみ分補充かんりょー」
 そんな声とともに、やがて私は唐突に解放された。
 こなたは一歩離れて、ベンチから空き缶と鞄を拾い上げる。
「なんだよ私分って」
 不貞腐れたような私の声は、いったい何に対して不貞腐れているのか。
「別名ツンデレ分。現代人の必須栄養素の中でも最重要なものの一つだよ」
「どうやらその『現代』とやらにはお前しか存在してないらしいな」
「オーケー、ツッコミ分も確保」
「……このやろう……」
 出口に向かうこなたの隣に、私も並ぶ。
 距離のとり方に、少し悩む。
「てかさ、かがみ、顔赤いよ? ソノ気はないんじゃなかったの?」
「それはっ――そう、だけど……仕方ないでしょ、ああいうスキンシップとか、慣れてないんだから」
「そっか。ごめんね、私は慣れてるんだ。おとーさんがあんなだから――――あ」
 だったら私も慣れれば……うん?
 公園を出る一歩手前で、こなたが止まった。見上げてくる。
「かがみ」
 目が見開かれている。
 何に興奮しているのか、鼻の穴が膨らんでいる。
「な、なによ」
「かがみは、私のことが普通に好きで、でも別に興奮したりとかはない、んだよね?」
 声も弾んでいる。
「そうだけど……え? 急になに?」
「私もそれはおんなじ。でも、会えなくなるとか、近くにいられなくなるとかはイヤ。できれば一生の
友だちでいたいと思ってる。――かがみは、どう?」
「それは……まぁ、否定はしないけど」
「だったら私、知ってるよ。それに近い関係を、なんて言うか」
 そして私も目を見開いた。
「な、なに!? 教えて!」
 勢い身を乗り出す私に向かって。
 こなたはニンマリと笑って、なんとなく久しぶりに思える仕草――人差し指を一本、立てた。

「夫婦」

「……」
「……」
 ふうふ。
 たった三文字のその単語は、私の脳に浸透するまでに、随分とまあ長い時間をかけてくれた。
「……はぁっ!?」
 入れ替わって出力されたのは、そんな素っ頓狂な疑問符が一つだけ。
 こなたはますます笑みを深める。嬉しそうに、楽しそうに。
「つまりかがみは私のヨメってことだね!」
「いやちょっと待て。なに言ってんだ、なんでそうなる」
「まぁまぁ、最後まで聞いてよ。――うちってほら、お母さんいないじゃん」
 って、おい。
 いきなりそんな反則持ち出すとはナニゴトだ。話によっては本気で殴るぞ。
「そんな顔しないでってば。単に、だからうちには夫婦ってものも存在しないってことだよ」
「…………じゃあなんで、そんなこと言えるのよ」
「知らないから、考えてみたことがあるんだよ。ゆーちゃんの実家に遊びに行ったときに叔母さん
たちを観察してみたりとか。そしたらそんな結論が出たわけ。好きあってるけどがっついてなくて、
でも離れたくないと思ってる、って。かがみのトコもそんな感じじゃない?」
「それは……」
 確かに、うちの両親もそんな感じではある、けど。
「つまり私はかがみのヨメってことだね!」
「に、二回も言うな! そんなの――そんな、それは、なんか違うだろ! おかしいだろ!」
 ってゆーか滅茶苦茶ニヤついてるじゃねーか!
 明らかにそのネタが言いたいだけじゃねーか!
「よおっし結論出たね。じゃー帰ろーっ」
「聞けよっ! ってか! お前やっぱり分かってないだろ!」
 再び歩き出すこなたを、慌てて追いかける。
「そういうことばっか言うから――って! 待てっ! 待ちなさいよこなたっ!」
「ほらかがみ、早くっ。帰り遅くなっちゃうよっ」
「だからっ! 待てって言ってんでしょうがっ!」
 無駄に軽快な足取りで先を行くこなたに苦労して追いつくと、両手を広げて呆れたような声を出す。
「だってもうこんな真っ暗だよ。おとーさん心配してるだろーなー。誤解してるだろーし」
「あんたが自分で誤解させたんだろうが。……付き合わせたのは、悪かったけど」
 ため息が漏れる。
「でしょ? だからさ、かがみ。このままうちに来て一緒に説明してよ」
「はぁ? なんでそんなことしなくちゃいけないのよ」
「だってこんなに遅くなったの、かがみのせいじゃん。それに最近ブッソーだし、送ってってよ」
 そんな甘えた言葉と仕草に、思う。
 やっぱり違う、と。
「あんたなら平気だろ。ってか私はどうすんのよ」
「大丈夫だよ。おとーさんに送らせるから。車で」
「って、そんなわけにいかないでしょ。悪いわよそんなの。結局迷惑かけちゃうじゃない」
「だーいじょーぶ。喜んでやってくれるって。その方が私も安心できるし。――おとーさんは嬉しい。
私は安心。かがみは安全。何か問題あるかね?」
「……分かったわよ。そこまで言うなら、そうしてあげるわよ」
 こんなふうに、無茶な要求についつい頷いてしまうのは、『抱きしめてくれるから』なんかじゃない。
 宿題を見せるのもアニメショップに付き合うのも、そんな見返りを求めてのことではない。
「やたっ! わ~いっ」
「だからくっつくな!」
 ……。
 うん。
 結果的にはともかく、たぶん断ってもこいつは抱きついてきていた。承諾させるために。
「……ったく、何がそんなに嬉しいのよ」
「だって今は少しでも一緒にいたい気分なんだもん。明日からはみさきちと共有しなきゃいけないし」
「っ……きょ、共有とか言うな。私が善意であんたらの世話してやってんでしょーが」
 私が何もしなくてもこいつはくっついてくるし、こいつがくっついてこなくても私はどうせ世話を焼く。
 だって。
 例えばいつの日か、私のことを抱きしめてくれる人が新たに現れたとして、それで私がこいつに
 関心をなくすなんてこと、あるだろうか。
 あるわけがない。
 そんな自分なんて、想像できない。
「はいはい、ツンデレツンデレ」
「ツンデレ言うなっ!」
 ……。
 いや、でも、一応、確認してみようかな。誰か他の人で。いのり姉さんか、お母さんにでも頼んで。
 そう。そうね。もっと甘えてもいいとかたまに言われてるし。親孝行、姉孝行? も、兼ねて。うん。
 頼んでみよう。

「――あ、そーいやかがみは家に連絡しなくていいの?」
「ん? あぁ、つかさに言っといたから、大丈夫よ」
「むー、自分ばっかり用意が良くてズルいよね」
「うるわいわね」
 つかさ、か。
 あの子の問題についてって点では、結局無駄に終わってしまったな。
 仮にアレが正解だとしても、つかさの悩みに向き合うにあたっては恐らく何の役にも立たない。
 まぁ、仕方ないか。このアプローチじゃ無理だと判明しただけでよしとしよう。
 今日のところは、言ってもらったとおり、自分のために頑張ったということで……
「あ」
 そういえば……
「ん?」
「あ、いや。つかさで思い出したんだけど……まぁ、ぜんぜん関係ない話よ」
 つかさというか、峰岸に言われた方なんだけど。
「お。いーね、ムダ話。なんか久しぶりな気がするよ」
「そうか? まぁ、そうか。――でもこれ、あんたに言って分かるのかな?」
「なになに?」
「えっとね……」
 小首を傾げて、一瞬記憶を探る。
「『ヒメシャチョウ』、だったかな」
「ヒメ、社長? アリアの?」
 お?
「何か知ってるの?」
「や、知ってるってゆーか、『アリア』って漫画にそんな名前のキャラがいるけど……でもなんで?」
 漫画、ねぇ。
「いや、峰岸にね、なんかそんな呼び方されたのよ」
 今日の別れ際に、『頑張ってね、ヒメ社長』と。
 そういえばあの子も意外と漫画とか読む方だし、言われてみりゃソレ系の響きって気もするわね。
「どんなキャラなの? ……って、どうしたのよ」
 見下ろすと、こなたはポカンとしていた。
「峰岸さんが? かがみを? ヒメ社長って?」
「え、ええ」
 なんだ?
 ポカンというか、茫然というか、愕然というか。重大な見落としに気付いてしまった、みたいな顔。
 不安になるじゃないか。どんな酷いキャラなんだそいつは。
「……あ、ごめん。えっと、どんなキャラってゆーか、要するに猫だよ」
「猫?」
「うん、猫。で、ツンデレ」
「……」
 ツンデレって……
 あの子までそんなことを言うのか……

 ああもう、まったく。
 認めないわよ。ええ認めるもんですか。そんな評価も、あんな答えも。誰がなんと言おうとも。
 私は絶対、認めない!


















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コメント:
  • 本当に大作すぎるだろ……
    軽い気持ちで『バス亭』を読んでから
    気付いたら徹夜してたぞ。
    百合描写、心理描写が本当に素晴らしかった。 -- 名無しさん (2010-09-17 10:41:03)
  • みくr(ryで吹いたwww
    GJ! -- 名無しさん (2009-08-20 00:44:50)
  • 完結おめでとう御座います、面白かったです!
    かがみとこなた、同じ気持ちだと言ってるものの、やはりかがみの方は色々と悩ましいような?
    かがみは告白されたらつい受けちゃいかねないけど、こなたはどうなのかとか……そんなギリギリな関係が良いですね。 -- 名無しさん (2008-10-26 22:45:53)
  • これは・・・もしかして「母と娘の時間」に続く?
    でもあっちとこっちで微妙にズレてる気も・・・
    いや、そこはちょちょいと脳内補完すれば余裕でなんとかなる!

    大作の完結!お疲れさまでした!!! -- 名無しさん (2008-10-26 20:17:41)
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