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いぼいぼ

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いぼいぼ 03/11/16

  健康サンダルというものがある。

  サンダルの、足の裏と直に接する部分にいぼいぼが付いていて、それで足裏のつぼを刺激し、「歩くだけで健康になる」という胡散臭さ極まりないながらもかなり売れている代物だ。あれはどういうわけか一度履くと病み付きになるわけだが、最初に履くときはとても痛い。しかしすぐに慣れて心地良くなる。

  しかしながら健康サンダルというものは、その機能性を前面に押し出すことにのみ意を尽くしていて、見た目は実に格好悪く悲惨な姿である。日常散歩範囲ならば問題はなくとも、少しの散歩で健康になれると考える程こちらも初心なわけではないから、ひとつ根性を入れてみようとした時の話だ。

  御存知のように健康サンダルは大抵ワゴンの中に480円なり380円なりで纏めて売られている。よほど売れないのか売れ過ぎて並べる手間が惜しいのか知らないが、安いに越したことはない。そして安いサンダルならば分解しても悲しくはない。幾らであったか忘れたが、とにかく500円より安い健康サンダルを買ってきて、普通の靴であれば中敷に相当する部分、つまりいぼいぼの付いた上の一枚だけ剥がして普通の靴の中に敷き、普段からこれで歩き回れば効果の大なるところ確実であろうと考えたわけだ。

  健康サンダルを分解することから始めたのだが、普通に履いているとあっさり破れたり千切れたりするのに、意図的にばらすには難渋した。まず甲を外す為に、縫い付けられているから糸を切らねばならない。よく見るとテグスである。何箇所か切って引っ張ればするする抜けると考えたが甘い。抜けない。ビニール糸が、縫い付けてある上におそらく加熱されたことがあるのだろう、ちりちりになっているのだ。ちりちりだから引っ張ってもどうにもならず、仕方なく縫い目を一つづつぷちぷち切った。強引に剥がすといぼいぼシートが破れるかもしれない。途中で飽きたり寝たりして一日掛かって甲が外れてステーキのような形の本体が残った。

  あとはこの本体から妙に分厚い底といぼいぼシートを剥がせばよいだけだ。理屈の上ではそれだけなのだ。ところが理屈とは接着剤の存在を加味していないから苦しくなる。端に刃を入れて引き剥がす切欠を作り、「おうりゃああ・・・・あああああ?」接着剤は強力であった。いぼいぼシートと底のスポンジが簡単綺麗に剥がれると思っていた次の瞬間、スポンジが一ミリぐらいでいぼいぼシートにへばり付いていた。

  普段何かの値段シールを剥がす時、本体に汚くシールの接着面が剥がれて残ることはよくある話で、その相似状態になってしまったのだ。このような場合の基本はとにかくゆっくりじわりと剥がすことにある。しかし安物で普通に履けばすぐ剥がれてくる癖にじわりと剥がそうとすればじわりとスポンジがいぼいぼシートの裏に残る。まだ片方だけなのに既に飽きているから一気に剥がした。後でこそげ落とせばよいのだ。何ならそのまま使ってもよいではないか。しかしスポンジとは目に見えない無数の穴が開いているのであって、そして接着剤はスポンジの穴に入り込んでいるのであって、だからカステラの皮のように汚くへばりついているわけで、そして接着剤は乾いていてもスポンジは接着剤を吸収して接着スポンジ、まるで両面テープに変化しているからぺたりとくっつく。とにかくこそげ落とす為に、お湯に漬けて削ったり水の中で削ったり日干ししたり陰干ししたり色々試して結局、指と爪でちくちく剥がす方法が最も早かった。

  途中で放り出したりしたから一週間ほど掛かったろうか、とにかく健康サンダルからいぼいぼシートの分離に成功して、早速革靴の中に敷き、それで一日歩き回った。翌日健康になっている筈なのに、起きて一歩踏み出した瞬間倒れたのであって、しかしこれは血が薄いとかつぼに効き過ぎたではなく、単純に「足の裏が痛くて立ってられへん」だけであった。足の裏を見ると白いぶつぶつが一面にある。いぼいぼがそれぞれ靴擦れになったらしい。見た瞬間意識がすっと遠くなったが、どうにか持ち直して、そこで翻然と悟ったのだ。あの不恰好なまでに分厚いスポンジの底は、衝撃を和らげる為に必要であったのだ。衝撃がほぼそのまま伝わる革靴の中に敷くなど単なる拷問にしかならないのだ。

  だから格好良い健康サンダルなど存在しないのか。たまにあってもそれはいぼいぼが迫力に欠けていて効き目も疑わしく感じるのは、あれには正当な理由があったわけだ。迫力のあるいぼいぼは分厚いスポンジで衝撃を中和せねばならないのか。

  つまり、いぼいぼシートを分離するにはひどく手間が掛かるから、もし中に敷いてもその後しばらくは真っ直ぐ歩けなくなったりするから、そして梱包用のぷちぷちシートを見たら思い出して気が遠くなる恐れがあるから、阿呆なことは止めてくれ。人体実験の犠牲者は手前一人で十分だ。
 
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