バトルロワイアル - Invented Hell - @ ウィキ

閉じ込められた方舟の中で

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kyogokurowa

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その者は、抗う。
このままでは、己が存在は朽ちることを悟っているが故、生きる手段を模索する。

その者は、求める。
己が居場所を失った故、新たな住処を求めている。

その者は、彷徨う。
衰弱した自らの『おんぼろ』な身体に鞭を打ちながら。
地を這い、懸命に己が生を守らんとする。




『それでは、また次の放送でお会いできることを願っております。?
ご機嫌よう?。』

 天より降りしは、自らを女神と名乗る主催者の女の声。
 恒例となった口上で自らの放送を締めると、それに代わり、もう一人の女神がその美しき歌声を響かせていく。


―――♪♪♪♪♪♪♪♪♪~♪♪♪♪♪♪♪~
―――♪♪♪♪♪♪♪~♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪~
―――♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪~♪♪♪♪♪♪♪♪♪~
―――♪♪♪♪♪♪♪♪♪~♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪~


 『おんぼろ』―――。オスティナートの楽士、梔子が自らの怨嗟と絶望を吐き出したその楽曲は、梔子当人を含む七名の参加者と、一機のバーチャドールが集う廃城の広場に等しく響き渡る。
 幾重の戦闘を経た彼らの身なりや格好は、『おんぼろ』という曲名に等しく、傷と土埃に塗れたものとなっている。
 そして、絶叫に近い歌声が響く中、広場に漂うは、鉛のように重苦しい空気と、啜り泣く少女の声。

「――馬鹿野郎が……」

 俯いたまま、ポツリと呟く隼人。
 脳裏に浮かべるは、ゲッターのパイロットとして、同じ釜の飯を食らった戦友の姿。
 表面上は平静を装ってはいるが、放送で知らされた、武蔵坊弁慶の死―――。その事実は、冷徹なゲッターの追究者たる神隼人の心に、確かなさざ波を引き起こしていた。

「……隼人……」

 その証拠に、彼の傍にいるアリアは、気付いていた。
 先の隼人の声色には、僅かばかりの寂しげな響きがあったということに。
 しかし、バーチャドールである彼女には、このような時に彼に何をしてあげるべきなのか―――その最適解を見出せずにいた。
そのまま、隣で平静を装う青年の横顔を伺うことしか出来ず、刻一刻と時間が過ぎていく。それでも何か声を掛けねばと、アリアが口を開こうとしたその瞬間―――。

「皆、少し良いか? 今後の方針について、改めて確認しておきたいのだが……」

 重い沈黙を破るかのように、ブチャラティが一同に声を掛けた。
 先の放送内容、特に死亡者の告知については、彼らが取り決めた行動方針を揺るがしかねないものであった。
 故に、改めて情報を整理した上で、必要あらば今後の方針を見直す。その意図を理解した一同が、ブチャラティの声に反応し、一斉に彼に視線を寄越す―――

「こちらも望むところだ。 だが、まだ少し時間が必要な奴もいるようだ」

 が、それを遮るように隼人が口を開く。
 彼の視線は広場の隅へと向けられており、ブチャラティ達はそれを追うように、釣られてそちらの方を見やる。

「……ぐすっ、霊夢さん……」

 そこには、膝を抱え、肩を震わせるおんぼろな巫女の姿があった。




「っ……、ぅ……」

 早苗は、ブチャラティ達のいる広場から、壁を幾つか隔てた先の部屋にいた。
 部屋といっても、この場合は元部屋と呼ぶのが正しいかもしれない。
 ボロボロの壁と、夕天の風に晒されるベッドやテーブル、椅子の数々。
 床は所々抜け落ち、天井はない。
 そんな殺風景な場所で、独りで膝を抱えて蹲っていた。

 これは、「暫くは独りにしてあげた方が良い」というクオンの提案によるもので、彼女はクオンに肩を預ける形で、この場所に連れ添われた。

「……こういう時は無理はせず、自分の感情に正直になった方が……。
思いっきり、泣いた方が良いと思うかな……」

 クオンは悲しみに暮れる早苗に、優しく諭すようにそう告げると、ブチャラティ達の元へと戻っていった。
 それから、早苗はずっと此処に独りでいて、その頬には、幾筋もの涙の痕が伝っている。

『れ、霊夢さん!? 無事で──』
『早苗、あんたね~~~!!』
『いひゃい、いひゃいれふ!!』

 つい数時間前に、霊夢につねられた頬が無性に疼く。
 幻想郷では、当たり前のように行われていた霊夢との何気ないやり取り。
 そんな当たり前であった彼女とのひと時は、今はとても遠くに感じる。
 もう彼女と触れ合うことも、おしゃべりすることもできない。

『早苗、私はカナメのやつを追いかけるから後は頼んだわよ』
『はっ、はい』
『霊夢さん...また会いましょうね』

 妖夢も、魔理沙も、鈴仙も、霊夢も、皆、自分を残していってしまう。
 早苗の当たり前の日々にいた彼女達は、今や手の届かないところにいる。
 早苗は、それがどうしようもなく寂しくて、心細くて……。

「うぅぅ……うわぁぁぁああああん!!」

 再び大声で泣きじゃくる。
 東風谷早苗は、神に選ばれし少女―――奇跡を起こす、現人神。
 しかし、その精神は、年相応の少女のそれだ。
 決して強固なものではない。

 立て続けに同郷の友人達を失くした、早苗の心は『おんぼろ』となっていた。

 だから、早苗は思いっきり泣いた。
 涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃにしつつ、クオンの言葉に従って、ただひたすらに泣き続けた。




―――生きたい、生きたい、生きたい、生きたい、生きたい

 その者は、己が生存本能の赴くままに、地を這う。
 瓦礫の中を掻い潜り、懸命に前へ進んでいく。
 安住の地を追いやられた自分は、このままでは朽ち果ててしまう。
 その危機感が、彼の者を駆り立てている。

―――生きたい、生きたい、生きたい、生きたい、生きたい

 ただひたすらに、生への渇望を抱きながら、必死にその小さな足を動かし、次なる住処を探す。

やがて―――。

『……こういう時は無理はせず、自分の感情に正直になった方が……。
思いっきり、泣いた方が良いと思うかな……』

―――見つけた……!!

 かつてマロロに寄生し、その人格と記憶を歪めていたその蟲は、その生存本能の行く末に、察知したのだ。
 新たな宿主になりうる少女の存在を―――。




「それでは、俺達も出発するとしよう」

 ムーンブルク城跡の、もはや門としての機能は完全に失っている出入口に姿を見せるは四つの影。
 今まさに遺跡に向けて発とうとしているブチャラティ、ライフセット、梔子と、それを見送ろうとするクオンであった。

 早苗を一人部屋に残し、クオンが皆の元に戻った後、一同は、先の放送の内容を踏まえて、今一度、今後の方針について話し合った。
 その結果、一同は三組に分かれて行動することとなった。


 一組目は、隼人と九郎――。
 元々、対フレンダを想定したうえで、顔見知りの九郎が、研究所に向かう隼人に帯同する予定であったが、当のフレンダが死亡したと知らされた今、九郎の同伴が本当に必要なのか――その要否が改めて議論されることとなった。
 そして議論の末、当初の予定通りに、二人が、病院を経て、研究所に向かうこととなった。
 フレンダと彼女を連行していた霊夢が死亡した現状、最も気掛かりなのは、彼女らと同伴してカナメの安否である。
 出来うることなら彼との合流を望みたいところであるが、それを考えると、彼の顔見知りである九郎がいた方が何かと円滑に進むだろうという結論に至ったのである。
 そして彼らは、一足先に目的地に向けて城を発ち、この場にはもういない。


 二組目は、ブチャラティとライフィセット、梔子――。
 議論の結果、彼ら三人も、当初の予定通りに遺跡へ赴くことととなり、今に至っている。
 遺跡には、彼らの知り合いが何人も向かっているとされる。
 その内、ブチャラティと一時行動を共にしていたアリアと新羅は、第二回放送のセルティ・ストゥルルソンの脱落が告知され、その後が危惧されていたが、残念なことに今回の放送で両名とも、その名前を呼ばれてしまった。

 遺跡に向かったとされる知己の死亡―――。
 同じく遺跡を目指していたという偽ブチャラティの存在―――。
 これから足を運ぶ目的地には、そういった不穏分子が待ち構えている―――。
 そう考えると、三人の表情は自ずと引き締まったものとなっていた。


 残す二人――クオンと早苗は、早苗が落ち着くまでは、城で待機。
 その後、改めて早苗の意思を確認したうえで、隼人達の病院組、もしくはブチャラティ達の遺跡組のどちらかを選択の上、追うこととしている。
 また待機中に、弁慶たちの援護に向かっていった静雄たちが戻ってくるようなことがあればそれで良し。戻ってこなければ、書き置きを残すこととした。


 そういった段取りで、ブチャラティ達もいざ遺跡に向けて発とうとしたタイミングで―――。

「あのさ、クオン―――」
「……? 何かな、ライフィセット?」

 ライフィセットがとある事を思い出して、おずおずとクオンに声を掛けた。

「……その、ムネチカが仕えていた、アンジュって子のことなんだけど……」

 先程、病院で邂逅したヴライの言葉。
 漢が告げたアンジュの最期について、彼女の友人だったというクオンにも伝えてあげるべきだと思ったのである。

「……アンジュが、どうかしたのかな……?」

 この会場で亡くなったとされる友人の名を耳にしたクオン。
 改めて彼女の名を改めて聞いた瞬間、生前の彼女の姿と、彼女が白楼閣に出入りしたあの頃の記憶が、脳裏に蘇り、表情を曇らせた。
 しかし、それも束の間。ライフィセット続きを促す。

「うん、実は―――」

 そして、ライフィセットは語り出す。
 病院でヴライと邂逅した時に、彼から、ムネチカに言伝があったことを。
 そして、それがアンジュの最期に関するものであったことを。

「--そっか、そういうことがあったんだね……」

 ライフィセットから話を聞き終えたクオンは、沈痛な面持ちで呟いた。

「うん……だから、その――」
「分かったよ、ありがとう、ライフィセット。伝えてくれて……」

 気遣うように声を掛けてくるライフィセットに、クオンは優しく微笑む。
 ぱっと見、平常心を保っているように見える。
 だが、その実―――。

(剛腕のヴライ―――)

 彼女の拳は、震えながら、固く握り締められており、その場にいる誰もがそれに気付いていた。
 ライフィセットはあくまでもヴライから言伝をありのままに伝えただけなので、直接言及することはなかった。
 しかし、クオンが、その内容とヴライの性分から、アンジュを手に掛けたのはヴライであると、推察するのは極めて容易であった。

(ハクだけなく、アンジュまで―――)

 アンジュとの最後のやり取りは、決して仲睦まじいものではなかった。
 この殺し合いに呼び込まれる直前、トゥスクル皇女として、彼女の心を折るために、彼女を叩きつけたときの感触は、今も記憶に新しい。
 けれど、それはアンジュを含む、ヤマトに残してきた皆を護るための行動――。
 時折白楼閣には来ては、ルルティエの私有物を物色したり、つまみ食いをしたり、半泣きになりながらムネチカに追いかけ回されたりと―――そんな彼女の姿もまた、ハクがいたあの日常には、欠かせないものであった。

(あの漢にッ……!!)

 故に、クオンが大切にしていたあの日々を――。
 かけがえのない人々を―――。
 その理不尽な暴力で以って、蹂躙する武人に対し、黒い感情が沸き上がってしまうのは、無理からぬことであった。
 ハクの死に関しては、オシュトルに対しても不信を抱かざるを得ないが、それでも元を辿れば、諸悪の根源はヴライにある――。
 今回のアンジュ殺害の一件によって、クオンは改めてその事実を痛感することとなった。

 そんな折――。

「―――奴が憎いか……?」

 クオンの心情を察したのか、それまで傍観に徹していた梔子が、突如として口を開く。

「えっ……?」
「察するに、クオンの友人は、あの漢に殺されたのだろう?
ならば、貴女には奴を憎み、恨む権利がある」
「……うん……」

 梔子の言葉に、クオンは顔を曇らせながらも、頷く。
梔子の指摘は、クオンの心中を見事に見抜いており、事実クオンの心は、ハクとアンジュの仇討ちに傾いていた。

「だが、貴女にはまだ残されている者もいるはずだ」
「……っ!?」

 しかし、続けて告げられた言葉に、クオンは目を見開いた。
 梔子は、これまでの経緯から、クオンにはまだムネチカという友人がいて、そのムネチカがベルベット・クラウ達に囚われていることを知っている。
 そして、ムネチカが囚われの身になっていると知った際には、クオンが怒りの感情を露わにしたことも。

「私は貴女の復讐を否定しない……。
だけど、まだ大切なものが残っているならば、優先順位は違わない方が良い」
「……。」

 クオンは口を噤み、俯いた。
 梔子は、クオンが何かと気にかけていたムネチカの存在を指摘した。
 しかし、その言葉によって、クオンが脳裏に過ぎったのはムネチカだけではない。
 オシュトルを待つネコネを始めとした、ヤマトに残された大切な仲間たちを思い浮かべたのである。

 やがて、暫しの沈黙が場を支配した後、クオンは決心したように口を開いた。

「……うん、そうだね……。確かに私はまだ皆がいる……。
ありがとう、梔子。貴方のおかげで、自分のやるべきことを再確認できたかな……」
「礼には及ばない。まだ全てを失っていないというのであれば、残されたものを大事にしてほしいと思っただけのことだ……」

 梔子は、そう言うと踵を返し、城から立ち去っていく。

「--梔子……。」

 全てを失った少女にとって、まだ大切なものが残されているクオンは、羨ましく感じたのかもしれない。
 そんな梔子の去り際の表情は、ライフィセットから見て、どこか寂しく、そして儚げであった。

「僕達も、出るよ、クオン。また後で……」
「早苗のことは、宜しく頼む」
「うん、三人とも気を付けてね……。
くれぐれも無茶はしないで欲しいかな」

 ライフィセットとブチャラティも、梔子を追うように、クオンに一言告げ、その場をあとにする。

(……私が採るべき道は――-)

 三人の背中を見守りながら、クオンはこれからの行動方針について、心を
落ち着かせながら逡巡するのであった。




「ちょっと、ちょっと、九郎! 本当にここで合っているの!?」
「ああ、間違いないよ、アリア。 僕たちはつい数時間前まではここにいたから……。
だけどこれは―――」

 ムーンブルク城を先に発った隼人、九郎、アリアの三人。
 一行は、病院への道のりを把握している九郎が案内する形で、南東の平原を渡り、程なくして目的地へと辿り着いた。
 しかし、三人の眼前に拡がっていたのは―――。

「酷い有様だな」

 隼人が眉を寄せて呟き、九郎とアリアは呆然と立ち尽くす。
 それを一言で表すなら、焼け野原だった。
 辛うじて一部のエリアだけは現存しているものの、そのほとんどは灰塵に帰し、辺り一面、焦土と化している。
 九郎達が滞在していたころの影は見る影もなく、至る所から立ち上る煙だけが、ここで大爆発を伴う激しい戦いが行われていたことを如実に物語っていた。
 これを引き起こした災害の元凶に、九郎は心当たりがあった。

「――剛腕のヴライ……。」

 クオンから齎されたヤマト最強とうたわれる武士の名が、九郎の口から零れる。
先の戦闘ではブチャラティが辛くも撃退したとのことだが、恐らくは絶命には至らなかったのだろう。
 その後、此の地にやってきた何者かと交戦―――。その果てに、この災害が齎されたのだろう。
 ヴライの猛撃を身を以って体感している九郎は、そのような想像を巡らす。

「おい、九郎―――」

 そんな九郎の思索を遮ったのは、隼人であった。
 彼は、未だ立ち尽くすアリアと九郎をそっちのけて、病院だったものの残骸の中を探索していた。

「お前たちが言っていたフレンダというガキは、こいつのことか?」
「え?」

 親指を背後に向けた隼人に、九郎とアリアが、彼の下へと歩み寄る。  

「……っ!!」

 そこにあったのは、瓦礫の下敷きになって息絶えている金髪の少女の亡骸―――。
 つい先刻まで行動を共にしていた少女の痛ましい姿を前に、九郎は沈痛な面持ちで唇を?みしめた。

 どことなく調子の良い言動を振り撒き、それでいて西洋人形のような愛くるしさを装っていた少女―――。
 活力に満ちていた、あどけない面貌は絶望の蒼白に染まり―――。
 目は見開いたまま、サファイアのように煌めいていた瞳からは、既に光が失われている。
 何か嘆願しているように口も半開きのまま、まるで今でも助けを待ち焦がれているような死に顔を浮かべていた。

「……ええ、彼女がフレンダ=セイヴェルンです……。」
「そうか」

 フレンダは、我が身可愛さに他の参加者を騙し、時には害そうとまでした、と聞き及んでいる。
 それだけ聞けば、迷惑千万な存在ではあったのだが、九郎自身は彼女によって実害を被ったわけではない。
 むしろ、成り行きではあれど、彼女の機転によって助けられたこともあった。
 九郎は確かに、妖達が恐れる、人ならざるチカラを得た異能者だ。
 何度も死んでは再生を繰り返しているが故、人の生死についても、どこか達観した視点で俯瞰できるようになっている。
 しかし、だからといって、短期間ではあれど、共に苦楽を共にした少女の変わり果てた姿を目の当たりにして、何とも思わないほどの冷血漢ではなかった。

「ふ、二人とも!! ちょっとこっち見てよ!!」

 フレンダへの哀悼の意を胸に抱いていた九郎に、今度は明後日の方向を見ていたアリアが声を張り上げる。
 九郎と隼人が、彼女の指差す先に視線をやると、そこには――。

「こいつも、仲間か……?」
「……。」

 フレンダの亡骸の対角線上に、黒焦げとなった焼死体が夜風に晒されていた。
 黒焦げになってはいるものの、それは間違いなく人の形をしており、辛うじて女性のものと見て取れる。
 そして身長や体型から察するに、それは――。

「恐らくは、博麗霊夢―――フレンダと一緒に行動していた彼女だと思います……」

 神を司る巫女という職業柄にしては慎ましさというものは全くなく、言いたいことははっきりと言い放ち、それでいてどことなく頼りになる少女―――それが、僅かな交流を経て、九郎が霊夢に対して抱いていた印象であった。

 そんな彼女も、今や見るも無残な姿になり果てている。
 恐らく、病院を発った後、何らかの理由で病院へと引き返して、ヴライと鉢合わせ―――交戦するものの、フレンダ共々、ヴライの圧倒的な火力の犠牲になってしまったのだろうか。

「どうするつもりだ?」

 沈痛な面持ちで少女達の遺体と向き合う九郎に、隼人は問いかける。
 それが、彼女たちの埋葬を行うか否かの是非を問うていることを察した九郎。
 隼人は合理主義的な立場の人間という心象を持っていたので、そのまさかの気遣いに内心驚きつつも、瞬時に首を横に振る。

「いえ……今は他に優先すべきことがある。急ぎましょう」

 彼女達をこのまま野に晒すのは気が引ける。
 それでも今は、死者よりも生者―――彼女達と行動を共にしていたカナメのことが気掛かりだ。
 まだ現存する施設部分も含めて、付近を捜索すべきだろう。
 九郎はそう結論付け、すぐに踵を返すと、隼人もこれに続いた。

「ちょっと、ちょっと!! 二人とも、置いていかないでよぉ!」

 慌てて二人の後を追うアリアの声を背後から受けながら、九郎はここで、ふと会場のどこかにいるであろう己が恋人の姿を思い浮かべた。

(岩永は、今どうしているんだろうか……)

 この殺し合いが始まってから、琴子ならきっと大丈夫だろうと自分に言い聞かせて、彼女への心配を自制していた。
 しかし、ここにきて数時間前まで面と向かい合っていた新羅、アリアの脱落の報―――。
 それに重ねて、つい先程まで活力に満ちていたはずのフレンダ、霊夢の悲惨な“最期”を目撃したことにより、この会場では参加者の命はいとも簡単に終わってしまうという現実を、嫌でも認識してしまった。

 琴子と同行していた冨岡という男も、かなりの手練れと聞いていたが、彼も先の放送であっさりとその名前を呼ばれてしまっている。
 いくら知恵の神といえど、その身体は人間の少女のそれだ。
 先のヴライのような叡智や知略を覆すような怪物を相手取ることがあれば、一溜りもないだろう。

 そう考えると、不安と焦燥が募っていき、自ずと彼の足は早くなっていくのであった。


【D-6/夜/病院付近/一日目】

【神隼人@新ゲッターロボ】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(絶大)、出血(大)、カタルシス・エフェクト発現(現在は疲労困憊のため使用不可能)
[役職]:ビルダー
[服装]:普段着
[装備]:ミスタの拳銃@ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風、ミスタの拳銃(ビルドの作った模造品)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~2、浜面仕上の首輪、錆兎の首輪、ビルドの支給品0~2
[思考]
基本方針:首輪を外して主催を潰し帰還する。
0:まずは病院跡を探索。
1:病院を経由して研究所に向かう。
2:病院で使えそうなものが残っているものがあれば回収。
3:ものつくりの能力を利用し有利に立ち回る。現状、殺し合いに乗るつもりはない。
4:主催との対決を見据え、やはり首輪のサンプルはもっと欲しい。狙うのは殺し合いに乗った者、戦力にならない一般人(優先度は低い)。
5:竜馬と合流する。
6:無惨、ウィキッド、ヴライを見つけたら排除。
7:ベルベット、夾竹桃、麦野、ディアボロ、琵琶坂を警戒するが判断保留。
8:静雄とレインと再会したら改めて情報交換する。

※少なくとも平安時代に飛ばされた後からの参戦です
※幻想郷の大まかな概要を聞きました。
※『今の自分が本物ではない』という琴子の考察を聞きました。
※夾竹桃・ビルド・琴子・リュージ・アリアと共に【鬼滅の刃、虚構推理、緋弾のアリア、ドラゴンクエストビルダーズ2、新ゲッターロボ、ダーウィンズゲーム、東方Project、とある魔術の禁書目録、スタンド能力、うたわれるもの、Caligula】の世界観について大まかな情報を共有しました。
※カタルシス・エフェクトに目覚めました。武器はドリルです。
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。
※ブチャラティ、九郎、ライフィセット、梔子と情報交換をしました。

【桜川九郎@虚構推理】
[状態]:健康 静かに燃える決意、魔王ベルセリアに対する違和感
[服装]:ホテルの部屋着(上半身の部分はほぼ全焼)
[装備]:
[道具]:基本支給品一色、不明支給品×1~3、スパリゾート高千穂の男性ロッカーNo.53の鍵
[思考]
基本:殺し合いからの脱出
0:まずは病院跡を探索する。
1:あの彼女(魔王ベルセリア)、何とかしかければ……。
2:岩永を探す 。少し心配。
3:人外、異能の参加者達を警戒
4:余裕があればスパリゾート高千穂を捜索
5:きっとみねうちですよ。
[備考]
※鋼人七瀬編解決後からの参戦となります
※新羅、ジオルドと知り合いの情報を交換しました。
※アリア、ブチャラティと知り合いの情報を交換しました。
※画面越しの志乃のあかりちゃん行為を確認しました。 
※新羅から罪歌についての概要を知りました
※魔王ベルセリアに対し違和感を感じました。
※垣根と情報交換をしました。
※隼人、クオン、早苗らと情報交換をしました。

【アリア@Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-】
[状態]:疲労(大、フロアージャックはしばらく使用不可)、悲しみ(絶大)
[思考]
基本:μを止める、だけど……
0:暫しの休息の後、隼人と共に移動する。
1:永至を信じたい
[備考]
※参戦時期は少なくてもシャドウナイフ編以降。琵琶坂生存ルートです。詳しい時期はお任せします。
※『今の自分が本物ではない』という琴子の考察を聞きました。
※夾竹桃・隼人・ビルド・琴子・リュージと共に【鬼滅の刃、虚構推理、緋弾のアリア、ドラゴンクエストビルダーズ2、新ゲッターロボ、ダーウィンズゲーム、東方Project、とある魔術の禁書目録、スタンド能力、うたわれるもの、
Caligula】の世界観について大まかな情報を共有しました。
※フロアージャックはしばらく使えません
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。
※ブチャラティ、九郎、ライフィセット、梔子と情報交換をしました。


「さっきの放送でμが歌った曲なのだが―――」

 日没後のうす暗い森の中を、歩んでいたブチャラティ、梔子、ライフセットの三人。
 ムーンブルク城を出発してから、黙々と遺跡を目指していた三人だったが、梔子がふと思い出したかのように口を開くと、ライフィセットは梔子の方を不思議そうに振り向き、ブチャラティはというと、視線を前においたまま反応を示した。

「確か、『おんぼろ』だったか……。
あまり聞いていて、気分の良いものではなかったが―――。それがどうかしたか?」

 ブチャラティの言葉に、ライフセットもうんうんと頷く。
 別に生真面目にμの歌声に耳を傾けていた訳ではなかったが、あの歌詞は殺し合いの中、仲間を失い満身創痍となっている自分達を揶揄しているようなきらいがあり、ライフセットとしてもあまり良い気はしていなかった。

「……すまない、あれは私が楽士として手掛けた曲なんだ……」
「えっ…?」

 しかし、梔子の思いがけない告白にライフィセットは目を丸くし、ブチャラティは今度こそ立ち止まり、振り返って彼女の方を向いた。

「その……すまんな、梔子……」
「いや、気にしないでくれ。貴方達が不快になったのも無理はない」

 少し気まずさを漂わせながら、自分の軽率な発言を謝罪するブチャラティに、梔子はというと、むしろ申し訳なさそうに首を横に振る。

「そうだったんだね……。でも、何で梔子はわざわざ、その事を僕たちに?」
「……μに楽曲を提供していたのは私だ。
さっきのライブで君達の気分を害したのなら、その責任の一端は私にもある……。
だから、一言言っておきたかった」

 作曲者は、自らの作品に、己が想いをつめ込めるというが、梔子もまたあの曲に、自らの感情を打ち込んだ。
 たった一人の悪魔(おとこ)の悪意によって、当たり前のように存在していた幸せを奪いとられた、その絶望を、怨嗟を、慟哭を―――。
 そこには、諸悪の根源たるあの悪魔―――琵琶坂永至に対する、殺意と怨恨も、確かに込められていた。
 そう意味では、他者への害意が含められていたと言っても、否定はできない。
 しかし、それはあくまでも、琵琶坂に対して向けられたものであり、それ以外の人間に対する敵意などは、さらさらない。
 故に、自分と同じように大切な人を奪われ、『おんぼろ』となった参加者達を煽るかのように、この曲を用いた主催者の悪意には、不快感を覚えた。
 と同時に、あのライブを聞いた他の者も、同様に不快な気持ちになるのも無理はないと思ったのである。

「だが、君としても、自分の楽曲がこんな形で利用されるのは、本意ではなかった……。
そうだろう?」
「……ああ……」
「だとすれば、君が謝るのは筋違いだ。
あくまでも連中が、君の楽曲を悪用したまでにすぎない」

 申し訳なさそうに目を伏せる梔子に対し、ブチャラティは淡々とした口調で言い放つ。
 梔子はというと、その言葉を受けて少し間をおいてから、再度「すまない」と呟いて、再び歩を進め始める。
 それに倣って、ブチャラティとライフィセットも暗黒の森の中を歩みだした。

「梔子はさ―――」

 沈黙の行進が続く中、先を歩くブチャラティを他所に、ライフィセットは梔子に声を掛ける。

「琵琶坂って人への復讐を成し遂げたら……。
その後は……どうするつもりなの?」
「……? どういう意味だ、それは……?」

 唐突な問いかけに首を傾げる梔子。
 そんな彼女の瞳を真っ直ぐ見据えながら、ライフィセットは続ける。

「そのままの意味だよ、何かやりたいこととかはないの?」
「―――私にとって残されたことは、奴に然るべき報いを与えてからのことは考えていない……。
だが、もしそれが達成出来たら―――そうだな……君たちやレインたちのサポートはしたいと思う。君たちには色々と助けられたからな」

 先に出逢ったレインや静雄も然り、ブチャラティ達然り、ヴライの二度にわたる襲撃から、梔子が五体満足であるのは、彼らの助けがあってからこそ。
 故に、梔子は彼らに恩義を感じていないわけでもなく、琵琶坂への復讐という使命を達成した暁には、残りの命は彼らにあげても良いと考えている。
 受けた恩義を返さないまま勝手にフェードアウトするほど、彼女は薄情ではない。

 故に梔子は、その考えをライフィセットに示すが―――。

「それは、ただこの閉じ込められた世界の中でどうしていくか、だよね?
そうじゃなくてさ。元の世界に戻って、梔子自身の意思で、やってみたいことはないの?」

 ライフィセットは、不服そうに食い下がる。
 梔子が示した「やりたいこと」とは、この殺し合いにおける短期的な行動方針だ。
ライフィセットが聞きたいのは、その後の話―――琵琶坂への復讐も果たし、この箱庭から脱出して、元の日常に戻った後に、何を成したいのか。

「……何も、ないな……。思いつかない……。
あいつに、あの男に、全てを奪われた私には何も残されていないのだから」

 目を伏せながら、言い切る梔子の姿はとても儚げであった。
 そんな彼女の姿に、ライフィセットは再び、かつてのベルベットの姿を重ねた。
 ただ復讐と絶望に囚われて、己が復讐の達成に固執―――。
 その気になれば、己を捨ててでも、目的を達成しようとするのであろう。その先の、己が未来については一切顧みずに―――。

 そういった危うさを、ライフセットは、先程のクオンとのやり取りと、梔子が手掛けた『おんぼろ』という曲から、感じ取ったのである。

「――そう、なんだね……」

 しかし、結局ライフィセットは、「やりたいこと、見つけられたら良いね」といった調子のよい発言をすることもなく。
 かといって、梔子の危うさを指摘することもなく、口を噤んだ。

 何故ならば、彼は知っているから―――。
 復讐に身を焦がし、己の幸せを全て捨ててでも、突き進まんとする者―――。
 その壮絶なる覚悟と、その者が体感したであろう凄惨なる悲劇と絶望の深淵を―――。

 琵琶坂という男が、梔子に何を行ったのかは分からない。
 だけど、梔子の様子から察するに、第三者たるライフィセットが口を挟んでいいものではないだろう。
 何より、彼女の覚悟に揺さぶりをかけるようなことはしたくなかった。

 だけど―――。

「―――梔子……。」
「何だ……?」

 視界おぼつかない、夜の森を進む中、ライフィセットはおもむろに口を開く。

「何があっても、自分だけは見失わないでね」
「……? それはどういう―――」

 ライフィセットの不可解な発言に、眉を顰める梔子。
 しかし、ライフィセットはそれ以上、何も答えず前方を進むブチャラティを追っていく。

「……。」

 梔子もそれ以上追求することはせず、二人についていく。

――自分を見失わないで。

 かつてベルベットは、目的の遂行のためだけに、己を捨てて、破滅の道を歩んでいた。
 憎悪と絶望に囚われて、自分らしく生きようとすることもできなかった。
 あの頃のベルベットを見てきたから、そんなベルベットの苦しむ姿を見てきたから。
 ライフィセットは、同じ道中にいる梔子に、そんな言葉を投げ掛けたのであった。

 道のりは尚も続く―――。
 少年の願いが、全てを奪われた少女の復讐の終着点に何を齎すかは、まだ誰にも分からない。

【D-5/夜/森林地帯/一日目】

【ブローノ・ブチャラティ@ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風】
[状態]:疲労(中)、強い決意、全身に火傷、ダメージ(中)
[服装]:普段の服装
[装備]:
[道具]:不明支給品1~3、 サーバーアクセスキー マギルゥのメモ 身体ストック(ライフィセットの両腕、ブチャラティの左腕使用済)
[思考]
基本:殺し合いを止めて主催を倒す。
0:遺跡へと向かう。
1:魔王ベルセリアへの対処。
2:ヴライが生き残って襲ってきたら対処。
3:自称ブチャラティ(ディアボロ)に対して警戒。
4:テレビ局に行く事ができれば、そこを利用して情報を広める。
[備考]
※参戦時期はフーゴと別れた直後。身体は生身に戻っています。
※九郎、新羅と知り合いの情報を交換しました。
※画面越しの志乃のあかりちゃん行為を確認しました。 
※新羅から罪歌についての概要を知りました。
※垣根と情報交換をしました。
※霊夢、カナメと情報交換をしました。
※持ち出した身体ストックはブチャラティ、九郎、ライフィセット、梔子、ア
リア、新羅のもののみです。
※隼人、クオン、早苗らと情報交換をしました。

【ライフィセット@テイルズ オブ ベルセリア】
[状態]:強い倦怠感、全身のダメージ(大)、疲労(中)、強い決意
[服装]:いつもの服装
[装備]:ミスリルリーフ@テイルズ オブ ベルセリア(枚数は不明)
[道具]:基本支給品一色、果物ナイフ(現実)、不明支給品×2(本人確認済み)本屋のコーナーで調達した色々な世界の本(たくさんある)、シルバ@テイルズ オブ ベルセリア
[思考]
基本:ベルベットを元に戻して、殺し合いから脱出する
0:遺跡へと向かう
1:ブチャラティ達と行動する
2:ムネチカへの心配
3:ベルベットの同行者(夾竹桃、麦野)への警戒
4:ロクロウ達との合流
5:ヴライがアンジュを殺しているならムネチカやその仲間達に伝えるべき?
6:エレノア、マギルゥ……。

[備考]
※参戦時期は新聖殿に突入する直前となります。
※異世界間の言語文化の統一に違和感を持っています。
※志乃のあかりちゃん行為はほとんど見てません。
※呼ばれた時間に差がある事に気づきました。
※梔子と聖隷契約をしました。
※現在はデイパックの中にシルバがいます。
※隼人、クオン、早苗と情報交換をしました。

【梔子@Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-】
[状態]:健康、疲労(中)、精神的ダメージ、レインの仮説による精神的疲労(少し回復)
[服装]:メビウスの服装
[装備]:ストップウォッチ@東方project(1回使用)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1(心許ないもの)、静雄のデイバック(基本支給品、ランダウ支給品×1~2)、ライフボトル×2@テイルズオブベルセリア
[状態・思考]
基本行動方針:琵琶坂永至に然るべき報いを。
0:遺跡へと向かう。
1:当面はライフィセット達と行動
2:彩声の義理を返す為、レインを死なせないようにする。
3:琵琶坂永至が本人か確かめる。
4:琵琶坂を擁護する限りアリアとは行動を共にしない。
5:本当に死者が生き返るなら……
6:煉獄さん……天本彩声……
7:私が虚構かもしれない、か……
[備考]
※参戦時期は帰宅部ルートクリア後、
 また琵琶坂が死亡しているルートです。
※キャラエピソードの進行状況は少なくとも誕生日のコミュは迎えてます。
※静雄、レインと情報交換してます。
※ブチャラティ、霊夢達と情報交換をしました。
※ライフィセットと聖隷契約をしました。
※隼人、クオン、早苗と情報交換をしました。




「―――早苗、気分はどうかな……?」

 ブチャラティ達を見送り、暫く物思いに耽った後、クオンは、早苗がいる部屋へと戻ってきた。
 出た頃からと違って、彼女の啜り泣く声は止んでいる。

「……。」

 しかし、当の早苗はというと、床の上でへたり込んで、ボーっとした表情のまま、クオンに見向きもしない。
 どこか上の空といった様子の彼女に、首を傾げつつ、クオンは近づいて、そのか細い肩にそっと手を置いた。

「早苗……?」
「――ひゃっ!? ……ク、クオンさんっ!? い、いつからそこに……!?」

 途端に、早苗はビクッと肩を震わせ、慌ててクオンの方を見上げた。

「いつからって……たった、今来たところかな。
そんなことより、気分はどうかな? もう大丈夫?」
「あ……はい。大丈夫です……。
もう十分に泣きましたから……」

 弱々しく微笑んでみせる早苗。
 その目元は赤く腫れ、頬には涙の流れた跡がくっきりと残っていたが、ついさっきまでの溢れんばかりの慟哭は影を潜めている。

「そう……」

 憔悴して、無理をしているのは明白ではあるが、それでも笑顔を繕おうとする早苗に、クオンはそれ以上何も言わなかった。

「あ……あの、クオンさん。他の皆さんは……?」
「ああ、うん、そうだね……。
早苗に、説明しないと、だね――」

 早苗からの問い掛けに、クオンは此処にきた本来の目的を思い出すと、語り始めた。
 早苗を除くメンバーで話し合って決めた今後の方針の概要を。
 その決定に従い、隼人達は既に病院へ、ブチャラティ達は遺跡へと、それぞれ発ったことを。
 簡潔に、それでいて要点は漏らさず説明したクオンは、最後に、早苗の目を見つめて言った。

「それで、早苗。私達のこれからのことなのだけど―――」

 さて、本題はここから。
 隼人達が病院へ、ブチャラティ達が遺跡へと向かった、この状況下で、クオンと早苗は、果たしてどちらに追従するのか―――。

「私は―――」

 クオンは、先程の梔子との問答と、そしてその後の思慮を経て、既に結論を導き出しており、その考えを口にする。

「ブチャラティ達を追って、遺跡に向かいたいと思っているの」

 全ては、『ハクの死』の精算という過去を追うのではなく、現在(いま)を生きる仲間達のために―――。
 私情は捨てて、まずはネコネの兄であるあの漢―――オシュトルとの合流を優先すべしと。
 クオンが下した決断はそれであった。

 しかし、そんなクオンの提案に、早苗は鬱々とした面持ちを浮かべて―――。

「……遺跡、ですか……」
「うん、どうかな?」
「――私は……嫌です……」
「……え?」

 拒絶の意思を露わにし、一蹴するのであった。

「――それは……どうして、かな?」

 クオンは、早苗の思わぬ反応に驚きつつ、その理由を問い質す。
 すると、早苗はぷるぷると唇を震わせながら、予想だにしない言葉を紡ぎ出した。

「―――だって、遺跡には、あの人が……オシュトルさんがいるじゃないですかっ!!!
私はあの人が怖いですし、何より信用できないんですっ!!!」
「…っ!!」

 全身を震わせ、絶叫に近い声を上げた早苗。
 そこには、明確な怒気と恐怖、そして拒絶の色がありありと窺えた。
 これまで早苗に対して大人しい少女という印象を浮かべていたクオンは、彼女のその剣幕に、息を呑む。

「―――オシュトルと、何かあったの……?」

 しかし、それ以上に、早苗の発した言葉を聞き捨てることが出来なかった。
 早苗とオシュトルは、暫く行動を共にしていたと聞いている。
 当初の情報交換の際には、その詳細を知りたいと欠片も思わなかった。
 しかし、早苗がここまでオシュトルに対して激情を示すとなると、それは何故なのか? その理由を聞かずにはいられなかった。

「あの人は―――」

 そして、早苗は、尚も暗い表情を浮かべながら、語り出す。
 己が脳に焼き付いている、オシュトルとの“記憶”を。



――時は少しだけ……クオンが、遺跡に向かうブチャラティ達を見送っていた頃まで遡る。

「い、嫌ぁっ…!! な、何……これっ……!!」

 廃墟も同然の寒風貫く城内の一室にて、瓦礫の散らかる床に転がり回る緑髪の少女がいた。
 彼女は右耳を手で抑えたまま、呻くように悲鳴を漏らしている。

「ぁがっ……ぐぎぃいっ……!!」

 “その者”にとって、部屋にたった独り残されていた、少女の体内に侵入するのは非常に容易かった。
 泣き疲れていたこともあるだろう―――その少女、東風谷早苗は、音もなく忍び寄る“その者”の気配を察知できず。
 飛びつかれたその瞬間に、ようやく認知出来たが、時既に遅し―――。

 にゅるり、と蜘蛛に近しい形態をした“その蟲”は瞬く間に、早苗の右耳へと、耳の穴を押し開くように潜り込んだのである。
 侵入してきた“異物“の感触に、早苗は驚愕と不快感と焦燥感を同時に味わう。
 即座に、正体不明の侵入者を取り出そうと耳に手をあてがったが―――。

「ぅあっ!? あ゛ああぁぁあっ……!!」

 脳から電撃のような刺激が全身を駆け巡り、早苗はビクリビクリと痙攣を起こして、床へと転がったのである。

「え゛っ……ぁ、がっ……あ、ぅ……」

 ぶちゅり、ぶちゅりと脳に何かが染み込み侵食していくおぞましい感覚。
 脳内を犯されるという未曾有の感覚に、早苗は瞳からボロボロと涙を零し、口からは涎を垂れ流しながら、悶絶する他ない。

ザザザッ――― ザザザッ―――
ザザザッ――― ザザザッ―――

 脳髄に蠢くその蟲は、ノイズを響かせ、己に植え付けられた役割を果たさんとする。
 己が活動によって齎される少女の苦痛の声など、知ったことではないとばかりに―――。
 少女の更なる“内側”へと、侵食していき――。

「ぁっ……――」

 早苗の意識はぷつりと暗転した。



「―――すまぬが……暫しの間、一人にさせて頂きたい」



ザザザッ――― ザザザッ―――
ザザザッ――― ザザザッ―――

 書き換えられていく。
 まるで映像編集の如く、早苗の体験した記憶が、蟲に埋め込まれたコードに従って、偽りの記憶へと上書きされていく。
 蟲に埋め込まれたコード。それは特定の人物にまつわる記憶の改変―――。



『ふむ……。死亡者は13名か。
思ったよりも、殺し合いに乗っている者は多いようだ
皆、宜しいか? これからのことについて議論したい』
『――えっ、あの……オシュトルさん……』
『如何した、早苗殿?』
『えっと、その……大丈夫なんですか?』
『と、申されると……?』
『いえ……さっき放送で呼ばれたアンジュさんて……。
オシュトルさんが仕えていた方ですよね……?』
『ああ、姫殿下のことか……。
成程、それで某を気遣って下されたのか。
すまぬな、早苗殿、しかし、心配召されるな……。某は大丈夫だ』
『……そう、なんですか……』
『確かに姫殿下が亡くなられたのは残念至極。
しかし、ここで某が悲しみに暮れたところで、殿下が蘇ることはない。
であれば、この程度のことで立ち止まることなく、我らが生き残るための手段を模索し続けるべきだ』
『……“この程度のこと”……ですか……』



 今ここに、記憶は書き換えられた。

 本来であれば、主君を失い、己が生きる道を見失ったはずの彼は、皆の前から姿を消して、独り思慮に暮れたはず。
 しかし、改変された記憶では主君の死を、“この程度のこと”と切って捨てて、即座に次なる行動方針について、議論を進めようとした。
 同じ放送にて、妖夢や魔理沙といった友人の死を知らされ、意気消沈していた早苗にとっては、ショッキングな言動となっていた。



「そのことだが、ロクロウ……一つ頼まれてはくれぬか?」
「うん? 何をすればよい?」
「首輪を一つ、調達してきてほしい。 其方には、この殺し合いにて、討ち取りたいものがいたはずだ」
「成程、シグレを討ち取り、その首輪を持ってこいってことかぁ……。 良いぜ!お前に言われるまでもねえ、元々俺はそうするつもりだったしな」
「宜しく頼む」



ザザザッ――― ザザザッ―――
ザザザッ――― ザザザッ―――

 この蟲は、ヤマトの聖賢とうたわれしライコウが、手配させたもの。
 その役割は、才ある采配士を手中に収めるため、エンナカムイ率いる敵将オシュトルと敵対するために、彼に対する偽の記憶を植え付けるというものである。
 故に、早苗の記憶は、マロロの時と同様に、オシュトルに対しての悪感情を増幅させるべく、今まさに改竄されていく。



『そのことだが、ロクロウ……一つ頼まれてはくれぬか?』
『うん? 何をすればよい?』
『首輪を一つ、調達してきてほしい。 其方には、討ち取りたいものがいると聞く』
『シグレのことか……? 確かに俺の宿願はアイツを越えることにある。
だが、アイツと決着つけるべき場所はここじゃない。元の世界で引導を渡したいのだが――』
『しかし、今は決着の地に拘っている場合でないのは、貴殿も理解しているはずだ。
ここは一つ、この忌まわしい首輪を解除するため、合理的判断をお願いしたい』
『……分かった……』



 本来であれば、ロクロウは、オシュトルからの、シグレ殺害とその首輪の回収の依頼を、二つ返事で快諾している。
 しかし、偽りの記憶では、ロクロウは、此の地での兄との決着を渋った。
 それをオシュトルが強引に、引き受けさせるようなものへと書き換えられた。



「―――早苗殿……?」
「ごめんなさい……。私やっぱり理解できないんです……。オシュトルさんのことも、ロクロウさんのことも……。兄弟で殺し合いなんて……。」
「早苗殿、先にも言ったが、我々には各々の事情があるのだ……。シグレ・ランゲツの打倒はロクロウの宿願と聞く。それを妨げるのは野暮というもの……。首輪解析のためには、首輪の調達が必要―――見ず知らずの他参加者から奪う訳にはいかない手前、ここはロクロウが狙うシグレ・ランゲツの首輪を調達するのが合理的と考えるがーーー。」
「それでも認めたくないんです! 誰かを……それも肉親を踏み台にするようなことなんて!!」



ザザザッ――― ザザザッ―――
ザザザッ――― ザザザッ―――

 早苗の記憶は蹂躙されていく。
 その度に、早苗が抱いているオシュトルへの心象は悪化していく。




『―――早苗殿……?』
『ごめんなさい……。私やっぱり理解できないんです……。オシュトルさんのことも、ロクロウさんのことも……。兄弟で殺し合いなんて……。』
『早苗殿、失礼を承知で言わせて頂くが、つまらぬ感情論で議論を長引かせるのは、控えて頂きたい。今の状況では、シグレ・ランゲツの首輪の回収こそが、最も合理的だ。
貴殿の我儘に付き合わされる今でも、我々の命運は、主催の者達の意思次第でどうとでもなってしまうことをお分かりか?』
『それでも認めたくないんです! 誰かを……それも肉親を踏み台にするようなことなんて!!』
『なれば、早苗殿に問う―――貴殿に首輪の心当たりがあると?
ロクロウに代わって、貴殿が、手頃な参加者を殺めて、その首輪を調達してくれるとそう捉えて宜しいか?』
『……っ!? ちが……わ、私は……』



 本来であれば、オシュトルは、自分たちを非難する彼女を、理路整然と諭すように努めた。
 そこには彼女の心情もまた理解できないわけではない、といった様相も伺えた。
 しかし、改竄された記憶においては、オシュトル、自身が提案した方策に異を唱えた彼女を皆の前で公然と非難。
 語気を強めた上で、早苗を逆に問い詰めることを行っていた。

――ビクビクビクンッ!!

「……っ!? あ、あれ……? 私……?」

 全身に再び電撃のような感覚が疾ると、早苗の意識は覚醒した。
 蟲に犯され、苦痛に喘いでいたことは、記憶の改竄によって忘却の彼方。
 何事もなかったかのように、キョトンとした顔で辺りを見渡す早苗。
 まさか自分の記憶が改竄されているなど、つゆほどにも思わないだろう。

「―――早苗、気分はどうかな……?」

 呆然としていた早苗の元に、クオンが戻ってきたのは、それから少し後のことであった。




「――何、それ……」

 早苗から、彼女が知りうるオシュトルとの“記憶”を聞かされたクオンは、全身をわなわなと怒りで震わせる。
 平然と仲間に兄弟殺しを強要するという、目的のために、どんな手段も厭わないという冷酷かつ非情な一面然り。
 自分に意見をする者に対しては、容赦なく責めたてるその傲慢かつ狭量な一面然り。
 早苗から齎されたオシュトルの言動は、クオンの中で既に失墜していた彼への評価を、さらに貶めさせるものだった。

 そして、何より、クオンの琴線に触れたのは―――

「アンジュが死んだというのに、“この程度のこと”と抜かすか、あの漢はっ……!!」

 クオンの友人でもあり、オシュトルが忠を尽くす主君でもあったアンジュの死を、“この程度のこと”と言い放ち、悼む素振りさえ見せなかったということだ。

 こんな漢が、ヤマトにその者ありとうたわれた英傑なのか――。
 こんな漢が、ヤマトの帝とその後継者に、その身命を捧げると誓った忠臣なのか――。
 こんな漢に、ヤマトに残した大切なヒト達―――ネコネやルルティエ達を率いさせて良いのか――。
 否――断じて、否だ!!

「許さない――」

 ここまで来ると、「私欲のためにハクを斬り捨てた」というマロロの言も、ただの妄言と切って捨てるわけにはいかなくなってきた。
 あれだけ優しかったマロロを狂気に染め上げたのは、それ相応の蛮行を、オシュトルが働いたという証左なのではないだろうか。
 疑念はますます膨れ上がり、クオンの中にどす黒い感情が渦巻いていく。

「絶対に許さない………。オシュトル!!」

 先程までは、彼への疑念は一度水に流したうえで、手を取り合い、共に脱出を図ろうと思っていた。
 しかし、疑念が確信めいたものに変わってしまった今となっては、そんな考えは微塵も出てこない。
 むしろ、あんな漢は、皆の元へ帰すべきではないとさえ、思えてしまう。


「――早苗……これからのことなんだけど……」
「はい……」

 やがて、少しばかりの静寂を経て―――。

「私は―――」

 クオンは、次なる行動方針を口にした。


【C-5/夜/ムーンブルク城/一日目】

【クオン@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]:全身にダメージ(絶大)、疲労(大)、出血(絶大)、精神的疲労(絶大)、オシュトルへの怒り及び不信(極大)、ウィツアルネミテアの力の消失
[役職]:ビルダー
[服装]:皇女服
[装備]:
[道具]:基本支給品一色、薬用の葉っぱ@オリジナル、不明支給品0~2、マロロの支給品3つ
[思考]
基本:殺し合いに乗るつもりはない。皆と共に脱出を。
0:――オシュトル……。やはりあの男は……!!
1:早苗と共に、次の移動先に向かう。
2:ムーンブルク城を発つ際、静雄達への置き手紙を残す。
3:オシュトルは絶対に許せない。
4:ヴライが近くに……
5:ムネチカを捕えた連中(ベルベット達)からムネチカを取り戻したい
6:アンジュとミカヅチとマロロを失ったことによる喪失感
7:着替えが欲しいかな……。
8:優勝……ハクを蘇らせることも出来るのかな……ううん、馬鹿なこと考えちゃ駄目!
9:マロロ...
[備考]
※ 参戦時期は皇女としてエンナカムイに乗りこみ、ヤマトに対しての宣戦布告後オシュトルに対して激昂した直後からとなります。オシュトルの正体には気付いておりません。
※マロロと情報交換をして、『いまのオシュトルはハクを守れなかったのではなく保身の為に見捨てた』という結論を出しました。
※ウィツアルネミテアの力が破壊神に破壊された為に消失しています。今後、休息次第で戻るかは後続の書き手にお任せします。
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。
※ブチャラティ、九郎、ライフィセット、梔子と情報交換をしました。
※早苗から、オシュトルに対する悪評を聞きました。
※クオンが今後、どこに向かおうと提案するかは、次の書き手様にお任せします。


【東風谷早苗@東方Project】
[状態]:全身にダメージ(大)、疲労(大)、精神的疲労(絶大)、臓器損傷、悲しみ(極大)、脳内にウォシスの蟲が寄生、記憶改竄(小)、オシュトルへの不信(大)
[役職]:ビルダー
[服装]:いつもの服装
[装備]:早苗のお祓い棒@東方Project
[道具]:基本支給品一色、不明支給品0~1、早苗の手紙
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。この『異変』を止める
0:クオンとともに、次の移動先に向かう。
1:ブチャラティ(ドッピオ)さん、信じていいんですよね……?
2:幻想郷の知り合いをはじめ、殺し合い脱出のための仲間を探す
3:ゲッターロボ、非常に堪能いたしました。
4:オシュトル対する不信。オシュトルさんは好きではないです……。
5:シミュレータにちょっぴり心残り。でも死ぬリスクを背負ってまでは...
6:魔理沙さん、霊夢さん……。
[備考]
※ 参戦時期は少なくとも東方風神録以降となります。
※ヴァイオレットに諏訪子と神奈子宛の手紙を代筆してもらいました。
※オシュトルからうたわれ世界の成り立ちについて、聞かされました。 
※霊夢、カナメ、竜馬と情報交換してます。
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。
※ブチャラティ、九郎、ライフィセット、梔子と情報交換をしました。
※ウォシスの蟲に寄生されております。その影響で、オシュトルにまつわる記憶が改竄され、オシュトルに対する心情はかなり悪くなっています。今後も、記憶の改竄が行われる可能性は起こりえます。
その他の寄生による影響については、後続書き手様にお任せいたします。


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天翔けるもの ―偽りの仮面― 投下順 Dread Answer

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ニンゲンだから ブローノ・ブチャラティ 追跡セヨ -夜宵のNext Order-
ニンゲンだから ライフィセット 追跡セヨ -夜宵のNext Order-
ニンゲンだから 梔子 追跡セヨ -夜宵のNext Order-
ニンゲンだから 神隼人 偽りの枷
ニンゲンだから 桜川九郎 偽りの枷
ニンゲンだから クオン 導火線に火をくべろ
ニンゲンだから 東風谷早苗 導火線に火をくべろ
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