バトルロワイアル - Invented Hell - @ ウィキ

ほんとのきもちはひみつだよ

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kyogokurowa

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浜面仕上はフラフラと、当てどなく彷徨い歩いていた。
死んだ。
絶対に死なせたくないと、守りたいと思っていた女が目の前で殺された。
涙も流せなかった。
心臓と脳にぽっかりと空いた穴から感情という感情が零れ落ちていくようだった。

なにも考えず、ふらふら、ふらふらと彷徨い歩く様は、まさに生きた屍と呼ぶのに相応しいだろう。

―――――

なにかの音が耳に届く。
音楽―――いや、楽器だ。

―――――♪

気のせいだろうかという懸念はすぐに消え去る。
間違いない。誰かが楽器を吹いている。

―――――♪

浜面は音楽の知識が深くなく、この耳に届くのがトロンボーンの音なのかトランペットなのか、はたまた別のものなのかも区別がついていない。
流石に打楽器と金管楽器の違いなどはわかるが、その程度の大雑把な認識である。
それは彼にとってはどうでも良いことで。

そんなことよりも。音が綺麗だの汚いだのという以前に。

(ふざけやがって)

楽器の音が聞こえてきたこと自体が恨めしかった。

いまは殺し合いという異常事態だ。いつ誰がどこで死ぬかもわからない戦場だ。
だというのに、この音の主は楽器を演奏している。状況を理解しておらず危機感の欠片もない阿呆だ。
こんな能天気な奴が生きてて、なんで滝壺が殺されなければいけない。
なんで見せしめが滝壺でなければならなかった。この阿呆でよかったじゃないか。

ギリリ、と握った拳に爪が食い込み血が掌を伝う。

黙らせたかった。
なんでもいいからあの音を止めたかった。
なにかスタンガンやバットでもないかとデイバックを探り―――ここで、彼はようやく名簿の存在を知ることになる。
こんな紙きれと捨てかけたところで、滝壺と自分以外にも知っている奴も巻き込まれているのだろうかと名簿に目を通す。

信じられない名前があった。

麦野沈利。絹旗最愛。

自分も属していた『アイテム』の面々だ。
二人ともかなりの手練れであり、特に麦野なんかは手負いと言えど条件が揃わなければ勝てる相手なんてかなり限られる。どうやって連れてきたのだろうか。


垣根帝督。
学園都市の第二位。自分が知る中でも最も最強に近い男だ。その実力は麦野すら上回る。
レベル5屈指の武闘派二人を巻き込ませる手腕に、主催の強大さが垣間見えるというものだ。

だが、そんな強者たちのインパクトすら霞むような名前が記載されていた。

フレンダ・セイヴェルン。

かつての『アイテム』の一員である。
彼女は死んだ。情報を流した罰ということで、麦野に粛正されて確かに死んだ。下半身を無くした死体を見せられたので間違いない。
だが名簿を信じるなら、彼女は生きているということになる。これはいったいどういうことだ。

『殺し合いを勝ち残った最後の一人には、ご褒美として、どんな願いも叶えてあげます。巨万の富に、死者の蘇生――。何でも良いわ…。何でも叶えてあげる!』

テミスとかいう女の言葉が脳裏を過る。
奴は確かに言った。死者の蘇生、と。
ならば。
フレンダは生きていたのではなく、奴らに蘇生されたのではないか?
だとすれば―――自分が優勝すれば、滝壺も蘇らせることが出来るのではないか?

「俺が...滝壺を...俺が...」

ぶつぶつと言葉に出しつつ、デイバックを漁るのを止めない。
掴み、取り出されたのは鉄の斧だった。
中々の重さがあるが、アウトロー時代から鍛えていた浜面に扱えないほどの重さでもなく。
むしろ、人を殺すというのならこれくらいの重さの方が心強かった。

「やってやる...誰を敵に回しても...」

口に出す言葉は決意だが、やはりその足取りはふらふらと歪んでいた。


♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

コツ、コツ、コツ。

浜面が斧を片手に階段を歩いている間にも音楽は奏で続けられていた。
今すぐ黙らせたい。
そう思いつつも、広い施設を歩くうちに、浜面の思考は殺意の合間に徐々に疑問が湧き出してくる。
この音の主は本当になにをやっているのか。

首輪が嵌められていて。デイバックも支給されていて。見知らぬ場所に飛ばされて。死人も出ている。

どんな阿呆でもこれが夢じゃないことには気が付くはずだ。
もしも自棄になっているなら、楽器など吹かずに泣き叫ぶなり暴れるなりするはず。
なのに、この音の主は『演奏』という確かな意思表示をしている。
何故だ。なぜ演奏をしている。

殺意に混じった疑問の答えが出る前に、浜面は演奏者がいると思しき部屋にたどり着いた。

(...関係、ねえ。俺が滝壺を...)

滝壺を守る。己の掲げた約束を抱いて、浜面は足音を殺しながら部屋へと足を踏み入れる。

部屋の壁際で、演奏者は楽器を吹いていた。
眼鏡をかけた女だった。
殺しに来たはずの浜面が、見入ってしまうほど彼女の演奏する姿は美しく儚気なものだった。

そして、改めて奏でられる音と向き合う。

ぶつけられたその曲はどこか不思議で温かくて寂しくて...幾重にも重なった感情が込められているようだった。

演奏が一区切り付き、ふう、と女が一息をついたところで、浜面と女の視線がかち合った。

「ご清聴、ありがとうございました」

浜面が思わず身構えるのに対し、女は微笑みぺこりと一礼。
その姿につられて、浜面は思わず斧を脇に抱えぱち、ぱち、ぱち、と力のない拍手を送った。
毒気が抜かれた、というのはこういうことを言うのだろう。

「ふーっ、スッとした。...ありがとう、最後まで吹かせてくれて」

女は持っていた楽器を壁に立てかけ、窓からの景色を眺め始める。
自己紹介もせずに背を向けた女に浜面は戸惑った。

「殺しにきたんでしょ、それで」

ドキリ、と心臓が跳ね上がる。
見透かされていた。当然だ。自分は慎重に部屋まで入り、しかも手に斧まで持っている。
これであなたを助けに来たヒーローですと思ってくれる人間はそうはいないだろう。
女は正しい。浜面は、今でこそ毒気を抜かれているものの、ここには女を殺しに来ている。

「大丈夫。こんな状況だもん、恨んだりしないから」
「...なんで」

だからこそ。

「なんであんた、そんなこと言えるんだよ。死ぬのが怖くねえのかよ」

そこまで理解している女が、なぜ見ず知らずの自分に殺されるのを受け入れている。
それがわからなかった。目の前で滝壺を殺された浜面には、女の言葉が理解できなかった。

震える声で問いかける浜面に、女は背を向けたままポツポツと語り始める。

「仕方ないでしょ。こんな物騒な首輪着けられて、人を念力で捩じり殺す化け物が運営していて。
その化け物の知り合いが参加者にいて。そんな環境で、私みたいなただの学生が生き残れるわけない。だったら、せめて私の演奏を最後まで聴いてくれる人に介錯してもらいたいのが乙女心でしょ」

ひどく合理的な理由だった。
自分はどうせ生き残れない。だったら長く苦しむよりも早めに楽になりたい。
それも、できるだけ優しく終わらせてくれそうな人の手で。

参加者を殺し滝壺を生き返らせるつもりだった浜面にとっては好都合もいいところだろう。

「...なんだよ、それ」

生き返らせるつもり、だった、浜面にとっては。

「受け入れてるならこっち向いて話せよ。死ぬのが怖くねえんだろ」
「そーだねえ。その斧が目に飛び込んでくるのは見たくないかなぁ」
「だったら強がるんじゃねえよ!」

浜面は斧を床に捨て、ずかずかと女に歩み寄り、肩を掴み無理やり振り向かせた。

「死にたくないならそう言えばいいじゃねえか!こんなクソッタレな状況に巻き込まれて、俺に殺されるのをあっさり受け入れて!
なんであんたがそこまで我慢するんだよ!?あんただって被害者だ!あのクソ女達にも、俺にも、ふざけんなって怒ればいいじゃねえか!」
「...そんなことしても無駄」
「無駄かどうかなんて知らねえよ、あんたにだってやりたいことはあるんだろ!まだなんにもしてねえ癖にソイツを諦めるんじゃねえよ!」


浜面に芸術の嗜みはない。だが、女はそんな彼でも聴き入るほどの音色を奏でていた。
ただの素人が適当に吹いたところでああはならない。努力を重ね、何度も練習を重ねた成果がそこにある。
こんなことに巻き込まれていなければ、彼女は今でもあの音色を奏でていたのだろう。

だからこそ、浜面は叫んだ。
女は普通の頑張り屋さんの演奏者だ。こんな状況で本音を隠すことなどない、と。

(ああ、そうだ。俺は何を考えてたんだ。この子を殺したところで、滝壺と平和に暮らせるわけじゃねえ)

この女子も滝壺も同じ被害者だ。加害者は主催の女達。
仮に自分が優勝し、願いを叶えて滝壺を蘇らせたところで主催にまた連れてこられる可能性もあるし、そもそも願いをかなえるというのも方便の可能性もある。
それに、この殺し合いには絹旗も連れてこられている。あいつだけじゃない。生き返ったかもしれないフレンダもだ。
先ほどまでは滝壺蘇生の欲に目が眩んでいたが、優勝するということは彼女たちをも殺すということだ。

できるはずがない。そんなこと、滝壺が望むはずがない。

肩で息をする浜面を見て、女はくすりと笑みを零した。

「これから殺そうって相手にずいぶん親身なんだねぇ。あっ、ひょっとして恋が芽生えちゃったとか?嗚呼、私の王子様よ、どうかこの哀れな姫君を連れ去ってくださいまし」
「それはない。あんたを殺す気は失せたが、俺には惚れてる女がいる」
「なんだ彼女持ち...って、あなた確か...」

女は最初のセレモニーのことを思い出したのか、言葉を濁し視線を下に向ける。

「...いや、気にしないでくれ」
「...ありがと」

女は下げていた視線を上げ、浜面に薄く微笑む。

それで、これからどうするの。

そんな普遍的なことすら口にできず、窓の外から投げられた札が女の背中に張り付き、その身体はあっという間に火にくるまれた。



「......」

ここは黒平安京。そこに佇む男が一人。安倍晴明。平安時代において陰陽師として名を馳せた男である。
晴明は無言で城の壁を見つめ、ツウ、と指を走らせてはなにかを確かめるように、指の腹をジッと見つめる。

「なるほど。確かにこれは我の城に相違ない」

彼は疑問に思う。
なぜ自分はおめおめと首輪を着けられている。
なぜ己の居住がここにある。
仮に精巧に真似たものだとしても、如何にしてこの城を作り上げたというのか。

疑問は尽きない。だが、それでも彼は怒りを覚えることはなく、むしろ浮かぶのは笑み。
純粋な期待を抱く、凶悪な笑みだ。

(あの女に食ってかかった小僧を処刑した術...それに、地図にある魔法学校とやら...興味深い)

晴明は、関わる者全てを滅ぼす『ゲッター』を倒す為に、『神』の軍団の手足として暗躍している。
しかし、彼は宇宙が滅びようがさほど興味はない。彼がゲッターを相手取るのは、奴らとの闘いと混沌を楽しむ為。つまりは己の欲求を満たすためだ。
無論、ゲッターを倒すのに変わりはない。しかし、ゲッターに比類するほどの火種があれば、当然、それも晴明の獲物に値する。
自分の陰陽術とゲッター以外の異能があるというのなら、それらを蹂躙し貪り飽くなき飢えを満たす。
そして、力を手に入れ己の目の上のタンコブでもある『神』をも支配し勝利する。
それが晴明の方針だった。

(さて。我が城で雑音がしたので来てみれば...奴が唄い手か)

宙に浮き、音の出所を見れば、そこには窓際に背を向ける人間が一人。
わざわざあのような音を出して参加者を集めていたのだ。それなりの実力があると思いたい。

晴明の掌から、炎に包まれた札が女の背に向けて放たれる。

これはほんの挨拶代わりだ。こんなものを退けられぬようでは退屈しのぎにもなりはしない。
果たして、飛来した札は、晴明の期待にそぐわず女の背に付着し、女は何もできぬまま炎にくるまれた。



「な、なんだよこれ!?クソッ、おい!しっかりしろ!」

突如燃え上がった女に戸惑いつつも、浜面は己の上着を急いで被せ、どうにか炎の拡大を防ぐ。
沈下した時には既に女の美貌は焼けただれ、服と肌の違いが判らぬほど黒焦げになっていた。

「なんでだ...なんで...!」

あまりの唐突すぎる出来事に浜面は放心する。
この少女がなにをしたというのか。まだなにもしていないじゃないか。
なのに、なんでこんな酷い目に遭わなければならないというのか。

ふわり、となにかが窓際から降り立った気配を感じる。
浜面が咄嗟に視線をやれば、そこには日本史の教科書で見た貴族のような恰好をした男が降り立っていた。

「なんだお前。お前がこれをやったのか?」
「いかにも。我が名は晴明...安倍晴明。果たして貴様は我が退屈しのぎに値するか、試させてもらおうぞ」
「ふざけんじゃ...ねえぞ!」

浜面は、床に置いてあった斧を手にし激昂する。
こいつはいま、退屈しのぎと言った。この殺し合いという異様な状況でだ。
そんなものの為に、この子は焼かれたのか。滝壺のように、理不尽すぎる死に目に遭わなければならなかったのか。
許せない。理不尽に死を齎すこの男だけは許せない。

振り下ろした斧は、晴明を切裂くことなく、右の人差し指と中指の二本に挟み止められる。

「そら、どうした。ここから先はどうするつもりだ?まさかとは思うがこの程度で終わりではあるまい」
「ぐ、ぐうううう!!」
「...ふん、もういい。飽いたわ」

晴明が左手で袖を探り、札を投擲すれば、それは浜面の周囲を五芒星を描くように浮遊し動き回る。
札が五芒の線を繋ぐと同時、浜面に電撃のような衝撃が襲い掛かった。

「ぐああああああああ!!」

激痛による悲鳴と共に浜面は倒れこみ、ピクピクと痙攣する。

「ぐ...ガハッ」
「ほう。まだ息があったか。並の人間なら死に至っただろうが、お主は運がいい」

弱った獲物に用はない、と言わんばかりに晴明は浜面へ背を向け、人間だった黒炭を踏み、首輪を拾い手にする。

「小僧、もし私を殺せると思う人間と出会えたならば伝えておけ。私は黒平安京、早乙女研究所、魔法学園を中心に行動する。いつでも私を殺しにこいとな」

晴明にとって浜面を殺すのはあまりにも容易い。だがそれではいつもと同じだ。面白味がない。
故に、浜面を伝言役として生かし見逃してやった方が面白いと判断した。浜面が生かされたのはたったそれだけの理由だ。

未だ動けない浜面の傍を悠然と通り過ぎ、晴明は部屋を後にした。

「うっ...くぅっ...」

ずりずりと腕で地を這い、女だった物体へと向かう。

「すまねえ...助けてやれなくて...えっと...」

謝罪を述べようとして気が付いた。自分が、この女の本音どころか名前すら知らなかったことに。

「ちくしょう...」

胸中に浮かぶのは後悔ばかりだ。
できることはあったはずだ。
自分が晴明よりも先に辿り着いたのだから、場所を移せば彼女が焼かれることはなかったかもしれない。
会ってすぐに名前や知人を聞いていれば、彼女がこの殺し合いでどうしていたかを知り合いに伝えられたかもしれない。
もっと悲しんでやることもできたかもしれない。
なのにやらなかった。自分のことで精いっぱいだった。

女は意図的ではないにせよ、浜面の思考を冷静にさせる余裕を作ってくれたのに、自分はなにもできなかった。

「俺はどうすりゃいいんだ...俺は...!」

浜面仕上は心から護りたいものがあればいくらでも強くなれる男である。それこそ、全知全能者に対して予想外のイレギュラーとなり得るほどに。

そんな彼が護りたい者を失えば、誰よりも無力で平凡な存在になってしまうのを証明するかのように、彼の背中は哀れなほどに小さかった。



自分さえ吹ければいいと思って、部の問題にはあまり関わらないようにしていた。
だから、自分が勉強とユーフォニアムを両立させる為に必死に頑張ってる一方で、やる気のない人たちが我が物顔で部を占領していても口出しはしなかった。
変な因縁つけられても困るしね。
その結果、後輩が大勢消えても、自分には関係ない。やりたい人が勝手に集まって、できるだけ長く演奏できればそれでよかった。
でも、滝先生や新しい代が入って来てからは部全体がだいぶ変わっていって。皆、本気で全国を目指すようになり実力もメキメキ伸ばしていった。
それでも自分たちの実力が全国では不足している不安から、先へ進むよりもあの楽しい夏の部活がずっと続けばいいとさえ思っていた。
けれど、全国の審査員に私の元父親―――遠藤正和がいることを知ってからは、あの人に私のユーフォニアムを聞いてもらいたい気持ちが先行してしまって。
いまの部を乱さない為、みぞれの為、だなんてお題目掲げて、希美の復帰を認めなかった。人の気持ちよりも自分の欲を優先した。
だから、これは罰が当たったんだと思った。
成績が落ちて、退部しろと言われるのも。こんなわけわからない殺し合いなんて呼ばれるのも。

だってさ、あり得ないでしょ?私だけならいざ知らず、希美にみぞれ、黄前ちゃんまで呼ばれてる。ほとんどあの騒動に関わりがあった面子だよ。偶然な訳ないじゃない。
死にたくないとは思っても、それであの子たちを殺して生き残ろうとは思えなかった。これは私への罰だから。
それに、あの摩訶不思議な惨状を見たら、誰一人死なずに殺し合い終了なんて都合のいいことが起こるとも思えない。殺し合いをどうにか抜け出すにも首輪を外さなくちゃいけない。
必ず、誰かひとりは首輪のサンプルを渡す、つまりは死ななくちゃいけない。
じゃあ誰が最適かと言えば、夏紀が代わりになれる上に、もう退部する身の私だ。それが一番みんなに負担をかけない選択肢だ。

だから私は、この状況下でも演奏をした。まるでそうするのを期待していたかのように配られた黄前ちゃんのユーフォニアムを吹いて。
他の人に見つけられるように。なるべく自分の情報を漏らさず周囲への影響も少ないうちに終わらせられるように。

やってきた人が最後まで聞き遂げてくれたのは嬉しい誤算だった。お陰で多少は楽な気持ちで逝けると思った。
けれど、彼は私が思っているよりも真っすぐだった。怯えるように携えていた武器からは考えられないほど力強く言い切った。
私は特別なんかじゃない。こんなもの、神様が与えた罰なんかじゃない。だから本音を吐き出せばいいと。

おかしなものだった。私を殺そうとしていた癖に、本気で私を心配するような顔をして叫んで。
そんな彼の迫力につられて、思わず本音を漏らしそうになった。絶対に生きて帰りたい。最後まで演奏を続けたいと。
でも我慢した。それは叶う筈がないんだから。私がここでいなくなるのがやっぱり最適だと思ったから。

だから、私は身体が燃えていく中でも私が名前すら教えずに死んでいくことにどこか安心していた。
私が田中あすかだと彼に認知されれば、希美なんかは仇をとるとか言い出しかねない。
だからこれでよかった。
『田中あすかは誰に知られることもなく、どこぞの誰かに殺された』。
事実がこうであるなら、みんな多少は落ち込むかもしれないが、本番までには気を持ち直してくれるだろう。
自分の納得する幻影を作り出して、割り切って演奏に集中してくれるだろう。そう私は信じている。



痛みも苦しみも感じなくなり、力もいっさい入らないほど身体が黒炭になって。
もう死ぬんだなと理解すると、何故だかズキリと胸が痛くなった。



『なんで大人ぶるんですか!!全部わかってるみたいに振舞って!!』

黄前ちゃんの声がした。
そんな言葉、あの子らしくないのに、それでもこう言いそうなあの子の声が。

『我慢して諦めれば丸く収まるなんて、そんなのただの自己満足です!』

ほんと、らしくない台詞だなあ。
気になって近づく癖に、傷つくのも傷つけるのも怖いから安全な場所から見守る。
黄前ちゃんはそんな人間なのに。

『後悔するってわかってる選択肢を、自分で選ばないで下さい。諦めるのは最後までいっぱい頑張ってからにして下さい!!』

でも、やっぱりこれはあの子の言葉だ。
何故だかそう確信してる。

『私は、あすか先輩に本番に立ってほしい!あのホールで先輩と一緒に吹きたい!先輩のユーフォが聴きたいんです』

もうないはずの胸がまたズキリと痛んだ。けれど、今度はなんとなく理由がわかった。

そっか。私。

間違えちゃったんだ。



【田中あすか@響け!ユーフォニアム 死亡】






【F-2/黒平安京/深夜/一日目】

※田中あすかの黒焦げ死体、黄前久美子のユーフォニアム@響け!ユーフォニアムが部屋に放置されています。

【安倍晴明@新ゲッターロボ】
[状態]:健康
[服装]:いつもの服装
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3、田中あすかの首輪。
[思考]
基本方針:闘争と混乱を愉しむ。
0:黒平安京、早乙女研究所、魔法学園を中心に行動する。
1:ゲッターチームを探し出し殺す。
2:陰陽術やゲッター線以外の異能に興味。
※参戦時期は黒平安京で竜馬たちに負けた後です。


【浜面仕上@とある魔術の禁書目録】
[状態]:全身にダメージ(大)、疲労(中)、精神的疲労(大)
[服装]:バトルアックス@ドラゴンクエストビルダーズ2
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~2
[思考]
基本方針:もうどうすればいいかわかんねえ
0:...ごめん
1:垣根と麦野、晴明には要警戒する。

※参戦時期はロシア到着直後です。
※あすかの情報は何一つ知りません。

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梔子の世界わ終っている。 投下順 残酷な饗宴のmadness

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オープニングーーー《地獄へようこそ》 浜面仕上 Noblesse Oblige -BREAK IT-
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GAME START 安倍晴明 ワイルド・スピード
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