「ごめんなさい。もしかしたら僕、やってしまっていたのかもしれません」
ボロボロだったのは、私だけじゃなかった。
こなたのキツい質問を繰り返し受け、白石くんも精神的に疲れ果てていた。
「な、何言ってるのよ。あなた、ずっとやっていないって言っていたじゃない!!」
「だって、僕の立っていた位置からは被害者の位置に手が届くんでしょ? もしかしたら手が伸びて触っていたかもしれない、
もしかしたらなんかの揺れで撫で回していたかもしれない。そうかもしれないじゃないですか!!」
はぁっ……と白石くんは俯く。
もしかしたら触ってしまっていたんじゃないかという恐怖の念、それは痴漢で訴えられる人に付きまとう。
警察官、検察官に何度も自分を犯罪者という視点で見られ、自分もいつしか犯罪者じゃないかと思い込んでしまう。
「素直に罪を認めれば、すぐに裁判は終わるんでしょ? 反省を示していれば執行猶予もつきます。
痴漢の冤罪ってほとんど認められないんですよね? おとなしく刑に服した方が……」
ダメ、そんなの、そんなの……
「そんなの、絶対ダメだよ!!」
自分でもびっくりするぐらい、私は大きな声を上げていた。
「もし罪が確定したら、白石くんは一生犯罪者扱いなんだよ。どこへ行っても白い目で見られて、
どんな事をやり遂げても信頼してもらえない。ここでひっくり返せば、失ったものも戻ってくるかもしれないのに……」
絶対、それだけは許せない。
テレビに出はじめていた頃から、白石くんは精一杯頑張っていた。
小神さんのムチャ振りにも必死で耐え、少しづつ才能を開花させていった。
そんな彼が、こんなところで躓いちゃいけない。
まったく見に覚えのない罪で、白石くんの人生を無茶苦茶になんてしていいはずがない。
「だから、もうちょっと頑張ろう。私が無罪への糸口を、絶対見つけてあげるから」
「は、はいっ、すみません。なんだか……」
白石くんが服の袖で涙を拭う。
大丈夫、被告人を信頼する事から弁護は始まる。
ずっと、何度も話を聞いてきた白石くん。
私はこの人を信頼すると決めたんだ。だから、絶対最後まで信用する。
「それで、問題は左手の位置なんだけれど、左手は下ろしていたんだよね」
「はい、左手はそのまま下に下ろしていました」
うん、そこの所が今回最大の問題になっているところだ。
左手がフリーだったら、被害者のお尻を触る事ができる。
つまり、左手が空いてなかったら、白石くんの無罪を立証できる!!
「ねぇ、あの時左手はどうなっていたの? 何か握っていたりとかしなかった?」
「うーん、ちょっと待ってください。あと少しで……何か……」
白石くんは必死で思い出そうとする。
裁判が長引くほど証言はあいまいになる。なんとしてでも白石くんから話を聞きださなければ……
「あの……もしかしたら違うかもしれませんが……」
白石くんが一生懸命、搾り出すように話し始める。
「あの日は収録がある予定の日でした。私はあきら様に何か差し入れを持っていくことが多かったんで、
もしかしたら何か……いや、でも、あの日は……」
白石くんは必死で思い出そうとして「ごめんなさい」と頭を抱えた。
いや、それだけでも十分な収穫だ。
左手に何か持っていたなら、白石くんの無罪を主張できる。
白石くんが左手に持っていたもの、それを見つけ出せれば私たちの勝利だ。
「大丈夫。絶対、白石くんの無実を証明するから。だから、白石くんは安心して待ってて」
私は面会室を飛び出した。裁判の再開は明後日。もたもたする余裕はない。
とりあえず、白石くんの持っていた「何か」を渡す予定だった小神あきらさんに話を聞いてみよう。
あの、真面目な白石くんなら、きっと……
「あ……」
拘置所を出たところで、ふと、思い出して立ち止まる。
私が高校二年生の頃からアシスタントとして頑張っている白石くん。
彼が出ているラジオ番組を録音してくれたのも、番組を教えてくれたのも……
「やっぱり、こなたじゃん」
こなたが持ってきたCD、いつものオタク話だと思っていたけれど、でもその話は結構面白かった。
司法試験が忙しくなってからは聞かなくなったけれど、でも、大学時代は暇があれば聞いていた。
まったく、時折こなたはとっても面白いものを持ってきてくれるんだから。
「よしっ!!」
この事件、白石くんを無罪にするのも当然だけれども、私にはもう一つ、重大な使命ができた。
こなたの、あの笑顔を取り戻す。
それはとっても難しい事なんだろうけれども、私はやるって決めたから。
あの頃のように、楽しく過ごせる日々をとりもどすんだ!!
ボロボロだったのは、私だけじゃなかった。
こなたのキツい質問を繰り返し受け、白石くんも精神的に疲れ果てていた。
「な、何言ってるのよ。あなた、ずっとやっていないって言っていたじゃない!!」
「だって、僕の立っていた位置からは被害者の位置に手が届くんでしょ? もしかしたら手が伸びて触っていたかもしれない、
もしかしたらなんかの揺れで撫で回していたかもしれない。そうかもしれないじゃないですか!!」
はぁっ……と白石くんは俯く。
もしかしたら触ってしまっていたんじゃないかという恐怖の念、それは痴漢で訴えられる人に付きまとう。
警察官、検察官に何度も自分を犯罪者という視点で見られ、自分もいつしか犯罪者じゃないかと思い込んでしまう。
「素直に罪を認めれば、すぐに裁判は終わるんでしょ? 反省を示していれば執行猶予もつきます。
痴漢の冤罪ってほとんど認められないんですよね? おとなしく刑に服した方が……」
ダメ、そんなの、そんなの……
「そんなの、絶対ダメだよ!!」
自分でもびっくりするぐらい、私は大きな声を上げていた。
「もし罪が確定したら、白石くんは一生犯罪者扱いなんだよ。どこへ行っても白い目で見られて、
どんな事をやり遂げても信頼してもらえない。ここでひっくり返せば、失ったものも戻ってくるかもしれないのに……」
絶対、それだけは許せない。
テレビに出はじめていた頃から、白石くんは精一杯頑張っていた。
小神さんのムチャ振りにも必死で耐え、少しづつ才能を開花させていった。
そんな彼が、こんなところで躓いちゃいけない。
まったく見に覚えのない罪で、白石くんの人生を無茶苦茶になんてしていいはずがない。
「だから、もうちょっと頑張ろう。私が無罪への糸口を、絶対見つけてあげるから」
「は、はいっ、すみません。なんだか……」
白石くんが服の袖で涙を拭う。
大丈夫、被告人を信頼する事から弁護は始まる。
ずっと、何度も話を聞いてきた白石くん。
私はこの人を信頼すると決めたんだ。だから、絶対最後まで信用する。
「それで、問題は左手の位置なんだけれど、左手は下ろしていたんだよね」
「はい、左手はそのまま下に下ろしていました」
うん、そこの所が今回最大の問題になっているところだ。
左手がフリーだったら、被害者のお尻を触る事ができる。
つまり、左手が空いてなかったら、白石くんの無罪を立証できる!!
「ねぇ、あの時左手はどうなっていたの? 何か握っていたりとかしなかった?」
「うーん、ちょっと待ってください。あと少しで……何か……」
白石くんは必死で思い出そうとする。
裁判が長引くほど証言はあいまいになる。なんとしてでも白石くんから話を聞きださなければ……
「あの……もしかしたら違うかもしれませんが……」
白石くんが一生懸命、搾り出すように話し始める。
「あの日は収録がある予定の日でした。私はあきら様に何か差し入れを持っていくことが多かったんで、
もしかしたら何か……いや、でも、あの日は……」
白石くんは必死で思い出そうとして「ごめんなさい」と頭を抱えた。
いや、それだけでも十分な収穫だ。
左手に何か持っていたなら、白石くんの無罪を主張できる。
白石くんが左手に持っていたもの、それを見つけ出せれば私たちの勝利だ。
「大丈夫。絶対、白石くんの無実を証明するから。だから、白石くんは安心して待ってて」
私は面会室を飛び出した。裁判の再開は明後日。もたもたする余裕はない。
とりあえず、白石くんの持っていた「何か」を渡す予定だった小神あきらさんに話を聞いてみよう。
あの、真面目な白石くんなら、きっと……
「あ……」
拘置所を出たところで、ふと、思い出して立ち止まる。
私が高校二年生の頃からアシスタントとして頑張っている白石くん。
彼が出ているラジオ番組を録音してくれたのも、番組を教えてくれたのも……
「やっぱり、こなたじゃん」
こなたが持ってきたCD、いつものオタク話だと思っていたけれど、でもその話は結構面白かった。
司法試験が忙しくなってからは聞かなくなったけれど、でも、大学時代は暇があれば聞いていた。
まったく、時折こなたはとっても面白いものを持ってきてくれるんだから。
「よしっ!!」
この事件、白石くんを無罪にするのも当然だけれども、私にはもう一つ、重大な使命ができた。
こなたの、あの笑顔を取り戻す。
それはとっても難しい事なんだろうけれども、私はやるって決めたから。
あの頃のように、楽しく過ごせる日々をとりもどすんだ!!
「小神あきらさん。お願いします。話を聞いてください!!」
小神さんを探し出すだけでも一苦労だった。
ファンに見つからないように行動するアイドルを捕まえるのは一苦労だった。
事務所で直接掛け合って、弁護士バッジをこれでもかと見せつけ、
さらに弁護士事務所のほうのコネも使って……ううっ、またセンセーに何か持っていかないと……
何人もの人を経由し、やっと小神さんの足取りを掴めた時にはもう夜だった。
本日最後の収録を終え、局から帰る小神さんをやっと見つけることができた。
でも、その苦労した相手は私を無視してすたすたと歩いていってしまう。
「ちょっと、小神さん。お願いします。話を聞いてください」
「あのさ、あんた何者? 芸能レポーター?ファン? あのさ、邪魔くさいから帰ってほしいんだけれど」
ううっ、こんなのいつも言われ続けて、よく白石くんは耐えられるな。
私は用意していた名刺を取り出す。
「白石くんの弁護をしています、弁護士の柊かがみといいます」
小神さんは私の差し出した名刺を受け取りチラッと見ると、それをポイっと放り投げる。
「ああっ、ちょっと何するんですか!!」
「あのさ、私は弁護士にも白石にも興味ないの。仕事が忙しいから」
ち、ちょっと何、あの言い方!! ひどいじゃない。
そういえば、この前見たテレビを思い出す。
ワイドショーとバラエティをごっちゃにしたような番組。
高校生の頃は好きでよく見ていたけれど、弁護士になって事件や裁判の裏側を見るうちに、だんだん見なくなってきた番組だ。
まだ白石くんが起訴されていないときで、まだ罪が決まったわけでもないのに、彼らは白石くんのことを散々に貶していた。
まるで、自分が正義の権化であるかのように。
犯罪者を社会的に抹殺する事が、自分たちの使命であるかのように。
その番組に出演していた小神さん。そして彼女も、彼をあざ笑っていた。
周りのコメンテーターと一緒になって、彼のことを笑っていた……
「なんで、なんでそんなひどい事ができるんですか? 一緒にいたパートナーなんでしょ?
彼が絶対そんなことするはずないって、どうして信じてあげられないんですか!!」
小神さんがキッと振り返る。
「勝手な事言ってんじゃないわよ!!」
小神さんの声が廊下中に響き渡る。
周りを歩いていた人も、何事かと驚いてこっちを見ている。
「どこにいっても白石は悪者扱いで、どこへ行っても白石の悪口を聞かせられる。
私とずっとやってきたパートナーなのに、テレビでも、ラジオでも。ずっと、ずっと。
でも、私も同じ事言うしかないじゃない。犯罪者を擁護するような奴らが生き残れる世界じゃないの!!」
気づけば、小神さんの大きな目は、涙でいっぱいだった。
あ……、私は気づいてしまった。
この人も、被害者なんだ。
一緒にやってきパートナーを突然奪われ、そのパートナーを貶められ、でも自分も同じことをしなければ生き残れない。
彼女もまた、この事件で傷ついてしまった被害者なんだという事を……
「小神さん……」
小神さんの手をとる。
この人も辛かったんだ。パートナーを否定され続けて、自分も同じことをするしかなくて。
「白石さんは絶対に無実です。それを証明するためにも、あなたの協力が必要なんです」
私を見上げた小神さんの目から、一筋涙が零れ落ちる。
「ちょっと、ごめん……私……」
小神さんは私の胸に顔をうずめる。
冷たい感触、声を押し殺して泣く小神さん。
絶対に救ってみせる。私は、この事件の被害者全員を。
小神さんを探し出すだけでも一苦労だった。
ファンに見つからないように行動するアイドルを捕まえるのは一苦労だった。
事務所で直接掛け合って、弁護士バッジをこれでもかと見せつけ、
さらに弁護士事務所のほうのコネも使って……ううっ、またセンセーに何か持っていかないと……
何人もの人を経由し、やっと小神さんの足取りを掴めた時にはもう夜だった。
本日最後の収録を終え、局から帰る小神さんをやっと見つけることができた。
でも、その苦労した相手は私を無視してすたすたと歩いていってしまう。
「ちょっと、小神さん。お願いします。話を聞いてください」
「あのさ、あんた何者? 芸能レポーター?ファン? あのさ、邪魔くさいから帰ってほしいんだけれど」
ううっ、こんなのいつも言われ続けて、よく白石くんは耐えられるな。
私は用意していた名刺を取り出す。
「白石くんの弁護をしています、弁護士の柊かがみといいます」
小神さんは私の差し出した名刺を受け取りチラッと見ると、それをポイっと放り投げる。
「ああっ、ちょっと何するんですか!!」
「あのさ、私は弁護士にも白石にも興味ないの。仕事が忙しいから」
ち、ちょっと何、あの言い方!! ひどいじゃない。
そういえば、この前見たテレビを思い出す。
ワイドショーとバラエティをごっちゃにしたような番組。
高校生の頃は好きでよく見ていたけれど、弁護士になって事件や裁判の裏側を見るうちに、だんだん見なくなってきた番組だ。
まだ白石くんが起訴されていないときで、まだ罪が決まったわけでもないのに、彼らは白石くんのことを散々に貶していた。
まるで、自分が正義の権化であるかのように。
犯罪者を社会的に抹殺する事が、自分たちの使命であるかのように。
その番組に出演していた小神さん。そして彼女も、彼をあざ笑っていた。
周りのコメンテーターと一緒になって、彼のことを笑っていた……
「なんで、なんでそんなひどい事ができるんですか? 一緒にいたパートナーなんでしょ?
彼が絶対そんなことするはずないって、どうして信じてあげられないんですか!!」
小神さんがキッと振り返る。
「勝手な事言ってんじゃないわよ!!」
小神さんの声が廊下中に響き渡る。
周りを歩いていた人も、何事かと驚いてこっちを見ている。
「どこにいっても白石は悪者扱いで、どこへ行っても白石の悪口を聞かせられる。
私とずっとやってきたパートナーなのに、テレビでも、ラジオでも。ずっと、ずっと。
でも、私も同じ事言うしかないじゃない。犯罪者を擁護するような奴らが生き残れる世界じゃないの!!」
気づけば、小神さんの大きな目は、涙でいっぱいだった。
あ……、私は気づいてしまった。
この人も、被害者なんだ。
一緒にやってきパートナーを突然奪われ、そのパートナーを貶められ、でも自分も同じことをしなければ生き残れない。
彼女もまた、この事件で傷ついてしまった被害者なんだという事を……
「小神さん……」
小神さんの手をとる。
この人も辛かったんだ。パートナーを否定され続けて、自分も同じことをするしかなくて。
「白石さんは絶対に無実です。それを証明するためにも、あなたの協力が必要なんです」
私を見上げた小神さんの目から、一筋涙が零れ落ちる。
「ちょっと、ごめん……私……」
小神さんは私の胸に顔をうずめる。
冷たい感触、声を押し殺して泣く小神さん。
絶対に救ってみせる。私は、この事件の被害者全員を。
逆転☆裁判Ⅴへ続く