<1>
全員、無事とはいかないまでも、船まで戻り今、帰る所だった。
最奥に烏月揚羽達が駆けつけた時、全ては終わっていた。粉々にランマー像は砕かれ(これは六角屋灼達が破壊したのだが)、辺りに禍々しい気配は消えていたのだ。
なぜ先行で最奥に向かった6人に何もなかったのか、そしてランマーは完全に倒せたのか、そうなると誰が倒したのか。
そういった疑問を残したまま、船は港へつく。
佐治「よ、ご苦労さん」
神崎「戻ったか」
港につくと、佐治宗一郎と宮廷魔術師の神崎信が、東雲直、月宮香蓮、桐石登也に甚目寺禅次郎、そして喜屋武健と美馬小恋が待っていた。
他にも、沢山の
ハンターの姿が見える。
彼らと入れ替わりで、神崎と共にハンター達がやってきたようで、これから貴方達の代わりに事後調査を行うのだろう。
その中に、貴方達には気づいていないのか、集落の人を気遣う土御門伍代の姿もあった。
佐治「結局ランマーが復活してたんだって?ま、倒してきたならこの地の驚異は去ったってわけだ」
神崎「しかし一体誰が……佐治先生はご存知で?」
佐治「さあなぁ、そこらへんは宮廷の神崎の方が知ってんじゃねえか?」
喜屋武「あ、皆さん!もう出航の時間です!」
結論は出ないま貴方達は船に乗り、大和の蒼へと帰還するのだった――。
<2>
時間は六角屋灼達がランマーに負けた所まで遡る。
神殿最奥。
そこに、小型酸素マスクをつけた3人の男女がいた。
3人はこの遺跡の『裏道』から来ていたため、おそらく誰とも遭遇していない。
1日早ければ、調査中の飛鳥軍と鉢合わせだっただろうが。
男の一人は、ランツィラー。
西大陸の傭兵の男で、かつて大和にも傭兵の仕事で来て、ハンターと対峙した経緯がある。
もう一人の男は、包帯の男。
ラウム山脈で白神凪からラウムの核とも言える黒耀玉を奪った張本人で、彼はその玉を持っていた。
そして、最後の一人の女は。
「ねぇ、なんで私までこなくちゃいけないの?」
「まあそう言うな。お前が松原クリストフから借りた酸素マスクがなければ、こうして海中で会話や息もままならないのだからな」
「出来損ないの一人の癖に、文句を言うな」
包帯男の一言に、女はむっとした表情をする。
言い返し口論になりそうな気配を察したのか、ランツィラーはすっと手を横にやりそれを制止した。
「お喋りはそこまでにしろ。まずは目の前のこの化物をどうにかする」
彼らの目の前には、倒れたハンター達の他、
邪神ランマーが3人の隙を伺っていた。
隙を見せれば今にも襲いかかってきそうなランマーに、女は右手のシルバーのリストバンドを変形させ、ブレードへと変えた。
「さっさと倒しちゃおうよ。どうせこのハンター達は助けるんでしょ?」
「ここで殺さなくていいのか?後々、邪魔をされても厄介だぞ」
「いや、構わん。あくまでも今の俺たちは裏の人間。証拠は残さない方がいい」
「……」
どうせランマーに殺された、という体になるのに何を心配しているのやら、と呆れた顔で包帯の男はランツィラーを見る。
女は早く、と言わんばかりにランツィラーを急かす。
だが前に出たのは包帯の男だった。
「だったら俺に任せろ。3秒で片付けてやる」
「グオオオオオ!」
ゆっくり歩み寄る包帯の男に、膠着状態が解除された今、ランマーは自分の射程に入った獲物を逃がすことはなかった。
復活した8本の触手で包帯の男を攻撃する。
が、その攻撃は次々と包帯の男を掠めた瞬間に凍った。
「既に抜け殻。本体はクソハンターの中か。まあ、いい。ラウムの力、ないならこんなものに用はない」
包帯の男はラウムの黒耀玉をランマーへと押し込む。
「今は”お前”で我慢してやるよクソ悪魔!!」
そう男が叫んだ瞬間、ランマーは消滅した。
正確には、玉の中へと封印されたのだ。
「やったか?」
「ああ、ラウムとは格が違いすぎるが、まあ繋ぎにはちょうどいいさ」
「ねえ、どうしてラウムじゃないとダメなの?他にも悪魔はいるんでしょ?」
無視して歩き去る包帯の男を横目に、女はランツィラーに聞いた。
どうするか迷った後、ランツィラーは口を開く。
「ラウムこそ5ついる大和の名の知れた悪魔の中では、最強の悪魔。どうやらあいつは、最強がお好きらしい」
「それはあんたもでしょ」
呆れたように返す彼女に、確かに、と納得し口元だけを笑ます。
そうして、もう一度含んだ笑みを彼女へと向け。
「お前も、人生を謳歌しているようだな。エレナ」
「お陰様で。やる事はやってるんだし、文句は言わせないよ。あたしはあたしのやりたいようにやるの」
やる事。
そう、女――松原エレナの目的は、松原クリストフと、ある人物との中継にある。
もちろん、ランツィラーのような者にも、作った品の横流しの意味もある。
「別に文句は言わんさ。ただ、もう一人の出来損ないのようにはなるなよ?」
「水鏡……だっけ。あたしはちゃんと話したことはないけど」
「あの男も哀れな男だ。全てを思い出したようだが、肝心な事を分かっていない」
「肝心なこと?」
既に去って行き、神殿最奥にいなくなった包帯の男を気にするわけでもなく、エレナは立ち止まる。
ランツィラーも止まると、己の心臓を親指で指した。
「ウバルも、ロノウィもベレトも。既に”あいつ”に味方しているという事をな」
最後に、彼は一つの名前を呟く。
そして、エレナと共に外に出るべく去っていった。
<3>
紅に建設中のイーストセントラルタワー。
その前に、東十常剣とある男がいた。
二人は、建設現場を歩きながら、時折剣が工事中の作業員に声をかけながら歩いていく。
「完成は6月頃予定です。ええ、あの計画も順調です。彼――ウバルがロノウィの盟友と言っていたのは本当だったようですね。
うまくロノウィとコンタクトを取り、快く協力してくれるということでした」
「……」
「ええ、土御門正宗を殺し、計画をスタートさせる。そして――」
「このタワーを爆破させる」その言葉に、彼らの近くを通りかかった作業員は気にもしなかった。
そう、既にここにいる者全員、『魔法使い』によって認識を操作されていたのだ――。
最終更新:2015年07月30日 16:44