バトルロワイアル - Invented Hell - @ ウィキ

Liber AL vel Legis -黒 VS 白-

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kyogokurowa

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「……何とか、乗り込めたようだな。」

無限列車の最後方。ブチャラティ一行は無事に列車内への乗車には成功していた。
ガタンゴトンと振動鳴らし、昔ながら、日本の大正時代に見られた造形と意匠が施された内装。
乗客が落ち着ける中身にしたようであるが、この殺し合いではたとえ列車に乗っていても安心できないのが道理。

「でさ、九郎の言ってた二人もこの列車に乗ってるってわけなのよね? そっちはどうするのよ?」
「出来れば列車に降りた所で偶然出会った体で誤魔化せれば楽なのだがな。直接前の車両を調べてもいいが……。そっちの方がある意味不審がられる。それに……」

ブチャラティがそう口籠んだ途端、唐突な爆音が響き渡る。
音源は外からのようであるが、その居所が何処なのかは不明だ。

「……どうやら、妙な予感がする。」

選択を、迫られていた。
このまま騒ぎの起こっているであろう場所へ急いで向かうか。
何かが此方まで及ぶまで待つのか。
そのどちらかを。

そしてその選択が確定した時、ある戦場の運命は大きく移り変わるであろう。


■ ■ ■


――おいおいおいおいおい、こりゃ面白ぇ事になってきやがったじゃねぇか!

――『人間の細部において個別に判断するものこそ、もっとも真実を言い当てるだろう。』
これは火を見るよりも明らかな、時期のズレによるありふれた悲劇というやつだね。

――見てる俺たちからすりゃあ滑稽だがな!



――満足しているようで何より。だけれど、君はこれをどう見る?

――あの障壁女の異能力。本気で打ってねぇとは言え原子崩しを受けて障壁自体に損傷はねぇ。なんつー硬さだ。


――君のいた世界とはまず常識も法則も違う世界だからね。そこはさもありなん、というやつだ。
――そういえば君はオカルトにも詳しいのだったかな?

――まあな。あの女の能力の大本、仮面だったか。よくもまぁ滅茶苦茶な性能しやがる。古代の遺物とはいえお手軽能力者量産装置なんざ、上の連中も喉から手が出るほど欲しいだろうよ。

――……お? どうやらあっちもそろそろおっ始めそうだな?
――そのようだね。
――『私たちが始まりと呼ぶものは、実は終わりであることもある。そして終えることは始めることでもある。最終地点とは出発点である。』
――はてさて、これは誰にとっての『終わり』となるのやら。それは、最後まで見ないと、分からないものだ。


■ ■ ■

黒煙を上げて線路を走る無限列車。
その屋根という名の戦場の上に立つ四人の姿。
ベルベット・クラウ。ライフィセット。ムネチカ。――そして麦野沈利。
LEVEL5屈指の破壊力を持ちうる超能力者が、災禍の復讐者の舞台に土足で上がるこんだ。

「随分遅い起床ね。」
「寝起きのやつ相手に開口一番それかよ、ベルベット。」

冗談交じりのベルベット、言い返す麦野の軽口。信用ならないがその実力は信頼できる。
使い使われる道具たち。だからこそ双方の実力を理解し、危険視出来る。
道具だからこそ余計な感傷は抱かない。否、道具だからこそ使える間は大事にする。

「タイミングの悪いときに目覚めたわね。……で、あんたがそいつの相手してくれるんだったら邪魔が入らずに済むんだけれど。」
「そうならこっちにとっても楽なんだけど、な。」

麦野が視線を向ければ、既にライフィセットとムネチカは近い場所にいる。
ベルベット単体の復讐劇、と持ち込みたかったところであるが。
暴君が目覚めた以上はそういうわけには行かず。

「ライフィセット殿、気をつけよ。あの女、只ならぬ邪気だ……。」
「……うん。」

一方此方。麦野沈利と言う乱入者に、二人の警戒心も増す。
特にムネチカは先の攻撃を受けてその威力の脅威を理解することが出来た。
この世のものとは思えぬ、自然的なものでもないその力。
破壊の権化、原子の暴君。ムネチカから見た麦野沈利は、かのヴライとある意味似た存在のようにも思えた。

「……麦野。アレには手を出さないで。」
「へぇ。あれがあんたのぶち殺し相手ってことか。見りゃ見るほどけったいなガキに見えるけどな。」

ベルベットが見つめるライフィセットを俯瞰し、呆れかえる。
だが、ガキだからといって油断は禁物。
学園都市でも年端の行かない少年少女の類が実は能力者なんで事はザラである。
何ならイカれた科学者の傑作品で、関わった途端に面倒事に巻き込まれると言うのは珍しくもない。

「油断しないで。あの風体で聖隷術を使いこなしてるし、機転も利く。見た目以上に厄介。」
「……で、そのお隣の女はこっちが原子崩しぶちかましても無傷の防御特化の能力者。」

要するに、術者を圧倒的防御力で守りながら、聖隷術の援護を得て守護者も反撃に転じる。
基本の形を取りながら、隙が無い。

「あたしゃまどろっこしい策やら小細工はガラじゃない。こっちはゴリ押しが性に合ってる。」
「……結局そうなるわけ、ね。こっちも打つ手が思いつかないから言えた口じゃないけれど。」

――だが、それがどうした?
仲間は皆、使い捨ての消耗品。それがアイテム。使えるならば潰れるまで使い潰す。
使えないなら潰す。その力を持って何もかもを叩き潰して捻り潰してブチ殺す。それが麦野沈利。
ベルベットもまた、それを理解し、それ以上は言わない。
まあ兎も角、結局のところ力押し。

移り変わる背景、照らす太陽。
相反する純白と漆黒が、睨み合っている。
それは、運命付けられた展開だったのか。
それは、決定づけられた悲劇だったのか。
それは、仕組まれた筋書きだったのか。

「……じゃ、無駄口叩くのも時間の無駄だ。」

だが、この舞台の上に立つ4人には何ら関係のないこと。
己が欲望の為、己が願望のため。
麦野沈利の言葉を火蓋の切り口として。

「……来るかっ!」
「――くたばれやゴラァ!」

開戦の号砲、麦野沈利の原子崩しによる砲撃。
展開される光の球体より放たれる、音速をゆうに超える光線。
だが、発射されるとわかっているなら防ぐのは用意。即座に防壁を展開し、無力化する。
ムネチカの仮面が司る権能は『重力』と『守護』。
主に仇為す外敵をその鉄壁の防陣にて押しつぶす、聖なる白光の絶対守護領域。

「オラオラオラァ!!!」

が、そんな事なんぞ知ったこっちゃないと麦野は間髪入れず発射し続ける。
翠光の波濤が絶え間なくムネチカに迫り、防壁に防がれる。
攻撃は防げても威力までは防ぎきれない。本体にダメージがなくとも、圧力で押し出してしまえば良い。
最も、そんな事で鎮守のムネチカが折れることなで決して無い。

「舐めるなっ!」

障壁の範囲を拡大化、逆に麦野の原子崩しの光線を押し出していく。
純粋な質量を押し返すその力は驚異的。
だからこそ既にベルベットは障壁の内に入り込んでいた。

「でも広げたら私が付け入る隙を与えるってことよね?」
「させないっ!」

ベルベットの奇襲を防いだのはライフィセット。
異形の腕の攻撃は、ライフィセットの放った炎の噴出で弾き返される。
弾き返されたと見るや即座にベルベットは車両内へ降下。

「堕天昇!」

内部より屋根を突き破らんとして放った新しい技。
初撃の回転斬りから風の斬撃で相手を打ち上げるものであるが、敢えて初撃は空打ちし、この場合はライフィセットの足場を崩すために使用。
案の定というべきか、ライフィセットは跳躍して回避。
堕天昇により生じた2つ目の穴に向けてベルベットは跳躍。

「影昴流!」
「……っ! 凍らして燃やせ!」

黒き重力の球体、相対するは氷結と燃焼の相反する属性を宿した魔力の放射。
小さくもない爆発を起こし、ベルベットとライフィセット両者の身体は後方へ飛ぶ。
ライフィセットはムネチカの背後へと。
ベルベットはそんな二人を麦野と挟み込む位置へと。

「……はぁっ!!」
「聖泡散り行き魍魎爆ぜよ! ――セイントバブル!」

ムネチカは領域をさらなる速さで広域展開。その間にライフィセットは詠唱から聖隷術を展開。
ベルベットと麦野は、現出した巨大な水泡を避ける。

「……ちっ。あのバリア、何度も展開されちゃ面倒だ。……あ?」

愚痴る麦野に合図を送るように、ベルベットが何故か異形の上でを上げている。
何のつもりだと思っていたが、直ぐ様その意図を察す。

「ケッ、どうなってもこっちは責任とんねぇぞ!」

その叫びと共に下を除いた全方面に原子崩しの放射を再展開。
俗に言う出鱈目打ちというやつであるが、もし線路近くに誰かが居たなら、それが歴戦の猛者でなければすぐさま消し飛んでいたであろう。
大地、草花、建造物、オブジェクト。何もかもが光線によって溶かされ完膚なきまで破壊される。

「なんと無茶苦茶な……。」

自棄でも起こしたのかと認識されても仕方のない麦野の攻撃。
だが笑っていられるわけではない、多方面な意味で無差別なのだ。
ムネチカ自身も防壁を解いて攻勢に出たいが、これでは下手に動くことすら命取り。
それどころか、これでは一応麦野の仲間?でいいのか的な認識となっているベルベットに被害が及ぶ。

「………えっ!? ……ムネチカ、後ろッ!?」
「なあっ!?」

ライフィセットの驚愕の声に、ムネチカも振り向き目撃する。
それは、麦野が放った原子崩しの光線の一本を、ベルベットの業魔手が『喰らった』のだ。

「ライフィセット殿、あれは一体?」
「本来ならあの腕で喰らった業魔の力を使えるんだけど、あの攻撃を食べちゃうって……。」

ベルベット・クラウはその身に喰魔を宿した業魔。業魔手で喰らった業魔の力に応じて使える技は代わる。
だが、今回喰らったのは全くの未知、麦野沈利の原子崩しの攻撃そのものだ。
ただ、異界の『方式』を喰らったベルベットであるが、その表情には多少の苦痛が見え隠れしていた。
が、そんな痛み、ベルベットには関係ない。

「……っ! けれど、これで―――!」

業魔手の掌の上空に、巨大な球体が現出。疑似太陽とも形容されるその光球は急速に圧縮、掌に収まるサイズへと縮小する。

「……まずいっ! ムネチカ!」
「任されよっ!」
「――潰れて果てろ、ドゥームズ・デイ!」

放たれた光球がムネチカの障壁に接触。刹那、暴風と轟音と衝撃が防壁を圧し砕かんと襲来。

「ぬ、ぬうううう!!!!」

単純な圧力は余りにも絶大。防壁は兎も角、圧力だけで足が字面から離れそうという始末。
だが、耐える。耐えなければならない。
聖上を守れなかったムネチカ自身を、絶望の淵から引きずりあげてくれたこの少年の為にも。

「はああああああああああっ!!!!!」

叫び、吠える。出力を上げ、衝撃も暴風も何もかも吹き飛ばす。
見事相殺に成功した代償は障壁の強制解除。
細かに舞う噴煙も収まりムネチカが見たのは、そこに居たはずの麦野沈利の姿がないという事実。

「何とか、凌げはしたが……っ! ライフィセット殿!」
「えっ――」
「――オラよっ!!」

ムネチカがその事実に気づきライフィセットに呼びかけた時には既に遅く。
ライフィセットの矮小な身体に麦野の渾身の蹴りが炸裂。

「があああああああっ!!!」

苦悶の叫びを上げ、屋根を突き抜け車内の床へと叩きつけられる。

「ライフィセット殿ぉ!」
「……あいつ、余計なことをっ!」

叫ぶムネチカと対象的に、ベルベットもまた麦野の勝手な行動に呆れ、苛立つ事に。
ライフィセットの元へ飛ぼうとするムネチカを妨害する形となって、ベルベットが車内に降りる。

「……退けぇ!」
「お互いあいつのせいでメッチャクチャなのは同情するけど、結局あんたも邪魔だから始末することには代わりはないわ。……だからお前の方こそ退きなさい。」

麦野の高揚に巻き込まれ、本来の始末対象/守護対象が麦野を相手取るという面倒な事態をを後目に、鎮守の将と災禍の顕主はそれぞれの目的のためにぶつかり合う。



「く……う……がハッ!!」

血反吐が空気と共に吐き出される。視界がはっきりすればそこは列車の内部。
ライフィセットが列車の床に刺さり込む形で車内は小さなクレーターにより瓦礫の散乱場所と成り果てていた。

「おー生きてやがったかガキ。ま、まだ死なれちゃ困るもんな、一応は。」
「お前は……!」

声の方をライフィセットが睨めば、薄ら笑みを浮かべた麦野沈利の姿。

「……テメェは生贄なんだ、さっさと諦めてあいつに殺されやがれ。」
「最初にベルベットにも言ったけど、僕は死ぬつもりはないし諦めなんてしない。……ベルベットに、何をしたの?」

ライフィセットからすれば彼女らがベルベットに何をしたのか?という疑念が浮かんでいる。
容赦も遠慮も慈悲もない敵対者であるが、それだけは確かめたかった。

「……テメェがそれを知った所でどーすんだって話だ。ま、あいつが最初に会ったのはあたしじゃなくて夾竹桃ってガキだ。何があったかそいつに聞きゃわかるんじゃねぇの?」
「……夾竹、桃。」

麦野が戯れに呟いた僅かな情報。ベルベットが最初に出会ったとされる夾竹桃という人物。
もし何かをしたと言うなら、彼女がそうだとしたら。

「つーかガキ、てめぇにアイツの何がわかるってんだ? てめぇ見てぇな見るからに何も知らねぇクソ下らねぇ光なんざあたしもあいつもお断りだっての。」
「―――黙れ。」
「あ゛?」
「お前達こそ、ベルベットの何がわかるっていうんだ?」

まるで自分たちこそが理解者ですみたいな顔をする麦野に対し、ライフィセットは我慢ならなかった。

「ベルベットは確かに怖くて恐ろしくて僕を食べようとするけど、それと同じぐらいに優しくて暖かくて……。なのに、お前たちがベルベットを……ベルベットを……!」

それは『怒り』だった。ライフィセットとて、エレノアの死、ベルベットの変貌という事実を叩きつけられてストレス的な部分でも怒りが湧いている。

「……だから、僕はお前達を許せない。」
「だったらどうすんだ?」
「一発ぶん殴らせろ。」

ライフィセットの啖呵は、間違いなく麦野達への怒りに満ちていた。
大切なベルベットをこんなことまで貶めて、おかしくした麦野達への明確な憤怒で。

「くく、くははは、あはははははっ!!!!!!!! ……あーそうかよガキ。」

それを嘲笑うかのように、麦野沈利は呵々大笑する。
面白いおもちゃで遊ぶ名も無い子供を彷彿とさせるお気楽さで。そして――

「―――八割殺しだ。完全に殺しちまったらベルベットのやつが喧しいからな。」

瞬間、麦野の姿が雲霞の如く消え去り、ライフィセットの眼前に移る。

「ほらよっ!!!」
「――!」

人体の領域を超えた瞬発力から放たれる回し蹴り。
それをライフィセットは魔力の球体を展開して蹴りの威力を軽減、敢えて蹴り飛ばされることで後方へ回避。

「白黒混ざれ――シェイドブライト!」
「甘ぇな!」

後方に飛ばされながらも詠唱し術を展開。魔力の砲撃が放たれるも即座に麦野が原子崩しで相殺。
接近するには距離が離れすぎているため、麦野は原子崩しによる砲撃を続行。
それを背にライフィセットは距離を取る。遠距離で不利なのに近距離で挑もうものならライフィセットに勝ち目は皆無。
原子崩しの発射の速度とラグからして、決定打成りうる聖隷術の発動は不可能。せいぜい低威力の術を発動させるので精一杯。

「待ちやがれクソガキぃ!!」

が、ライフィセットにとって想定外だったのは、麦野沈利が意外なほどに足が早かったことである。
子供と高校生年代なのだからその点に関しては仕方のないこと、にしても余りにも早すぎる。

「鏡面輝き熱閃手繰れ―――」
「遅ぇ!!」

何とか足止めのための術の詠唱を開始するも、放たれた原子崩しがライフィセットの右腕を掠る。

「――ッッッ! カレイドイグニス!!!」

骨ごと焼かれる激痛に耐えきりながらも、詠唱を終えて術を発動。
展開されたのは鏡面と反射されるレーザー。

「小賢しい!!」

だが、そんな程度で麦野沈利は止まらない。
すぐ隣にあった座席を素手で引きちぎり、投擲。
カレイドイグニスの鏡面は原子崩しでレーザーごと粉砕。
粉砕したことを確認し、投擲物がライフィセットとの距離に一定まで近づいた所で原子崩しを発射。

「ええっ!?」

狙ったのはライフィセット本人ではなく投擲した座席。
座席は白熱し、榴弾の如く爆発して破片が列車内に飛び散る。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!!!」

直前で気づけた、だからどうした?
加熱された木片はライフィセットの小柄な身体を容赦なく穿つ。
辛うじて避けようにも列車内という閉鎖空間では避けようがない。
肝心の麦野は既に天井に穴を開けて爆発から避難。
焦げ臭った空間に、鮮血と悲鳴が撒き散らされた。



「――ライフィセット殿!?」
「よそ見してる場合かしら!!」
「くぅ……!」

一方列車屋根上。激突するベルベットとムネチカ。
繰り広げられていたのは近接戦。
障壁を利用しての長期戦、というのも考えていたが先のライフィセットの悲鳴を聞いて尚更長期戦が出来なくなった。
焦燥が迫る中でのお互いの接近戦。意外なことに俊敏はほぼ互角。
破壊力ならムネチカの方が上ではあるが。
それでもベルベットが僅かながら優勢である理由は、上記の通り焦燥と、そして不安。
故に連続攻撃の速度で勝っているベルベットに押され始めていた。

「――ならばっ!」

しかしながら、焦りの中でも冷静さを取り戻したのは流石の八柱将と言うべきか。
地面として立っている屋根に拳を叩き込み、牽制前提での衝撃波でベルベットを退かせる。
だが、狙いはそれだけではない。
既にライフィセットと麦野沈利の位置を、ライフィセットの悲鳴から割り当てていた。
屋根を突き抜ける形で、ライフィセットの元まで急加速。

「クソがっ!」

ちょうどこの時、ボロ雑巾の如く横たわっていたライフィセットにトドメを刺そうとした麦野。
ムネチカの急速な接近でトドメ間近の獲物から離れざるえなかった。

「ライフィセット殿!」
「ムネ……チカ……。うん、大丈夫……ファーストエイドで、何とか……ゴハッ……!」
「……くっ!」

回復の聖隷術で何とかするから大丈夫と言いかけようとした途端、ムネチカの前で血反吐を吐いてしまうライフィセット。
ムネチカの目から見ても、焦げた木々の破片が刺さった後が痛々しく残るその姿は余りにも見てられないものであった。
だが、それでもライフィセットの目には燦然と光が、諦めない意思表明として輝いている。

「……ムネチカ、ちょっと、いい……?」

ライフィセットが、ムネチカの耳元で何か囁く。

「……分かった、できる限りやってみよう。」




一方その頃、麦野とベルベット。

「……あんたねぇ。」
「わりいわりい。が、だから八割殺しぐれぇに抑えておいたんだよ。あたしの気遣いに感謝しろよな。」
「……まあいいわ。あそこまで弱ってれば殺しやすい。」

ベルベットは間違いなく麦野に対して苛立っていた。
自分がとどめを刺す前にライフィセットがくたばったらどうするんだ、と。
反省の色が全く見れない麦野の言葉は一旦無視し、改めて獲物と邪魔者へと視線を向ける。

「あのガキ? まーたなんかの詠唱か?」
「……霊子解放」

見るからに満身創痍でありながら、また詠唱をしていると、そう麦野は認識していた。
その隣には、確固たる決意の瞳を見せたムネチカがライフィセットを守るように己が武装を構えている。

「どう考えても何か企んでるわね。」
「だったらどうすんだ? あの盾女いるんだったら策を考えるもクソもねぇだろ。だったら正面突破だ!」
「……ったく!」

明らかに罠であろうと、そんな事などお構いなしと言わんばかりに麦野は突貫。
ベルベットの『ドゥームズ・デイ』を見ての身勝手な信頼感というやつであるが、ベルベットにとっては間違いなくありがた迷惑の類。
だが、結局それしかあの防壁の突破法がないのであれば、そうするしか無い。
呆れに似た諦めと共に、ベルベットもまた突貫する他無かった。

「……仇なす者に、秩序を齎せ!」
「……ああもう、やっぱり!」

そしてこうなることを予測していたと言わんばかりにベルベットの捨て台詞と同時に、ベルベットと麦野の身体は輝ける鎖によって拘束される。

「そんなクソ見てぇな鎖であたしを縛れるとでも思ってんのがこのガキがぁっっ!!!」
「う、嘘ぉ!?」

が、ここで誰にとっても予想外だったのは、麦野がその馬鹿力だけでその鎖を引きちぎったことだ。
これにはライフィセットも怪我も状況も忘れて驚愕。

「まずはてめぇだクソガキ! 最低限生きれるギリギリの所までぶちのめして―――」
「だが、小生のならどうだ!」
「――なぁ!?」

だが、それをフォローするかのように、新たなる光の鎖が麦野を拘束。
さっきの通りに引きちぎろうとするも、先のものより頑丈で振りほどけ無い。

「残念だが、それは小生の力で作り上げたものだ。貴様では突破できんよ。」

これはムネチカ独自が編み出した、ムネチカ版バインドオーダーと言うべき代物だ。
ムネチカの防壁は変幻自在。列車に無理やり乗り込んだように、特定の誰かを包み込む様にしての発動も可能。
それを単純に、鎖型という形で構築し締め上げただけのこと。
麦野がベルベットの方にも目を向けるも、ベルベットの方にもムネチカ版のバインドオーダーによる鎖が施されていた。

「ベルベット! 物凄く痛いけれど、我慢してね! ――霊子開放! 天光満つるところ、我は在り!」

ライフィセットが詠唱を始める。それはベルベットの目を覚まさせるための、渾身の一撃を込めて。

「おいテメェ! この鎖何度か出来ねぇのか!?」
「出来るんだったら既にやってるわよ!」

足掻きながらもどうしようもない争いを繰り広げる二人を他所に、ライフィセットは詠唱を続ける。

「――黄泉の門開くところ、汝在り!」
「仮面よっ!」

詠唱により、上空に巨大な魔法陣が顕現。
同タイミングでムネチカが仮面の力を発動。ベルベットと麦野を包み込むように障壁を発生させる。
更に別の障壁を、まるで出る杭の如く現出、ベルベットと麦野を上空へと打ち上げる。

「来たれ神の雷!」

魔法陣が輝く。まるでそれが罪人に裁きのを下す神の杖を振り下ろさんとするように。
ムネチカが駆ける。包み込んでいた方の障壁を解除し、ベルベットと麦野の真下に移動。
ライフィセットの繰り出そうとしている術の範囲真下に移動したのだ、自らへの障壁も欠かさない。
そして――

「「これで最後だ!」」

叫ぶ白き二人。飛び上がるムネチカ。



「絶界突破――」
「――インディグネイション!」




――その瞬間、周囲の世界は白く染まった。
上空よりは神の雷が降り注ぎ、下よりはムネチカによる仮面の力を加えた渾身の一撃が、まるでベルベットと麦野をサンドイッチするかのごとく、二重の衝撃を叩き込んだ。

「「があああああああああああああああっ!!!!!!!!」」

黒の両者は雄叫びを上げ、列車内へと落下し、大きなクレーターを上げて床へと地に伏した。
ベルベットの方は、間違いなく動かなくなっていた。


「……ベルベット。」

意識を失ったベルベット。それを悲しげな表情でライフィセットは屋根の上より見下ろしていた。
ベルベットを此処まで変貌させた誰かへの怒りと、どうしてベルベットがこうなってしまったのかという嘆きを抱いて。

「ライフィセット殿……。……だが、嘆くには、未だ早いのかもしれぬ。」

そんなライフィセットを慰めようとしたムネチカだったが、その気配を察知し、真剣な表情へと戻る。
目線の先には、先の技が直撃した麦野沈利が、腕を振るわせ意識を再覚醒した姿。

「よくもやってくれやがったなぁ!!!!」

麦野沈利は、起き上がった。血を流しながらも、それを全く気にしない、猛獣の如き狂気の顔を浮かべて。

「もう良い、アイツの復讐なんぞ付き合ってたあたしが馬鹿だった。てめぇら二人ともぶち殺し確定だ。ただで死ねると思うんじゃねねぇぞ!!」

ただ、完全に頭に血が上っていた。ベルベットの執着も復讐も金輪際お構いなしと言わんばかりに。
今の麦野沈利は、目の前の二人をどれだけ凄惨に殺すと言うことだけしか考えていなかった。

「……もうひと頑張りかな。ちょっときつい、けれど。」
「そのようだ。」

ライフィセットもムネチカも構える。こちらも相手も消耗。そして2対1。数では有利でも、あの破壊力と化け物じみたフィジカルは脅威。油断もせず、確実に倒さんと二人は麦野と向かい合うのであった。

――そして、その時が訪れる。


■ ■ ■

落ちる、堕ちる、墜ちていく。

私の意識が、闇に落ちていく。

私は、視る。ぼやけた青い世界で、その光景だけがはっきりと。

『あたし……大好きだったの』

これは、あれは、私の声?

『ラフィも、セリカ姉さんも、アーサー義兄さんも、みんな……』

なんだこれは。なんだこの光景は。

『だから"あの時"を奪われたことが……』
『あたしを選んでくれなかったことが……』

なんだ、この―――

『悔しいっ!!』




――プツンッ





何だこの悪夢のような光景は。

ふざけるな、ふざけるな。
気分が悪くなる、反吐が出る、悍ましい、悍ましい。何だこれは。
これがあの偽物が知っている私のことなのか?
こんなふざけたものが私なのか?

許さない、許せない。もし本来私がこうなるのなんて、認めない。
否定してやる。あいつらも、あいつらの経験した未来もろとも。
こんな結末にたどり着いてなるものか。
こんな感情抱いてなるものか。
殺してやる。

あの偽物は、何が何でも殺さなければならない。
私が私である為に、私が私であり続けるために。

だけれど、足りない。今のままでは、今の力では。
力を、もっと力を、あいつらを蹂躙できる新しい力を。


『「超能力者に何故超能力使えるんですか?」って間抜けな事聞いてるようなもんだろ? 飛べるやつがなんで飛べるか疑問を覚えるほうが可笑しいんだよ。』


―――あ。

そういう事か。
私は穢れを抱いている。だったらその『穢れ』をもっと別のものに利用できるのではないか?
業魔では無理だ。もっと別のモノにならないと。
別の視点を得ないと。別の異能を宿さないと。
そう、私は私である必要はない。
あの男に復讐するために、あの偽物を否定し破壊するために。
その為に、私がベルベットであることを捨ててしまえ。

青い世界に、黒い羽根が落ちてくる。
掴め、掴め――掴んだ。
嗚呼、そうだ。その先だ、私が欲したのはその先の、その為の力。
届け、届け。届く、やっと届く。

そうだ、これが、これが私が望んだ―――。

【ベルベット・クラウなんて名前、捨ててやる。】





わたしの のぞんだ





【私は今から――――




のぞんで りかいした
わたしの、あたらしい、ちから






災禍の魔王だッッッ!!!】





▽ ▲ ▽


既存の理を全て捨て、可能と不可能を再設定し、

目の前にある条件を方式化し、その壁を取り払う。

それにより新たな制御領域の拡大を取得、

自分だけの現実に数値を入力し、通信手段を確立。



さぁ、誰も予想し得なかった、彼女にとっての、とてもすばらしいことを始めよう































▽ ▲ ▽

その'異常'を認識した時には、何もかもが遅すぎた。

黒い翼が、舞っている。
黒い光が、降っている。
その奔流の轟音は、正しく天使が鳴り響かせる喇叭のようで。
その誕生の開幕は、正しく万雷の喝采のごとく神々しくて。

それは夢で非ず、それは希望で非ず。
ベルベット・クラウという業魔の背より顕れた、黒い'ナニカ'の奔流。
それは、2対4枚の翼となり、彼女を宙へと浮かべる。

業魔の目が覚める。まるでそれはキリストの復活の如き奇跡の具現のようで。
少女の目が覚める。それは生まれ落ちた赤子に祝福が授けられたかのようで。

その光景に、敵も味方も関係なく、ただ眼前の未知へ目を見開くことしか出来ず。


産声は挙げられ、新たなるモノが生まれ落ちた。
これは正しくベルベット・クラウだ。
だがこれは何だ?
ベルベット・クラウは業魔であるはずだ。
だがこれは何だ?

全く違う。業魔でも、人間でも、どちらでもない。

それは邪悪なる神の如き禍々しき翼を携え。

それは悪魔の如き異形の漆黒の尻尾を携え。

それは御使いの如き黄金色の瞳を携え。

この列車の、この殺し合いの舞台に降り立った。


「■■■■■■、■■――」

何かを、言った。
余りにも、言語と言うには複雑怪奇で、理解不能で。

「……ベルベット、なの?」

聖隷の少年は、大切な人の変貌に、困惑に埋め尽くされて。

「何なのだ……あれは……?」

鎮守の将は、眼前の未知に、動揺を隠せず。

「……こいつは……。」

第四位は、憎悪も憤怒も全て忘れ。
黒い翼に「ある事件」を思い出した。
そして―――


「―――終わらせましょう、こいつらを潰して。」

ようやく皆に理解できる言語を発した彼女は。
ベルベット・クラウでもある'ソレ'は、かくもつまらなく、白の抵抗者たちへの宣告を告げる。




■ ■ ■

これは仮定である。
知恵の神及び情報屋の未来予知者の考察が、当っているという仮定だ。

偽りの世界、虚構の空間。
その世界においても、電脳の法則にて各参加者の異能は『情報』として、なるべく再現されているとして。

しかし、その前提だとしても、例えそうでなくとしても。
異なる法則、異なる方式の異能が混じり合った時、どうなってしまうのか?
それが仮に再現された本物に限りなく近い代物であるなら尚更。
その答えの一つは、『何処にも当てはまらぬ方式』が生まれるのだ。

実証例の一つに挙げられるのは、鎧塚みぞれ。
魔力と霊力。入り混じりて、似て非なる力を宿し、剛腕烈火の将を見事打ち払ったかの氷華の霙姫。
あれもまた、この世界で初めて成立した『どの世界にも属さぬ力』。
この虚構の牢獄にて生まれ落ちた、新たなる可能性。

だが、それは偶発的なものであり、天上へ届くには未だ遥か遠く。
所詮は偶然の産物、奇跡のバトン。早々あり得ないのだ。

――が、ここに例外は存在する。
ベルベット・クラウ。業魔を喰らう『喰魔』
その業魔手により喰らった存在の力を得る、一種の異端。
麦野の原子崩しと言う『学園都市』の異能、その『情報』をベルベットは喰らった。
そして、その方式を、彼女は深き眠りの淵にて理解した。

一つの例えをしよう。海の色というのは一般常識的に『青』である。それらに異論はない。
しかし、ある人物が己が認識する海の色を『赤』と言った。他人はそんな人物の妄言など一笑するだろう。
だが、その該当人物にとっては間違いなく『赤』である。それは何故か?
彼はそう信じているからだ。彼がそう思っているからだ。彼にはそう見えているのだからだ。
彼がそう認識し続けて、その妄想が世界を歪ませれば、他人を狂わせ、他者もまた彼と同じく『海の色は赤』だと認識させる。

異能力とは、そういう現実を己が認識、もとい妄想を世界に押し付け干渉する手段とも言うべきだろうか。
『掌から炎が出せる』と認識できれば、その者はその手より炎を操る炎熱能力者となるだろう。
『瞬間移動で遠くへ移動できる』と認識できれば、その者いかなる場所へと飛ぶことの出来る転移能力者となる。
それこそ、自分だけの現実。
所謂パーソナルリアリティと呼ばれる、人間という種が超能力に目覚める上での基盤。

話を戻そう。ベルベット・クラウは喰魔という業魔である。
穢れと言う、人のエゴや矛盾などという負の感情から生まれるエネルギーによって変質したもの。
ならば、その穢れそのものを、なにか別の形として利用できるならばどうなるか。
その、前提を覆すような技法と、それへの到達に至れたのなら、一体どうなるのか。

既知は未知に塗りつぶされる。
既存の法則は正体不明の方式に塗り替えられる。
未来は誰にもわからない、究極の未知は誰にも予知できない現象であるのだから。

























斯くして、復讐者は覚醒めた。

超常の、異界の『方式』を理解し、変貌した業魔だったモノよ。

もしかすれば、誰もかもの思惑を超えて、君は天上の意思へ辿り着くのかもしれない。

ならば、新生を言祝ぐが為、観客席からこの言葉を君に送るとしよう。












































『汝の欲する所を為せ、それが汝の法とならん』


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Liber AL vel Legis -the point of no return- 投下順 病院戦線、終幕(前編)

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