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ああ、素晴らしきお泊り会 心情整理 B面

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こなたが部屋を出たときのパタンというドアが閉まる小さな音と共に私はうな垂れた。
自責の念という透明な物質が肩に重く圧し掛かってくる。
昔はもうちょっと我慢できたはずなのに、どうしてこうもネジが緩んでいるんだろうか。
そんなの考えるまでも無い。今と昔の違いは、付き合っているかいないか……だ。
昔は嫌われるだとか、友達にも戻れないかもしれないだとか、そういう恐怖と理性とで二重に私の行動に鍵がかかっていた。
それが今ではなくなってしまっている。
これぐらいなら大丈夫だろうなんて甘えてしまっている。
敷いてある布団に倒れこむ。使うつもりもなかったけど、使うことになるかもしれない。
さっきのことで用心して「やっぱり別々に寝よう」と言ってくるんじゃないだろうか。
こなたは喉が渇いたから水を持ってくると言って部屋をでたけど、それは言い訳で実際はこの場から逃れるためだろう。
もしかしたら、抱きしめたりキスされたりするのも本当は嫌がっているんじゃないだろうか。
言えないだけで我慢しているんじゃないか。私だけ舞い上がってるんじゃないだろうか。
ダメだ、思考のベクトルがマイナスを向いてしまってる。
腕の力で起き上がって、ベクトルの向きを変えようと自分を説得する。

――さっき、こなたは恥ずかしいのを我慢して抱きしめて、「甘えてもいい」と言ってくれた

こなたがそういう風に言うのは、きっと私だけ……のはず。
そう思うのは願望ではない……はず。

……本当にそう?
100%そう思ってる?

頭の奥に響く冷ややかな自分の声が、ベクトルの向きをマイナスのまま固定してしまう。
こめかみの辺りに小さな痛みを感じた。眼球の奥が重たい。偏頭痛のような痛みが思考を鈍らせる。
今何かを考え出してもマイナススパイラルにはまるだけだと思考を中断した。
気を紛らわすために散らばったトランプを片付ける。
思考は中断させたはずだったのに、どうやら考え込んでいたらしい。痛みが続いている。
トランプはあった場所に戻し、重い片目を押さえながらただ無心でこなたの帰りを待つ。
帰ってくるのが遅い気がする。いや、それともこれぐらいが普通だろうか。心が焦っているだけだろうか。
しばらくして足音がした。こなたが戻ってきたのだろう。

「かがみー? ごめん、開けてくれるかな」
「あ、うん」

片目から手を離して扉を開けると、両手にコップを持ったこなたが硬い笑顔でコップを手渡してきた。
ずっと片目を押していたから少し視界が悪いというか、ピントが合わないからただの見間違いかもしれない。
そう思いたい。

「はい、ちょっと量多いけど」
「さんきゅ。……って、本当に多いし」

手の平から脳へと、氷の冷たい感覚が伝わる。
喉は乾いてないと思っていたけど、お茶を見ていると無性に飲みたくなって本当は喉が渇いていたことに今更気づいた。
布団が敷いてあるために、座るスペースはスピードをしたときの場所しかない。
お互い向かい合わせで座って床にコップを置いた。


「そうそう。さっきゆーちゃんに、ベッドから落ちた? って聞かれたよ」

話のネタにとでも思ったのか。
サラリと話してきた内容に呼吸が詰まる。

「えっ……ってことは、床を蹴った音聞かれたって事?」
「うん。一応そうだよって言っておいたけど。だから今からあんまり音立てないようにしよ」
「そ、そうね……」

口の中が乾く。潤すためにお茶を半分飲みこむ。いまいち味がわからない。
平然とそういう事を話してくるという事は、やっぱりこなたは知らないんだろう。
ゆたかちゃんは私たちが付き合っているという事を知ってるって。
……ベッドから落ちた? って聞かれてるのに、勘付かれてると気づかないって……

「ねえ、こなた。ゆたかちゃん、他に何か言ってた?」
「ん? えっと……ベッドじゃ狭いの? とか聞かれたよ」
「あうぅ……そこまで言われてるなら気づかれてるって思うでしょ普通……」

思わずコップを握り締めながら呟く。
ゆたかちゃんは『私たちがベッドで一緒に寝た』と思ってるからそう聞いてきたんだろう。
二人で寝たから狭くてベッドから落ちたの? と、言う意味で聞かれたんだと気づいてないのか、こなた。

「かがみはさ、何でああいう事するの?」

話が急に飛んだ。
『ああいう事』が何かは直感的に悟ったけど少しでも答えを先延ばしするために尋ねる。

「ああいう事って?」
「キ、キス以上の事、とか。最後襲ってきたりしたし」

なぜ普段巫女だとかメイドだとかエロゲーだとか恥ずかしい話をしてくるくせにそこでどもるのか。
コップで顔を隠しながらでもこっちの様子を見ているのは分かる。
理由を聞かれても、正直何をどう答えれば良いのか分からずとりあえず私もお茶を一気に飲み干した。
小さくなった氷も口の中に入ってきたから噛み砕く。
そう言えば、氷をかじるのは欲求不満の証拠だとどこかで聞いた気がする。

「……好きだから……だと思うんだけど」
「質問に質問で返すのは関心せんな」

いや、断定系で言ったつもりなんだけど。語尾が上がってたのだろうか。
こなたの言い方から、そのセリフはゲームか何かのキャラの真似だと思うけど元ネタが分からない。
私が突っ込まなかったからか、再び別の質問をしてきた。

「好きだからそういうことする……ってことなら、私がかがみを襲ってもいいの?」

不意打ちを食らって言葉に詰まった。
なんでこう、こいつは普段は好きだとか言ってくれないのにこういう微妙な空気の時には言ってくれるんだろうか。
それに……こなたが私を襲う?
学校で、前と同じように話しているときの感覚ならそれはあるかもしれない。
友達としてならのスキンシップは結構過剰にしてくるんだし。
でも、今現在なら?
恋愛感情でそれが起こりえるかと自問自答する。
自分の答えは……


「こなたが私を、私と同じ理由で襲うって事はないと思う」
「好きだからって理由で襲わないってこと? 私だってかがみのこと好きだよ」

怒っている。口調でも表情でも分かる。そう分かっているけど後半のセリフは言われて嬉しい。
数秒頭の中で噛み締めてしまい、反応が遅れた。顔が熱くなったようで、思わず隠す。
こなたは私のことを好きでいてくれる。そしてそれは恋愛感情でだと言ってくれる。
だけど……まったく私と同じ『恋愛感情』だろうか?

「えっとね……私がこなたに触れる理由は好きだから。それはOK?」
「分かるよ。私だってかがみに触れる理由は好きだからだし」

嬉しいけど不意打ちはくすぐったい。そして、少し悲しくなる。
やっぱり明確なズレがある。私たちの感情の間に。
ズレというか、私が望んでいる事がただの我侭なのだろう。
こなたがお茶を飲み干して床に置いた。こいつも緊張しているんだろうか。

「……私は、普通に触れる以上のことを望んでこなたに触れてる。それは……分かる?」

こなたがビクッと体を震わせ、小さく頷いた。
さっき私が暴走したときを思い出したんだと思う。
それを見て、傷つけてしまったんじゃないかという黒い何かがザワザワと胸を侵食した。
いや、その何かはずっと胸の中にあった。ただ見ない振りをしていただけだ。

「こなたも前に比べてスキンシップ多くなったけど……私と同じ感情で私に触れてる?」

「うん」という単語を。小さく縦に頷いてくれる事を私はどこかで願っていた。
でも多分、それは叶わない。なぜなら、こなたから私に向けられる感情は私とは違い、恋愛感情でも友情よりだと思うから。
こなたの瞳の中の自分を見る。ぼやけているように見えた。
私が泣きそうなのか、こなたが泣きそうなのか。どっちだろう。
視線がずっと重なっている。こなたの視線から伝わる感情は……迷っているような、気がした。
こなたは私の言外に含ませた意味を理解してくれただろうか。






『最後までしてもいい?』


多分、私がそう尋ねている事をこなたは理解してるのだろう。
口を開けて何かを言おうとしては閉じて、唾を飲み込んでいる。
言葉を選んでいるように見えた。

……それは、本当は嫌だけど私に気を使って言えないからなんじゃ?

何かに侵食されていく所からネガティブな思考が生み出されてくる。
ああ、そうかもしれない。
断る事が出来ないのなら、でも受け入れる事が出来ないなら、次のこなたの答えは簡単に予想できる。
たった五文字の答えだろう。



「……分からない」

――ほら、ね?

黒い何か気持ち悪いのが私をあざ笑うかのように私に言い放つ。
泣きたいけど泣いたらこなたが困ると上がってくる涙を押し殺した。
気にしてないように振舞わないと。それに、こなたに返事をしないと。

「でしょ?」

こなたの反応は、何も無かった。
無理やり反応しない事を貫いているような、我慢しているような。
「っ」と言葉に出来ない単語を吐いて、再び私の目を見てくる。
その瞳は、前に見た事があるような……ああ、そうだ。思い出した。
私がこなたに告白して、こなたに「恋愛感情では見れない」と言われたときの瞳だ。


「かがみは――私に触れたいの?」


こなたのその質問はもちろん耳に届いていたのだけど、それより先に私の指が動いていた。
「触れたい」と口で答えられず、正直に指が答えた。
だけど、頬に指が触れるとこなたは弾かれたように……とまではいかなくても、すぐに後ろに避けた。
行き場の無い私の指だけが伸ばされていて、こなたが指を見つめている
ああ、触られたくないんだ、と。警戒されてるんだ、と。
申し訳なさそうに見てくる視線が……痛くて。

「……ね?」



その一言しか言えなかった。
その一言以外を口にすると、泣いてしまいそうだった。
嫌いにならないで。触れられたくないなら我慢するから一緒にいて。
泣き叫びそうなのを抑えて、でも何か喋らないと抑えられなくて
出てきたのが、その一言だけ。

「コップ、下に持っていくよ」

数秒後、ようやくこなたが言葉を発した。でもそれはこの空間から逃げる口実。
素早く私とこなた自身のコップを手に取り部屋から出て行く。
すぐに足音が聞こえないという事は、まだドアの向こうに居て何かしているのかもしれない。
胸の中が重い。心臓に何かが纏わりついているように気持ち悪い。
きっと……その黒く気持ち悪いのは自己嫌悪の感情だ。

私は自分本位な考えだけで、こなたに好きという気持ちを押し付けてるだけ?
求めるばっかりで、私はこなたに何も与えていないんじゃない
こんなんじゃ嫌われるかもしれない
……さっき逃げられたんだから、すでに嫌われてるんじゃ――

恐怖で頭を振った。
さっきこなたは3回も好きだと言ってくれた。それを信じたい。
深呼吸をして少しでも胸の重さをなくす。
こなたが帰ってきたときに、普通にお帰りと言えるように。



中々帰ってこない。
今度は焦燥感が湧き上がってきた。
帰ってきづらいのかもしれない。私に会いづらいのかもしれない。
約束したからだろうか。一緒に寝るって。それで……嫌だから、帰ってこないのかも。
可能性は低いと、分かっているのに。
全部自分の被害妄想だと思っているのにどうしても怖い。
立ち上がって部屋を飛び出した。音を立てすぎたら迷惑だと思って閉める時はゆっくりと閉める。
他人の家でしのび足で歩くと悪い事をしているような気分になる。
……事実、悪い事はしてしまったけど。
台所まで行くと、こなたは居なかった。少し奥まで言って他の部屋も見回す。
気配を、というより何かの匂いを感じて私は足を止めた。
これは……線香の匂いだ。
ばれないように覗き見ると、こなたが仏壇を見つめてた。
お母さんに手を合わせて何を考えているのか、そこまで分からないけど。
急にこなたが立ち上がって私は急いで隠れた。
ここに居ると見つかるから部屋に戻ろう。きっと線香をあげていて遅くなったんだろう。
無理やり納得させて一歩踏み出そうとしたら。

「……やっぱり、ちゃんと言わないと伝わらないよね」

こなたの声が、確かに聞こえた。
きっとお母さんに語りかけているのだろう。
そのセリフに疑問を感じた。『何を』ちゃんと言うのか。『誰に』言うのか。
考え込んでいると危ないと、私は慌てて部屋に戻った。すぐにこなたが帰ってくるだろう。
多分……私に『何か』伝えるために。
何を? それは私が望むような事だろうか。
今の私には、そんな都合のいい解釈は出来なかった。

私に、嫌だと伝えてくるかもしれない
一緒に寝るのは止めようと言ってくるかもしれない

怖くなって、私はカーテンを開けて空を見上げた。ふんわりと月光が落ちてくる。
気分転換に星が見たかったわけじゃない。亡くなったこなたのお母さんに伝えたかった。
伝えたい事は色々ありすぎて、懺悔なのか、願いなのか自分でも訳がわからなくなるほど。
『こなたを傷つけたかもしれません、ごめんなさい』とか。
『これからもこなたと一緒に居てもいいですか、一緒にいたいんです』とかで。
どちらにしても、自分本位なことには変わりなかった。

「ごめんかがみ、ちょっと遅くなったよ」

こなたの声がした。帰ってきたらしい。
声のトーンから緊張しているように思える。
どんな顔をしているのか、見るのが怖い。
硬い笑顔なのだろうか、怒っているだろうか。

「か、かがみ、そろそろ寝よっか」

その言葉の後に、電気が消える。消えたけど煌々とした月光のおかげか明るかった。
一緒に寝てもいいのだろうか。嫌われて無いだろうか。
今から、何か言われると分かっていても覚悟が出来ない。
聞きたくない。

「こなた」

聞きたくないから……先手を打った。
カーテンは閉めずに振り向く。
逆光だから私の表情は見えないだろう。でも、私からこなたの表情は良く見えた。
驚いているように感じる。
その間に一歩一歩近づく。使わないですめばいい布団を避けながら。
かなり近づくと、多分こなたにも私の表情が見えたのだろう。
心配しているような困惑しているような表情になった……はずなのに。
私にはその表情が、断罪を下す前の哀れみの表情にしか見えなくて。



「かが」

何か言われる前に。抱きしめて言葉を塞いだ。左肩に口を押し付ける。
勢いが良すぎてそのまま倒れこみ、こなたがベッドに腰掛けた。
それでも私が体重をかけていくとベッドに倒れこむようになり、私が馬乗りになる。
ベッドにこなたの長髪がバサっと広がり綺麗だった。
さっき押し倒されたときよりも達観したような瞳で見つめられて、体勢では私の方が有利なのに、私の方が組み敷かれている感覚がした。

「私の方が、こなたに甘えてる」

拒絶される可能性がある言葉を聞くのが怖くて、早口で言葉を吐き出した。
こなたは相変わらず冷静な瞳で見つめ返してくる。

「精神的に甘えてる。これぐらいなら大丈夫だろうって、変な風に楽観視してる。
 こなたが嫌がってるかもって思うのに、そう言われないから大丈夫だって思ってる。
 だからお願い。一緒に寝るのとか、暴走するのとか、嫌なら言って。傷つける前にやめるから」

私は、卑怯者だ。
先に言われそうな事を言っておいて「そんな事無いよ」と言ってくれるのを待っている。
私の不安を一掃してくれる事を望んでいる。

「……かがみはネガティブすぎるよ」

こなたが薄く笑う。しょうがないなあ、という声が聞こえるような笑みで。妙に年上っぽく見える笑みで。
その反応から言って、こなたが伝えようとした事は少なくとも私が思い描いた最悪の事態ではないらしい。




「私はかがみの事好きだし、キスされるのだって嫌じゃないよ。……むしろ好き」



ちょっと待て。
耳に届いたセリフを頭で反復する。何度も何度も繰り返し再生する。
これは最悪どころか、予想だにしていなかった最高のセリフなんじゃないか?
恥ずかしいと思うより驚いてしまって言葉が出ない。
そんな私を観察するように見つめ、再びこなたが口を開いた。

「なんと言うか、一緒に居るだけで満足しちゃうのかな。最後までって言うのは正直分からなくて……
 そういう事を求めてると言われてもすぐに頷けない。完全に嫌だってわけじゃなくて」

なぜサラリと言えるのか。恥ずかしいとは思ってないのか? ……いや、思っているんだろう。
微かな月光で上気した肌が見えた。我慢して伝えてくれてる。
そうやって伝えてくれたことが嬉しい。それと同時にウジウジと悩んで落ち込んでいた自分がバカらしい。
こんなにもこなたは私のことを考えてくれていた。
私の回りくどい問い掛けにちゃんと答えてくれるために。




「―――たぶん、怖いんだと思う」



「私が怖いってこと?」

主語はなかったけど、それしか思いつかない。
だけどこなたは慌てて首を横に降った。

「そ、そうじゃなくて! 行為そのものに対する恐怖心というか……したことないから分かんないし」
「私だってあるわけないじゃない」
「そうだろうけど! 経験うんぬんじゃなくて、感覚的に分からないってこと!」

声を荒げてやばいと思ったのか、焦ったように視線をゆたかちゃんの部屋の方へ向けていた。
私は周りを伺うよりも、こなたの言い回しが気になってしまった。
感覚的に分からないってことは……もしかして。
いや、だけどこれを聞いたらかなり失礼なんじゃ……

「どしたの?」
「いや……その、ちょっと変な事聞くけど」

いったん言葉を区切って、唾を飲み込んで勢いで尋ねた。

「こなたって、自分でしたことある?」
「ないよ!!」

即答で帰ってきた。
……こなたには悪いけど、意外だった。
18禁のゲームとかってそのためにしているんだとばかり思っていた。偏見かも知れないけど。
私はその手のゲームはしてないけど、まぁ……自分でしたことはあるわけで。
ネタにしている本人にそれを言いたくはないけど。

「成人向けのゲームとかしてるから……こなたもてっきり」
「きっとゲームで発散してるんじゃないかな。そういう気分になることがあんまないし。
 そういうシーンの時はあるけど、イベント終わったら拡散してるし」

私の下にいるこなたが『ん?』と小骨が引っかかったようなリアクションをした。
そして視線を逸らされた。焦っているように見える。何で?
……あ、私が馬乗りのままだからか?

「ひ、ひとまずそれは置いといて、話戻すよ?」

空気を打破するためか、お互い咳払いをする。
馬乗りを止めてこなたから退くタイミングを逃しまくってた。

「んーと、どこから脱線したっけ?」
「……逃げる理由は、感覚的に分からずに怖いから……とかじゃなかったっけ」
「あ、それそれ」

妙に大人びた笑みでもなく、硬い笑顔でもなく、いつもの笑顔で。
その笑顔が妙に私を安心させて思わず頭を撫でた。
結局心のモヤモヤは全部私の空回りで、こなたはちゃんと考えてくれていた。
なら、こなたの意見を優先しない理由は私にはない。

「――なら、無」
「――だから少しずつ慣れようと思う」

出だしが綺麗にかぶった。
上が私のセリフ。下がこなたのセリフ。
「なら、無理せずに今日は普通に寝よう」と言おうとしたのに。
こなたのセリフだと……その、自分の都合のいいように解釈しそうだった。
もしかしたら、聞き間違いかもしれない。前半自分の声とかぶって聞き取れなかったし。

「えっ……と、こなた。今の意味、端的に言ってみて」

こなたは目を見開いて私を見て、そっぽを向いてを数回繰り返し。
観念したように最後にもう一度私を見て。




「――して、ほしい」

その空気の振動が、耳から脳へ一直線に突き刺さった。
理性の鍵があっけなく壊されそうになる。どんだけ脆いんだ私の理性。

「こっ、こな」
「で、ででもやっぱり怖かったらストップかけるよ!?」
「……寸止めされるときついのに。まぁ、ストップかかるって言うのは余程嫌なんだろうし、ちゃんと守るわよ。
 一緒にいて、こうやって寝れるだけでも幸せもんだしね」

私もそう思っている。根本的に考えている事は一緒なら。
……いや、まあ贅沢言うなら触れたいけど……
こつんと軽く額を合わせる。こういうスキンシップだけでも私は十二分に幸せを感じるんだから。
こなたが嫌がった時、それ以上を求めるのは罪だ。

「……かがみ」

こなたが私の名を呼んでくれた。ああ、望んでくれているんだと暖かい感情が胸いっぱいに広がる。
ありったけの感情を込めてこなたの名を呼び、ルール通り口付けた。
いきなりしても良いものか躊躇ったけど、欲望に正直にこなたの上着に手を滑り込ませる。
軽く震えたことはキスしていたからすぐに分かったけど、嫌がるそぶりは無かったから。
嬉しさと暴走する熱とで、私は手を上へと滑らせていた。



















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