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ああ、素晴らしきお泊り会 B面

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だれでも歓迎! 編集
私は本を見ていた。読まずに見ていた。
こなたがマンガのページを捲る音をBGMにして凝視していた。


そもそもこいつは自分の危機に疎い。警戒心がなさ過ぎる。
おかげで勝手に手がこなたの方へ動いて、それを何回必死で押し留めたか。
格闘技をやってたとは言うけど、それならもっと回りに気を配ってくれ。
頼むから私が暴走しそうな時には気づいてほしい。そして警戒してほしい。
そうじゃないと本当、危ないから。
でもそう言ったところで

「かがみがいつ暴走するかなんて分かんないじゃん。それに好きな人を警戒するのって変だと思うんだよね」

という返事がきて、それで私は暴走しそうになった。
現に今だって、マンガを読んでいるだけでも肩が触れそうなぐらいに近い場所に座っているからもう大変だ。
夏だからと言う理由でお互いノースリーブを着ているから、肌が触れそうで触れないというもどかしさがある。

明日の昼まで、はたして私は色々と我慢できるのだろうか自問自答する。



現在の状況に至った理由は単純。
数日前に二人で一緒に帰宅した時のこなたの一言。


「土曜日私の家に泊まりに来る?」


流石に慌てた。こなたは全然恥ずかしがってなかったから、すぐに普通の意味だって分かったけど。
それでも付き合って初めてこういうこと言われたら緊張するってもんでしょ。
数秒後に頷いて、普通の意味だから落ち着け私とか心で唱えながら別れて家に帰る。
つかさとみゆきは私達に気を使ってくれているのか、私達が帰った後しばらく学校で話してから帰るようになった。
今日はデートという名の寄り道をせずにそのまま家に帰ってきたから、つかさはまだ帰ってきていない。
二人は、私とこなたが付き合ってるとカミングアウトしたときにあっさりと受け入れてくれて少し拍子抜けしたけど。
本当にありがたく思っている。学校の方を向いて感謝した。伝わったら凄いけど。
自分の部屋に戻り、ドアを閉めて深呼吸する。
こなたが言った言葉は普通の意味だって何度も唱えているのに頭の隅っこの何かが私を落ち着かせてくれない。
何かこう、自然と口角が上がる。


「……しょうがない、わよね?」


意味もなくボン太君人形をベシッと叩いた。


まだまだ泊まる日までは時間があるのに落ち着かないで上機嫌になっていた。
でもこなたは普通の意味で言ったんだし、私だけ舞い上がってもしかたないと思いなおしす。
つかさが帰ってきて、土曜日こなたの家に泊まるからと伝えると普通に「そうなんだ、いってらっしゃい」と言われて寂しいような気もしたけど。
気を使ってくれているんだろう。感謝。
……でもつかさ。すごい笑顔なのはなんでよ。

「よかったね、お姉ちゃん」
「……普通のお泊りよ」

と、つかさに、そして自分にも言い聞かす。
それでもつかさは笑顔だったし、私も顔が赤いことはつかさとは違っていたけど結局笑顔だった。

それから数日、ずーっと『普通の意味!』 と自分に言い聞かせていたけど、昨日。
つまり金曜日に「つかさは来るの?」と恥ずかしそうに訊ねられて理性が遠くに飛んでいった。でもすぐに引っ張り戻した。
つかさは来ないって。姉離れってやつかしらねという事を伝えたら「そ、そうなんだ」と妙に焦っていた。
学校、しかも教室だというのに抱きしめたくなった。頑張って我慢したけど。
その後すぐにチャイムがなって、授業の合間にこなたのクラスに顔を出していたので自分の教室に戻る。
自分の席につくと、私は思わず手の平に『自重』と書いて飲み込んだ。
画数が多すぎる。それにこれをしたって落ち着くわけじゃないけれど、本当に思わずやってしまった。


そして、今。
こなたを意識しすぎて結局自重出来そうにない私が居る。
肩に確かに感じるこなたの熱。マンガを持つ手に力が入ってしまう。
そろそろ限界かな……と懸念していたら、こなたがマンガを閉じて『パンッ』という音がした。
きっと、それが合図だった。
私も本を閉じてこなたを見る。肩が触れそうなんだから、当然顔だって近い。
意識がこなたに収束する。私が認識出来ていたはずの世界が縮む。

「こなた……」

私達の中でいつの間にか定着したルール。
キスするときは名前を呼び合う、という事が暗黙の了解になっていた。

「か、がみ……」

体感時間ではかなり久しぶりに、実際の時間では約30分ぶりのこなたの声。
つっかえつっかえでも、名を呼ばれたことが嬉しい。
キスしたいという意味を汲み取って、それでも名を呼んでくれたことが。
こなたが、私の名を呼んでくれる事自体が。

けど

ガタッ! ――ドアが開く音
ベシッ!! ――こなたが結構な勢いで本を私の顔面にぶつけた音。おかげで本とキスをした
バサッ! ――私が持っていた本を落とした音

「お姉ちゃん、宿題で分からないところがあるんだけど……あれ、あの、何してるんですか?」

ドアを開けたのは、ゆたかちゃんだった。
視界は本のおかげでかなり狭いけど、声で分かる。
というより、この家には私達二人とおじさんとゆたかちゃんしか居ないわけだし。

「え……あ、ゆーちゃん」

こなたが上ずった声をあげて、本をどかす。今のこなたのセリフに私の何かが反応した。
何かが何なのか理解する前に『ごめん』と言う意味なのかこなたが変に笑顔でこっちを見た。
そりゃあ、ゆたかちゃんにそういうシーンを見せつけるつもりはないけど。
本をぶつけることはないでしょ、本を。

「い、いやー、マンガ読んでたんだけど、セリフの中に意味が分からない言葉があってね……ね?」
「そうそう。だから、これぐらい知っときなさいよって言ったらこなたが顔面に本を押し付けてきたところ。ね?」

この頃誤魔化すのが得意になった。威張っていいものかは疑問だけど。
つかさやみゆきの前ではイチャついてはいない(つもりだ)けど、よく「仲がよろしいですね」「そうだね」というからかい? を受ける。
その度に言い訳してたら、誤魔化しの際の意思疎通のレベルも上がった。

「あ、あの……お邪魔しました!」
「ゆーちゃん!?」

謝ってドアを閉めたゆたかちゃんを、こなたが慌てて追った。
こなたが出て行ってドアが閉まると外で会話しているのか、話し声は聞こえる。何て言っているのかまでは分からないけど。
また、こなたのセリフに私の中の何かが反応した。
今度はさっきより確かな反応。
気持ちの悪い不快感が固まりになって襲ってくる。
何でだろう。寸止めされたから? と考えるけど、この不快感が生まれたのは寸止めされたときじゃない。
理由を考えながらも、私は立ち上がってドアの前に移動していた。
会話を聞くつもりはない。ただ、移動しただけ。
ドアの前に立ったところで理由が思い至った。


ゆーちゃん、という単語


こなたがゆたかちゃんを呼んだ時だ。
胸に何かが引っかかるのは。
別に私自身をあだ名で呼んで欲しいとか、そういう意味じゃない。
ただ、ああいう時はあまり他の事を考えないで欲しいというか。
他の人の名前を呼ばないで欲しい、というか。
……つまりは嫉妬と独占欲か。
それと、ゆたかちゃん本人にそんなつもりはなかったにせよ「邪魔された」とかも思ってしまったし。
怒ってるわけじゃないけど、なんかこうすっきりしない。



ドアが開いて、開けたのがこなただと分かった瞬間、私は腕を引っ張った。
半ば抱きしめるように部屋に入れて、激しい音を立てないようにゆっくりとドアを閉める。
そしてこなたの肩に手を置いて、ドアを背にするようにした。
私もドアに手を付いて、私達自身がドアを開かせないための鍵になる。

「……怒ってる?」
「怒ってるわけないじゃない。ただ……寸止めされると、ね?」

こなたが怯えてる辺り、怒ってるように感じているのだろうけど。
私は別にこなたやゆたかちゃんに怒っているわけじゃない。ただ、一点が気に食わないだけ。

「ち、違うよ!ゆーちゃんに――――」

まただ。

その『気に食わない』キーワードが、私のタガを外した。
別にゆたかちゃんが嫌いなわけじゃない。むしろ良い子だし好きな方だ。
でも、こなたがああいう時に他の人の名前を呼ぶのは嫌だ。上ずった声で私以外の名を呼ぶのは嫌だ。
心が狭いかもしれないけど、どうしようもなく気に食わない。

「―――悪気はなくっぅんむっ!?」

だから、塞いだ。
他の人の名を呼ぶ口を、自分の口で。
さっき出来なかった分を取り戻そうと舌を差し込んで、私だけを考えて欲しいがために、思考すら奪うように舌を絡ませる。
何となく分かってきたこなたが反応するところを舐めながら抱きしめて引き寄せる。
唾液を流し込もうとしているわけではないけど、身長差の分下を向いてキスをするから重力に従い自然と唾液が移動する。
クンッと服が引っ張られて苦しそうにしていたから流石に一旦口を離した。
あ、口の端からこぼしてる。後で言わないと。
こなたは何か言いたげだけど肩で息をしているからか先に必死で息を整えている。
その浅い呼吸を聞いてまたすぐにキスしたいところを堪えた。

「ねえ、こなた」
「はぁ……ん?」

まだ落ち着いてはないけど、視線は少しさっきよりは定まっていたのでどうしても聞きたいことを訊ねる。

「今のキスの相手は誰?」
「え?」

何でそんなこと聞くの? と言わんばかりの目で見上げてくるこなた。
私には重要な事だから真剣に見つめていると、こなたはしばらく息を整えて。

「……かがみでしょ」

呼吸を整えても、まだ上ずっている声で私の名を呼んだ。
その響きに不快感がゆっくりと、でも確かに拡散していく。

「今、こなたの目の前に居るのは?」
「かがみ」

ちゃんと私を見てくれている。
名前を呼んでくれる。

「私の名前は?」
「かがみ……って、どうしたの?」

何が何だか分かってなさそうなこなたに、私は作り笑顔じゃなく自然と笑って軽くキスをした。
さっきのキスで濡れた唇の表面を重ね合わせる。
不思議がっていたけど自分の中で納得したのか、こなたが抱きついてきた。
すごく満足。感無量。

「こなた」
「ん?」
「こぼしてる」

口の端から顎へ垂れている、冷たくなった唾液を人差し指で下から上へとすくう。肌柔らかいな。
結局暴走したわけだし、自重できてないなぁと申し訳ないとは思うけど、結果的に私が満足してにやけてしまうから悪びれてるようには見えないだろう。
なんだかんだで受け入れてくれるこなたが可愛くて愛しい。……これって恋人バカだろうか。
何て考えていたら急に指に熱い何かを感じた。

こなたが私の指を口に含んでる。
微かにあたる歯がくすぐったい。
熱くて、さっきまで自分の舌と絡まっていたものと同じとは思えない舌が私の指の腹を舐めあげた。
というより、指舐められてるよ。

―――私指舐められてる!?


ようやくちゃんと理解し、指から伝わる感覚を正常に感知した。
細く鋭い電撃のような感覚が指の神経から一気に脳へ伝わる。
体の血がいっせいに上がるのを感じて私は反射的に後ずさっていた。
急に走り始めた心臓が痛い。
ついでに後ずさった勢いでぶつけた背中も痛い。そのまま座り込む。
舐められた指は、唾液が空気に触れて急速に冷えていった。何か名残惜しい。
けど、もう一回舐めてとお願いするのも恥ずかしいし間違ってる気がする。
こなたはぽかんとしながら、ゆっくりとへたり込んだ。
あー……空気が変な感じに。



「かがみってさ」
「な、何よ!!」
「受身に回るとトコトン弱いよね」
「あんた人の事言えるか!!」


現在土曜のPM7時。
私が家に帰るのは日曜日のPM3時。


タイムリミットはあと20時間。

















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  • GJ!! -- 名無しさん (2023-01-29 22:16:14)
  • 最高ですわ
    黄金時代 -- 名無しさん (2022-06-13 21:23:23)
  • この空気がたまらないッスね -- 名無しさん (2011-04-16 06:03:36)
  • 二視点合わせ読み中・・・こういう楽しみ方も良いものだ -- 名無しさん (2008-08-08 22:31:45)
  • 続編を希望します♪
    全体的にかがみ視点のほうが好きですww -- 名無しさん (2007-08-21 15:09:17)

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