エピローグ〜one year later…5〜

出雲、第四層居住区画。
一番広いエリアである第四層は、庶民のアパートやマンションが立ち並ぶエリアになっている。
以前、神風学園の留学で来た時には、第三層の商業区画までの立ち入りが許されていたが、近年のギュンター達が引き起こした革命軍によるテロのせいで第三層ですら厳しいチェックが今でも行われている。
そんな中、一人のハンターが大和・葵〜出雲第四層間を繋ぐ、国際定期船から出雲の地へと降り立つ。
彼を出迎えるように、空港には一人の青年が待っていた。

「おーっすイリューダ、大和ぶり〜」
「おーっすシズモ、大和ぶり」

入生田宵丞は、ハンターを辞めて世界中で旅をしているという噂の鎮守由衛と久しぶりの再会を果たす。
と言っても、携帯電話でちょこちょこ連絡をとっていたため、直接でなければ久しぶりとまではいかないのだが。

「こうして顔を合わすのは半年ぶりくらい?」
「前に僕が大和に帰国した時以来だし、そのはずだけど」
「なんで説明口調なのシズモ」

ふ、と可笑しそうに笑いながら、二人で空港内を歩きつつ早めのランチを済ます。
ランチを済ませた後は、適当に空港内の店でショッピングを行う。
その後、半年ほど前に新設されたハンターギルド・出雲支部へと向かう事になった。

「そういやシズモ、ちゃんと野菜食べてんの?さっきもハンバーグだったけど」
「え?とってるとってる。毎日野菜ジュース飲んでるし。そんな事よりも、最近イリューダはどうなの?1ヶ月くらい連絡とってなかったけど」
「相変わらずかな」

怪しそうな鎮守から目を自分の買い物袋へと移す。
そこには何と、Iris+の新譜が購入されていた。
発売されたばかりのCDに、鎮守も顎に指をあてて感嘆のため息をつく。

「へぇ〜、おーきちゃんもそうだけど、ろっかくや君も頑張ってんじゃん」
「そのろっかくや、今度ライブやるってさ。おーきちゃんとは別の、元からやってるバンドだけど」
「へー」


鎮守の真似をした呼称で、ライブ情報を伝える宵丞だったが、途端に興味を無くしたような相槌の鎮守に笑う。
Iris+とは、最近売り出し中のモデル、王貴桃李と大和のインディーズでも人気が出てきたバンドに所属する六角屋灼。
その異色な二人のユニットという事で人気もそれなりに出てきており、今度テレビでの出演もあるらしい。

「でもそのIris+じゃないんでしょ?ろっかくや君は別にどーでもいいしなぁ」
「それが意外といい曲なのよ」
「うーん、イリューダがそこまで言うなら、今度聞いてみてあげてもいいけど」
「そーして」

タクシーに揺られながら、出雲支部へと向かう二人。
その道中、雑貨屋ジョースターが目に入った。

「あ」
「お気づきになられましたか」
「なったなった。まだあるんだね」

ドヤ顔をしつつ、ウザったい言い方の鎮守に気にせず頷く宵丞。
鎮守の説明によれば、栄生ジョースターが亡くなり一度は閉店になったものの、その後息子である栄生ホルノが店ごと買い取り経営を続けているらしい。
オーナーであるホルノも、月に一度は寄るとか。

「へー、ギルドに寄った後にでも行くかな」
「僕はもう行ったけど、イリューダが行くなら付き合うぜ」
「じゃあ行こうか。後で」

笑い合うと、ちょうど出雲支部へとタクシーが到着する。
ハンターギルド・出雲支部。
3層ではないので、雑居ビルというほど雑居していない雑居ビルの1階に入っているチェーン店のような場所に、出雲支部は存在する。

「いつ来ても、墨本堂とそんな変わらない広さに笑う」
「それってイリューダの今住んでる場所だっけ。茜の」
「紅だよ、茜寄りだけどね」

元々ハンターギルドはどこもそこまで広くは無い。
訓練所がかなりの広さなだけで、受付も講義室もむしろ狭いのがハンターギルドだ。
だが、この出雲支部は明らかに狭すぎる。
というか周りのテナントと被りすぎているのだ。
笑いながら、二人はギルドの中に入ろうとしたとき、鎮守が大声を出して驚く。

「ってええ!?イリューダ、いつきてもってギルドに来たことあるの!?」
「…今更すぎじゃねシズモ。今日で3回目だけど」
「ええー…じゃあ雑貨屋ジョースターも」
「知ってた知ってた。2〜3ヶ月前かな、前来たのは」
「そっちのまだあるんだね、か。イリューダも人が悪いぜ」
「メールに書いたはずだけど」

僕携帯止まっててわからなかった、と可愛い顔で言う鎮守に「またかい」と突っ込みを入れつつギルド内部へと入る二人。
これで宵丞が知るだけでも2回目だ。

「やっと来たか。お前さん達、言ってた時刻より2時間オーバーだぜ」
「鎮守君、昨日の依頼は終わったの?」

二人を受付で出迎えたのは、出雲ギルド支部長である風見次郎と、出雲支部に在籍するハンター兼彼の補佐でもある真田斎だった。
出雲支部はハンターが6人と人手が足りないため、ギルド員も彼らが兼任している。
彼らが、と言っても風見と真田が専らその仕事をしており、他のハンターは受付くらいしかしていないが。

「終わった終わった。後は3日くらいあれば解決するんじゃない?」
「まだ終わってないなら、そうと言ってよ。依頼主には俺から伝えておくから、後1日で解決してきてね。期日今日までなんだよ?」

鎮守の発言に苦笑しつつ、しょうがないなぁ、と依頼主へと電話を掛ける真田。
それを見て、今度は宵丞が少々驚いた顔を見せた。

「シズモ、旅してんじゃなかったの?」
「僕はいつでも旅人だぜ。心の中はね☆」
「出雲支部所属とか、聞いてなかったんだけど。シズモも人が悪いぜ」

今知った衝撃の真実に、先ほどの鎮守のセリフを借りて返す宵丞に、「ごめーん☆」と軽い口調で返す鎮守。
おそらく宵丞じゃなかったら、怒っている態度だろう。
現に風見も最近でこそ無意味だと悟り怒らなくはなったが(真田は高等部時代に悟った)、彼が移籍した当時は結構小言や注意も言ったという。
一度は本気でキレたらしいが、それでも改善が見られなかったため諦めの境地に達したようだ。

「はぁ…鎮守も、せめて受付くらいはしてくれよ…。俺も5件依頼入ってるんだぜ?」
「えー!僕が受付とか、依頼も来なくなるぜ?それより真田パイセンに任せればいいじゃない。今日依頼無いでしょ確か」
「あのー、俺も依頼一件、入ってるんですけど…」
「お前さんが入生田を迎えに行っている間に、一件入ったんだよ」
「それを言ったら、僕だって一件依頼入ってるぜ?」
「それはお前さんが解決してないからだろ!」

思わず風見も真田も苦笑い。
相変わらず、どころか前より酷くなった気もしないでもない鎮守だ。

「そんなわけで入生田、お前さんには悪いが、これも何かの縁ってことでこいつを助けてやってくれ」
「ごめん入生田君。鎮守君には後できちんと言っておくから」
「別にいいですけど。依頼内容あります?」

鎮守の滞納している依頼のため、即答でOKだった宵丞に風見は感動しつつ、これだ。と詳細がメモされた紙を渡した。
内容は離婚調停中の二人の仲を取り持つという内容。
依頼主はその娘さんのようだ。

「…」
「いや、言わなくても言いたいことはわかるぞ入生田。鎮守に合った依頼じゃないんじゃ、と言いたいんだろう?」
「他のハンターも、既に依頼数件持ってるし、俺が受け持っても良かったんだけど…」
「そうなると鎮守は携帯代も払えないくらいピンチになるってわけだ。今だってこいつの携帯代を払うために、俺がポケットマネーから払ってやってるんだぜ?」
「そんな事になってんの、シズモ」
「だって依頼がないならお金が入らない世知辛いシステムなんだぜ?イリューダ」
「そりゃあ世知辛いねぇ」
『当たり前だ!!』

乗った宵丞と反省しない鎮守に、真田と風見は苦笑しながらツッコミをいれる。

「とにかくだ、入生田にもきちんと依頼として回しておくから、鎮守のお守り、任せたぜ。3日は滞在するんだろ?真田、茜ギルド長への連絡は任せる」
「ちょっと風見さん!俺だって嫌ですよ!」
「新城ギルド長も随分な言われようだね」
「まー普段の行いってやつじゃない?」
「お前さんが言うなっての!」
「おっと、これ以上ウインドや真田パイセンの機嫌を損ねる前に、依頼に行こうぜイリューダ」
「はいよー、じゃあ行ってきますウインドギルド長に真田パイセンさん」

軽いコントをしつつ(風見達はそうではないのだろうが)、二人は依頼の解決の旅に出ていった。
二人が出ていった後、風見と真田は大きなため息をついた。

「本当参るよなぁ…真田、鎮守の奴はどうにかならないのか?」
「いやぁ俺に言われても…。王貴君か入生田君くらいしかわからないですね」
「他の3人はシビアだし…はぁ」
「お、お疲れ様です風見支部長」
「お前もな、真田」

ギルドの狭い室内を眺めつつ、二人はもう一度大きなため息をついた。

◆風見次郎
異次元帰還後、葵を中心にハンターとして活動を行う。
またAクラスに昇格し、それと同時期に出雲ギルド支部長への打診もあったため、承諾した。
出雲支部長に就任したものの、真田以外癖のある4人のハンターの適正を考慮しつつ、上手い事捌いているため、ギルド長としての資質もそれなりにあるようだ。
特殊技研究は、今の所多忙なため活動停止中。

◆真田斎
異次元帰還後、半年間は茜ギルドでハンターとして所属した。
その後、風見に誘われたのもあり、出雲支部に移籍した。
早良結愛、木の下コモ、白神凪、桐石登也、音無輪とは未だに連絡をとってはいるが、最近仕事の愚痴が増えてきているため、ここ数ヵ月は誰とも連絡を取っていない。
最終更新:2016年06月19日 10:14