バトルロワイアル - Invented Hell - @ ウィキ

Liber AL vel Legis -the point of no return-

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kyogokurowa

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――やぁ。ん? 君にとっては私は『初めまして』かな? それとも『お久しぶり』かな?

――いや何、気にすることはない。君も私も、この舞台に関しては完全な部外者なんだからさ。

――『観衆たるの資格。第一に無邪気でなければいけない。荒唐無稽を信じなければいけない』
と言うじゃないか。つまり所、あたし達は完全な観客というやつだ。

――だからこうして眼の前の物語でこうやって駄弁り、評論家気取りで苦言を呈したり、だ。

――今見えているのは………あぁ、この二人か。

――『結果の認識は原因の認識に依存しかつこれを含む』
微笑ましいものだが、良き夢も悪い夢も何れ覚める運命だ。

――『人は自分の認識を他人に伝えると、もはやその認識を前ほどには愛さなくなる』
はてさて、夢から覚めたら、復讐者の彼女はどの様な選択をするのだろうね。


――まあ、観客である私には関係ない話、と言い切る訳はいかないのだが。
如何せん、私からすれば在り得たIFとして受け取らざる得ない。
『彼女』が関わっているのだから尚更、だ。




――――時には漫画から引用しようか。
『幸せが壊れる時にはいつも、血の匂いがする』





――お? どうやらそろそろ状況が動くらしい。
ではお喋りはひとまずこのぐらいにしておいて、この結末を目に焼き付けておくことにしよう。



醒めない夢を観ればシャングリラ



世界はどれほど素晴らしいでしょう


■ ■ ■


素晴らしい日々、何気ない日常。

ウリボウの肉を取りに、鎮めの森に行って。
狩って帰った肉で、ラフィの為に柔らかいミートボールシチューを作って。

勿論、■※■特製のカレースパイスも忘れないで。
そういえば、ニコが恋をしたなんて話を思い出した。
もしラフィに恋人ができるとしたら、年上で料理が上手い人が良い。

なんて、そんな懐かしいことを思い出して。
夢の中だというのに、妙に現実味がある世界で。
遷ろう幻だとしても、一時の刹那の夢だとしても、浸りたかった。

本当は、ずっとここに居たかった。
本当は、こんな日常がずっと続いてほしかった。
本当は、本当は――――



『てめぇのそれはその程度か?』



ノイズが走る、聞き覚えのない、聞き覚えのある声が響く。
緋の夜の光が窓の外より煌めき映る。
いつの間にかベットに寝転んでいた自分の意識が覚醒する。
まるであの時の焼き直しのように。幸せで断絶した意識が蘇る。

起き上がる、机の上にラフィの櫛。
(思わず目をそらしたくなった)見覚えのない官能小説。
夢ですら、平穏は安々と崩れ落ちる。
わかっていた、はずだ。
わかっていて、この幻に浸かりこむのか、私は。

家から出て、駆ける。
幻想の出口、現実の入り口、夢の終わり。
例え夢だとしても、それでもと、駆け出すしかなかった。
それで運命が変えられるわけがないと、わかっていたとしても。

たどり着いたのはあの場所、運命の分岐点、引き返すことの出来ない選択肢の答え。
緋色に染まった月が一望できる、崖の上、あの祠の前で。


「どうしても、行くの?」

ラフィがいる。あの時と同じく。
違うのはあの男が居ないことぐらいだ。

「行かないで、姉さん。」

あの時の優しい、悲しそうな目で、私を見つめる。

「これは姉さんが心の奥底で願った事なんだよ?」

そのぐらい、分かっている。分かっているから。

「……止めよう。」

だから、そんな優しい目で私を見ないで。

「もう、止めて。置いてかな―――」

『温くなっちまったな、ベルベット。』

この世のものとは思えない摩擦音、空間が焼き裂ける音。
瞬間、ラフィだった幻想の塊が蝋燭のように燃え尽きる。

「――――――――――」

『夢の中なんだ、こんぐらいチャラにしろ。』

見覚えのある姿、聞き覚えのある声。いけ好かない顔、異形の腕。
麦野沈利、異世界の異能者、原子崩しの粗暴女。
衝撃と沈黙と憎悪は、夢であることを自覚し失せる。

「夢の中まで殴り込んできて、言いたいことはそれだけかしら、麦野沈利?」

『こっととら好きでてめぇの夢に来たわけじゃねぇんだ。が、テメェが間抜けヅラ晒してるからな、先輩として一言アドバイスしてやる。』

頼んでないのに夢の中に現れて。
頼んでもないのに勝手に人の夢を荒らしておいて。
なんという言い草か、そうでなければ一暗部組織のトップなんぞ務まらないだろうという諦めを抱いて。
あれは私の写し鏡だ、全く違い、酷似している。
認めたくないけれど、私たちはそういう人種なのだろうと。

『甘えるな、捨てろ。てめぇを雁字搦めにするその何もかもを、な。』
『あたしも、そうした。』

嗚呼、そういうことか。
麦野沈利は、ただ一人への復讐のためにそう成った。
矜持も、甘えも、己のプライドすら投げ売ってこう成り果てた。
ならば、私も同じく、叶うまで、叶えるまで、止まる事などあり得ない。
何のために殺した、誰のために殺した。
誰かのための復讐か? 違う、これは私の復讐、私の自己満足だ。
奴を、アルトリウスをこの手で殺すまで止まれない。
止まってなるものか。

「お陰で頭が冴えたわ、それだけは感謝する。」

『あたしは話のわかるやつには寛容なんだ、裏切りゃなきゃくたばらねぇぐらいには世話してやるさ。』

本当に不本意であるが、この女のお陰で目が覚めたのは確かだ。
麦野沈利の根底は自己を中心に置いた奔放主義、夾竹桃は別の意味で何を考えているかわからない。
私といえば、煮え立つ復讐心と喪失の虚無の二種。
大凡、夢の中とは言えラフィに絆された甘さも、本当なら―――

「覚める前に一つ良い?」

『あ゛? 何だ?』

『何故鳥は、空を飛ぶと思う?』」

折角の夢の中、思わず訪ねて見ることにした。
かつてアルトリウスが、まだ私にとってのアーサー兄さんだった頃の問い。
異世界の人間の視点を、思わず知りたくなった。
等の麦野は物珍しげな視線を向け、呆れたように、こう答える。

『そんなもんに理由なんざ求めるほうがまどろっこしいだろ。』
『「超能力者に何故超能力使えるんですか?」って間抜けな事聞いてるようなもんだろ? 飛べるやつがなんで飛べるか疑問を覚えるほうが可笑しいんだよ。』
『――と、まあ。言っちまえば。あたしからすりゃその問いに意味何てねぇっつうの、下らねぇ。』

ある意味、衝撃だった。
返ってきたのは問いへの答えではなく問い自体に意味が無い、ということ。
全く参考にならない。自由奔放唯我独尊にも程がある。
だが、翌々考えてみればそうかもしれない。
「そう」だからこそ「こう」。それが「当たり前」だから「当然そう」。
でもやっぱり参考にならない。でも、それが出来ると「認識」したなら、それは―――

「………あんたに聞いた私が馬鹿だった。」

覚める直前、その口ぶりとは正反対に、私の顔は、いい顔をしていたと思う。

『……そうかよ。』


■ ■ ■


――『目的のためなら手段を選ぶな。』
創作物でよく似たようなフレーズを聞くけれど、これもまあ一種の開き直りというべきか。

――だが、彼女にとってはある意味否であり、良しとする答えなのかもしれないね。

――『あなたが何者であるかを放棄し、信念を持たずに生きることは、死ぬことよりも悲しい。若くして死ぬことよりも。』
して、彼女は自ら退路を断った。切っ掛けこそは外因的ではあるけれど。


■ ■ ■

○―○


「……遅いな。」
「……遅いですね。」

ホテルのロビー。朝も夜も関係のない天照の空間。
視覚効果として配置された噴水とヤシの木が静かに鎮座する場所。
約束の時間をとっくに過ぎていると言うのにフレンダはまだ来ない。
もしや本当に逃げたのか、とブチャラティは思い始めていた。

「……流石に準備に手間取っているとか、じゃないでしょうか?」
「だと良いのだがな。……悪い癖だな。どうにも勘ぐってしまう。」

そう自嘲気味ながらもブチャラティはそう呟いていた。
今迄裏の世界、マフィア蔓延る無法の空間で生きていた以上は、出し抜きやらには敏感になってしまう。
パッショーネのボスが実の娘を殺そうと企んでいたのもあり、なおさらだ。

「様子を見に行きますか?」
「そうすることにしよう。……念には念をだ。」


「どうしてこんなタイミングの悪い時に来ちゃうのよさ~~~~!!」
「………」
「………」

結論だけ言ってしまえば、フレンダ=セイヴェルンは盛大に腹を下していた。
原因は冷蔵庫を軽く開けた際に入っていたフルーツサンド。
今後のあれこれを考えてちょうど頭が糖分を欲しがっていたので思わず手を付けてしまった。
それが行けなかった。如何せん禄に確認もせず糖分に飛びついた結果、フルーツサンドの消費期限が若干切れていたのに気づいたのは食べ終わって腹が下った直後。
トイレのドア越しに、フレンダの悲鳴が部屋に響き渡っていた。

「どう考えても自業自得だろ。」
「よ、容赦のない正論……。」

ブチャラティの容赦も慈悲も無い一言がナチュラルにフレンダの心を抉る。
言ってしまえばある意味しょうもない事を変に勘ぐって時間を取られてしまったのは事実。

「……生理現象にとやかく言っても仕方がないな。九郎、先に下に行ってロビーで待っておいてくれ。」
「ブチャラティさんは?」
「もし仮にトイレから逃げ出さないか分からないからな、ここで待っておく。」
「……う、へぇ……。」

どんよりとした気分の溜息を上げるフレンダを他所に、九郎は下の階に降りる。
言わん事もわからなくないが、監視のためとは言え女性のトイレをガン待ちはどうなのか?
岩永琴子という別方面で自分に対するデリカシーほぼ皆無な彼女がいる分、それはそれで気になっても仕方がない九郎ではあった。


○―○


想定外の収穫はあった。というのが夾竹桃にとっての結論であった。
ホテル最奥の物置場、ムネチカの焦りも込みとして、食料品医療品衣類品その他諸々etcetc。
最低限必要な生理食塩水及び胃チューブ、自然療法としての薬草及び毒消し草等数種。
個人的趣向で収集したその手の草花数種。
そして、一際目立つ大きなトランクが一つ。

「して夾竹桃殿、そのトランクとやらの中身は何なのだ?」
「まあ、私にしては身に余るってところね。仲間に押し付けられたのよ、非力な私には必要ないってのに。」

案の定ムネチカからはその中身を指摘されるが、何ともな理由でその実情を探られるのを避ける。
無用の長物というわけではないが、身に余るといえばそういう代物。

「……でも、驚いたわ。あの本、紛れもなく私の絵ね。でも、書いた覚えはないわ。」
「書いた覚えが、ない?」
「質感、書き込み、描写、台詞周り。間違いなく私の書いた本、になるのだけど。書いた覚えのないのにどうしてそんな本があるのやら。」

大凡予想は付くけれど、とムネチカに悟られぬように内心抱える。
岩永琴子から伝えられたある考察、あれが事実であるなら現実の自分が書いていると考えれば妥当な答え。
が、まだそれが真実が虚実かは未だ分からない。
最も、その考察を、生真面目な彼女に公開した所で、その性格を考えれば余計な混乱を起こしかねない。
そも、語るつもりなど無いからそこは問題ないのであるが。

「まあ良いわ。とりあえず取りに行くものはだいたい回収出来た。……急ぐわよ。」
「……かたじけない。」

駆け足気味にホテルより離れ駅に向かい電車へと戻る。
どちらに転ぶとしても、表面上の口約束は守らせてもらう。
それが夾竹桃の、ムネチカという人物の女の友情に対する少しばかりの義理立てでもあった。

最も、急いだ理由はもう一つ。
軽く訪れたモニタールームのログに残っていた人物。
夾竹桃、もとい彼女の属するイ・ウーにとっての不倶戴天の敵の姿、その仲間たちらしき姿。
運良く出会わずに済んだにしても、急ぐ理由としてはそれだけで十分であった。
幸いにも当の神崎アリア本人は居ないらしいが、自身の不利に繋がる様な事象はなるべく避けたかった。

……最も、それを都合よく目撃していたのが、一人いたわけだが。
夾竹桃もそれに気付いていたのか兎も角、急ぎ足で駅のプラットフォームへ向かっていた。



結論だけ言うなれば、処置は成功した。

胃洗浄が滞りなく行われ、運良く毒消し草及び夾竹桃の知識内にある対処法が功を奏した。

ムネチカは不安と心配から未だ意識が闇の底にいるライフィセットの隣で寄り添うことになっている。

……誰も、その時が来る事を知らずに。


○―○


「……なるほどな。」

数分後、フレンダのトイレが済み、彼女を連れロビーへ降りたブチャラティ。
先にロビーに向かわせていた九郎から事情を聞いた。
九郎が見かけ、見失ったという二人の少女。
明らかに何かしら急いでるようで、黒い方は背後の視線を妙に気にしていた。

「……不用意に追いかけなかったは、結果論の部分もある、ある意味仕方のない事だろう。」

別段見失ったという点に関しては致し方ない。
怪しい行動をしていた点を踏まえ、下手にバレるか接触するかでは不審がられてしまう。
どっちにしろあちら側から感づかれたのであれば尚の事。

「列車に乗ってきて、このホテルで探しものをしてきたようには見えた。辛うじて見えた分だと、草花の類を数種類持っているように思えた。あとトランクケース。」
「草花の類とトランクケース、か。」

何のための探しもの、ただホテルという場所で草花を集めていた少女の目的が気になる所。

「その様子なら既に列車に戻っているだろうな。俺たちも時間が来れば乗車するつもりだったんだ。なし崩しに追跡という体になるが……予定通り乗り込むぞ。」
「(な~んか、嫌な予感が、ものすご~く嫌な予感がするなぁ……)」



「……!」

ブチャラティたちがホテルの近場にある駅のホームにたどり着いた時には、既に列車は動き出していた。
間違いなくこちら側に気づき、走らせたのだろうか?

(などと考えている暇は無いな!)

幸いにも最後列の車両が届く。
瞬時に判断したブチャラティは駆け出し、ギリギリのラインで最後方の足場へ着地。

「スティッキー・フィンガーズ! ……早く掴まれ!」
「……!」
「えっ、ちょっ、ちょっと……!?」

スティッキー・フィンガーズを発動し、両腕を伸ばして九郎とフレンダを掴み、そのまま引っ張り上げる。
列車は既にホームから離れ、ブチャたちは無事乗車することに成功したのであった。



■ ■ ■


――運命の針はその時を刻んだ、開戦の号砲まで後僅か。


■ ■ ■


無限列車はゆっくりと運行する。
洗浄と解毒は完了したとは言え、揺れによる嘔吐の可能性も踏まえ列車の速度は遅めに設定している。
夾竹桃が直ぐ隣の先頭車両で野暮用ということで席を外し、この車両に残るのは未だ眠るベルベット・クラウと麦野沈利。
そして意識の戻らぬライフィセットの隣に寄り添う八柱将、ムネチカ。


「……ライフィセット殿。」

弱々しい声で、瞼を閉じたままの少年に語りかける。
本来守ろうとしていた聖上は己が預かり知らぬ場所で逝ってしまった。
守るべき主を失い生き恥を晒し自棄になっていた所を、結果としてこの少年に救われた。
情けない話ではある。だが、ライフィセットの思いの丈も、その信念も、間違いなく年相応には釣り合わぬ、明確な覚悟と決意を抱いた上で、だ。
だからこそ、死んでほしくない。
皇とは遥か遠く、斯くしてそれに比類する、この気高く優しい少年を。

「……………っ。」
「……!」

ライフィセットの指が、動く。
目が、見開かれる。その眼がムネチカの方を見る。

「ムネ……チカ……?」
「……ライフィセット殿!」

目を覚ました。無事だった。……その事実こそがムネチカにとって嬉しかった。
思わず、周りに未だ眠っている誰かを気にもとめずムネチカはライフィセットへと抱きついた。

「あれ、ここは……ってムネチカ!? ちょ、ちょっと、急に抱きついて……!?」
「良かった、本当に良かった……!」

覆い被さる形となってしまったが為、当のライフィセットは困惑と共に今にも泣き出しそうなムネチカの顔面を凝視することになっている。

「……よくわからないけど、僕もムネチカが無事で本当に良かった。」
「……ああ。……ああ!」

それでも、こうしてまた『守れなかった』という事態だけは避けられた。
間違いなく、ムネチカにとってライフィセットに生きてほしかったのだから。

「所でムネチカ、僕が眠ってる間に何があったの?」
「ああ、それはだな……。」

ムネチカは話す。ライフィセットを助けるためにこの列車に乗り込んだ事を。
その中で出会った夾竹桃なる人物の協力で解毒をしてもらった事を。

「そんな事があったんだ……ってそうだ!」
「ライフィセットどの?」
「ベルベットが、ベルベットがやっと見つかったんだよ!」
「ベルベット……ああ、そういえばライフィセット殿が言っていた……。」

ベルベット。確かライフィセットの言っていた彼の大切な人。
ムネチカが思い返したのはそういう事。
よく見れば、ライフィセットと目尻が若干赤く腫れている。
もしかして、自分が知らない所で再開でき、その嬉しさで彼も泣いていたと思われる。

「……煩いわね。」
「……っ。ベルベット!」

――そして、ベルベット・クラウもまた、目を覚ました。
まるで、なにかの呼び声に答えるかのように。
まるで、答えを得て、それを為そうとするように。
ボロ布を重ねたような衣服、獣のような風体。大凡ライフィセットが話した外見と一致する。
ムネチカとしての認識は凡そそれであった。
だが、何かが引っかかる。何かがおかしい。
嫌な予感がする、虫の知らせが脳内に響く。

「……ガンガンガンガン声してたらそりゃ起きるっての。と言うか、あんた誰よ?」
「……そなたがベルベット殿であられるか。小生はムネチカ。詳しい説明は後にするとして、毒に侵されていたライフィセット殿を助ける為にこの列車に乗り込んで、夾竹桃殿にお力添えをしてもらった所存で。」

ムネチカの自己紹介を、まるでそこまで興味なさげに、何かを見定める目でベルベットは見つめている。
いや、彼女の視点はどちらかといえばムネチカというよりも、ライフィセットに向けられている。
それはムネチカ自身も気づいていたが、「ライフィセット殿のことが心配だったのだろうか?」とそこまで気に留めていない……つもりであったのだが。
違和感、違和感がこびり付いて仕方がなかった。何かが、何かが引っかかる。

「……へぇ。アイツが、ねぇ。――――。」
「ベルベット、心配したんだよ。何があったかわからないけど……ベルベット?」

それは、ライフィセットも微かに違和感を感じるほどに。
ライフィセットからしてもベルベットはそういう人物であることは今までの旅でわかりきっていたことだ。
不器用で怖くて、それでいて優しい人物。
だが、まるで、余りにも『落ち着いている』。それがライフィセットに妙な違和感が感じる原因であるのだ。
最も、ベルベットがそういう冷酷さに近い冷静さを持ち合わせているのは事実。
それを込みしたとしても。

「……ねぇ、私がおかしくなった時の事、覚えてる?」

ふと、思いついたようにベルベットが口を開いた。
おかしくなった、と言うのがどのタイミングなのか、何故そんな事を聞いたのか。
ベルベット・クラウという人物をよく知らないムネチカだけは、その違和感に眉を動かしている。
それを知らず、ライフィセットはベルベットの思い出し話に言葉を返す。

「それって、地脈の時の事? 確かにあの時は大変だったかもね。あれはおかしくなったんじゃなくてアルトリウスの策略だったけどさ。」

ライフィセットとして最初に頭に浮かんだのは地脈の時の話だ。
あれはアルトリウス、そして聖主カノヌシによってベルベットの絶望と憎悪を喰らう為。
大地に宿る記憶から真実を見せてベルベットを狂わせ、絶望させようとした。
それをライフィセットが食い止めた。
ベルベットのため、その為なら世界を敵に回してもいいと。
何もわからなくても、自分にその名を授けてくれたベルベットのために、と。

「業魔だとか、化け物だとか、僕はそれでも構わなかった。あの時、ただ僕はベルベットが――」
「――――うん。そうなのね。わかったわ、ラフィー。」
「……ベル、ベット?」

唐突に、なにか納得したようにベルベットが言葉を遮る。
余りにも温和な笑みで、余りにも安らぐ表情でライフィセットに視線を向けて。
その顔を見たライフィセットも、思わず表情が緩んで。



























「やっぱりあんたはラフィーじゃない。」































――何の前触れもなく、唐突に振るわれた異形の腕による凶刃。
それはライフィセットの寸前で、ムネチカの力により防がれた。
ベルベットが感じたのは、霊力を直に触れたような感触。
霊力の膜とも言うべき、強固な防壁。
力押しで突破できるものでは無いと、後退し距離を取る。

「………何のつもりだ。」
「退け。さもないとあんたも容赦しない。」

対するライフィセットは、思わず腰を抜かしていた。
動揺というよりも、ショックのほうが大きかった。
侮蔑、軽蔑、嫌悪。ベルベットのライフィセットに見せる視線は、間違いなくそれで。
もしも並の敵ならこうにはならなかったはずだ。
だが、ベルベットという人物だからこそ、ライフィセットはここまで動転した。

「どう、して?」
「なんであんたがあたしが業魔だって知ってるわけ?」

思わず問いかけるも、返ってきたのは無感情で、殺意の籠もった一言。
どうしようもなく、ただ「お前を殺す」という事実を突きつける視線。
だが、これは仕方のない事だ。
ベルベットにとっての、「運命の分岐点」。
アルトリウスの謀略で、ラフィーを殺され、業魔になったその時。
アバル村の全員を皆殺しにし、復讐と言う炎に焼かれ狂ったあの日。
ベルベットの認識が正しければ。――「ライフィセット・クラウがベルベットが業魔化した事を知ること」など。
――絶対にありえない。
何故ならあの時既にライフィセット・クラウは死んだのだから。

「……まあ良いわ。殺せばいいだけの話。」

異形の腕が再び業爪を構築する。
ムネチカは既に臨戦態勢。だが、ライフィセットが言っていたベルベットの人物像とは悪い意味で乖離してしまっている事実に、ムネチカ自身も内心動揺を隠しきれていない。
当のライフィセット本人もようやく立ち上がったが、困惑とショックの二重の衝撃に、冷静に頭を働かせていない。
それでも、それでも。

「ベルベット。どうして……どうして?」
「黙れ。その姿で、その顔で、その声で、私に話しかけるな。反吐が出る。弟の皮を被った化け物が。」

けれども、返ってきたのは、さらなる憎悪の答え。絶対的な拒絶。
だが、それでライフィセットは一つの憶測に達することが出来た。
明らかにおかしいのだ、まるで自分に対する憎悪を埋め込まれたような、認識を歪められたような。
ライフィセットからの視点では、ベルベットが明らかに何かをされたような、そんな感覚だった。

「……わかった。」
「……じゃあ、大人しく殺されてくれる?」

所詮ただの自身の認識で、予想だ。
だがそれでも、明らかに目の前のベルベットがおかしいと言うのは事実。
微かにムネチカと視線が合う。ライフィセットがその目で伝えた意図を、ムネチカは承諾した。
覚悟を決める、目の前の大切な人と向き合う。

「……断る!」

拒否の言葉と同時、ベルベットが瞬時に飛び掛かる。
案の定ムネチカの障壁に防がれるが、それは了承済み。
障壁を跳び箱代わりに飛び越え、背後へ周り、ライフィセットへその爪を叩き込もうとする。
――既にライフィセットが詠唱を終えていると知らずに。

「ヒートレッド!」
「っ!」

車内に蔓延する高熱の水蒸気。すかさずベルベットは天井をこじ開け屋根へ登る。
そしてライフィセットは逃げる選択など選ばず、ムネチカが同じくして天井に開けた穴から屋根へと上がる。
水蒸気が湧き上がる屋根上に、二人と、一人。

「小癪な真似を……!」
「ベルベットに、一体何があったかわからない。どうしてそこまで僕を恨むようになったのかわからないけれど―――。」

苛立ちの表情を見せるベルベットにライフィセットは凛然と顔を向ける。
もう迷わない。迷ってなんていられない。
術の準備も行いながらも、啖呵を切る。

「僕は殺されない! 聞き分けないなら、一回ぶん殴ってでも、ベルベットを正気に戻して見せる!」
「やってみなさいよ、アルトリウスの下僕の分際で!!」

刹那、衝撃と轟音。
まるで二人の争いのゴングを鳴らすかのように。
時系列の悲劇が生み出した引き金を戻すものは誰もいない。

「ライフィセット殿、小生も―――!?」

ムネチカがライフィセットの加勢に入ろうとした所で、背後から迸る光線。
防ぐもその威力により数センチ背後に交代させられる。
天井から這い出る様に現れたのは、ベルベットのように、輝ける異形の腕を携えた一人の女性。

「邪魔してんじゃねぇよ、復讐劇に横槍なんざ野暮だろうによ。」

原子崩し、麦野沈利。
騒乱により目覚め、目の前の明らかな敵らしい存在を補足し、邪悪な笑みを浮かべていた。




■ ■ ■

終わりの始まり、始まりの終わり。

どうしようもなく、残酷な現実は少年に襲いかかる。

そして、或いは、彼女もまた、次の可能性(ステージ)へ至るであろう。

まるでそれは、輝けるビクスバイトの原石が如く。


――それはとても、すばらしいことになるだろう――




『■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■』


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後悔先に立たず 投下順 Liber AL vel Legis -黒 VS 白-

前話 キャラクター 次話
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「会えてよかった」 麦野沈利 Liber AL vel Legis -黒 VS 白-
「会えてよかった」 夾竹桃 Liber AL vel Legis -黒 VS 白-
「会えてよかった」 ライフィセット Liber AL vel Legis -黒 VS 白-
「会えてよかった」 ムネチカ Liber AL vel Legis -黒 VS 白-
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