バトルロワイアル - Invented Hell - @ ウィキ

カラスウリの咲く頃に

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B-4エリア、スポーツジム跡。
ヤマト最強の将軍と、黒平安京の支配者による激闘の痕跡は、瓦礫の山という形で、そこに刻まれていた。
スポーツジムだけではない。二人の怪物による激突の余波は、その周辺の地形を変形させるほどに甚大なものとなっていたのだ。
そして、更地となった大地を横断する巨大な影ーーー剛腕のヴライは次なる闘争を求めて、進路を西へと進めていた。

「ぬぅ……」

先の術士との戦闘にて傷ついた身体が、悲鳴を上げる。
しかし、それでもヤマト最強の漢は、重厚な足音とともに、行進を止めることはない。
ヴライの行動方針は変わらない、ただひたすらに目につく参加者を屠るのみである。

「――ひっ……」

そんなヴライが、背後の気配を察知できたのは、研ぎ澄まされた五感故か、はたまた武人としての本能によるものなのか。振り返るとそこには少女が二人―――倒壊した瓦礫を背景に、呆然とこちらを見つめていた。
片方の少女は、ヴライと視線が合うと、小さな悲鳴を上げつつ、後退りをする。
焦燥、驚愕、嫌悪、恐怖、絶望といった負の感情が、その瞳には浮かんでいた。
もう片方の――口元を仮面のようなもので覆っている少女はというと、先ほどの悲鳴を上げた少女とは対照的に、ヴライのことをじっと見据えている。いやこの場合は、「睨みつけている」という表現の方が的を得ているかもしれない。何れにせよ、最大級の警戒を以って、ヴライと面していることは間違いなかった。

―――壮絶な戦闘を彷彿させる瓦礫の山。
―――その付近を、何食わぬ顔で闊歩する傷だらけの巨漢。

状況を鑑みるに、これを警戒しない方がおかしいと言えるだろう。

(……)

だが、ヴライにとっては、少女達が何を思おうが些末なことであった。如何様な事情があるのかは知らないが、この場で命の奪い合いを行う以上、目の前に立ち塞がる敵であることに変わりはない。先の術士のように、向こう側から仕掛けてくるか、それとも自身から攻め入るか――ただ、それだけの違いである。
ならば、己にとってすべきことは一つだけだ。

ギロリ。
眼前の敵を仕留めんとする双眼が光を放つ。獲物を発見した猛獣の如きその眼光に、少女達は、もう一歩後退る。

「な、何よ……」

仮面を装着していない方の少女が、震える声で呟く。
刹那、ヴライの手元には炎の槍が顕現。次の瞬間には投擲されていた。

「---っ!?」

少女達がそれを「炎」と認識する間もなく---空気を焼き尽くすかのような速度で放たれた一撃は、一直線に進みながら大気を震わせ、着弾と同時に爆発を起こしたのであった。





「―――爆発……?」

静雄が漕ぐ自転車に跨るレインは、前方から轟く爆音に眉をひそめた。
天本彩声と梔子―――煉獄杏寿郎から託された探し人は、恐らくスポーツジム方面へと移動をしたのだろうと見込んで、進行方向を西へと定めたレイン達であったが、この物騒極まりない爆発音に、静雄はペダルを踏む足を止めた。

「レインちゃん、今のは……」
「ええ……何やら、穏やかじゃないことが起きているようで―――」

どかん、と。
レインの言葉が終わる前に、再び同じ方向から爆発音が鳴り響く。
今度は、少しばかり近い。

「……少し様子を見てくるわ、レインちゃんはここで―――」

待っててくれと言いかけた静雄だったが、その言葉は最後まで言い切られることはなかった。

「いえ、私も行きます!」
「なっ…おいっ!?」

言うが早いか、レインは、荷台から飛び降りて、目を見開く静雄の前へと躍り出る。

「レインちゃんは、怪我してるだろ……ここは一先ず俺が……」

静雄としては、これ以上、レインを危険な目に遭わせるつもりはなかったのだが、当の本人は、全く意に介していない様子だった。

「お気遣いは有難いですが、怪我というなら、平和島さんの方が遥かに酷い状況ですよ」

と、レインに指摘され、静雄は自分の身体を改めると、「あー……」と呻き、押し黙る。
ミカヅチ、流竜馬との戦闘によって、静雄の身に纏うバーテンダーの服はスダボロとなっており、露出した肌には幾つもの切り傷、打撲痕、火傷が散見される。それでも、今もピンピンとしているその出鱈目さに、レインは半ば呆れつつも、言葉を紡いだ。

「それに、先程のフレンダ=セイヴェルンの件では、私達は別行動を取り――結果として、手痛い目に遭いました。」
「……っ。」

静雄は、思わず唇を噛み締める。
静雄からしてみれば、フレンダの口車に乗せられ、流竜馬との潰し合いを行ったこと。
その隙に、レインがフレンダに襲撃され手傷を負ったことは苦々しい思い出として残っている。
レインからしてみても、流竜馬という人物を測ろうとするため静雄を利用したこと。
そして、その結果として、フレンダにしてやられたことは、自らの浅はかさを覚える出来事であった。
先の出来事は、静雄とレイン、双方にとって共通の失態である。
直近のほろ苦い記憶をわざわざ掘り返すのは、レインとしても本意ではないが、同じ轍を踏まないために、これを戒めとする必要があった。

「だから今回は『一緒に』ですよ、平和島さん。不測の事態に直面したときも、二人でいたほうが、採りうる選択肢は多くなりますし、生存率だって上がるはずです。」

このゲームが始まって間もなく、レインは平和島静雄という規格外の戦力を味方に引き入れることが出来た。何かとレインのことを子ども扱いして、少々過保護が過ぎるところが玉に瑕だが―――それでも戦闘面においては言わずもがな、こちらの意見にも耳を傾けてくれるほどの協調性もあるため、その点では良いパートナーに巡り会えたと言えるだろう。
しかし、即席で結成したコンビであるものの、「チーム」としては、まだ未完の状態であると、レインは分析する。
シュカやヒイラギといった、Dゲーム上位ランカーが早々に退場してしまう程の過酷な戦場―――この地獄からの生還を果たすためには、これに抗う力を集めるだけではなく、それらを結束させ、連携させていく必要があるのだ。
その第一歩として、静雄との関係性においても、ただの「同行者」ではなく、互いに背を預け、弱点を補完しあう「相棒」に昇華させないといけないのである。

そんなレインの意図を知ってか知らずか、静雄は頭を掻いて溜息を吐く。

「……ったく……。無茶すんなよ?危ねぇと思ったら、すぐに逃げろよ」
「そうせざる得ないと判断した場合は、迷わず逃げますよ。それと安心してください、私は逃げることに関しては自信があります。」
「……何だそりゃ。」

レインの言葉に、静雄は思わずハハッ…と笑いを零した。

「それじゃあ、行くぞ。くれぐれも、俺から離れるんじゃねえぞ?」
「はい!」

静雄が先頭に立ち、二人は爆音鳴り止まぬ戦場に向けて歩を進めるのであった。





彩声と梔子。
フレンダ=セイヴェルンの探索の為、B-4エリアを訪れた二人の少女は、不幸にもそこで、『災害』と鉢合わせを果たす。
『災害』は、有無を言わず、炎槍を少女達に向けて、投擲。
瞬間、彩声と梔子も異形の力を開放―――各々が地を蹴り、これを寸前で躱す。
どがん、と。炎槍が後方の建造物に着弾し、派手な爆発音とともに炎が舞い上がる。

「これだから、男はッ……!」

舌打ちをする彩声。
「男」という存在自体への憎悪、問答無用で仕掛けてきた眼前の者への恐怖と苛立ち。
そういった感情の昂ぶりによって、スタンガンの形状のカタルシスエフェクトは、バチバチと激しい火花を放ち、彩声は応戦の構えを取る。

「梔子、手を貸して。こいつブッ飛ばすから。」

一筋縄ではいかないであろう難敵を目の当たりにして、彩声は彼女に共闘を呼びかける。
メビウスでは、敵対する間柄ではあるものの、今は非常事態。協力して、この危機を乗り越えるべきだと。
だが――。

「ハッ……ハァッ……アア……」
「……梔子ッ!?」

彩声の目に飛び込んできたのは、胸を抑えつけ、苦しそうに呼吸する梔子。
ヴライの攻撃によって生じた炎の揺めきを見て、パニック発作を起こしていた。

――しまった!

と、彩声は歯噛みする。
太陽神殿での対面や直近の会話でも、梔子が火に対して只ならぬトラウマを抱えていることは明白であった。そこまで気が回らなかったのは、彩声自身もヴライに対する畏怖で、動転していた為か。しかし、彩声に後悔している暇はない。

ヴライは、苦しみ悶える梔子へと肉薄。
その巨大な拳を少女の頭蓋目掛けて振り下ろさんとする。

「止めろぉおおおーー!!」

刹那。彩声は地面を踏み抜き、疾駆。
スタンガンを振り上げ、迫るヴライの腕へ一撃を見舞う。

「ぬぅ……!?」

カタルシスエフェクトで生成された電流が身体の中を駆け巡り、ヴライは顔を顰める。
スタンガンにより一時的に動きを止められた隙を狙い、彩声は間髪入れずに梔子の手を引いてその場を離れる。
直後、ヴライは再び炎槍を生成して、二人に向かって投擲。
彩声は梔子を抱き抱えるような形で横っ飛びに回避した。

「梔子、逃げるよ!」
「ハァハァ……アァ……」

爆音を背景に、彩声は梔子に肩を貸して叫ぶ。
未だ発作状態の彼女であったが、それでも彩声の言葉には弱々しながらも反応し、足を動かす。

「小娘どもが……!!」

ズシリ、ズシリと重厚な足音とともに、ヴライは二人の追跡を開始する。彩声は、動悸が止まらない梔子に肩を貸し引っ張りながら、懸命に逃げる。しかし、小柄とは言え、人一人の身体を引きずりつつ走るというのは中々に重労働だ。
これに対して、ヴライはというと、決して焦るこもなく、堂々とした歩みを続ける。まるで、「何処までも追い詰めてやる」と言わんばかりに。

やがて、命を賭した追走劇の舞台はB-5エリアへと移り変わる。
午前9時から禁止エリアとなる死地ではあるが、彩声達は目下最大の脅威から逃れるため、ヴライは目についた獲物をただ排除すべく、躊躇いもなくその地に足を踏み入れた。
彩声達にとっては一度来た道を引き返すような形になったが、建造物が入り組んだ市街地の光景は、行きの時とは異なって見える。そんな景色の変化を感じるのも束の間、彩声達の背後からは相変わらず重い足音が聞こえ、慌てて路地裏へと駆け込む。
それを視野に収めたヴライも、歩調を速めて、路地裏に入り込むが、彩声は気力を振り絞り、梔子を伴い全速力でいくつもの角を曲がりに曲がって逃げ回る。

「ハァハァ……ここまで来れば大丈夫かな?」
「ハァ……ハァ……すま、ない……天本彩声……」

もう、追手の足音は聞こえてこない。
ヴライの追跡を撒けたと確信した彩声と梔子は、倒れ込むようにアスファルトの地面に座り込んだ。
息切れと共に全身から噴き出す汗。体力の限界を迎えていた二人は、しばらくその場で呼吸を整えることに専念する。そして、ようやく梔子の発作が収まりホッとしたのも束の間。

ドゴン!と、凄まじい衝撃音が響くと同時に、地面が大きく揺れ動く。

「なっ!?」

二人は目を見開いた。視線の先、数メートル先で、建物が崩落し、瓦礫と化して、そこから炎が上がったからだ。

「ッ!? ハァハァ……アァ……」
「梔子ッ!!」

メラメラと揺れる紅蓮の華を目の当たりにし、再び梔子は発作を起こす。

ドゴン!

更に続けて、別の建物が倒壊。
立て続けに起こる破壊活動―――原因は分かりきっている。

「ちくしょう…あいつ、手当たり次第壊して、私達を炙り出そうとしているんだ!」

あちこちに火の手が回り始めた街並み。梔子の動悸はより一層激しくなる。

「ハァハァ……天本彩声……私を切り捨てて、ここから逃げろ……このままじゃ共倒れだ……」

息も絶え絶え、梔子は意識を何とか保ちながら、彩声に自分を置いていくよう懇願する。
だが、それに対して彩声は首を横に振る。

「バカ言わないで……見捨てられるわけがないでしょうが……!」
「私達は……敵同士だぞ……?」
「それが何だって言うの?今はそんなの関係無いじゃない!それに私はもう嫌なの……!私の目の前で、女が男に痛めつけられるのは!!」

彩声は悲痛な表情を浮かべて叫ぶ。
彼女の脳裏に想起されるのは、地下アイドル時代に目の当たりにした、金属バットで顔面を粉砕された親友の姿―――あの悲劇によって、彩声の男嫌いは決定的なものとなった。
だから、自分の目の黒いうちは絶対にあんな真似はさせない。

「やっぱ、男なんてクソばっかだ……アイツも、琵琶坂永至も、流竜馬も――向日を襲った『田所』って男も……!!梔子はここにいて!私がアイツを止めてくるから……!」
「っ……!?天本彩声、お前は……」

唐突に出てきた『田所』という名前に、梔子は動揺する。
だが、彩声は彼女の些細な反応には気付かず、踵を返して、ヴライがいるであろう方角へと走り出す。

「ま、待て……!天本彩声ッ!!」

梔子は震える手を伸ばし、呼び止める。
しかし、その手が届くことはない。制止の声も虚しく、梔子は遠ざかる彩声の後ろ姿を見送ることしか出来なかった。

「……ハァハァ……クソッ!」

残されたのは、未だ胸を抑えたままの、『おんぼろ』な少女だけ。
心の内に沸き上がる心理的外傷に苛まれながら、少女は無力な自分を呪うのであった。

「―――なあ、おい!そこのアンタ!」

途方に暮れる少女の耳に、野太い声が入ったのは、彩声と別れて程なくしての頃だった。



ドゴン!
ドゴン!
ドゴン!

朝の陽射しが照らす大地に、爆音が絶えず木霊する。
彼の者が腕を振り上げる度、空気が割れ、建物が崩れ、地が裂け、炎が生じる
深紅の双眸は冷たく燃えている。目に映るもの全てを排さんと、『災害』は猛威を振るう。

(……部長、私に勇気を下さい……)

破壊を続ける『災害』ことヴライを、瓦礫の陰に隠れてやり過ごしながら、彩声は心の中で呟く。この場にいない『彼女』の姿を思い浮かべ、祈るように目を瞑った。
自分の心の深淵に接して、尚且つ受け入れてくれた『彼女』。
『彼女』の顔を浮かべるだけで、不思議と恐怖は薄れていく。
それは、『彼女』が彩声にとって特別な存在だから。

そして。

「―――うわぁあああああああああッ!!」

少女は、覚悟を決めた。
胸に純白の「カラスウリ」の花を咲かせ、カタルシスエフェクトを展開。
怒号とともに、ヴライに向かって突進する。
スタンガンを握り締め、一直線に突撃してくる少女の姿を見て、ヴライは微かに眉を潜めた。

「……」

勇猛果敢に挑んでくる少女に対しても、特に思うところはない。
立ちはだかるのであれば、屠るのみ。冷徹に拳を引いて迎撃の構えを取る。
だが、その刹那―――

「――――――!?」

その深紅の瞳は、捉えた。目の前の少女が懐から何かを取り出し、それを一嘗め。
華奢なその身体が金色に発光したかと思えば、忽ちその姿は掻き消えるのを。
そして、同時に己の背後に気配が生まれた。
否。消えたわけではない。ただ高速で移動しただけだ。
そうしてヴライの背後をとった少女は、スタンガンを突き出す。
しかしヴライもさるもの。即座に振り向き様に炎を纏った裏拳を放つ。

「……!」

少女はその一撃をスタンガンの盾で滑らすように、受け流すと、ヴライの剛腕に電撃を奔らせた。

「……ぬぅうッ!?」

瞬間、全身に電流が走り、ヴライの動きが止まる。
雷光によって視界が白く染まり、苦悶の表情を浮かべる。
そこにすかさず、少女は追撃の一手を放った。
スタンガンを腰だめに構えると、渾身の力を込めて突き出す。

「こんのぉおおおおおおっーーー!!」
「ぐおおおおっっ!!」

バチィイイッ!! 閃光と共に火花が散り、ヴライの巨体がよろめいた。
少女の攻撃は先程接触した時のものとは比べられないほど、強力なものとなっていた。

「小娘が……!!」

怒声と共に、ヴライは全身から炎を噴き出し、周囲の空気を焼き焦がしていく。
その炎に飲み込まれる前に、彩声は再び距離を取った。

「ハァ……ハァ……」

荒い息を繰り返しながら、彩声は肩を落とす。
そして、懐からタブレット上のものを再び取り出し、中の粉末を一嘗め。
再びその姿は金色に発光する。


カタルシスエフェクト・オーバードーズ―――。

本来、調律を行うアリアさえいれば、個々人が発現するカタルシスエフェクトに対して、リミットを解除することによって、一時的に過剰強化を行う事は可能である。
しかし、今この場にはその核たるアリアはいない。
ではなぜ、彩声が自らのカタルシスエフェクトを過剰強化させることができているのか?
その答えは、彩声に支給されたタブレット―――その中に含まれている微量の白い粉末にあった。


体晶―――。

少女が採取する其れは、とある世界のとある都市の『闇』で流通する劇物。
本来『能力者』と謂われる人間を対象として開発された薬品。使用者の『崩壊』を招くやもしれない副作用と引き換えに、意図的に『能力』を暴走させる其れは、『能力者』ではない彩声にとっては、ただの毒物としかなりえない。
しかし、この薬品には副次的な効果として、精神の高揚を誘発させる―――。と、添えられていた説明書には記載されていた。
カタルシスエフェクトは抑圧された内面を具現化した実体化させたものであり、その根幹は発言者の精神に在る。故にそこにブーストを掛けてしまえば、より強固なものを形成できるのではないか―――。
彩声はそのように考察して、これを服用―――斯くして、彼女は目論み通り、アリアの介在なしで擬似的なカタルシスエフェクト・オーバードーズを発現させたのであった。


(気持ち悪い……眩暈もする……最悪の気分……)

しかし、大いなる力の代償は大きい。
身体に走る激痛、目まい、吐き気……そして、それに伴う強烈な『昂揚感』。
全身の血流が早くなり、体温が上昇する感覚。
まるで脳味噌そのものが沸騰しているかのような錯覚を覚えるほどの熱量。
これぞまさに、過剰強化。

「でも……」

それでも、と少女は前を見る。
目の前の怪物を蹴散らすためには、この対価も必要なことだと信じて。

「私は、負けない!!アンタをブッ飛ばす!!」

自らを鼓舞するように叫び、再度スタンガンを構える。
そして、一直線にヴライに向かって突進した。

「――――鬱陶しい、蠅めが!!」

ヴライは向かってくる彩声に向かって、炎で飾られた拳を振り下ろす。
だが、過剰強化された彼女の方が速い。
拳の軌道を見切り、身を翻して回避すると、スタンガンを突き立てる。

「はぁあああっ!!」

バチバチィイッ! スタンガンから発せられた、金色の光が煌めき、再びヴライに電撃が奔る。

「ぬぅぅッ!?」
「まだまだぁあああッ!!」

筋骨隆々の巨体が揺れ動くも、間髪入れずに、彩声は追撃の一手を繰り出していく。
ヴライが反撃に転じる前に、電撃を纏った盾をヴライの顎元に叩きつける。
巨体が再び後退するも、今度は腹に向かって電撃をぶちかます。

「―――ッ!!」
「アンタみたいな男がいるからッ―――!」

ヴライの巨躯が三度よろめく。
そこへ更に、彩声は追撃の一手を叩き込んだ。

「日向は殺されたんだぁッ!!」

絶叫と共に、彩声は跳躍。ヴライの顔面に渾身の一撃をお見舞いした。
ドゴォオッ!! 衝撃音とともに、ヴライの巨体がぐらつく。
しかし、それだけだ。ヤマト最強の武士の意識をシャットダウンするにはまだ足りない。
寧ろ、先程よりも苛烈な闘気がその双眼から放たれていた。

「小娘が……舐めるでないわァアアッ!!!」

ヴライは、その場で踏みとどまると、全身から炎を噴出。彩声を吹き飛ばさんと、その豪腕を振るう。

「きゃっ……!?」

直撃こそ免れたものの、彩声は風圧で吹き飛ばされ、地面を転げまわる。
しかし、その闘争心は絶えることはない。
即座に立ち上がると、体晶を一嘗め。カタルシスエフェクトにブーストを掛ける。

「ハァ……ハァ……」

身体の内側から襲う痛みに顔を歪めながらも、彩声は今一度、ヴライへと挑むべく突撃を試みるもーーー。

「消え失せろッ!!」
「―――ッ!?」

ヴライは炎槍を生成し、まだ体勢を整えていない彩声に向けて射出した。
狙いなど付けていない。ただ、目障りなものを薙ぎ払うような攻撃。
しかし、それは少女にとって十分な脅威となりえた。

「……ッ!」

咄嵯に身を捻り、炎の槍を回避しようとするが、完全には避けきれない。

「……ぅ……!」

爆発音が生じるとともに、左脚に灼熱を感じて、苦痛の声を上げる。
見れば、左の太腿が焼け爛れている。怪物を撹乱するための機動力を殺されてしまったのである。

「ハァ……ハァ……」

彩声の顔に苦悶の色が広がる。
しかし、彼女の瞳に宿った戦意の光は消えていない。

「……私は……負けるわけにはいかない……!」

自分自身に言い聞かせるために紡がれる言葉。ここで自分が退けば、次に狙われるのは梔子だ。炎がトラウマとなっている彼女には、この怪物に抗う術はない。
故になす術なく殺されるであろう。
しかし、そんなことは絶対に許さない。
もう二度と、男による女への蹂躙を許すわけにはいかない。
だからこそ、何があっても、こいつだけは絶対に倒す――!

彩声は神経を研ぎ澄まし、己の中のカタルシスエフェクトを活性化させる。
同時に、スタンガンを構え、ヴライを睨みつける。

「……無駄な足掻きよ。汝等、弱者は戦場においては無価値。強者にただ屠れるは必定」

ヴライはゆっくりとした歩調で彩声に近づいていく。
対する少女は、ヴライを睨むことを止めず、一歩も退かない。

「……ならば、せめて我が一思いに屠ってくれよう」

そう言って、ヴライは拳を握ると、それを振り上げる。
同時に、少女はスタンガンを構えた。両者の視線が交錯し、激突は必至と思われたその瞬間――。

「―――ッ!?」

ヴライは真横から飛来する物体を察知し、拳を振り回した。
直後、そこに巨大な瓦礫が着弾。粉塵を巻き上げながら砕け散る。

「……えっ……!?」

突然の出来事に彩声が困惑する中、ヴライはその視線を粉塵の奥へ向ける。

「――なぁおい、おっさん……」

男の声が聴こえた。少なくとも眼前の男のものではない。第三者の者だ。
彩声もその正体を確認すべく、視線をそちらへと向ける。
そこには―――。

「お前ら、仮面被っている連中は、皆そうなのか? 揃いも揃って、あのテミスとかいう女の口車に乗っかって、手前よりも、力の弱い女子供を襲って痛めつける……。そんなゴミ野郎の集まりが、お前らってことで良いんだなぁ?」

ボロボロのバーテン服を身に纏い、ズシリズシリと、こちらに向かって歩んでくる、金髪の男の姿があった。
既にその顔面には青筋が立ち、その両眼からは怒りの感情が見え隠れしている。

「……」

この得体の知れない乱入者に興味を抱いたのか、ヴライは身体の向きを、彩声から男の方へと切り替える。

「なぁおい、何とか言えよ、ああ゛あ゛あ゛?」

とドスの効いた声で、男が凄むも、ヴライは微動だにしない。
ただその両の眼は、冷ややかに乱入者を見据えているだけだ。

「――何とか言えって言ってんだろうがぁッ!!この仮面野郎がぁああああッ!!」

大地を震わすような咆哮と共に、男は地面を強く蹴りつけた。そして、ヴライ目掛けて、怒涛の勢いで地を駆ける。その姿はまさに猛獣。
だが、ヴライは気後れすることもなく、炎槍を投擲。

「ぬぅんッ!!」

叫び声と同時に、炎槍が男の身体に直撃。派手な爆発音と土煙が舞い上がる。
しかし、それも一瞬のこと。

「痛ってえじゃねえか!!ゴラァァァッ!!」

爆炎の中から男は飛び出した。
さすがに無傷とは言えず、身体からは煙が上がり、火傷の跡が生々しい。
しかし、それでも勢い殺さず、激情のまま突貫していく。

「嘘……」

男のタフネスぶりに彩声は面食らう。男に直撃した攻撃は、普通の人間が喰らえば即死の代物だ。コンクリートの路上に、不自然に出来あがったクレーターが、その威力を物語っている。にも拘わらず、男はそのダメージを全く感じさせない勢いで突っ込んでくるのだ。

「……。」

一方のヴライはというと。特に表情を変えることはない。しかし、彩声への興味は完全に失せたようで、迫りくる男に全神経を集中させ、迎え撃つ。

「うおおおおおおりゃああああッッ!!」

雄叫びを上げ、男は拳を振り上げた。
対するヴライも、迎え撃たんと炎に包まれる拳を振り下ろす。
互いの拳がぶつかり合い、空気が割れたような衝突音が生じる。

「……グギギギギッ!」
「……ぬぅぅぅ!」

両雄、鬼のような形相を浮かべ、相手を押し潰さんとする。
形勢は互角。ヴライも、男も突き合わせている拳に力を込めていく。

拮抗が崩れたのは、数秒後の事だった。

「ッ!?」

ヴライの拳が押され始める。否、正確にはヴライの巨体が徐々に後退し始めた。
男の細腕によって、筋骨隆々のヴライの丸太よりも太い腕が軋み、悲鳴を上げ始めたのである。

「……ぬぅうッ!?」
「おおぉりゃあッ!!」

予想外の事態に、ヴライは顔を歪め、腕力勝負を諦め、身を捻る。
そして、もう片方の腕を振るい、男に向けて業火が放たれる。

「――ちぃッ!!」

舌打ちとともに、男は後方へと飛び退きこれを回避。しかし、ヴライの攻撃はこれだけでは終わらない。

「ぬおおおおッ!」

裂帛の気合とともに、ヴライは跳躍。上空から男がいる地上に向かって炎槍を連射した。

「……えっ……」
「――ッ!?」

降り注ぐ破滅の雨にぽつんと呟く少女の声に、闘争に熱くなっていた男は我に帰る。
地上には男だけではなく、脚を負傷した彩声もいる―――それを思い出すと、男は瞬時に彼女の元へ駆けつけ、その身体を摘み上げる。
「えっ、ちょっ……」と彩声が暴れる間もなく、全速力でその場から退避。近くの瓦礫の山へと、駆け込んだ。
直後、地に降り注いだ炎槍が、次々と爆音とともに、地面に大穴を開けていく。まるで隕石の大群が衝突したかのような有様だ。この間僅か数秒の出来事であった。

彩声はこの惨状に一瞬唖然としていたが、すぐに正気に返り、男に噛みつく。

「ちょっとアンタ!!一体何なの!?離れてよ!!」
「あ゛あ゛あ゛?人が助けてやったのに、随分な言い草だなァ、おい!?」
「うっさい!頼んでないし、いいから早く下ろしなさいよ!気持ち悪い!」

と彩声はジタバタしながら喚き散らす。それを男は鬱陶しそうに見つめながら、「チッ」と舌打ちすると、彼女をその場に放り投げるように解放する。

「……ったいなぁ!もう!!アンタ結局何なのよ」

彩声は地面に叩きつけられるも、すぐさま立ち上がり、男を睨みつける。
男は面倒くさそうに頭を掻くと、ぶっきらぼうに答える。

「……平和島静雄……俺の名前だ!これでいいか?」
「平和島……静雄……」

破天荒な風貌とは相反するような男の名前に、思わず反芻する彩声。
静雄は顰めっ面のまま、彩声を見下ろす。

「そういうアンタは、天本彩声だろ?」
「……どうして私の名前を……?」
「今さっき、あっちで梔子って子に、アンタを助けてほしいって頼まれたんだよ。ああ安心しろ、彼女は俺の仲間と安全な場所に避難しているところだ」
「……そうだったの……」

と彩声は安堵の息を漏らし、肩を落とす。
どうやら梔子の機転によって、命拾いしたようだと悟り、心の中で彼女に感謝する。
と同時に、静雄に対して、罪悪感を抱くのであった。

「ごめん……さっきは助けてもらったのに、あんなこと言っちゃって……。」

彩声は俯きながら謝罪の言葉を述べる。
静雄の第一印象は、粗暴且つ野蛮で、彩声が最も忌み嫌うタイプの男だった。
しかし、そんな人間であっても、彼に命を救われたのは否定のできない事実だ。そんな命の恩人に対して、自分はなんてことを言ってしまったのだろうと、後悔していた。

「別に構わねえよ。こんな状況だ、パニックになるのも無理はねえしな。」

と静雄は素っ気なく返す。
そんな彼の反応を見て、彩声は拍子抜けした。もっと怒鳴られると思っていたからである。
そして、意外と思慮分別が出来る男なのだと、少しだけ静雄に対する評価を改めた。

「それと、一つ。年上にはちゃんと敬語使えよな、学生」
「……アンタ、歳いくつよ?」
「24だ。まずその『アンタ』って呼び方止めろよな」
「それなら私の方が年長ね、私27だから」
「……は?」

彩声の発言に目を丸くして驚く静雄。
静雄が驚愕するのも無理はない。静雄が目にする彩声の姿は、メビウスにおいてμが創り出した仮初の姿。見た目が女子高生であったとしても、現実での年齢はアラサーに区分される年齢であるのだ。
どういうことだ?と、問い詰めたい衝動に駆られた静雄だったが、すぐに考えを切り替える。

「詳しい話は、後でだ……。今はあいつをどうにかしないとな」

と静雄は前方を見やる。
見れば、ヴライがゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる姿が目に映る。
実に堂々とした足取りで、睨みを効かせながら、近づいてくるその姿は、まさしく強者の風格を感じさせる。

「アンタは怪我してるから、退がってな。ここは俺がなんとかするからよ!」
「あ、ちょっと……」

彩声の制止の声を聞かず、静雄はヴライへと向かっていく。

「……解せぬな」

ヴライは自身に迫り来る静雄に視線を向けながら、口を開く。

「少しは腕に覚えがあるようだが、汝は何故、その力を持って弱者を救わんとする?」
「あん?」
「世はこれすなわち弱肉強食。弱者など、無価値、無意味、ただ強者に淘汰されるのみ存在よ。そんな力なき者を救って、汝になんの益が有る?」
「……。」

ヴライの問いに、静雄は苛立った様子で眉間にシワを寄せると、その顔を怒りに歪ませていく。

「……強えとか、弱えとか、関係ねえよ……。下らねえ、心の底からどうでも良いぜ、そんな事。」

静雄は、ヴライを睨みつけたまま、吐き捨てる。
平和島静雄は「暴力」が嫌いだ。彼が心から望むのは、その名の通り「静かに暮らすこと」。だからこそ、自分が持つ圧倒的な「暴力」を誇示したこともない。むしろ、こんな力さえなければとさえ、何度も思った。
だが、今の彼にはその「暴力」への忌避感はない。
ズシリズシリと、その歩調は段々と速度を増していき、ついには駆け出した。
ただ純粋な「怒り」の感情が「暴力」への嫌悪を塗り替えて、身体を突き動かしていた。

「俺は只、手前の都合で他人を平然と傷つけるお前らが気に入らねえだけだ!!」

静雄は拳を握り締め、ヴライに接近していく。

「まあ、とりあえず、手前ェに関しては---!!」

対するヴライも歩みを止めない。静雄の言葉など微塵も響いていないのか、その顔には依然、何の変化もない。
磁石が惹かれ合うように、両者の距離は徐々に縮まり、やがて拳が届く距離まで近づく。

「ぶっ殺すッ!!」

静雄が吠える。同時にヴライの顔面目掛けて拳を振り下ろす。

「……ふんッ!」

対してヴライも、拳を突き出す。
両雄の拳が二度目の衝突を果たして、エリア一帯に轟音が鳴り響いた。




後方の街並みからの騒音がより一層激しくなる。
恐らく平和島静雄とヴライが衝突しているのだろうか。

(結局、また荒事は平和島さんに任せてしまう形になってしまいましたか……)

レインは、呼吸を乱しながら歩く梔子を支えつつ、嘆息する。
レインと梔子の二人は、戦闘の余波が及ばないであろう安全地帯へと避難していた。無論、これは静雄と話し合った上でのことだ。

「迷惑を掛けるな……レイン……」
「いえ……お気になさらず。」

レイン達は、事前に示し合わせたポイントに先行して、そこで待機。静雄は彩声を連れ戻した後に、合流する手筈となっている。静雄には敵の撃破は二の次で、あくまでも彩声を引き連れての帰還を最優先とするよう念押ししたのだが。

(正直、不安しかないですね……)

静雄のことだ。相手方の蛮行を目にするや、逆上し暴れ回っている姿が目に浮かぶ。
まだ出会って半日も行動を共にしていないが、彼の性格や破天荒さは十二分に理解したつもりだ。勿論、本質は理不尽を極度に嫌う善良な人間であるということも理解している。
だからこそ、彼が無茶をしないよう、制御役として、自分が傍にいる必要があるのだが。

(いえ……今は私が出来ることに専念しなければ……。梔子さん……μのことをよく知るという彼女の安全確保。まずは、これを第一優先としましょう)

折角見出すことのできた主催者μへの繋がり。その根幹である彼女の安全確保こそ急務である。
レインはそう自分に言い聞かせ、梔子の身柄を戦闘の余波と、ヴライなる男が放つ炎が及ばぬであろう安全地帯へ向けて、歩を進めていく。後方から鳴り止まぬ轟音を背にして。




“ヤマト最強の武士”、ヴライ。
“池袋最強の男“、平和島静雄。
二人の“最強”による殺し合いは苛烈を極めていた。

ヴライが炎槍を連射すれば、静雄は地を蹴り駆け出し爆撃を回避。そのまま退避先に倒れている電信柱を片手で引っこ抜くと、それを槍投げの要領で投擲する。

「……こざかしいわ!」

ヴライはミサイルのように飛来するそれを、拳を振るって粉砕する。
しかし、静雄の攻撃はそれで終わりではない。
今度は足元にある巨大な瓦礫をサッカーボールのように勢いよく蹴飛ばし、ヴライを圧殺せんとする。
しかし、ヴライはこれを冷静に対処――飛来する大質量の瓦礫を、両の腕で受け止め、そして粉々に砕く。
だが、静雄の猛攻はそれだけでは終わらない。近くの倒壊したビルの残骸から鉄筋を掴み取ると、それを両手に構え、突進していく。

「……むんッ!」

対するヴライは跳躍。上空から静雄を見下ろしつつ、炎を纏った拳を静雄に向かって勢いよく振り下ろす。引力を味方につけ、落下してくるその勢いはまさに隕石そのもの。
静雄は咄嵯に横っ飛びに回避し、先程まで静雄がいた地面は爆音とともに陥没し、亀裂が走る。爆ぜたアスファルトに着地したヴライ。その頭部目掛けて、静雄は鉄筋を薙ぎ払う。
ガゴン!!と鈍い音と共に、ヴライの頭部から鮮血が噴き出る。さしものヴライも、この一撃には身体を仰け反らせる。だが、それでも“ヤマト最強”は倒れず、不倒を貫く。

「ぬぅううん!!!」

気合一閃、頭上に掲げた腕を振り抜き、再び己を襲わんとする鉄筋を撃ち抜くと、静雄の手からそれは弾けて離別する。
得物を失った静雄だったが、そんなことは意にも介さず、怒声を発しながらヴライに飛びかかる。
そしてまた、両者の拳がぶつかり合い、轟音が鳴り響く。
"剛"と“剛”。“力”と“力”。“最強”と“最強”の衝突。
その衝撃によって辺り一面の空気が震える中、両者は一歩も譲らない。

両者の闘争は、本日幾度目かの拳による押し相撲―――力比べに移行したのだが、これは池袋最強の領域。静雄の腕が徐々にヴライを押し込んでいく。
単純な腕力だけであれば、"池袋最強"は“ヤマト最強”を凌駕する。
しかし、既に幾重にも拳を重ねたヴライはこれを嫌って、全身から炎を噴出させ、静雄に吹きつける。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ、うぜえええええなぁああああああッ、この焚火野郎がああああああァ!!」

火炎に飲まれ、静雄は悪態をつきつつ、後退を余儀なくされる。
しかし、その隙を見逃すほど、"ヤマト最強"は甘くはない。
瞬時に間合いを詰めると、すかさず炎を纏った右ストレートを静雄の顔面に叩きこむ。
大岩をも穿つであろうその拳撃をまともに喰らい、流石の静雄も大きくぐらつくが、地面に両足を突き立て踏ん張ることでなんとか堪える。
お返しとばかりに、今度は静雄が左アッパーを見舞い、ヴライの顎を捉える。強烈な一撃に、ヴライは顔を歪め、その巨体は浮きかけるが、両脚に力を込め、その場に踏み留まる。

「おおぉらああッ!!」
「ぬんッ!!」

両者一歩も引かず、更に殴り合いは加速。ひたすらに拳を振るい続ける。
互いに拳が命中すれば、その度に互いの身体は大きく揺れるが、両者とも倒れることはない。ただひたすらに拳を繰り出し、相手を打倒せんとする。
怒声と咆哮と激しい殴打音が辺り一帯を震わせ、両雄による殺し合いは、続く。




(……本当に、男ってのは、野蛮な上に、無茶苦茶するわね……)

怒号と破壊音が飛び交う戦場に背を向けて、彩声は、負傷した足を引き摺りながら、移動を行っていた。
今、何よりも優先すべきは、あくまでも梔子と彩声自身の生存だ。
静雄があの化け物を引き止めてくれるのであれば、それに乗っかり、自分達は安全地帯へ退避すべきだ。
静雄を見捨てるようで、少し気も引けるが、正直今の自分は足手纏いに他ならない。

(ごめん……)

心の中で謝罪と彼の無事を祈りつつ、彩声は歩みを進める。
やがて、前方から小さな人影が現れ、彼女は足を止めた。

「天本彩声さんですか?」
「えっと……そうだけど貴女は?」
「私は柏木鈴音。名簿にはレインという名前で記載されています」

彩声の前に現れたのは、白っぽい外套に身を包んだおかっぱ頭の少女であった。
背は低く、顔立ちからもまだ小学生高学年くらいに見える。

「梔子さんはこの先を真っ直ぐ、突き当たりを右に曲がったファミレスの中で待機しています。あなたも其方に退避してください。」
「え?あ、ちょっと!?」

それだけ伝えると少女――レインは、彩声の返事を待たずして、通り過ぎようとするのだが、彩声は慌ててその肩を掴んで止める。

「待って!あなたはどうするのよ!」
「どうやら向こうで、私の仲間が交戦しているようなので、加勢に向かいます。」
「なっ……」

レインの言葉に絶句してしまう彩声。
彼女の言う「仲間」とは恐らく静雄のことだろう。だが、彼が戦っているあの場所はまさに死地。ありとあらゆる物が弾丸のように投擲され、それらに常人が巻き込まれば即死は免れない、そんな場所なのだ。そんな危険極まりない戦場に、こんなか弱そうな少女を一人で行かせるなど、とてもじゃないが出来る筈がない。

「馬鹿言わないで!あんな化け物共の戦いに割って入るなんて、無謀よ!死にに行くようなものよ!!」
「此方としてはあなたの言う『化け物』とやらの一人を死なせる訳にはいかないのですよ。借りもありますし……。大丈夫です。私にお構いなく、あなたは逃げて下さい」
「でも……」

尚も食い下がろうとする彩声だったが、レインは有無を言わせぬ表情を浮かべると、
「いいですね。さぁ早く行ってください」と言い残し、そのまま走り去ってしまう。
残された彩声は呆然とその後ろ姿を見送った後、

「あーもう!何なのよ一体!!どうすれば良いのよ、私は!」

と、苛立った様子で吐き捨てる。
静雄ならともかく、あんな幼い女の子を一人見殺しにするというのは、彩声としては許せないことであった。
しかしだからと言って自分が行ったところで何になるのか、という不安もある。
今ここで、自分が採るべき行動は何なのか?―――彩声は頭を掻きむしり葛藤する。

風雲急を告げる状況下で、少女は選択を迫られていた。




平和島静雄とヴライ。二人の“最強”による果たし合いは、尚も続いている。
当初は互角の様相を呈した両者の戦いだったが、ついに趨勢が傾く時が訪れた。

ヴライが放った右の拳打を掻い潜った静雄は、カウンターとして、ありったけの力を込めた頭突きを繰り出す。脳天を強打され、ヴライの視界が一瞬だけ明滅するが、すぐに持ち直し、今度は炎槍を生み出し、射出。
ゼロ距離での攻撃を捌ききれず、静雄はその身に直撃を受け、後方に吹き飛ぶ。
肉を焦がす嫌な匂いが立ち込めるが、それでも彼は怯まない。しかし、ヴライは間髪入れず間合いを詰め、追撃の拳を静雄の腹部に放つ。

「ぐふっ……」

鈍く重い痛みが静雄を襲う。反撃すべく、拳を振り上げようとするも、その前にヴライが蹴り上げを放つため、それは叶わない。
ならばと、静雄は咄嗟に両腕でガードをしようとするが、それすらも間に合わない。ヴライは容赦なく、静雄の腹筋目掛けて足刀を放り込む。

「……ッ!!」

怒りを孕んだ呻き声を吐き出し、“池袋最強”は再び後方へと飛ばされ、更にヴライはこれを追撃。
拳撃の雨を静雄に浴びせるべく、一気に間合いを詰め、怒涛のラッシュを仕掛ける。
対する静雄は防戦一方であり、一方的に殴られ続けてしまう。

平和島静雄の強さは本物だ。そこは疑いようがない。
感情の起伏によって、火事場の馬鹿力を暴発させる特異体質---。
壊れては再生され、また壊れては再生を繰り返すことで強靭さを増していった肉体---。
そして、それらを駆使することで発揮される、爆発的な攻撃力とタフネスさは、この殺し合いにおいても、最上位に君臨するだろう。こと次第によっては、“ヤマト最強”のそれらをも凌駕するやもしれない。

だが、しかし。現実はご覧の有り様―――。
今や“池袋最強”は“ヤマト最強”の前に、サンドバックのように拳を撃ち込まれている。
それでは何故、平和島静雄はヴライに遅れを取っているのだろうか?

その原因を一言で表すなら、『戦闘経験』の差―――これに尽きる。
静雄は自身の半生において、様々な相手に挑まれ続け、それらを圧倒的な暴力によってねじ伏せてきた。
しかし、静雄に喧嘩を吹っ掛けてくる相手は、何れも“池袋最強”の足元に及ばず、彼の生命を脅かすほどの猛者は存在しなかった。
殴る。蹴る。投げる。
単純極まりないそれらの行為のみで、大抵の人間は地に伏してきたのだ。
だからこそ、平和島静雄は自身の生命を脅かさんとする者に対しての『戦闘経験』が乏しい。
それは、この殺し合いにおいても、左近衛大将ミカヅチや、ゲッターの申し子流竜馬といった猛者を相手に一筋縄ではいかなかった要因にもなりえた。

対するヴライは百戦錬磨。ヤマトの内外にその名を轟かす、最強の武人。
これまで数多の戦場を渡り歩き、多くの命を刈り取ってきた男。宿敵オシュトルを始めとし、数々の武士たちと刃を交わしてきた。
そんな強敵達との『戦闘経験』の差が、この場で顕著に表れている。

加えて、もう一つ。静雄は怪力無双であるが、こと格闘技における技術体系を知らない。
パンチ一つを見ても、例えば、幼き頃より空手を学んだ流竜馬は、如何に効率的に人体を破壊するかを熟知しており、それを実現するために、理に適った打撃方法も心得ている。
しかし、静雄のそれは謂わば喧嘩殺法。力任せにぶん回すだけの粗雑な技だ。
静雄の拳は、一見すると強力無比だが、その実、大振りであるために避けやすい。

対するヴライは武芸百般。一見するとその拳撃は大味なものではあるが、その実は精密かつ的確。日々の鍛錬が結実した、完成された拳撃なのである。

静雄の繰り出す攻撃は、確かに凄まじいの一言に尽きるが、ヴライは彼との実戦の中で徐々にそれを見切りはじめる。
静雄が繰り出す攻撃を受けきるか。流すか。カウンターを繰り出すか。など冷静に判断を下し、これを捌き、隙あらば拳撃あるいは炎撃を撃ち込む。
そうして、ヴライの攻撃が静雄の身体に蓄積され、彼がダメージを負う場面が増えていく。

「……ぬぅううん!!」

今度もまたそう。
右ストレートを空振りした静雄の懐に入り込んだヴライは、渾身の力を込めて、左の掌底を静雄の胸板に叩きこむ。

「……がはッ!」

ヴライの拳撃を受けた静雄は、勢い殺せず後方の瓦礫の壁まで吹き飛ばされる。
壁に打ち付けられた静雄は、ズルリと崩れ落ち、膝をつく。
ヴライは、息も絶え絶えに苦しげに睨みつけてくる静雄を見下ろしながら、一歩ずつ歩み寄る。

「テメェッ……!!」
「少しは愉しませてもらったが、これで終いよ」

ヴライはそう言って、両の腕に二本の炎槍を生み出す。
それを見た静雄は、血反吐を撒き散らしながら立ち上がろうとするが、その前にヴライは止めを刺さんと腕を振り上げた。
が、その刹那。

パ  ァ  ン  !

乾いた音が木霊すると同時に、ヴライは咄嗟に背後を振り返る。
視線の遥か先には、狙撃銃を構えたおかっぱ頭の少女が一人。
その狙撃銃の先端からは硝煙が燻っており、彼女が引き金を引いたことを物語っている。

「……レインッ!?」

驚愕の声を上げる静雄。一方でヴライは、怒り心頭といった様子だ。
静雄に振り下ろさんとしていた片腕から出血がみられる。
あの瞬間、レインはヴライの後頭部に狙いを定めて、射撃を敢行。迫りくる銃弾にヴライは本能的に反応して、振り向きざまに腕を振るい盾として、これを防いだ。
結果、弾丸はヴライの腕に命中したものの、筋骨隆々の肉体への貫通には至らず、浅く傷をつけただけに終わった。

パ  ァ  ン  !
パ  ァ  ン  !

更に、そこに銃弾が二発撃ち込まれ、その肉を抉っていく。
挑発的なレインの銃撃に、頭に血を上らせたヴライは炎槍を発現させ、その腕を振り上げる。
レインはというと、ヴライの攻撃対象が自分に移り変わったことを確認するやいなや、すぐに逃走を開始する。

「虫けら風情が……よくもッ!!」

ヴライは怒りのまま、炎槍を走り出すレインに向けて投擲。
飛来する槍に対し、レインはその場に屈むことでこれに対処。炎槍は彼女の真上を掠め、背後にあったビルを貫いて爆散する。

「漢の戦いを汚したなぁっ、小娘っ!!」

ヴライの怒りは収まらない。更に炎槍を生み出し、これを連射。
次々と放たれる死の雨を前に、レインは懸命に逃げに徹する。

『世界関数』。レインに与えられた異能は、万物の動きを予測する。レインは、これを使い、炎槍の軌道、その後の爆炎の範囲、飛び散る破片などを前もって認識して、どうにかして、ヴライの猛攻を凌いでいくが、それも時間の問題。
幼き少女の身体能力と体力には限界がある。

(くっ……我ながら無謀が過ぎたかもしれませんね)

逃げに徹するレインの顔に、段々と焦りの色が浮かぶ。
梔子から譲り受けた狙撃銃を使い、静雄の殺害を阻止し、こちらに注意を向けさせることはできた。そこまでは思惑通りだ。
しかし、いくら攻撃予測ができたとしても、この怒涛の攻めを無傷でやり過ごすのは、流石に無理があった。
やがて、呼吸は乱れ、足取りは覚束なくなったころ、炎槍の爆発に巻き込まれて、彼女は地面に倒れ伏す。

「うぐっ……」

全身を襲う痛みに顔を歪めるレインだが、それでも何とか起き上がる。
しかし、そんな彼女を目掛けてヴライは炎槍を射出せんとする。

「散れえいッ、小娘風情がっ!」
「クソ野郎ッ、止めやがれええええッ!!!」

静雄が猛ダッシュをして、ヴライに殴り掛からんとする。
しかし、その拳が届く前に、炎槍はヴライの手から放たれる。
もはや、絶体絶命と言えるその状況。

しかし。

「あんたこそ---」

どこからともなく声が聞こえたかと思うや否や、影が一つ、二人の間に割って入った。
次の瞬間、その何者かに炎槍が着弾。派手な爆音が炸裂する。
身体を焼かれつつ吹き飛ばされたそれが、天本彩声であることを、レインが理解するのに、時間はかからなかった。

ヴライが放ったそれは、必殺の爆撃であったに違いなかったが、驚くべきことに彩声はまだ生きていた。
咄嗟にスタンガンを盾とすることで即死を免れたのである。
だが、致命傷であることには変わりない。
彩声は、ボロボロの五体のまま、歯を食いしばり、意識をどうにか保つ。
体晶からのオーバードーズによるものなのか、それとも身体の神経自体が既に崩壊しつつあるのか。もはや痛覚などは感じない。
黄金の輝きを放ちつつ、ヴライを睨みつけたまま空中で体勢を整える。
そして、着地と同時に地を蹴り上げ、ヴライに肉薄。

「女を舐めんなァッーーー!!」

もはや死に体の彼女をここまで駆り立てたのは、女の意地。
二度と自分の前で、女への蹂躙をさせまいという、固い決意。
ありったけの想いを力に変えたカタルシスエフェクトの塊を、地面に思い切り突き立て、過剰強化された全力全開の電撃をヴライに浴びせた。

「ぐぬおおおおおおおおおおおおっっ!!」

ヴライは堪らず絶叫し、苦悶の表情を浮かべる。その姿を見て、やりきったと満足したのか彩声は、そのまま力尽きるようにドサリと倒れ込んだ。
そこへ間髪入れず、静雄がヴライに向けて跳躍。

「う”おおおおおおおおおおおおおっ!!」

咆哮とともに、空中で彼は拳を握り、振り上げる。
傷付つきふらつくレイン。全身ズタボロとなり倒れ伏す彩声。
その光景を目の当たりにして、静雄の怒りは臨界点を突破する。

―――目の前にいるコイツだけは、絶対に許さねえッ!!

かつてないほどに燃え盛る怒気を纏った拳。
感情の起伏によって「火事場の馬鹿力」を発現させる特異体質の元、その破壊力は過去最大のものへと加算される。

更にここでもう一つ―――。
彼の暴力のギアをもう一段階押し上げるものが発現する。
“それ”により、ビキビキビキと、振り上げられた細腕に、これでもかというほどの青筋が走っていく。

―――“それ”とは、本来の意味での「火事場の馬鹿力」。

最強であり続けた肉体が、この殺し合いにて再三に渡り痛めつけられ傷つけられ、そして今、自身の破滅か否かの分水嶺にあると察知した時―――破滅を免れるため、真の意味での「火事場の馬鹿力」を発現させ、宿主の暴力を向上させる。

故に、今この瞬間を以って。
平和島静雄という存在は―――。

「おらああああああああああああああああああああああああっっ!!」

更なる進化を成し遂げる。

雄叫びと共に一気に振り下ろされた拳は、爆発的な加速を伴って、ヴライの顔面へと差し迫る。対するヴライは防御の姿勢を取ろうとするが、先の電撃により、身体が痺れて動かない。
無論、仮面の解放もままならない。

「……ッ!!」

人間のありとあらゆる成長過程、進化、軌跡―――。
それら一切を無視し、理不尽極まりなく成長を遂げた暴力―――。
その暴力が、ヴライの顔面に直撃した瞬間。

ド  ゴ  ォ  !

かつてないほどの殴打音がエリア一帯に、轟き。
ヴライの巨体は勢い良く上空へと舞い、明後日の方角へと吹き飛んでいく。

「ぬぅっ……!」

円を描くように、宙に放り出されたヴライ。ぐるりぐるりとその巨躯は空中で何度も何度も回転する。
どうにかして戦場に復帰せんと試みるが、電撃により麻痺した肉体は言うことを聞かず、風圧と遠心力を全身に浴び続ける。
その勢いは止まらず、やがてエリアの外へと飛び出し、戦場からその姿を消したのであった。




“災害”が去った戦場で、虫の息となった満身創痍の彩声は、静雄に抱き起こされていた。
普段の彼女であれば、男に触れられるだけでも大騒ぎするのだが、今はその気力もない。
傍らには、レインが傷口を押さえながら、苦汁をなめる様な表情でその様子を見守っている。

「ハァハァ……うぅぅぅ……アンタ……すごいわね……。あいつに、勝っちゃうなんて……」
「俺は勝ってねえ……ただ追っ払っただけだし、アンタがいなきゃ、それも出来なかった……とにかく今は喋んな」
「……そうね……でも、ごめん……もう、無理かも……ね。あはは……」
「……馬鹿野郎ッ!そんな事言うんじゃねえ!」

息も絶え絶えの彩声。
喉は辛うじて焼かれておらず、こうして言葉を振り絞ることはできるが、先の爆撃によって、彼女の半身は既に炭化しており、片腕は千切れかかっている。この状態で渾身の電撃を叩き込めたのは、一時的な過剰強化と彩声自身の気力によって成せた奇跡と言って良いだろう。

「……しっかし、まさか最後の最後に……男なんかに看取られるなんて……本当、嫌になるわね……」
「まだ生きてんだろうが!諦めんじゃねえ---」
「平和島さん……」

怒声に近い口調で言う静雄の肩に、レインはそっと手を置いて首を横に振る。
そんなレインの目を見て、彼女が何を言おうとしているのか察することが出来たのか、静雄は「畜生が……」と悔しそうに歯噛みする。
彩声はそんな様子を見て、力なく微笑んだ。

「最後に……一ついいかな?」
「……何だ……」
「あんた、強いから……あの子のこと……梔子のこと……頼んでも良いかな?あの子とは、元々…敵だったけど……悪い子じゃないはずだから……」

よりにもよって男なんかに、彼女のことを託すなんて---と彩声は朦朧とする意識の中で思う。野蛮で乱暴で粗暴で暴力的な、こんな奴に頼むのはどうかしているとも。

だけど。
それでも。
こいつはクズじゃなかった。

命懸けで自分達のことを助けてくれたし、自分達のために怒ってくれた。
だから、こいつの強さに懸けてみるのも悪くはないかもしれない。
最後ぐらいは、男を信じても良いかもしれない。そう思ったのである。

「……分かった……」
「約束よ……もし約束破ったら、ただじゃおかないから……」
「ああ、任せろ」

神妙な面持ちで静雄が答える。
それを見た彩声は満足げに笑い、瞳を閉じる。

(部長……私頑張ったよね……?)

瞼の裏に浮かぶのは、いつも自分を受け入れてくれた『彼女』の姿。
『彩声、よく頑張ったね』と手を握ってくれるであろう『彼女』の姿。
その優しい笑顔を思い浮かべながら、天本彩声の意識は完全に途絶えるのであった。

【天本彩声@Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-死亡】




「ぐぬぅぅぅ……!」

身体を蝕んでいた痺れがようやく鎮まり、ヴライは身を起こす。
彼が降り立ったこの地は、屋根のない城。四方八方は城壁に囲まれ、入り口には見掛け倒しの城門が構えている。
すぐにでも、先の者たちへの逆襲へと、元いた場所へと歩を進めようとするが、思いとどまる。禁止エリアのことを思い出したからである。
今の時刻は正確には把握できていないが、頃合いとしてはそろそろ刻限であろうか。
であるからには、あの者たちが、今もあの場に留まっているのは考え辛い。
そう判断し、ヴライは身を翻す。

「……下郎どもめが、その面貌忘れぬぞ……!!」

そう吐き捨てると、ヴライは忌々しげに歯軋りする。
あの金髪の漢との決着はついてない、謂わば中断された状態だ。
この戦場を渡り歩けば、いずれまた相まみえることもあるだろう。

その時こそは必ずや──。

そのように思考しつつ、“ヤマト最強”は歩き出す。
次なる血湧き肉躍る死闘を欲して──。
そして、全てを蹂躙するべく──。


【C-5/ムーンブルク城/午前/一日目】
【ヴライ@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]:ダメージ(絶大)、疲労(大)、額に打撲痕、左腕に切り傷(中)、火傷(絶大)、頭部、顔面に複数の打撲痕、右腕に複数の銃創
[服装]:いつもの服装
[装備]:ヴライの仮面@うたわれるもの3
[道具]:基本支給品一式、不明支給品2つ
[思考]
基本:全てを殺し優勝し、ヤマトに帰還する
1:次の戦場へと赴き、参加者を蹂躙する
2:アンジュの同行者(あかり、カタリナ)については暫くは放置
3:オシュトルとは必ず決着をつける
4:デコポンポの腰巾着(マロロ)には興味ないが、邪魔をするのであれば叩き潰す
5:皇女アンジュ、見事な最期であった……
6:あの術師(清明)と金髪の男(静雄)は再び会ったら葬る。
[備考]
※エントゥアと出会う前からの参戦です





「――-とにかく平和島さんは、無茶しすぎです」
「それはお互い様だろ?あんな危ねえ真似しやがって……」

ここはB-6エリア内にある喫茶店。
特に照明等も点けていない、こじんまりとした小さなこの店を訪れた客人は、平和島静雄、レイン、そして梔子の三名のみ。

一連の戦闘が終わった後、静雄とレインは、彩声の亡骸を伴って、まずは約束されたポイントで梔子と合流。
梔子は彩声の遺体を見ると、息を呑み―――そしてレインから、その顛末を聞かされると寂しそうに「そうか…」と呟き俯いたまま、沈黙をした。
その後、三人はB-5エリアが進入禁止となる前に、隣接するB-6エリアへと移動―――せこで目についたこの喫茶店に、情報交換と休憩を兼ねて、腰を据えたのである。
そして今は、梔子の対面で隣あって座る静雄とレインが、先の戦闘での互いの行動を咎めあっている状況である。

「あの時は、ああでもしないと平和島さんがやられていましたから」
「けどよ、だからと言って、お前みたいな子供に―――」
「もしかして、喧嘩売ってるんですか?子供扱いしないで下さい、と前にも言いましたよね?」
「っと悪い……つい、な」

うっかり地雷を踏んでしまったと、静雄はばつが悪そうな顔を浮かべつつ、頭を掻く。
そんな静雄の様子を見て、レインは、深く溜息をついた。

「まあ、良いです……私にも異能といった自衛の手段がありますので、今後はもう少し信頼して貰えるとありがたいですね」
「すまねえ……」
「謝る必要はありません。結局平和島さんの信用を得られていないのは、私の落ち度でもありますし……実際に力不足でした…あの時も天本さんが駆けつけてくれなかったら……」
「……天本……」

二人はチラリと奥のソファで横たえられた彼女の亡骸を一瞥する。
勇猛果敢に戦い続けてくれた彼女がいたから、今自分達は命を繋ぐことが出来ている。
その事実を胸に刻みながら、二人は互いに視線を交わす。

「―――彼女との『約束』を守るためにも、これからは無茶は控えてくださいね、あなたの身はもはやあなただけの物だけではないのですから」
「……ああ、分かった……」

静雄は、チラリとこちらを見据える梔子に視線を一瞥した後に、しっかりとレインの言葉の意味を噛み締めて、首肯した。

「ああ、そうだ。それと―――」

そして真剣な表情から一変。少しだけ穏やかな顔つきになると、

「ありがとな。あの時助けてくれてよ」

と、ポンとレインの頭を撫でるように手を乗せた。 
一瞬ビクッと身体を震わせるレインだったが、また自分が子供扱いされてると認識するや否や、「次やったら本気で怒りますよ」とその手を払うのであった。

やがて、コホンと咳き込んだ後、対面に座る梔子へと視線を向ける。
梔子は眼前で行われていた静雄とレインのやり取りについては、静観を貫いており、何か言葉を発することはなかった。特に会話に入り込む余地がなかったからというのもあるだろう。

「それで梔子さん―――。」

しかし、ここからは彼女にも話を聞いておかなければならない。ここからが本題なのだから。

「お話しいただけませんか、あなたの知るμの情報を……」

解析屋レインは求める。
主催者へと繋がる情報を。「解析」に必要な素材を。

そんなレインの問いかけに対して、梔子もコクリと頷く。
二人には助けてもらった借りもある。だから、その願いに応えよう。
亡くなった彼女―――天本彩声もそれを望むはずだ、と自分に言い聞かせ、先程からの鬱陶とした気持ちを切り替える。
そして、発声機を使い、彼女が知りうるμについて語り始めるのであった。


【B-6/市街地/喫茶店/午前/一日目】
【平和島静雄@デュラララ!!】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(極大)、全身火傷(大)、出血(小~中)、全身に複数の切り傷(小)、精神的ダメージ、全身に複数の打撃痕
[服装]:いつものバーテン服(ボロボロ)
[装備]:
[道具]:基本支給品一色、不明支給品3つ、見回り用の自転車@現地調達品
[思考]
基本:主催者を殺す
0:まずは梔子からμについて話を聞く
1:仮面野郎共(ミカヅチ、ヴライ)は絶対殺す
2:セルティと新羅を探す
3:ノミ蟲(臨也)は見つけ次第殺す
4:フレンダは非常に怪しい。もしも煉獄を殺したのが彼女なら...?
5:竜馬の知り合いに遭ったら一応伝えておいてやる。
6:彩声との約束を守るため、梔子を護る。
7:仮面をつけている参加者を警戒。
[備考]
※静雄とミカヅチの戦闘により、公園が荒れ放題となっております。
仮面アクルカによる閃光は周辺地域から視認できたかもしれません。
※彩声の遺体は喫茶店に運び込まれています。

【レイン@ダーウィンズゲーム】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(大)
[服装]:普段の服
[装備]:ベレッタM92@現実、レミントンM700@現実
[道具]:天本彩声の支給品(0〜2)
[思考]
基本:会場から脱出する
0:まずは梔子からμについて話を聞く
1: 【サンセットレーベンズ】メンバーとの合流を目指す
2: μについての情報を収集したい
3: 王を警戒
4:フレンダは非常に怪しい。もしも煉獄を殺したのが彼女なら...?
5:竜馬の知り合いに遭ったら協力を仰いでみる。
[備考] 
※参戦時期は宝探しゲーム終了後、カナメ達とクランを結成した頃からとなります。
※ヒイラギが名簿にいることから、主催者に死者の蘇生なども可能と認識しております。
※彩声の支給品はレインが回収しました。


【梔子@Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-】
[状態]:健康、疲労(小)、パニック発作(ほぼ治まってる)、精神的ダメージ
[服装]:メビウスの服装
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品2
[状態・思考]
基本行動方針:琵琶坂永至に然るべき報いを
0:レイン、静雄と情報交換
1:琵琶坂永至が本人か確かめる
2:本当に死者が生き返るなら……
3:煉獄さん...、天本彩声…
[備考]
※参戦時期は帰宅部ルートクリア後です。
※キャラエピソードの進行状況は後続の方にお任せします。


【支給品紹介】
【体晶@とある魔術の禁書目録】
天本彩声に支給。
『能力体結晶』ともいう。学園都市暗部に出回っており、意図的に拒絶反応を起こさせ能力を暴走状態にする為の薬品。暴走能力者の脳内にある様々な神経物質を凝縮、精製して粉末状にしている。
主に能力者を暴走させるために用いるものとなるが、使用者への負担は大きいため、無理に使用を続けると使用者は『崩壊』するといわれている。
能力者以外に利用しても、ただの毒物となり、デメリットしか生み出さないものとされるが、精神高揚を促す側面も担っており、結果として彩声のカタルシスエフェクトを強化することになった。

【レミントンM700@現実】
梔子に支給。
原作でもレインが愛用している狙撃銃ではあるが、口径により射程距離は異なる。
本ロワで支給されたこの銃の射程距離は500m程度。

前話 次話
From the edge -Scarlet Ballet- 投下順 From the edge -EreserRain-

前話 キャラクター 次話
resonance レイン 後悔先に立たず
resonance 平和島静雄 後悔先に立たず
resonance 梔子 後悔先に立たず
限界バトル ヴライ いつしか双星はロッシュ限界へ
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