バトルロワイアル - Invented Hell - @ ウィキ

病院戦線、終幕(前編)

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kyogokurowa

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垣根帝督が鬼舞辻無惨に苦戦を強いられているのは何故か。

まずは純粋な身体能力の差。
垣根帝督とて能力に頼り切りなだけの人間ではない。
学園都市の裏の世界で活動していることもあり、武装したチンピラ程度なら能力を使わずとも容易く制圧できる。
だが、無惨は人間の何倍もの身体能力を有する『鬼』の始祖。
全力を出さずともその拳を振るえば人体はひしゃげ蹴り上げれば十メートル以上空に飛ばすのも苦ではない。
身体能力そのものは人間の範疇である垣根にこれと張り合えというのも無茶な話だ。
それを補うにはあまりあるのが彼の能力『未元物質』だ。
実際、無惨ともまともに打ち合えるであろうシグレ・ランゲツとの戦いでもここまで一方的に防戦一方にはならなかった。
主催による制限の影響があったうえでもなお、シグレとは互角に渡り合っていた。
だがそれも環境が整っていればの話。
シグレとの戦いと無惨との戦いで一番大きな差異は環境の差。

シグレとの戦いの場所は開けた墓地。
周囲に壁らしい壁はなく、行動できる範囲が広かった。
故に、垣根は背中の未元物質を操る羽根のポテンシャルを存分に発揮できた。

だが、無惨との戦闘場所は狭い病院。
宙を舞おうにも天井に遮られ、地での行動範囲もかなり絞られてしまう。
加えて、無惨の高速で動き伸縮自在な触手。

この触手と病院という施設の狭さが非常に噛み合い、垣根は逃げることはおろか下手に避ければ視界外から攻撃されるという制約を強いられてしまっていた。
外に向かおうにも入り口は無惨が陣取っており、外に繋がる窓へと向かおうにもそれよりも速く触手は回り込んでしまう。
結果、垣根は羽根で触手を受け続けるという防戦一方の様相を呈してしまっている。

(けどな、そいつももう終わりだ)

垣根には学園都市一位のようなベクトル操作によるカウンター能力がない。
できるのは羽根による直接的な斬撃か、未元物質が齎す変化による火傷や凍傷に近いこちらからの攻撃のみ。
しかしそのどちらも無惨の高すぎる再生力の前では効果が薄い。
垣根の能力が制限されていなければ首を斬れずとももっと有効打に成りえたかもしれないが、現状ではせいぜい動きを鈍くする程度が限度である。

故に垣根は賭けなければならなかった。
まるで己が無惨よりも下だと認め、ジャイアントキリングを狙うような、命を賭け金(チップ)にしたギャンブルに。

(心底気に食わねえが、何にも掴めず死ぬよりはマシだ)

垣根の目の前で繰り広げられるは相も変わらぬ防戦一方の戦場。
それでも彼はジッと堪える。
焦らず。奢らず。逸らず。
しかしその両眼だけは、無惨から一時も離さず見据え続ける。

その垣根の様子に無惨は攻撃を加えつつも疑問を抱く。

(なにを企んでいる...?)

先ほど、垣根は自分の攻略法を見つけたと豪語した。
にも関わらずこの不動の構え。無惨が不審に思うのも仕方ないことだ。

(いまの私を殺しうるのは太陽と首輪の爆発だけだ)

無惨は鬼の急所である首切りを既に克服しており、そんな彼が死に至るとすれば太陽の元に晒された時と参加者の証たる首輪の爆破だけだ。
だが参加者全員の急所たる首輪の爆破はともかく、太陽の下にその身を晒す行為を弱点に繋げるような失態は犯していない。
垣根がそこから日光が弱点であると見抜くとは考えづらい。

(太陽以外の手段を見い出したというのか?)

そんなはずはないとは思うが、しかし万が一のことも考えれば、やはりここで殺しておきたいと思う。
触手は一層速度を増し、じわじわと垣根にも傷が増えていく。
そんな最中―――変化が起きた。

「...!?」

突如、垣根の鼻から血が流れ始めた。
驚いたのは垣根ではなく、無惨。
まだ顔にはダメージを与えていない中で、なぜ垣根が鼻血を出したのかわからなかったからだ。

「気にすんな。こっちの都合だ。...おい、触手が緩んだぞ。ビビってんのか?」

垣根のあからさまな挑発に苛立ち、ビキリと無惨のこめかみに青筋が走る。
そして同時に思う。
この男は、どこか不気味だと。



垣根提督が『賭け』に繰り出す一方で。

病院の四階。
ジョルノ・ジョバーナとマギルゥ、そして下弦の伍・累との戦いは苛烈を極めていた。


「温いね。こんなものじゃ僕の身体は焼けないよ」
「ゲェーッ、ワシのエクスプロードがぁ!?」

―――否。訂正しよう。
ジョルノとマギルゥ、二人は脱皮を果たした累の前にひたすら押されていた。
変貌前から既に苦戦を強いられていたのに加え、さらに身体能力の上乗せまでされているのだ。
累が本気で始末しにかかってくる以上、状況がただで好転するはずもない。

「どーするんじゃジョルノ!?儂の魔術じゃ掠り傷程度しかつかんぞ!?」
「わかっています!現状、彼を倒し得る手段は...!」

ゴールドエクスペリエンスは近接型のスタンドでありながら直接的なパワーは良くて中堅。
そこから派生して生み出される生命による攻撃も、せいぜいが人体を破壊できる程度だ。
マギルゥの魔術であの程度のダメージならば、正面からの戦いは非常に分が悪い。
それはわかってはいるが、この病院という狭いステージが彼らの撤退も間合いの調整も困難にさせる。

「バラバラにしてあげるよ」

累の指が赤く光り、伸びた糸が二人目掛けて網目状に躍りかかる。
二人は咄嗟に左右に散開するように飛び退き糸を回避。
その隙を狙いすますように累は拳を握りつつ、足に力を籠め跳躍。
狙いは―――ジョルノ・ジョバーナ。


「くっ、ゴールドエクスペリエンス!」

振るわれる剛腕をスタンドの腕で防ぐ。
ミシミシと右腕の骨が悲鳴を挙げ、吐血と共にジョルノは後方へと吹き飛ばされる。

「ッ!」

ズキリと激しく鈍い痛みが走る。
ジョルノの右腕はあらぬ方向に曲がり、骨が突き出し血が溢れていた。一目でわかる。
累の雑なパンチ一つで、ゴールドエクスペリエンスの右腕は破壊されてしまったのだ。

「クッ、アアッ...」

痛みに顔をしかめつつも、ジョルノは切り裂かれたメスを手に、残る左手を右腕に添える。
ゴールドエクスペリエンスの能力は掌から生命エネルギーを送り生命を与えること。
その能力を発展させ、メスに生命を与え壊れた腕の部品を作り、折れた箇所の代替品として埋め込む。

「ハァッ、ハァッ」

なんとか右腕を補強したジョルノだが、その顔色は優れない。
ジョルノの能力は厳密には治療とは違う。
この会場にはいないスタンド使い・東方仗助のようにどんな重傷をも痛みもなく治すのではなく、あくまでも損傷した部品を使い補っているだけ。
疲労も痛みも消えることは無い。
故に、何度も繰り返せばやはり先に倒れるのはジョルノたちだ。

(どの道、長期戦は望めないか...なら!)

「マギルゥ!もう一刻の猶予もない!僕らがこれ以上消耗する前に首輪を壊して決着を着ける!」

首輪の破壊。それがジョルノたちに残された唯一の勝ち筋だ。

「一つサンプルが消えるのは惜しいが...ま、仕方ないかの」
「出来ると思ってるの?君たち程度の力で」

累の腕から放たれる糸は蛇のようにうねりマギルゥとジョルノに放たれる。

「あぶなっ―――爆駆走!」
「ッ!」

マギルゥはボード状に広げた式神でなんとか躱すも、ジョルノは躱しきれず治したばかりの右腕に糸がかかり―――

ザンッ

「ぐあああああっ!!」

切り落とされた右腕からは鮮血が溢れ、さしものジョルノも悲痛な叫びをあげる。

「『フーッと吹けば飛び出すぞ』」

そんなジョルノにも一切構わずマギルゥは呪文の詠唱を始める。
第三者から見れば薄情に見えるかもしれない。
しかし、彼女は長い戦いの経験により理解していた。いま、ここで一瞬でもジョルノに気を回せば勝機が消えてしまう。
ここで累に攻撃することこそ己とジョルノが生還する唯一の方法だと。

「『わんさかくるぞ。じゃんじゃんいくぞぉ!』」

掌から吹かれた式神が床から順々に湧き出て累へと向かっていく。
それは累を取り囲むように円を組むと、一斉に躍りかかった。

「グッドホールディ」
「血鬼術、刻糸輪転」

マギルゥの詠唱が完了する前に、累の糸が渦のように編まれ、回転させながら前方へと放たれる。
すると、式神はあっさりその身をざんばらに切り裂かれてしまった。

「ギャーッ、ワシの術があんなにもあっさり!まっ、結果オーライじゃがの」

慌てるような素振りから一転、マギルゥはニヤリと口角を釣り上げる。
シグレにも言及された「いい悪い顔」で。

累の視界外で、切り裂かれた式神が光を帯びる。

「それでは改めまして、グッド・ホールディング!!」

詠唱が完了するのと同時、累の周囲が爆ぜ砂塵を巻き上げ床が崩れ落ちる。

「くっ!?」

不意の爆撃と突如塞がれた視界と唐突に襲われる浮遊感に、さしもの累も怯み、受け身を取る間もなく落下する。

下層に落ちた累は、すぐに糸を振るい砂塵を払いのける。

「グラヴィディゲイル!」

間髪入れず累の頭上より放たれるは、簡易的な重力場の魔術。
かけられる重力負荷に累の動きは一時的に阻害され、防御を余儀なくされる。

「ここまでたたみかければ好きにやれるのう」

マギルゥは両掌を頭上に掲げながら己に残された霊力を絞り出す。

「さぁさぁとくとご賞味あれ!大魔法使いマギルゥの変幻自在の超魔術!!まずは一番!ライトニングブラスター!!」

バチバチと光が掌に迸り、突き出されると共に累の身体を閃光が貫く。

「ッ...こんなもので」
「二番!ハイドロシュトローム!!」

ライトニングブラスターで穿ち巻き上げられた砂塵がうねり累を中心に取り囲む。
そしてそのまま全身を縛り付けるように全身に纏わりついた。

「そしてオオトリを締めますのは―――フォースデトネイター!!」

グラヴィディゲイルにより大雑把な動きを、ライトニングブラスターでの電撃ダメージにより感電を、そしてハイドロシュトームで纏わりつかせた砂塵で動きを固め。
一瞬ではあるが、完全に動きを止めた上で放たれるは、地・水・火・風の属性の魔球を放ち、同時にぶつける秘術。

四色の魔術を受けた累の足場はまたしても崩壊し、さらに下層へと叩き落とされる。

「―――これで終わり?」

二度叩き落とされ、様々な属性の魔術をその身で受けてもなお累の眼光も、肉体も未だ衰えず。
例え視界を遮られようとも鬼として発達した感覚は上階にいるマギルゥを捉えている。

累の掌から伸ばされた糸がマギルゥの足に絡みつき、力づくで引きずり下ろす。

「のわああああああ!?」

素っ頓狂な悲鳴を上げつつ、マギルゥは滑り落ちるように2階下へと引きずり降ろされ、背中と後頭部を強打した。

「ギャフッ!?いっっったいのぅ!!」
「どうやら奇妙な術も打ち止めのようだね」

頭を抱えごろごろと転がりまわるマギルゥを、累は冷ややかな目で見下す。

「演技は止めなよ。本当は平気なんでしょう?」
「いや、普通に痛いんじゃがのう...なんでそう思うんじゃ?」
「きみが強いからだ。だから今も切り刻まずに引きずり下ろしたんだ」

キリキリと累の指が鳴り、マギルゥの足に糸が食い込み肉から血が滲み出る。

「確かにワシは優秀な大魔法使いじゃが、強いから殺さなかったとは不思議なことを言うのう」
「きみが強いから、僕の頼みを聞いてもらいたかったんだ」
「頼み、とな。まあ断ったらワシの足がずんばらりんといったところじゃろうが...ひとまず言ってみい」
「僕の母になれ。そうしたら助けてあげるよ」

突然の提案に思わず「はぇ?」ととぼけた声を漏らすマギルゥ。

「君の役割は僕の母親だ。そして親は子である僕を命を賭けて護るのが使命だ。
だから母も父も僕よりも強くなくちゃいけない。きみは彼と同じく強い人間だから、父さんと一緒にあの御方の血を分けてもらって『本物の家族』になってもらう」
「ふーむ...要するに自分を護ってくれる存在が欲しいとな。...ま、仕方ないかの」


マギルゥはいっそ清々しいほどの笑顔を浮かべて朗らかに言った。

「ええぞぉ~。坊よ、これからはマギルゥママと呼ぶがいい」

あまりの快活な承諾に、累は思わず呆気にとられる。
が、承諾は承諾。累は足に糸を絡ませたまま、マギルゥに歩み寄る。

「わかった。これからよろしく、母さん」

差し伸べられた掌を握り返そうとして―――ピタリと止まる。

「よろしく―――と、言いたいところなんじゃがのう。ちょーっと困ったことがあるんじゃ」
「なに?」
「ワシはあの垣根とジョルノという悪い旦那たちに捕まっていてのう。おぬし達のママになろうにもその柵があるとダメなんじゃ。そういうわけで『いずれ弾けるじゃろ?』―――スイープマイン!」

流れるような詠唱から差し出された掌から氷の球体が放たれ弾け飛び、累の眼球に氷の粒が刺さった。

「ぐっ!?」
「ワシをママにしたかったら奴らとの離婚調停を勝ち取ってみせい!」

一瞬できた隙を突き、マギルゥは糸の絡んだブーツを脱ぎ捨て脱出する。

「そう、拒むならいいよ。きみはもう殺す」

これでトドメと言わんばかりに、目が治る前に糸を放とうとする累。

「同盟はともかく貴女と婚姻を交わしたつまりはありませんが」

背後より感じた気配に、累は振りむきざまに糸を振るう。

肉を切った音と共に、累の目が再生を完了する。
その視界が捉えたのは、哀れ挽肉となったジョルノ・ジョバーナ

「な、に...」

ではなく、頭部を失った血まみれの白衣の男体―――その肉塊。

「父、さん...?」
「貴女が彼らの仲間になるというのは見逃せませんね」

呆気にとられる累の横合いから、凛とした声がかけられる。
先ほどまでに何度も聞いた男、ジョルノ・ジョバーナの声が。

「おまえっ」
「『無駄ァ!!』」

ジョルノが既に息絶えていたチョコラータを身代わりしたと理解した時にはもう遅い。
ゴールドエクスペリエンスの左拳は既に放たれており、累は防ぐことすらできず頬で受け止めた。

「『無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!』」

息もつかず放たれるラッシュが、絶え間なく累の顔面を打ち付ける。
これで決めると言わんばかりに全力で放たれる拳の雨に累は―――

「『無駄無駄無駄ム』」
「無駄なのはそっちだよ」

あっさりと掌で払いのけた。
ジョルノのゴールドエクスペリエンスのラッシュは近接戦型スタンドだけあり中々に速い。
しかし、万全な状態ならばいざ知らず、今のジョルノの右腕は何度も破壊され無理やり再生させたモノ。
疲労もダメージも尋常でない状態から放たれるラッシュは、十二鬼月である累にとって見切るのは余りにも容易かった。

「結局、彼も父さんにはなれなかった...もういいよ。僕は予定通りにあの御方の為に戦うとする」

チョコラータの死体を見た累が抱いた感情は、落胆の一つだけ。
彼は強く可能性の塊ではあったが、趣味も合わないし累を護るつもりもないのは薄々感づいていた。
だから死んでしまえば興味など消え失せる。感慨もわかない。

だから今は―――鬼の一人として無惨様の為に戦う。

眼前の敵を排除する為に拳を固める累。

それに対してジョルノは―――ここにきて、正面勝負。
自棄になったわけではない。ここまでは予定通りだからだ。

(感謝します、マギルゥ、リゾット。貴方たちのお陰でここまでこれた)

マギルゥが累の気を引き、加えて、リゾットが既にチョコラータをたおしていたお陰で奴の死体を囮に使えた。
お陰で僅かでもゴールドエクスペリエンスの拳を叩き込むことが出来た。

ジョルノのゴールドエクスペリエンスで生命エネルギーを生物に流し込めば、意識が身体についていけず、意識と身体の齟齬で身体が一時的に不自由になる。
その僅かな硬直の隙を突き、首輪を破壊するのが狙いだった。

ゴールドエクスペリエンスと累の拳。
互いの殺意を乗せた拳が眼前の敵へと放たれる。



――――ここにきて、二人に『誤算』が生じる。

ジョルノの『生命力の過剰供給による暴走』は人間の身体がその意識に追いつけないが故に相手を無力化できる。
しかし、累の身体は鬼。暴走した意識でもなお、それに追いつける身体を持つのが鬼の中でも強者である十二鬼月だ。

そして累。
彼の身体能力を増す『脱皮』はもとは累の父に分け与えていたものである。
元来は累のものとはいえ、それを行使するのは久方ぶりにもほどがあり、細かい調整はできていなかった。
だから、ジョルノを殺すために全力で踏み込んだ累は―――ジョルノを飛び越し、部屋の中央にまで踊り出てしまった。

「えっ!?」
「!?」

共に驚愕するジョルノと累。
だが、振り下ろした拳は止められず、ジョルノに強化されてしまった拳は床を穿ち―――階下へと突き抜けた。


前話 次話
Liber AL vel Legis -黒 VS 白- 投下順 法の書・外典【テイルズオブベルセリア】

前話 キャラクター 次話
病院戦線、終幕(前編) 垣根帝督 病院戦線、終幕(後編)
病院戦線、終幕(前編) マギルゥ 病院戦線、終幕(後編)
病院戦線、終幕(前編) ジョルノ・ジョバァーナ 病院戦線、終幕(後編)
病院戦線、終幕(前編) リゾット・ネエロ 病院戦線、終幕(後編)
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