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Affair 第2話

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 2. (つかさ視点)


「ふう」
 眠っているゆたかちゃんに布団をかけながら、私はため息をついた。
 小早川ゆたかちゃんは、小柄で華奢だけに体重は軽いけれど、私にもそれ程、腕力がある訳ではない。
 彼女を背負うことはできても、移動することは難しい。
 仕方なく、店員さんには電話で呼んだタクシーが停まっている場所まで、ホテルの従業員さんには、
ホテルの玄関から予約した部屋まで運んで貰うようにお願いして、何とかベッドの上まで辿り着いた訳なのだけど。

 私は、ゆたかちゃんのベッドの端っこに座りながら、ゆたかちゃんの寝顔をじっと見つめる。
(やっぱり、かわいいなあ)
 純粋で無垢で、天使のようなあどけない寝顔に、吸い込まれそうになる。

 以前から思っているけれど、小早川ゆたかちゃんは、『かわいい』という単語を具現化したような存在だ。
 閉じられている大きな瞼に、長めのまつげ、小さめの唇、ふっくらしたほっぺはもちろん、二つのリボンで結ばれた、
ふわふわの髪が、可愛らしい顔とマッチして、とても危険な魅力を放っている。
 こなちゃんや、みなみちゃんが夢中になるのも、分かるような気がする。

 ゆたかちゃんのすぐ隣に座ってから、人刺し指を伸ばして左のほっぺたをつつくと、
柔らかい感触とともに、ふにっとへこんでしまう。
 あきれるくらい無防備で、ほんの少し力を入れただけで簡単に壊れてしまいそうな程弱くて、それだからこそ
誰もが強い庇護欲に誘われる。

(さて、これからどうしようかな? )
 ゆたかちゃんを誘って食事をして、お酒に酔わせて部屋に連れていくところまでは、計画通りだったけれど、
この先は何も決まっていない。

 エッチをしようと誘っても、絶対に断られないという自信はある。
 ゆたかちゃんとは、夏に一度関係を持っているから、今さら本気で抵抗されることはないはず。
 それに、話を聞く限りでは、仕事が忙しいこなちゃんとは、とんと『ご無沙汰』らしくて、
かなり欲求不満が溜まっているみたいだから、誘えば簡単に落ちそうだ。

 でも、このまま単純に『シテ』しまっても面白みには欠ける。
 こなちゃんの表現を借りれば、選択肢が無く、エンドまで一直線の美少女ゲームほどつまらないモノはない、ということになる。
 最初は嫌がって抵抗しても、気持ちとは関係なく身体が反応してしまい、最後にはよがり狂ってしまうという
シチュエーションが好きだけど、それはそれで都合が良すぎるかもしれない。 

「うーん」
 あれこれ思い悩むのは得意じゃない。
 私は、堂々めぐりになりかけた思考を止めて、こなちゃんに電話をすることにした。


「もしもし」
『もしもし…… つかさ? 』

「うん。こんばんは、こなちゃん」
 とても懐かしい声が聞こえてくる。
「こんな時間に何? 」
 既に、午後10時を回っている。高校生の時だったら眠くてベッドに入っている時間だ。
「こなちゃん。まだ仕事だったの? 」
 そういえば、残業が多いってゆたかちゃんが言っていた。
『ううん。仕事は終わって駅で電車を待っているところ』
 耳を澄ましてみると、電話の向こう側からは様々なノイズが伝わってくる。

『で、何の用? 』
 こなちゃんの声はひどくそっけない。昔には戻れないことを思い出して、胸が少しだけ痛くなる。
「あのね。今日、ゆたかちゃんと食事をしたのだけど」
『ふーん』
「ゆたかちゃん。お酒に酔って寝ちゃったの」
『…… で? 』
「だから、今日はホテルに泊めていくね。それとも迎えにくる? だったらホテルの名前と場所を教えるけれど」
 伝えるべきことを言い終え、返事を待つ。
 かなり長い沈黙が続いた後、こなちゃんはようやく口を開いた。

『構わないよ』
「えっ? 」
 ちょっと意外な返事だ。
『悪いけれど、ゆーちゃんをホテルに泊めて貰えるかな』
「それは、いいけれど? 」
 戸惑う私に、こなちゃんの声が覆いかぶさる。

『つかさのしたいようにすればいいから』

「どういう…… 意味かな? 」
 あまりにも投げやりな、こなちゃんの言葉に不審を抱いて問い返す。
『ゆーちゃんとHをしたいならすれば? 』
 こなちゃんは平然とした口調で、私を奈落の底に突き落とした。


「私って、そんなに淫乱かなあ? 」
 動揺を必死で隠しながら、わざとおどけた口調を作った。しかし――
『知らないけれどね。つかさがどんなに頑張っても無駄だから』

 こなちゃんは、私がゆたかちゃんとえっちをしたとしても、最後には自分の元に戻ってくると信じている。
 こなちゃんは、ゆたかちゃんが裏切ることは絶対にないと信じている。

(すごく、気に入らないなあ)
 胸の奥で生まれた苛立ちが加速度的に拡がる。

『話はそれだけかな? 』
「そうだよ」
『じゃあ』
 私は、やり場のない怒りを消化することができずに、気に入っているはずの携帯を床に放り投げた。
 どす黒い何かが急成長して、心は闇に覆われる。

 気に入らない。全く気に入らない。
 こなちゃんに愛されているゆたかちゃんが気に入らない。
 こんなに愛しているのに、私を無視するこなちゃんが気に入らない。
 こなちゃんに気圧されて、言いたいことも満足に言えない自分も気に入らない。

(絶対に許さない! ) 
 今日は、ゆたかちゃんと楽しい一夜を過ごすことで満足するつもりだったけれど、
気が変わったから動くことにする。
 まずは、放り投げた携帯をひろって、最初に『お気に入り』に登録した相手にかけることにする。


「もしもし、お姉ちゃん」
『つかさ…… あんた、何処にいるのよ 』
 お姉ちゃんも苛立っているようだ。

「えっとね。名古屋だよ」
『何故って、訊くまでもないか。つかさ、今度は何をたくらんでいるの? 』
「実の妹に対してひどい言われようだね。お姉ちゃん」
 私だけが悪人みたいなことを言われるのはとても心外だ。

『何を今さら…… 』
 お姉ちゃんは鼻先だけで笑う。

「お姉ちゃん。こなちゃんのことをもうあきらめたの? 」
『そんなことあるわけ、ないじゃない…… 』
 強気な言葉と裏腹に、声に力が入っていない。
「ふうん。こなちゃんはゆたかちゃんに『ぞっこん』だから、無理だよね」
『わかっているわよ…… 』
 お姉ちゃんが、とても辛そうな声をだした。

「でも、お姉ちゃんはこなちゃんを、あきらめきれないよね? 」
『仕方がないじゃない! 』
 急に声が大きくなる。
 私と同じく、お姉ちゃんはとても未練がましい。
『だって、好きなの。こなたが好きでしょうがないの。家に戻っても何もする意欲がわかない。
大学に行っても勉強する気にもなれない。こなたがいないと駄目なの! こなたがいないと生きていけないの! 』

 お姉ちゃんは一気に吐き出した。
 せっかく志望した大学に合格したのに、だるそうな顔で家を出て、つまらなさそうな顔で明るいうちに帰ってくる。
 夜はPCの前に座りきりで、ネットにはまって夜更かしをしている。

 お姉ちゃんは、本当にこなちゃんがいないと駄目な人なんだね。とってもかわいそうなお姉ちゃん。
 でもね――


「お姉ちゃんは『へたれ』だから何もできないよね。お姉ちゃんは一人で夜な夜なまくらに涙の跡をつけて、
愚図愚図と唸っているのがお似合いだね」
『つかさ! 』
「お姉ちゃんは本気をいつ出すの? こなちゃんが本当に欲しいのなら、こなちゃんを奪い取る為に行動すれば良いのに。
どうして、いつも中途半端なまま、あきらめてしまうの? 」
『だって…… だって、こなたは、ゆたかちゃんのことが…… 』
 ほら、お姉ちゃんはすぐにゆたかちゃんのせいにする。自分からは何もしない癖に。

「ゆたかちゃんは、今、私のすぐ隣にいるよ」
 俗に言う『爆弾』をここで投下することにする。
『どうして? つかさ、また変な事をしたの? 』
「普通に、誘っただけだよ。もっとも今は寝ているけれどね」
 今回はクロロホルムを嗅がせた訳ではない。お酒も強制した訳ではなく、むしろゆたかちゃんが積極的に飲んでいた。

『ねえ。お姉ちゃん』
「な、何よ」
 ちょっとした困難に当たっただけで、すぐにあきらめてしまうお姉ちゃんを煽ることにする。
「私を一番憎んでいるゆたかちゃんでも、今日は、私と一緒のベッドで寝るんだよ。
どうして、お姉ちゃんは勇気を出そうとしないの? 」

『私だって、こなたを取り戻す為にいろいろやったわ。でもこなたは私のことなんて目に入らなかった! 
ずっとゆたかちゃんしか見ていなかった! 』
 お姉ちゃんは、悲痛な声を出している。でもそれは所詮、愚痴に過ぎないんだよ。

「ううん。お姉ちゃんはまだ、本当の意味で戦っていない」
『どういう…… こと? 』
 けげんそうな声が返ってくる。
「お姉ちゃん。結局、今年の夏もこなちゃんに告白しなかったよね」
『だって、あれは…… バタバタしていたし』
「告白なんてわずか3秒だよ。お姉ちゃんは3秒を工面するのが惜しくて、こなちゃんに想いを伝えなかったの? 」
 私の言葉は尖った槍となり、優柔不断で臆病なお姉ちゃんを追い詰める。
『だって、仕方がないじゃない…… 』
 結局、お姉ちゃんは、どこにも逃げることはできず、疲れきった声を出しただけだった。


「やれやれ」
 私は、今日何度目かのため息をつきながら肩を竦める。
 抜け柄のようなお姉ちゃんでは駄目だ。多少は闘志を持ってもらわないと。
 だから、今度は優しく話しかけることにするね。

「お姉ちゃん。告白できなくても仕方ないよ」
『えっ? 』
 戸惑うお姉ちゃんに構わずに続ける。
「ゆたかちゃんはね。反則的な童顔と幼児体型と甘えた声で、ロリコン趣味のこなちゃんの気を引いたの。
だから、お姉ちゃんは悪くないんだよ」
『そ、そうね…… 』
 否定から肯定へと180度変わったので、かなり面喰っているようだ。
「ゆたかちゃんがこなちゃんに飽きてしまえば、お姉ちゃんはこなちゃんをゲットできるはずだよ」
『そ、そうかしら…… 』
 いきなり乗り気になるお姉ちゃんに、いささか辟易する。
 ここまで正直な人だとは思わなかったかな。

「私はゆたかちゃんを誘惑して、こなちゃんとの仲を裂こうとおもっているの。
だから、お姉ちゃんはこなちゃんの心を奪ってほしいんだ」
『私が…… こなたを』
 自信なさげな、お姉ちゃんの背中を、少しずつ強く押していく。

「絶対に大丈夫だよ。お姉ちゃんはこなちゃんを一番知っているし、一番愛しているから」
『愛してる? 』
 オウムの様に繰り返したお姉ちゃんに、ここぞとばかりに畳みかける。
「お姉ちゃんが本当に、全力でこなちゃんに告白すれば、絶対にこなちゃんは恋人になってくれるよ。だから、途中であきらめないで」

『諦めない…… こなたは私のモノ…… 』
 ようやく『納得』してくれたようだけど、まだまだ心許ない。
「こなちゃんが、お姉ちゃんのモノになることは、もう運命で決まっているの」
 お姉ちゃんの記憶に残るように、一字一句をしっかりと刻みこんでいく。
「こなちゃんの身体はお姉ちゃんのモノ。こなちゃんの心もお姉ちゃんのモノ」
『コナタは、私のモノ…… 』
 頃合いは良し。
 私は、携帯を肩と頬で挟んでから強く柏手を打った。

 パン!

 乾いた木がぶつかり合うような音が、部屋中に響く。


 たっぷりと1分は間を置いた後、私はおもむろに切り出した。
「そろそろ、電話切るからね」
『あっ、うん、そ、そうね』
 お姉ちゃんはどこか呆けた声を返してくる。
「それじゃあ頑張ってね、お姉ちゃん」

 電話を切って時計を見上げると、既に10時半を回っている。
「そろそろ、ゆたかちゃんを起こさなくっちゃ」
 小さく呟いてから、安らかな寝顔を浮かべたまま、静かに胸を上下させている、少女の柔らかいほっぺたを軽く叩いた。


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Affair 第3話へ続く





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コメント:
  • つかさドス黒いな〜wかがみん単純すぎて笑えるw
    -- アオキ (2012-01-28 06:37:36)
  • いや巫女としての能力ってのは予想だろw -- 名無しさん (2011-07-10 22:03:57)
  • >自分を言われた

    いや、それ俺。


    実の姉すら目的の為には傀儡に使うつかさヤベェ・・・ -- 名無しさん (2008-12-21 21:56:33)
  • 反則級の童顔、幼児体系、ロリコン趣味。自分を言われたのかと
    一瞬ヒヤリとしました。ゆーちゃんの美しさよ永久(とわ)に -- クドリャフカ(鯨) (2008-12-21 01:36:30)
  • あ、すみません、下の23:46の名無しです
    失礼な書き方ですみません、超設定は超設定で楽しみです -- 名無しさん (2008-12-18 19:57:53)
  • つかさの巫女としての能力を持ち出した点で何か話にそれ以前のノンフィクションのようなリアルさがなくなってしまって残念な気がする
    -- 名無しさん (2008-12-13 23:46:06)
  • つかさが怖いな……
    何考えてるか分からなかったけど、こなたのことが好きなんだなぁ

    こういうドロドロ系が好きなんで、続きを期待します!GJ! -- 名無しさん (2008-12-13 21:42:57)

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