毘沙門ZERO
第1話「表は裏、裏は表」
宇宙は広大である。
その広大な宇宙の中に、外銀河全域を支配する超巨大宗教国家であった。
その名は…『アムステラ神聖帝国』。高度な文明を持つ統治国家である。
広大な帝国領内に300余年伝わる古武道があった。
その名は…『アムステラ神聖帝国』。高度な文明を持つ統治国家である。
広大な帝国領内に300余年伝わる古武道があった。
その名も『藤宮流』…
―藤宮流大道場―
アムステラの地球侵攻より13年前…
道場内に三つ編みの少女とカイゼル髭を蓄えた大男が対峙していた。
少女は『もしもーし』なポーズを取りながら、かったるそうに言った。
少女は『もしもーし』なポーズを取りながら、かったるそうに言った。
「あのォ~もう一回言って頂けませんかァ?」
「何度も言わせるな!我こそは“モシャス・D・フジミヤスキー”!!
『真なるビシャモンの継承者』であるッ!!『ハイドラゴン家』の小娘がァ…!?」
『真なるビシャモンの継承者』であるッ!!『ハイドラゴン家』の小娘がァ…!?」
メ〝メ〝タ〝ァ〝
その瞬間であった。少女は素早く踏み込み男の股間を蹴り上げたのであった。
「ギャ―――オスッ!!!???」
生殖器を蹴られた男は悲鳴を上げ、泡を吹いて倒れた。
「最近、こうやって『フジミヤスキー』の名を語る偽物が増えたねェ…」
少女は何事もなく残心の構えを取り、ボロを見るように倒れた男を凝視していた。
「心配に及ぶことはなかったな。」
「うむ流石は“ルルミー様”…8歳とは思えぬ強さよ。」
「相手はこの一帯の道場荒らしを行っていた男…偽物とはいえ、消して弱くはなかった。」
「ふっ…“ゲオルグ”よ。お前もうかうかしておれんな。」
「…………。」
「うむ流石は“ルルミー様”…8歳とは思えぬ強さよ。」
「相手はこの一帯の道場荒らしを行っていた男…偽物とはいえ、消して弱くはなかった。」
「ふっ…“ゲオルグ”よ。お前もうかうかしておれんな。」
「…………。」
傍で正座をしていた門弟達は口々に賞賛の声を上げていた。
少女はルルミー=ハイドラゴン、アムステラの名家『ハイドラゴン家』の一人娘である。
少女はルルミー=ハイドラゴン、アムステラの名家『ハイドラゴン家』の一人娘である。
「こんなザコが『ビシャモン』の名前を語らないでほしいわ。
さっさとこのおっさんを戸板に乗せて外に出しておきな!!」
さっさとこのおっさんを戸板に乗せて外に出しておきな!!」
「御意…!」
門弟達は即座に男を戸板に乗せ、その光景をルルミーは退屈そうに眺めていた。
道場内に飾ってある、藤宮流開祖ビシャモン=S=フジミヤスキーの肖像画(かなり美形化)は
ニコッと笑い描かれている為か、未来の継承者に対し笑っているかのように見えた。
道場内に飾ってある、藤宮流開祖ビシャモン=S=フジミヤスキーの肖像画(かなり美形化)は
ニコッと笑い描かれている為か、未来の継承者に対し笑っているかのように見えた。
―時、同じく…―
アムステラが支配する多くの属星。
その一つに『センゴク星』と呼ばれる惑星があった。
日本の戦国時代と明治時代をちゃんぽん(ごった煮)にし、よく似た風土を持つ独特な文化圏を持つ。
遥か400年前よりアムステラの支配下にある星であり、その交流の歴史は深い。
その一つに『センゴク星』と呼ばれる惑星があった。
日本の戦国時代と明治時代をちゃんぽん(ごった煮)にし、よく似た風土を持つ独特な文化圏を持つ。
遥か400年前よりアムステラの支配下にある星であり、その交流の歴史は深い。
「この度、聖帝様の奥方がご懐妊されたと聞き及んだ。」
きらびやかな装束に身を包む獣人が、チェスによく似たテーブルゲームを楽しんでいる。
獣人の名はカメジロウ=タケダリンク。
先日、センゴク星の『王(統治者)』として即位したばかりである。
獣人の名はカメジロウ=タケダリンク。
先日、センゴク星の『王(統治者)』として即位したばかりである。
その対戦相手は……
「タケダリンク様のお耳にも入りましたか。」
ギャラン=ハイドラゴン…アムステラ神聖帝国軍大佐。
機甲白兵戦部隊『毘沙門隊』の隊長である。
機甲白兵戦部隊『毘沙門隊』の隊長である。
「お世継ぎができ…誠にめでたきことかな。」
カメジロウは駒を進める。
「そのお言葉、誠にもったいなきことで…
タケダリンク様も王位継承のほどおめでとうございまする。」
タケダリンク様も王位継承のほどおめでとうございまする。」
一礼の後、ギャランはカメジロウの駒を取り自陣の駒を置く。
「ふむ…それより呼んだのは他でもない。頼みたいことがあってな。」
カメジロウは別の駒を進め、今度はギャランの駒を奪う。
駒を奪うと同時に静かにギャランを見据えて言った。
駒を奪うと同時に静かにギャランを見据えて言った。
「裏毘沙門隊に編入させたいものがいる。」
裏毘沙門隊…毘沙門隊と同じくギャランが組織した、アムステラ神聖帝国軍特殊部隊である。
偵察・情報収集・拠点の破壊工作などが主な任務ではあるが、要人暗殺など非情な任務も行う影の部隊である。
偵察・情報収集・拠点の破壊工作などが主な任務ではあるが、要人暗殺など非情な任務も行う影の部隊である。
それに対しギャランは…
「“裏毘沙門隊”に…何を望んでおりまする。」
ギャランは黙々と別の駒を進める。
「センゴク星を少しでも発展させる為に、外から様々なものを学びたいと思ってな。
我が父“エビトラ”は外から学ぼうとせず、自国の文化に拘るあまり国家としての成長が遅れてしまった。
特に政(まつりごと)に関しては、正攻法でやり過ぎる感がある。その為…反逆者が絶えなかった。」
我が父“エビトラ”は外から学ぼうとせず、自国の文化に拘るあまり国家としての成長が遅れてしまった。
特に政(まつりごと)に関しては、正攻法でやり過ぎる感がある。その為…反逆者が絶えなかった。」
カメジロウは別の駒を進め、再びギャランの駒を奪う。
そして…
そして…
「将積(チェックメイト)。」
カメジロウは静かにゲームの終わりを宣言した。
「故に様々な策謀を使いお父上を…」
ギャランが続きの言葉を繋ごうとした時、傍にいた小姓の方を向き言った。
「この者の名は『ジネン』。私の小姓として働く優秀なものだ。
先月、センゴク星国内で開催した武芸大会でも優勝してな。武の才もあるぞ。」
先月、センゴク星国内で開催した武芸大会でも優勝してな。武の才もあるぞ。」
「ジネンと申します。どうぞよろしくお願い致します。」
ジネンと呼ばれた少年は深々とお辞儀をする。
顔は笑顔であるものの、体から発せられるオーラは独特で禍々しいものがあった。
ギャランは感じた、この者…どのようにして造った(育て上げた)のだ。
ジネンと名乗る少年から感じる香りは毒々しく人工物的であった。
そのことにギャランは少しばかりの警戒感をいだいたのだ。
ニヤリと口元を歪ませ、カメジロウはギャランに言った。
顔は笑顔であるものの、体から発せられるオーラは独特で禍々しいものがあった。
ギャランは感じた、この者…どのようにして造った(育て上げた)のだ。
ジネンと名乗る少年から感じる香りは毒々しく人工物的であった。
そのことにギャランは少しばかりの警戒感をいだいたのだ。
ニヤリと口元を歪ませ、カメジロウはギャランに言った。
「元々藤宮流開祖のフジミヤスキーもセンゴク星の生まれ。そして、ハイドラゴン家も
ルーツはセンゴク星にあると聞く。このカメジロウ=タケダリンクの頼みを聞いてはくれるかな?」
ルーツはセンゴク星にあると聞く。このカメジロウ=タケダリンクの頼みを聞いてはくれるかな?」
同じくジネンも言った。
「粉骨砕身の気持ちで、ギャラン様…いえアムステラの為に働きたく存じ上げまする。」
暫し、考え込むギャランではあったが…『次の言葉が決定的』となった。
「心配には及ばん。事前にユリウス様の許可も取っておる。」
この言葉を聞き…
「分かりました…裏毘沙門隊への編入認めましょう。」
承諾した。
(ユリウス様も“お戯れ”を…)
―再び時、同じく…―
一人の老将校は某研究所の入り口で歩みを止めていた。
男の名は『セイザン』。毘沙門隊副隊長である。
入口前に立つ、3人組の研究所職員は同時に一礼しこう述べた。
男の名は『セイザン』。毘沙門隊副隊長である。
入口前に立つ、3人組の研究所職員は同時に一礼しこう述べた。
「セイザン様ですね。」
「ゾープ局長からお話は聞いております。」
「どうぞこちらへ…」
「ゾープ局長からお話は聞いております。」
「どうぞこちらへ…」
「…………。」
セイザンは無言のまま研究所内に入る。
そこでは、少年少女がコンピューター機器による機械学習を行っていた。
その中には、半獣のものや異形の形をしているものがいる。
そこでは、少年少女がコンピューター機器による機械学習を行っていた。
その中には、半獣のものや異形の形をしているものがいる。
「“被検体”は何れも孤児や他星の『モノ』ばかり。」
「言語学、経済学…あらゆる教育を脳改造によって施しました。もちろんサバイバル術(適度な運動)も。」
「クク…特に雌の個体はそ"の"体"で…」
「言語学、経済学…あらゆる教育を脳改造によって施しました。もちろんサバイバル術(適度な運動)も。」
「クク…特に雌の個体はそ"の"体"で…」
セイザンは3人組のうちゲスな言葉を放とうとした職員を睨み付けた。
「無"駄"口"を"叩"く"な"。
彼ら彼女らはアムステラ拡大の為の犠牲者ということを忘れるな。」
彼ら彼女らはアムステラ拡大の為の犠牲者ということを忘れるな。」
職員のリーダー格の男は、急いで言葉を取り繕う。
「わ、わかっておりますとも。この実験は……」
リーダー格の男が言おうとした言葉を、セイザンが代わりに言った。
「生命反応のある星へ被検体を送り込み、どの程度の成果が得られるかの実験。」
この作戦(実験)は身寄りのない孤児や他星の少年少女を集め、あらゆる知識を
強化脳改造によって教育・育成し、生命反応のある星へ送り込み資源の獲得、
また上手く惑星の原住民に取り入り同化…否、支配が目的となる。
故に戦闘力よりも、過酷な環境下での適応力が問題となっている。
強化脳改造によって教育・育成し、生命反応のある星へ送り込み資源の獲得、
また上手く惑星の原住民に取り入り同化…否、支配が目的となる。
故に戦闘力よりも、過酷な環境下での適応力が問題となっている。
(過酷な環境下で、この子達が生き残る確率は半数にも満たないであろう…)
(しかし実験の犠牲を払ってでも、やる価値は十分にある。)
(それがアムステラ発展の為であり。“ユリウス様”の為になるであろう。)
(アムステラの繁栄こそが宇宙の繁栄なのだ。)
そのように思考を巡らしている時である。セイザンは一人の少女に気づいたのである。
少女は“盲目”であったのだ。その影響か一人デコボコとしたボードに触れて学習している。
少女は“盲目”であったのだ。その影響か一人デコボコとしたボードに触れて学習している。
「あの娘…」
「ああ…あの子は属星ブラックスワン出身の『アトラ』。見ての通り“盲目”です。」
「中枢神経系の改造障害の影響で、視神経がやられてしまいましてね。」
「本来なら処分も検討したんですが、成績優秀なんで残しているんですよ。」
「中枢神経系の改造障害の影響で、視神経がやられてしまいましてね。」
「本来なら処分も検討したんですが、成績優秀なんで残しているんですよ。」
その時である、少女はセイザン達に気づいたのか、その方向に向けてニコリと微笑み手を上げた。
「…!あのアトラとかいう娘は本当に盲目なのか?」
「視神経がやられた影響で、聴覚と皮膚の体性感覚が異常に発達したのか。微妙な空気の音と振動を感じ取り…」
「“生命体の反応”には気づくようです。」
「…とはいえ視力障害という大きなハンディキャップがあることに変わりません。」
「“生命体の反応”には気づくようです。」
「…とはいえ視力障害という大きなハンディキャップがあることに変わりません。」
3人組の職員はリズミカルに続ける。
「彼女も一応は送り込みますが…まァ無理でしょうな。それにしても…」
「セイザン様、アトラのことが気になりましたか?」
「確かにアレは、雌の個体として見るとなかなかの『上玉』…」
「セイザン様、アトラのことが気になりましたか?」
「確かにアレは、雌の個体として見るとなかなかの『上玉』…」
3人組の職員はゲスな微笑みを浮かべながら…
「「「なんならあの不良品(娘)を妾として…」」」
「愚"か"者"が"。」
セイザンが静かに…そして冷たく呟き、3人組の職員を睨み付ける。
男達はただただ背筋が凍るような気分であった。
男達はただただ背筋が凍るような気分であった。
「し、失礼致しました…」
「こ、このように被検体は総勢24名。じゅ、順調に育っております。」
「か、各人、明日にでも小型宇宙船で飛ばしたいと思います。」
「こ、このように被検体は総勢24名。じゅ、順調に育っております。」
「か、各人、明日にでも小型宇宙船で飛ばしたいと思います。」
「それは結構…」
セイザンは静かに、アトラ達強化人間の学習風景を見ていた。
ただ静かに、そして冷たく見ていた。
ただ静かに、そして冷たく見ていた。