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イヤホン
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イヤホン 03/08/08
インターネットの接続環境が整うとまず靄なしエロサイトに行きたくなるのは当然の話であって、しかしダイヤルアップで海外に繋がれてしまったと騒いでいたその昔に比べ、定額制の契約を交わせばどこまでも強気になり、ウィルスなど気にせず、あっちへこっちへ飛び跳ねるわけだ。やたら立ち上がる別ウィドウにも負けず、まるで意味のない年齢認証にも負けず、どれが本物の「Enter」なのか迷いながら眼と下の眼を血走らせて夜も昼もなくなる。
あるとき辿り着いてみて、音声が音声なのでイヤホンを使って鑑賞していると突然インターホンが鳴った。誰かが来たらしい。その日その時そこへ来る予定の者など誰もいない筈であったから驚いたのだが、そこで動揺せず落ち着いて座っておればよかった。自分にしか聞こえていない筈のイヤホンから聞こえてくる音声を「聞かれたらまずい」そして「誰なのか出なければ」という混乱に思わず立ち上がった瞬間イヤホンが差込口からぷつと抜けた。
途端に音程の安定しないカンツォーネとそれを絶え絶えに追い掛ける息遣いの荒いバリトンが大音量で響き渡る。まともな判断力は既に忘却してあるから思わず咄嗟に
イヤホン穴を指でぴったり塞いだ。
直前までそこを通って音が来ていた、と真空状態になった頭の中で健気にも考えたのか、ただの本能であったか定かではないが、とにかく本体側のイヤホン穴を親指の腹でぴったり塞いでみた。過呼吸カンツォーネと酸欠バリトンはますます盛り上がっているが、音量はそのまま、停止にしようかイヤホンを挿そうか迷っているうちに「ま、どうせ新聞か宗教の勧誘やろ。聞かしたれ」と落ち着きを取り戻した。諦めただけでもあるが、イヤホンの先を弄びつつ、芸術的な角度の戦いを鑑賞しているうちにふと、客人は誰で何をしているだろうかと思い、足音を殺して玄関へ行くと、暗くあるべき筈の玄関に明りが差し込んでいるではないか。明り。明りだと?なんと。郵便受けから覗かれているではないか。しかしあれは角度が厳しくて三和土しか見えない筈だ。それは何度も確認したことがある筈だ。焦るな。これ以上玄関に近付くな。しかし誰だろうか。まだ耳からはイヤホンをぶら下げたまま、本来持つ性能をまったく発揮せず海外に繋がっているにしては低俗な動画とそれに連動する音声をイヤホンが抜かれて大音量でわめいているパソコンと、郵便受けから覗かれている玄関との真中で、立往生してしまい、アホらしいので煙草を一本点けてみた。
この騒ぎがどう収束するか興味が湧いてきたので灰皿を引き寄せ、座り込んでバリトンが力尽きるか覗きが飽きるかどちらが先だろうかと考えていると急にバリトンが加速した。どうやら蝋燭の最後らしい。無事にいのちを撒き散らして動画が終了すると、しばらくして郵便受けの蓋が、ゆっくりと戻り始めて音を立てないようにとても静かに慎重に閉じられた。必死で聞いていたのだと思う。何かの勧誘であれば、隣にゆくだろうからそこの遣り取りを今度はこっちが盗み聞きして何者かを確認しておこうと一歩玄関に踏み出した瞬間またインターホンが鳴って肩をびくりを震わせてしまった。誰なんだ貴様は。余韻に浸ってしかるべき大切なところにインターホンを鳴らして邪魔するとはいい肝してるじゃないか。どんな面か拝んでやるぜ。勧誘ならば覗き見てたろと逆襲してるぜ。
「NHKです」
いや違うんですよ。あれはパソコン。パソコンですパソコン。テレビじゃなくてビデオじゃなくてパソコンなんですよ。テレビはないですから。「ない」の前に「見て」が省略されてるけどそればどうでもいいけど。パソコンをね、パソコンにね、パソコンでね、あ、よかったら見ます?
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