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傘盗人

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傘盗人 04/10/28

  傘は盗まれることが前提となっている。

  一日で三回盗まれた事が怒りの闘志を掻き立てた。全て百円均一店で買った傘であるから金銭的損失は煙草一箱にほぼ等しいので問題ない。幸い雨は降り止んだので四本目を買わずに済んだ。一本目はコンビニエンスストア、二本目と三本目はそれぞれ別の本屋にて拉致されたわけだが、三本目が跡形もないことを見た瞬間、余りにも馬鹿馬鹿しくて欠伸が出た。そして決意したのだ。傘を盗まれ難くする技術を追求してみよう。

  百円均一店が今ほど膾炙していない時代は積極的に「天下の回りもの」を実践していたが、たった百五円で実用に絶えうる傘を入手可能となってからはお行儀よく暮らしているのであり、だから一日六時間ほどの内に三本も消えてしまったことが余計に腹立たしい。

  物事全て相手の立場で考えることが理解を早めるのであり、ここでは傘盗人の心理に同化すればよい。それはかつての経験上至極容易な事である。傘を薄袋に挿入して店内を放浪つくならば何も問題はないのだが、傘に限らず手に持つことが邪魔である性格を有する者として、傘立にぶち込むことを前提として話を進める。

  傘盗人の心理にあっては、傘立の中のどの状態の傘に魅力を感じるのか。まず、没個性的な色調の、つまり黒一色か透明ビニールかのどちらかを選ぶ。間違えたと釈明し易いことと、元の持主も間違えて似た別の傘を手にするだろうことを期待している。そして、濡れ晒しのまま傘立にぶち込まれた傘よりも、畳んで留めた傘の方が引き抜き易い。更に、傘立の端の方にぶち込んである傘ほど歩速を落とさずに素知らぬ顔を作って抜き易い。中央の方で入り組んだ「傘の内側に傘」などのややこしいあたりは一旦立ち止まる必要があり、それは僅かの危険をも除去する本能からして敬遠するのだ。つまり傘盗人が狙う状態の傘とは、「傘立の端に、畳んで留めてぶち込まれている、黒か透明のもの」である。

  となれば対策は簡単に導き出せる。傘立の真中のごちゃごちゃしたところに畳まずぐちゃぐちゃに濡れたまま、がちゃがちゃした絵柄の傘を放置すればよい。ただし余りに高級な雰囲気の傘である場合は逆効果となることに気を付けねばならない。

  そして実験した。午前中コンビニエンスストアの傘立の真中に茶色の傘を畳まず放置し、意図的に忘れて雨の中を潜り抜ける。夕方再び訪れた際に残ってあれば傘盗人対策の効果が実証されるわけだ。

  さて、実験結果を報告せねばなるまい。夕方再び訪れようとする頃には雨がすっかり止んでおり、肌寒い風が音もなく身を包む。路面は既に乾いていて雨が止んで後、ある程度の時間が経過したことを示している。無事に残っているだろうか。それとも検討空しく連れ去られただろうか。おおコンビニが見えてきた。

  コンビニの入口にあった筈の傘立は片付けられていた。確かにもう雨は降っていないがね。雨の降ったその日の夜までは傘立くらい出しっ放しにしておきなさいよ。朝に傘を持って出たり途中で傘を買ったりした人が訪れることを考慮しなさいよ。雨が止んでいるから乾いた傘なら店内に持ち込んでも構わないとの思想は理解出来るが、俺の傘は何処へ行ったんだ。つまり。

  実験は成立しなかった。従って各員独自に技術を確立するがよい。もう本当に馬鹿馬鹿しい。
 
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