バトルロワイアル - Invented Hell - @ ウィキ

一虚一実

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kyogokurowa

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「……なるほど、つまりは、この『008』は、其方の仲間ということだな?」
「ああ、俺の知る限り、業魔手を使う喰魔っていうのは、ベルベットしかいねえ」

大いなる父の遺跡のコンピュータルーム内。
オシュトルとロクロウは、ディスプレイに映し出されているレポートの内容について、認識をすり合わせていた。
元々は病室で、これまでの経緯について、ロクロウと情報交換を行っていたオシュトルであったが、ここでふと、自身がハッキングしてアクセスしたレポートのことを思い出して、
今へと至っている。

「……しかし、あいつもあいつで、とんでもねえことに巻きまれちまっているみてえだな……」

髪を搔き、ニタリと笑う、ロクロウ。
会場内での一部参加者の動向が記載された資料を見つけたというオシュトルの言葉を聞いて、当初はシグレに繋がる情報が分かればと期待していた。
しかし、ここでの収穫は、ベルベットが『覚醒』とやらを果たして、他の参加者と交戦していたという記録を確認するまでに留まった。
この『覚醒』を果たしたベルベットの状態については、些か引っかかる記述もあり、気にならないと言えば嘘になる。
だが、いま優先すべきは、ベルベットやライフィセットとの合流ではなく、自身を蝕む毒の治癒及び無惨の討伐である。
そして、それを果たした後は、己が宿願でもあるシグレ打倒を成さねばならない。

――まぁベルベットなら、何やかんやで上手くやっていけるだろう。

そんな、漠然とした信頼のもと、ロクロウは彼女については、深くは考えないようにして、部屋の外へと歩を進めていく。

「……行くのか?」

シグレや無惨の足取りが掴めなかった以上、ここに長居する必要はない。

「おうさ。本当は、旦那と一献交わして寛ぎたいところだが、悠長には構えてられないようだしな」

ロクロウは業魔である。業魔の体質が故に、無惨によって注入された毒の進行も、マギルゥを始めとした他の参加者と比べて、幾分かは遅い。
だが、それでも確実に、今もロクロウの生命を蝕んでいることには変わりはない。

「――っといけねえ……。
一応頼まれたものは渡しておくぜ、オシュトル」

振り向きざまに、ポイと、オシュトルへと投げたのは、銀色に光る首輪。

「――これは……?」
「俺が殺った訳じゃねえが、垣根の奴から譲り受けたものだ。
まぁ、せいぜい役に立ててくれ」

首輪の解析が完了したという現状、サンプルはもう不要かもしれない。
しかし、一度引き受けた約定は果たしておくのが、ロクロウの流儀である。

(勤勉な漢だ……。全てが片付いたら、何か奢ってやらねばな……)

背を向けて、ひらひらと手を振る、隻腕の剣士に感心しつつ、オシュトルは受け取った首輪を、懐へとしまう。

(さて、此方も、うかうかしていられないな。
さしあたっては、まずこのレポートの内容を改ねば……)

そう思いながら、オシュトルは、モニターに視線を戻す。
ロクロウから齎された情報によって、虫食いのような内容でしかなかったものが、一部補われている。
アルファベット文字が付与された『世界線』に、数字を割り当てられた『覚醒者』―――。
臨也達が戻り次第、各々が情報を共有し、それを整理すれば、このレポートから新たな知見を捻出することも可能であろう。
そして、そこで得た内容は、今後このゲームで生き残るにあたり、大きなアドバンテージとなるはずだ。

(――うん? これは……)

と、ここでオシュトルは、液晶画面が投影する内容の異変に気付く。

――――――――――――――――――――――
■ 五度目の覚醒について

本実験における五度目の覚醒は、第二回定時放送の後、世界線 Hの参加者『009』にて観測されている。
――――――――――――――――――――――

(先程までは、四度目の覚醒までしか記載されていなかった筈だが……)

どうやら、直近でレポートの内容が、追記されたらしい。
オシュトルは、前屈みとなり、画面をスクロール―――その文字列を追わんとする。

しかし、その瞬間――。

『参加者の皆様方、ご機嫌よう。』

ゲームの支配者たる、女神を自称する女の声が響き渡り、ヤマト右近衛大将はその手を止めることとなった。
鼓膜を刺激する、その妖艶な声調には、どこか参加者達を小馬鹿にし、見下すような響きが含まれている。

ピタリ

部屋の外へと踏み出していた夜叉の業魔も、その歩みを止めた。
そして、彼もまた毅然とした表情で、天を仰ぎ、盤上の支配者の声に、耳を傾けるのであった。


―――炎の中へ 声を失くした
―――おんぼろになっても

三度目の定時放送が、例によって、白き女神の歌唱によって締めくくられたのは、臨也とヴァイオレットは、アリアの埋葬を終えた頃であった。
これはヴァイオレットの希望によるもので、臨也も快く協力した。
埋葬といっても、そんな大層なものではなく、爆炎によって生じた穴の中へ、彼女の遺骸を横たえて、その上から土を被せただけの簡略的なものであったが、それでも彼女を野に晒しておくわけにもいかなかった。

「やれやれ、今回は14人か……。
殺し合いのペースは、まだまだ落ちる気配はないようだね」

手についた土を払いながら、臨也はわざとらしく嘆息すると、ヴァイオレットの方へと見やる。

「……その、ようですね……」

ヴァイオレットは、表情を曇らせて、視線を地面に落とした。
そんな彼女の態度に、臨也は目を細める。

「どうしたんだい、ヴァイオレットちゃん?
もしかして、アリアちゃん達以外にも、知っている名前が呼ばれたとか?」

「……いえ、亡くなられた方の中で、アリア様、新羅様以外の方は存じ上げておりません。
ただ、それでも亡くなられた皆様方には、きっと、家族や友人といった帰りを待ってくれる方がいらっしゃったはずです。
それを思うと、私は……。」

目を伏せたまま、ヴァイオレットは、その胸の内を吐露する。
例え見知らぬ誰かだとしても、自分の預かり知らないところで、その人の『いつか』と『きっと』が喪われてしまっている―――そんな残酷な現実を実感すると、ヴァイオレットの心は張り裂けそうな思いになる。

「へぇ、それって博愛主義ってやつかな?
会ったこともない見知らぬ他人の為に、そんな感情を抱けるなんて、ヴァイオレットちゃんは優しいんだね
まあ、かくいう俺も、愛すべき人間達を観察することもできないまま、喪ってしまって、残念だなぁとは思ったよ。
だけどさ、ヴァイオレットちゃん―――」

臨也はそこで言葉を切り、ヴァイオレットへと顔を近づけると、その耳元へ囁くように語り掛ける。

「今死亡者として読み上げられた者の中に、月彦さんや茉莉絵ちゃんのような、他人の命を理不尽に奪う、人殺しがいたとしても―――。
君はその人殺しの死を、心から悼むことはできるのかい?」
「……私は――」

悪魔のような臨也の囁きに、ヴァイオレットは目を伏せて、沈黙。
しかし、それも束の間―――そのサファイアのような美しい蒼の瞳を見開くと、毅然とした態度で臨也を見据える。

「例えその方が、どのような方であったとしても、どのような人生を歩んできたとしても、そこにある命は尊きもので、敬うべきものであることに違いはないと、信じております…。
ですので、臨也様―――」

胸元のブローチに手を触れながら、ヴァイオレットは静謐に告げる。

「私は、無碍に命を散らすことを肯定できません。
例え相手が月彦様や、茉莉絵様のような方々であったとしても……」

放送前に、臨也はヴァイオレットに問い掛けた。
己の気の向くままに人を壊し台無しにしていく、そんな『化け物』共を、護りたいのか、と。
そして、その答えは示された。揺るぎのない信念を以って。

大切な人がくれた『愛している』を知るために、自動書記人形となって―――。
様々な人々のかけがえのない想いに触れてきたからこそ―――。
ヴァイオレットは、人の尊さと可能性を、信じることができる。

「……成程ね。まあ、俺とはちょっと方向性が違っているけど…。
君も人間を深く愛しているんだね、ヴァイオレットちゃん。
素晴らしい…いや、本当に素晴らしいよ」

自分と似て異なる、慈愛に満ちた「人間愛」を目の当たりにし、臨也は感慨深そうに頷き、口元を歪めた。
臨也は、彼と同じく「人間愛」を標榜する妖刀・罪歌を忌み嫌い、「刀如きが、俺の人間に手を出すな」と、戦線布告した過去がある。
しかし、今回のヴァイオレットは純然たる人間であり、彼女もまた臨也の掲げる「人間愛」の対象に変わりはない。故に、罪歌のときのように、同族嫌悪や敵視といった感情が湧くことはない。

「オシュトルさんによると、ヴァイオレットちゃんは、元々軍に所属していたと聞いているけど――」
「……はい、それは事実でございます……」

そして愛するが故に、臨也は、ヴァイオレット・エヴァーガーデンという少女を、より深く観察せんとする。
途端に表情を曇らせる少女を気遣う素振りもなく、貪欲に、浅ましく、その胸に秘めた『想い』を暴かんと、問い掛けを続ける。

「是非とも聞かせてくれるかな? かつて命を奪う側にいた君が、何故そんなに人を慈しみ護ろうという考えに至ったのかを、さ…」

まるで新しい玩具を与えられた子供のように、ヴァイオレットの瞳を覗きこもうとする、臨也。
無遠慮かつ大胆不敵に、他者の心に土足で入り込もうとする、その姿は、池袋界隈に名の知れた、情報屋のものに違わなかった。

「……ですが、私達は、早急にオシュトル様達の元へ戻らねばなりません……」

「ああ、それじゃあ、歩きながらでも聞かせてくれないか?
そっちの方が効率も良いだろうし。勿論ヴァイオレットちゃんが良ければの話だけど」

「……そういうことでしたら……。
畏まりました、それでは―――」

並んで帰路を歩きながら、ヴァイオレットは臨也に促されるまま、静々と語り始める。

戦争の道具として拾われ、育てられた自らの生い立ちを―――。
無色に彩られた世界を変えてくれた、かけがえのない人との出会いと別れを―――。
その人から、別れの際に告げられた言葉の意味を知るために、人の想いを綴る「自動書記人形」になったことを―――。
そして、代筆を通じて、人々の「想い」に触れてきたことを―――。

「――なるほどね……」

ヴァイオレットの話を聞き終えた臨也は、感慨深そうにポツリ呟く。

(「愛している」を知るために、人々の想いに触れていく、元少女兵か――)

彼女が、臨也に語り聞かせた内容は、つい数時間ほど前に、オシュトルに語った内容とほぼ同じもの。
しかし、終始神妙な面持ちで耳を傾けていたオシュトルとは異なり、臨也は、果てしなく好奇と興奮に満ちた様子で、彼女の語りを聞き入っていた。

(――興味深い、実に興味深い…!!
やっぱり、このゲームには面白い人間がたくさん参加させられているよね)

「ありがとう、ヴァイオレットちゃん。
なぜ君が、そこまで人を慈しみ護ろうとするのか、よーくわかったよ。
俺は、君と、君が選択し歩んできた道程に、心から敬意を払うよ」

臨也は、大仰に両手を広げて、ヴァイオレットに賛辞の言葉を贈った。
そして、臨也の心の奥底から欲求が沸々と湧き上がってくる。

―――もっともっと、ヴァイオレットを観察したい、愛したいと。

「臨也様――」

賛辞の言葉を受けたヴァイオレットは、歩みをピタリと止める。
そして、その双眸に真剣な色を宿らせ、臨也の瞳をじっと見つめた。

「何だい?」
「臨也様は、ご無理をなされていませんか?」
「……俺が、無理を……?」

ヴァイオレットの指摘に、臨也は首を傾げる。
臨也としてはいつも通りに人間観察に浸り、いつも通りに人間を愛さんとしているにすぎずに、平常運転以外の何物でもない。
しかし、目の前の少女には、そうは見えなかったようだ。

そして、この認識のズレの背景を探るべく、今一度自身を俯瞰してみると―――

(ああ、そういう事……)

臨也は、自分の胸に渦巻く感情の根源を自覚するに至った。
自分は今、確かに『折原臨也』らしく振る舞い、人間への愛を貫かんとしている。
しかし、その根源には、心の中にポッカリと空いてしまった穴から、目を背けようとしていた衝動に突き動かされている感がある。
それは、友人(もくひょう)を失った傷心からの逃避ともいえるし、その喪失感を別の何かに置き換え、誤魔化そうと躍起になっているともいえる。

(ははっ…つまり、俺もどうしようもなく人間だったってことか……)

改めて考えてみると、非常に滑稽な話だ。
人間を平等に愛すると誓い、高みの見物でその観察に興じようとする一方で、自らの傷心を紛らわすために、その愛を利用しようとする―――。
『観察者』を自称する臨也自身も今は、滑稽で歪な道化にほかならず、人間観察の対象としては、絶好の素材と化してしまっているのだから。

「無理なんてしてないよ。俺はいつも通りさ」

とここで、臨也は、自分に対する俯瞰を完全に打ち切り、眼前の少女に対して、いつもの不敵な笑顔を張り付けて見せた。

「……左様でございますか。
ですが、もし私に何か協力できることがあれば、いつでもお申し付けください」
「うん、ありがとう。ヴァイオレットちゃんは優しいんだねぇ」

ヴァイオレットが、臨也の心の奥底にある異変を汲み取れたのは、彼女が『自動書記人形』として、様々な人間の『想い』に触れてきたからこそだろう。
正直、『観察』することには、慣れているが、『観察』されることには慣れていないため、どこかやり辛さをヴァイオレットには感じる。
だが、それでも不思議と嫌悪感を抱くことはない。
彼女が『人間』である限り、臨也は彼女を平等に愛しつづけるのだから―――。

「おや、あれは―――?」

とここで、前方からの人影を視界に捉えた臨也は、その思考を中断――ヴァイオレットとの会話を打ち切った。
ヴァイオレットもまた、その気配を瞬時に感じ取ったらしく、臨也と同じ方向へと視線を向けると―――。

「――お前らか……」
「ロクロウ様、お目覚めになられたのですね」

二人の視線の先にいたのは、先程まで意識を失っていたはずのロクロウであった。
ヴァイオレットは、駆け寄ろうとするが、ロクロウは険しい顔を浮かべたまま、それを手で制する。

「――ロクロウ様……?」
「オシュトルが中で待っている―――さっさと行ってやれ」
「ロクロウ様は……?」
「俺は先に行くぜ。生憎とあまり時間は残されていねえようだしな……」

ロクロウはそれだけ言い放つと、二人を素通りし、ヴァイオレットが呼び止める間もなく、森の奥へとずかずかと進んでいく。
その形相は一貫して鬼気迫るものであり、どこか近寄りがたい殺気を漂わせており、ヴァイオレットはただ彼の後ろ姿を見送ることしかできなかった。

「ヴァイオレットちゃん、彼もああ言っていたし、まずはオシュトルさんのところに急ごうか」
「――畏まりました……」

臨也に促されるまま、ヴァイオレットは遺跡方面へと歩を進めることにするが、最後にもう一度、ロクロウの後ろ姿へと視線を送る。
最後に垣間見せたロクロウの表情に―――活力に溢れていたはずの瞳から、まるで生気と野心を一切抜き取ったかのような虚無感が漂っていた。
それを目にしたヴァイオレットは、妙な胸騒ぎを覚えずにはいられなかった。



ロクロウを改めて送り出してからはというと、オシュトルはただ独り、コンピュータ室の中で、目を瞑っていた。

(――マロ……)

脳裏に浮かぶは、先の放送でその死を告知された友人の姿。

『にょほ、にょほほほほ! ハク殿~』
『ハク殿は、マロの心の友でおじゃるぅ~ん』
『オエブッ……ハク殿、ちょっと気持ち悪くなってきたでおじゃる……』

出会った頃から、妙に自分に懐いてきた、白塗りの化粧を施した助学士。
お家は位の高い貴族だと聞いていたが、それを鼻に掛けることもなく、誰に対しても親しく接する優男。
酒は弱いくせに、何故か宴では、誰よりも羽目を外そうと躍起になるお調子者。
酒宴の後、ベロンベロンになった彼を介抱した回数は数知れず。

『う、嘘でおじゃる! ハク殿は、そう簡単に死ぬような御仁ではないでおじゃる!』
『友が死んだというのに……オシュトル殿は……まだ戦をするのでおじゃるか』
『ハク殿を殺したのは、オシュトル殿でおじゃろう?』
『……ひょほほ、ハク殿を使い捨てにしておいて、随分身勝手でおじゃるな』

“ハクの死”をきっかけに、彼とは袂を分つことになったが、それでも、いつかはよりを戻したいと、そう思っていた。
何故ならば、彼もまたオシュトルやミカヅチらと同じく、かけがえのない友人であったのだから――。

(……すまない、お前には色々と迷惑をかけちまったよな……。
そっちに行くことになったら、全てを話す。
だから、それまでの間、待っててくれ、マロ……)

そう心の中で、亡き友へと告げると、オシュトルは目を開け、帰還した臨也とヴァイオレットを出迎えるのであった。




「ゴホッ、ゴホッ……」

大いなる遺跡から離れて、あと少しでE-4エリアから別エリアの境界を跨ぐであろう山林の中で、ロクロウは咳込みと共に吐血する。
手に付着する血を一瞥し、ロクロウは、無惨の毒によって己の生命が、もはや風前の灯火であることを実感する。
無惨を斬るか、毒の緩和か―――何れを取るにしろ、あまり猶予は残されていないようだ。

「――にしてもベルベットの奴が、シグレをなぁ……」

歩調を速める中、ロクロウは独りぼやく。
先のテミスの放送で、ロクロウは、シグレ打倒という宿願が潰えたことを悟った。
長きにわたってその首を狙い続けた、己が兄の死を告げられ、彼は己が目標を見失った。
あの漢を越えることを願い、己が剣技を研鑽し、幾多の修羅を乗り越えてきたロクロウにとって、シグレの死は到底受け入れがたいものだった。
思考停止し佇む、ロクロウ。それを見兼ねたオシュトルは、更新されたレポートの内容を基に、とある事実を告げてきた。

――シグレ・ランゲツを殺害したのはベルベット・クラウである、と。

元々、ロクロウを含む災禍の顕主一行と、シグレは敵対関係にある。
今は、殺し合いという異常な事態下ではあるが、それでもベルベットとシグレが出会うことがあれば、互いの立場から、衝突する可能性は大いに考えられる。
その闘争の果てに、ベルベットがシグレを討ち取ったということであれば、多少歯がゆい部分はあれど、致し方ないと割り切れるだろう。
だが、あのレポートに記されていたように、もしもベルベットが別の『ナニカ』に変貌して、その第三者がシグレを殺したということであれば、己が宿願を潰してくれた落とし前はつけてもらわねば、気は収まらない。

夜叉の業魔は、言いようのない虚無感と、矛先の確定しない激情を同時に抱え、歩を進めていくのであった。


【E-4/山林/夜/一日目】

【ロクロウ・ランゲツ@テイルズオブベルセリア】
[状態]:全身に裂傷及び刺傷(止血及び回復済み)、疲労(極大)、全身ダメージ(極大)、反省、感傷、無惨の血混入、右腕欠損、言いようのない喪失感
[服装]:いつもの服装
[装備]: オボロの双剣@うたわれるもの 二人の白皇、ロクロウの號嵐(影打ち)@テイルズ オブ ベルセリア
[道具]:基本支給品一色、不明支給品0~2
[思考]
基本:主催者の打倒
0:無惨を探しだして斬る。
1:シグレを殺したベルベットと出会うことがあれば、元の人格を保っているか確認する。場合によっては斬る。
2: 號嵐を譲ってくれた早苗には、必ず恩を返すつもりだが……
3: 殺し合いに乗るつもりはないが、強い参加者と出会えば斬り合いたいが…
4: 久美子達には悪いことしちまったなぁ……
5: マギルゥ、まぁ、会えば仇くらい討ってはやるさ。
6: アヴ・カムゥに搭乗していた者(新羅)については……。
[備考]
※ 参戦時期は少なくともキララウス火山での決戦前からとなります。
※ 早苗からロクロウの號嵐(影打ち)を譲り受けました。
※ オシュトルからうたわれ世界の成り立ちについて、聞かされました。
※ 垣根によってマギルゥの死を知りました。
※ 無惨との戦闘での負傷により、無惨の血が体内に混入されました。解毒を行わない限り、数時間以内に絶命します。
※ 更新されたレポートの内容により、ベルベットがシグレを殺害したことを知りました。
※ どこに向かっているかは次の書き手様にお任せします。



「――左様か…。先の放送で聞き及んではいたが、残念だ…」

遺跡内のコンピュータルーム。
偵察から帰還した臨也とヴァイオレットより、アリアに関する報告を受けると、オシュトルは沈痛な表情を浮かべて、彼女の死を惜しんだ。

関わった時間は短れど、アリアは、まだ幼さの残る風貌とは裏腹に、確固たる正義に、卓越した射撃及び身体能力、そして豊富な知識と技術力を有した、優秀な人材であったことに違いなかった。
首輪の更なる解析においても、会場からの脱出においても、より一層の彼女の協力を仰げていれば、どれだけ心強く、戦略の幅が広がったことだろうか。

「――しかし、アリアちゃんといい、月彦さん達といい、さっきの彼といい、あれだけ賑わっていた此処も、今じゃあ俺達三人だけ……。
随分と寂しくなっちゃったよね……。」

臨也は、オシュトルの横で、椅子にどかりと座り込み、その背もたれに寄りかかると、わざとらしく溜息を零してみせた。

「まぁここで郷愁に暮れても仕方ないし、今後のことについて、話を切り替えようか。
まずはオシュトルさん――俺たちがいない間に、アンタが発見したことを教えて欲しいな。
何かあるんだろう? わざわざ、この部屋で俺達の帰りを待ち構えていた訳が、さ?」

まぁ大方は予想がついてるけどね、と付け加えながら、臨也はオシュトルに視線を向けると、オシュトルはコンソールを操作し、モニターに情報を投影する。

「察しが早くて助かる……。
二人とも、これを見てくれ――先の放送前にレポートの内容が更新されていた」

オシュトルに促されると、臨也はやっぱりね、といったしたり顔で、ヴァイオレットは不思議そうな面持ちで、モニターを覗き込んだ。


■ 五度目の覚醒について

本実験における五度目の覚醒は、第二回定時放送の後、世界線 Hの参加者『009』にて観測されている。
当レポートの内容を知った鬼の首魁『007』は、『006』と共に『009』を集団から分離させたうえで、実験体と称して『009』に自らの血を混入させて、鬼化させる。
そして、鬼化した『009』の身体を、太陽光の元に晒して、その行く末を観察した。

しかし、元々世界線Hにおいて楽士であった『009』もまた、図らずとも『006』による精神干渉の影響を受けており、その結果、『007』と同様に、太陽光によるダメージを凌駕する回復が齎されたため、死滅することはなかった。
鬼と化した『009』は、『007』に反撃を敢行するも、別の参加者の介入もあり、『007』とは戦闘中断となる。

その後も、『006』を始めとする他の参加者と、戦闘を行なっており、一連の戦闘を鑑みるに、『009』は、鬼化によって身体能力と再生能力は大幅に向上しているように見受けられる。
しかしながら、現在のところ、『006』の精神干渉による鬼の弱点補完以外においては、元々持ち合わせていた楽士の能力との複合効果は確認できていない。

■ 六度目の覚醒について

本実験において、六度目の覚醒を果たしたのは、世界線Lのゲッターパイロット『010』であった。
神と神が衝突する戦場において、『010』は己が精神を具現化させ、カタルシスエフェクトを発現することに成功する。
『010』が発現したカタルシスエフェクトは、『010』が搭乗するゲッター2を模したものとなっており、ここから更に、『010』と同行していたバーチャドールの力によって、過剰強化《オーバードーズ》されている。
しかし、いくら異能を手に入れたとしても、神々の前では、他の参加者同様、その戦力は微弱なものであった。

しかし、これもある種の異能の複合とも言えるだろうか。『010』は、興味深いことに、カタルシスエフェクト発現時に、同行する世界線Oのビルダーに、自らのカタルシスエフェクトを素材化させた上で、それを基にモノづくりをさせている。
その後、この複合異能による産物を起点として、『010』をはじめとする参加者達は結束し、共闘。
尚、同戦場には最初の覚醒者でもある『001』もおり、『010』達と共に神に抗っている。
そして、各々の能力と知略、そして死力を尽くした共同作戦の末、取るに足らないとされていた参加者達により、神々の戦いは終止符を打つこととなった。

しかしながら、その後、この参加者集団は瓦解。
世界線Oのビルダーと、覚醒者『001』を含む複数の参加者が死亡する結果となってしまった。

■ 七度目の覚醒について

本実験における七度目の覚醒は、複数の参加者間で観測された。
先に覚醒を果たしている世界線Aの喰魔『008』は、単身で、複数人の参加者で構成される集団を襲撃する。

その際に、集団の中にいた世界線Gの参加者『011』は、応戦のため、自分に支給されていた原初の仮面(アクルカ)を装着する
元来、仮面は大いなる父(オンヴィタイカヤン)、つまりは人類のために作成されたものであり、亜人(デコイ)では、その出力を十二分に発揮することは出来ないが、今回装着した『011』は正真正銘の人類である。

原初の仮面は、その強力すぎる性能が故、装着者を支配した上で、暴走する危険性を孕んでいたが、『011』は、己が精神によりそれを御した上で、根源に通ずる力を、取り込むことに成功する。
元より、『011』は、水を操る魔力を有していたが、仮面を取り込むことにより、その出力を絶大なものへと向上させた上で、他参加者と共に『008』に応戦する。

だが、対峙する『008』は、一連の戦闘の中で、魔王としての深化を果たし、その規格外の力を以って、『011』を含む参加者達を蹂躙する。
『008』と同じ世界線Aの特等対魔士を殺害した頃には、既に元の人格は喪失したも同然となり、殺戮と破壊の権化と化していたが、ここで世界戦Fの武偵『012』が覚醒。

『012』は、『008』との戦闘の最中、死亡したと思われていた。
事実、『012』に装着された首輪は、一度『012』の死亡を検知している。
しかしその後、『012』の魂の復帰を検知している。
後に『012』が同行者に語った内容によると、『012』の魂は、幾多の偶発的な事象が重なり、我々の観測が及ばない世界線の狭間に行き着き、そこで、その他の放浪する魂と接触―――この接触をきっかけに、覚醒を果たしたとのことだ。
この『012』が述べた内容については、些か議論の余地はあるが、信憑性は不明且つ、我々の観測の外での出来事ということもあり、当レポートでは、これ以上の言及は差し控える。

『008』と『012』の覚醒者同士の衝突は、同時期に繰り広げられた神々の争いに引けを取らないほどの大規模で苛烈なものとなった。そして、戦闘の最中『012』はさまざまな異能を展開した。世界線Aにおける炎の聖隷力、世界線Cにおける鴉天狗が用いる『風を操る程度の能力』、この地で出会った世界線Gの少女が操っていた土属性の魔法等、複数の世界線の理をその一身に取り込んだ『012』は、無限の可能性を披露し、『008』を追い詰めた。

しかし、ここで『005』が戦闘に介入することで、趨勢はまた一転する。
『005』は、一連の騒乱の中で、ゲッターに選ばれ、その大いなる力を取り込み、覚醒(めざ)めていた。
そして、それまで行動を共にしていた『012』とは袂を分かち、『008』に助勢したのである。

その後、更なる乱入者が現れるも、『005』と『008』は戦場を離脱し、一連の争乱は、一区切りをつける形となった。
複数人の脱落者が発生するも、覚醒者である『005』、『008』、『011』、『012』は何れも健在である。
また、一連の争乱の中で、『005』によって殺害された参加者は、『011』が慕っていた参加者であったこともあり、その殺害は、両者に遺恨を残す形となっている。
近々、両者の再度の接触及び衝突が予想される。




「さて、情報を整理しようか」

更新されたレポートに目を通した臨也は、愉快そうな面持ちで、椅子を回転させつつ、オシュトルとヴァイオレットに語り掛ける。

「まずは、このレポートの信憑性について語らせてもらうと、この殺し合いの会場で観察した事象を報告しているって意味だと、間違いはなさそうだよね。
この『三度目の覚醒』ってのは、麗奈ちゃんと月彦さんのことだろうけど、麗奈ちゃんの言っていることとも合致している訳だし……。
――だよね、ヴァイオレットちゃん?」

「はい、私がお嬢様からお聞きした内容と、符号しております。
付け加えるなら、この『五度目の覚醒』というのは、恐らく茉莉絵様を指しているかと……」

オシュトルの隣に慎ましやかに控えているヴァイオレットが、淡々と首肯する。
臨也は、満足そうに頷きながら、更に言葉を続ける。

「それじゃあ、次にこの『覚醒者』達が、誰かについて、纏めようか。
現在判明しているのは、『006』が麗奈ちゃん、『007』が月彦さん、『009』が茉莉絵ちゃんになる訳だけど、他に心当たりがある人はいるかな?」

「ロクロウによれば、『008』の喰魔とやらは、ベルベット・クラウ――奴の仲間だそうだ。
そして、『003』の仮面の者(アクルトゥルカ)は、ミカヅチ――某の友だ……」

オシュトルからの情報提供に、臨也は満足気に頷く。これで『覚醒者』12名の内の5名が判明したことになる。

「成程ね…。ということはつまり、オシュトルさんは、そのミカヅチさんと同じ世界線Bの出身ということになるんだね?」

「どうやら、そういうことになるらしい」

「じゃあさ、今度はオシュトルさんの世界について、詳しく教えてもらえないかな?
仮面の者(アクルトゥルカ)とか、そういうの含めてさ」

「構わぬが、折角の機会だ…ここは、他の参加者の『世界線』の情報も併せて、各々が知り得ている情報を惜しみなく出し合うべきが得策と考えるが――」

「うん、良いね、それは俺も望むところだよ。
いやぁ、オシュトルさんは話が早くて助かるなぁ。
ヴァイオレットちゃんも、構わないよね?」

臨也からの目配せに、ヴァイオレットは首を縦に振り、再度の情報交換が行われる。
臨也からは、臨也自身の知人の情報とそれを取り巻く池袋の日常の話、Storkから得たメビウス世界とその関係者の情報、この殺し合いの中で見聞きした人間の情報を開示する。
尤も、ウィキッドがジオルドと共謀して、魔理沙を殺害していたところも観察していたと明かすと、オシュトルもヴァイオレットも眉を顰めていたが……。

続いて、ヴァイオレットからは、ヴァイオレットの元いた世界の概要と、麗奈から聞いた彼女と彼女の周囲の人間関係を開示する。
そこに被せるように、オシュトルは、ロクロウと早苗と竜馬から聞いた、彼らの知り合い及び元の世界の情報を展開する。
そして、締めくくりに、自身の知り合いと、仮面の者(アクルトゥルカ)を含むヤマトの知識、そして亜人(デコイ)達の世界の成り立ちを説明する。但し、オシュトル自身が大いなる父(オンヴィタイカヤン)であることは伏せる。

「―――うん、成程ね。
ここで、アリアちゃんから聞いた情報も加味した上で、レポートの内容に当て嵌めると、こんな感じになるのかな」

臨也は上機嫌に、机の上に置かれているメモの上、情報をスラスラと書き連ねていく。



世界線A: 業魔という化け物が蔓延り、それを討伐し人々を守護する聖寮が、秩序を維持する世界。
出身者は、ベルベット・クラウ/ライフィセット/ロクロウ・ランゲツ/マギルゥ/エレノア・ヒューム/オスカー・ドラゴニア/シグレ・ランゲツ

世界線B: 旧人類が滅び、人間によく似た亜人(デコイ)たちが住まう世界。
出身者は、オシュトル/クオン/ムネチカ/アンジュ/マロロ/ミカヅチ/ヴライ

世界線C: 少なくとも『天狗』といった妖怪が実在する世界?

世界線D:

世界線E: 人間が鬼になり、それを討伐する、鬼狩りの剣士が存在する世界?少なくとも、無惨とその使用人(部下?)の累は鬼側の参加者と考えられる。
出身者は、累/鬼舞辻無惨

世界線F: 治安維持の名目で、武偵という国家資格が存在する世界。
出身者は、間宮あかり/神崎・H・アリア/佐々木志乃/高千穂麗

世界線G: 少なくとも『魔法』という概念が存在する世界?

世界線H: μが創った仮想の世界「メビウス」。帰宅部という現実世界への帰還を目指す者達と、メビウスの秩序を保とうとする楽士達が相対している。
出身者は、天本彩声/琵琶坂永至/Stork/梔子/ウィキッド

世界線I:

世界線J: 『演算方式』を用いた能力者達が実在する世界?

世界線K: これといった争いや非日常が存在しない平和な世界。この世界から招かれたのはとある高校の吹奏楽部員達。
出身者は、黄前久美子/高坂麗奈/田中あすか/傘木希美/鎧塚みぞれ

世界線L: ゲッターロボという巨大兵器とその関係者と、ゲッターを敵視する鬼が争う世界。
出身者は、流竜馬/神隼人/武蔵坊弁慶/安倍晴明

世界線M:

世界線N:

世界線O: 『ビルダー』なるものが存在する世界?



「――と、確定しているのはここまでになるね。
二人とも気付いているとは思うけどさ。世界線Aだとか、世界線の後に付けられているこのアルファベットの羅列――ご丁寧なことに、俺達に配られた名簿の並びと連動していて、上から順番にコミュニティごとに割り当てられているんだよね」

臨也は、自身の支給品袋から参加者名簿を机の上に放り投げ、トントンと指を叩いて、並びの法則性を指摘すると、オシュトルは、ふむと頷く。
名簿には、知り合い同士が固められて掲載されているという事実は、オシュトルも既に認識はしていた。臨也が、メモを書き綴るときに、各世界の出身者について、名簿と同じ並びで記していたことも。
ヴァイオレットもまた理解は追いついているようで、沈黙を保ちつつ、情報屋の次の言葉をじっと待っている。

「後は、タネさえ分かれば何とやら……ってやつさ。この並びの法則を観察して、俺達が持っている情報を併せてしまえば―――」

と言いながら、臨也は更に、メモに書き足していく。



世界線A: 業魔という化け物が蔓延り、それを討伐し人々を守護する聖寮が、秩序を維持する世界。
出身者は、ベルベット・クラウ/ライフィセット/ロクロウ・ランゲツ/マギルゥ/エレノア・ヒューム/オスカー・ドラゴニア/シグレ・ランゲツ

世界線B: 旧人類が滅び、人間によく似た亜人(デコイ)たちが住まう戦乱の世界。
出身者は、オシュトル/クオン/ムネチカ/アンジュ/マロロ/ミカヅチ/ヴライ

世界線C: 少なくとも『天狗』といった妖怪が実在する世界? 東風谷早苗が元いた世界線。現世とかけ離れ、妖術や魔法、神通力などの力がひしめく『幻想郷』なる世界。
出身者は、博麗霊夢/霧雨魔理沙/十六夜咲夜/魂魄妖夢/東風谷早苗/鈴仙・優曇華院・イナバ

世界線D:カナメが元いた世界線。カナメが狙っていた王という男は、空間を自在に移動し、人体を切断することが出来るとのことで、少なくとも何かしらの異能は存在する。
出身者は、カナメ/シュカ/レイン/リュージ/ヒイラギイチロウ/王

世界線E: 人間が鬼になり、それを討伐する、鬼狩りの剣士が存在する世界? 少なくとも、無惨とその使用人(部下?)の累は鬼側の参加者と考えられる。
出身者は、累/鬼舞辻無惨/冨岡義勇/錆兎/煉獄杏寿郎

世界線F: 治安維持の名目で、武偵という国家資格が存在する世界。
出身者は、間宮あかり/神崎・H・アリア/佐々木志乃/高千穂麗/夾竹桃

世界線G: 少なくとも『魔法』という概念が存在する世界? 臨也が目撃したジオルドは炎を自在に扱っていた。
カタリナ・クラエス/マリア・キャンベル/ジオルド・スティアート/キース・クラエス/メアリ・ハント

世界線H: μが創った仮想の世界「メビウス」。帰宅部という現実世界への帰還を目指す者達と、メビウスの秩序を保とうとする楽士達が相対している。
出身者は、天本彩声/琵琶坂永至/Stork/梔子/ウィキッド

世界線I: ブローノ・ブチャラティが元いた世界線。アリアの話によれば、ブチャラティは『スタンド』なる能力を駆使していたとのこと。
出身者は、ジョルノ・ジョバァーナ/ブローノ・ブチャラティ/リゾット・ネエロ/チョコラータ/ディアボロ

世界線J: 『演算方式』を用いた能力者達が実在する世界?
出身者は、浜面仕上/フレンダ=セイヴェルン/絹旗最愛/麦野沈利/垣根帝督

世界線K: これといった争いや非日常が存在しない平和な世界。この世界から招かれたのは、とある高校の吹奏楽部員達。
出身者は、黄前久美子/高坂麗奈/田中あすか/傘木希美/鎧塚みぞれ

世界線L: 巨大兵器ゲッターロボ及びその関係者と、ゲッターを敵視する鬼が争う世界。
出身者は、流竜馬/神隼人/武蔵坊弁慶/安倍晴明

世界線M: 首無しライダーや、暴力殺人バーテンダーといった、都市伝説が実在する世界。
出身者は、セルティ・ストゥルルソン/岸谷新羅/平和島静雄/折原臨也

世界線N: アリアの話によれば、桜川九郎は妖怪の肉を食べたことで不死能力を有しているとのこと。
出身者は、岩永琴子/桜川九郎/弓原紗季

世界線O: 『ビルダー』なるものが存在する世界?
出身者は、ビルド/シドー

世界線P: 大陸内の大戦が終結して、平和に向けて前進しつつも、未だ戦闘の余波は各地に影を落としている世界。
出身者は、ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン



「――こんな感じに落ち着くかな。
まあ、一応誰がどこの世界線の出身で、異能やら何やらを使えるかの指標にはなるかとは思うから、頭には入れといた方が良いよ」

出来上がったメモを満足そうに眺めながら、臨也は、オシュトルとヴァイオレットにそう促した。

レポートで確認できた世界線のうち、アルファベットで最も進んだ文字を確認できたのは、ビルダーなるものが存在する世界線Oである。
しかし、「ゲームの参加者は、16の世界線から選抜されている」という旨の文頭を鑑みれば、世界線はPまで存在し、名簿の最後に記載されているヴァイオレットは、この世界線Pに所属するはずだ。
また、各世界線から選出された参加者の人数は、名簿順が下になるほど――つまりは世界線に付与されたアルファベットが進むにつれ、逓減していることと、参加者名簿に自身の知り合いはいない、という本人の言から、世界線Pはヴァイオレット単身で選出されていると推測される。

後は、前述の名簿順の法則を当て嵌めて。
各世界線の参加者は、同一の文化圏及び時代から選出されているということを鑑みて。
これまでに得た情報と統合させて、世界線の情報を加味した名簿を導き出したのである。

「まぁ、幾つかの世界線は得体のしれないままだけど、これに関しては、追々補完していくしかないよね。
該当する参加者と遭遇した際は、是非とも根掘り葉掘り聞き込みをしたいところだね」

尚、世界線の内Dについては、臨也は、カナメと一時的に接触はしているが、カナメが切迫していた状況だったため、彼の元いた世界線の情報について、深く切り込む余地はなかった。
しかし、後に盗み聞きしたウィキッドとジオルドの会話の中で、カナメが狙っていた王は、何かしらの異能を使役することは見出せている。

また、世界線Iについては、その出身者と思われる『ブチャラティ』と、オシュトルとヴァイオレットは、一時的に行動を共にしたが、彼は、あまり自身のことを公にすることはなかった。但し、アリアと行動を共にしていたという、もう一人の『スタンド』なる能力を駆使していたという。

世界線Nについてもまた、アリアを経ての情報となるが、少なくとも妖怪、魑魅魍魎が実在する世界のようで、桜川九郎は、人魚の肉を食した異能力者とのことで、他の参加者も何らかの異能を有している可能性がある。

「――しかし、こうして改めると、一癖も二癖もある世界線が選出されていると見えるな」

「…麗奈ちゃん達は例外のようだけど、それでも世界線Kから、『覚醒』して異能持ちになっているのが二人いる。主催者は、こういう事例も期待して、敢えて一般人の麗奈ちゃん達を抜擢したんじゃないかな?
ああ…折角だし、ここまでの情報を基に、残りの『覚醒者』が誰なのか、詰めていこうか――」

臨也は、再びメモ用紙を取り出すと、上機嫌にペンを走らせていく。
その様相は、まるでパズルを解いていく童のようだと、オシュトルは思うが、それを口走ることなく、ヴァイオレットとともに、彼が書き綴る内容を追っていく。



『001』→鎧塚みぞれ
『002』→煉獄杏寿郎or錆兎
『003』→ミカヅチ
『004』→安倍晴明
『005』→琵琶坂永至
『006』→高坂麗奈
『007』→鬼舞辻無惨
『008』→ベルベット・クラウ
『009』→ウィキッド
『010』→流竜馬or神隼人
『011』→メアリ・ハント
『012』→間宮あかり



羅列される覚醒者と思わしき参加者達の名前。
これまで、正体が判明していたのは、『003』、『006』、『007』、『008』、『009』のみだったが、レポートに記された時系列とそれぞれが属していた世界線を鑑みれば、推測は容易であると、臨也は語っていく。

――『001』は、第二回放送頃は生存し、第三回放送前に死亡した世界線Kの参加者。これに当て嵌まるのは、鎧塚みぞれ唯一人となる。

――『002』は、第一放送前に死亡した世界線Eの参加者であることから、煉獄杏寿郎か錆兎のどちらかということになる。但しこの二人に関しては情報はなく、鬼側か鬼狩り側なのかも定かではない状況である。

――『004』は、世界線Lの陰陽師ということで、流竜馬の情報と照らし合わせると、安倍晴明が該当する。

――『005』は、琵琶坂永至。Storkの話では、カタルシスエフェクトなる能力は、メビウスの中でも、帰宅部特有のものであり、楽士は使えない。この殺し合いに招かれている帰宅部の参加者は、天本彩声と琵琶坂永至の二人だが、天本は既に死亡しているため、残るは琵琶坂のみとなる。

――『010』に関しては、まだ生存しているであろうゲッターパイロットということで、流竜馬もしくは神隼人のどちらかとなる。

――『011』は、恐らくは、メアリ・ハント。琵琶坂に殺された参加者が、第三回放送に死亡告知された同じ世界線のカタリナ・クラエスだと仮定すれば、辻褄は合う。

――『012』は、アリアの後輩武偵である間宮あかりの可能性が高い。尤も、世界線Fのもう一人の生存者、夾竹桃なる人物の情報を持ち合わせていない為、まだ確定とまでは言い切れないが……。

「――とまあ、これである程度の情報を突き詰めることは出来たね。
さてさて、それじゃあ俺達は、これからどう行動すべきだろうか?」

臨也はニタリと口角を釣り上げながら、オシュトル達へと問い掛ける。
まるで、此方を品定めするかのようなネットリとした視線を受けつつも、オシュトルはふむ…と、考え込む。

成程、確かに、レポートの考察によって、この殺し合いの中で発生している様々な戦闘内容及び大方の参加者の状態を把握することは出来た……。
しかし、問題は、この情報をどのように活かし、今後自分達がどのように行動していくべきかにある。

「某としては、この『覚醒者』達と接触すべきだと考えるが、如何か?」

少なくとも、このレポートに記載された内容からは、主催者は、幾多の戦闘をきっかけに異能に目覚め、進化していく参加者達に注目しているように見受けられる。
仮に、参加者のそういった『覚醒』を目的として、この舞台を築き上げたのならば、『覚醒』を果たした参加者を、こちらで確保しておけば、いざという時の交渉材料にもなり得るはずだ。

そんな思惑を籠めて、オシュトルは、臨也とヴァイオレットを見やる。
臨也は、求めていた返事を引き出せたことに、満足げな表情を浮かべる。

「……私は、お嬢様をお探しできるのであれば、問題はございません……」

これに対して、ヴァイオレットは、物憂げな表情で、そう呟く。
彼女の脳裏には、植え付けられた本性に苦しめられ、涙を流していた麗奈の姿が深く刻み込まれている。
麗奈を救ってあげたい――。寄り添ってあげたい――。
そんな想いが、彼女の心を強く締め付けてくる。

「うん、そうだね。
接触すべき『覚醒者』については、麗奈ちゃんを最優先にしておこう。
麗奈ちゃん、心配だよね。食人衝動に駆られて、他の参加者を襲うことなんてなければ良いんだけどさ」

「……お心遣い頂きありがとうございます……」

ヴァイオレットの心情をなぞるかのような臨也の言葉に、彼女は丁寧にお辞儀を返した。

「ああ、それとアリアちゃんの後輩の間宮あかりちゃん――彼女も優先度は高めだね。
このレポートに書かれている、主催者の観測及ばない世界線の狭間とやらで、何を体験したのか非常に興味がある」

思い出したかのように言葉を付け加える臨也。
そんな臨也に、オシュトルもまた頷き、首肯する。

「…ふむ、この会場で運営の目を搔い潜るのであれば、彼女の話は聞いておいて損はないだろう」

現状、レポート内の五度目の覚醒報告において、『当レポートの内容を知った鬼の首魁〜』と記載があるように、オシュトル達がこのレポートを見ていることは、運営は認識しているようで、やはり監視の目は厳しいと考えられる。
ハッキングによるアクセスに対応もせずに、尚もレポートの更新を行っているのは、余裕の表れなのだろうか、それとも臨也が言っていたように、参加者のハッキングを見越した上で、敢えて参加者向けの資料として開示しているのだろうか――何れにしろ、レポートの情報を深掘りしただけの現状では、未だ自分達は掌の上で踊らされているだけである。

故に、主催者を出し抜くための材料が必要な今、間宮あかりに関する記述は、オシュトル達にとって無視できるものではなかった。
無論、この間宮あかりに関する情報を記載したのも、運営だということを鑑みれば、未だ連中の掌の上で、敢えてあかりに注目するよう誘導されている可能性も否めないが。

「――して、臨也殿……。
あかり殿に関するレポートのことだが、もう一点気になる部分があるのだが…」

それでも、前に進むためには、眼前にある垂らされている蜘蛛の糸に縋っていくしかなく、オシュトルは、更なる考察を深めるべく、臨也に話を切り出していく。
すると、臨也は待ってましたとばかりに、指をパチンと鳴らした。

「流石っ! オシュトルさんは目敏いなぁ!
お察しの通り、間宮あかりちゃんのレポートには、もう一つ……見過ごせない重大な記述があるんだよね」

「それが、この【『012』に装着された首輪は、一度『012』の死亡を検知している】と【『012』の魂の復帰を検知している】の箇所だな」

「うん、そうそう。
主催者に参加者の生殺与奪の権利を常に握らせ、殺し合いを強制させる――それが俺達に嵌められた“こいつ”の目的だと思っていたけどさ…。
この記述を読み解く限りだと、どうやらそれ以外の役割も担っているようだ――」


臨也は、トントンと自身の首に嵌められた銀色の枷を人差し指で叩いてみせる。
オシュトルとヴァイオレットは、その動きに釣られるように、モニターに投影された該当記述に視線を落とし、その意味を咀嚼する。

「……この首輪は、私達の生き死にの監視も兼ね備えている――ということになりますでしょうか?」

「いや、それだけではない……。
記録では、あかり殿が息を吹き返した事象について、『蘇生』ではなく、敢えて『魂の復帰』と記している。
そして、彼女の『魂』は、主催者の観測及ばない場所にて、別の『魂』との邂逅を経て、回帰していると……。つまりこれは―――」

「ストレートに解釈すると、首輪は、参加者の『肉体(うつわ)』と、それに内包されている『魂(なかみ)』の両方を監視しているってところかな?」

臨也は、オシュトルの言葉を重ねた上で、そのように結論付けた。
間宮あかりは一度死亡している――これは、文字通りの生物学的な意味での死亡を意味する筈。つまり、これを検知できたということは、首輪にそういった機能が実装されている裏付けになる。
しかし、生物学的な死亡を検知したにも関わらず、その後には、あかりの『魂』が『復帰』したという報告が上がっている。
ここから導き出されるのは、首輪は参加者の『魂』を捕捉し、それが肉体に結び付く事象を感知する機能を有していることだ。
無論、『魂』なるものが、そのままの意味ではなく、何かの隠語である可能性も排除しきれないが……。

「……でもさぁ、仮にそんな感知機能が実装されているとして、主催の連中は一体全体何を思って、そんなことをしているんだろうね? 果たして、その目的は?
『魂』なんていうものが、実際に存在するかはさておき、仮にそんな概念が実在するとしても、参加者の『魂』を捕捉したところで何の意味もないと思うんだけど?」

臨也は、オシュトルとヴァイオレットに、問いかける。
確かに、単純に参加者の生死の判定だけなら、ゲームの管理上、必要な措置であると言われれば、納得は出来るだろう。
だが、それとは別に、『魂』とやらを感知させるシステムを、この殺し合いの管理に、わざわざ組み込んだ意図が、今一つ見えてこない。

「某が、察するに――、主催者は、ゲームを運営する上で、不測の『魂』の離別を警戒しているのではないだろうか?」

ヴァイオレットが返答に窮する側で、オシュトルは、表情を引き締めつつ、言葉を紡いでいく。

「――”不測”というと?」

「……つまるところ、参加者の死亡以外での―――正規の手順を踏んでいない、偶発的な魂と肉体の乖離だ」

「なるほどね……。古来より人間は死んでしまうと、その魂はあるべき場所に還る――と言い伝えられてるけど、この場合は、『死』が、魂と肉体の切離における、オシュトルさんの言う正規の手順ってところかな?」

感心したように頷く臨也を目端に捉えながら、オシュトルは「左様」と相槌を打つ。

―――ヒトは死して、その肉体が朽ち果てても、その魂は不滅であり、常世(コトゥアハムル)、もしくは地獄(ディネボクシリ)に帰す。

確かに、オシュトルが住まう亜人達の世界にも、独自の宗教観は存在するのだが、所謂ヒトの『魂』についての考え方については、旧人類時代にも存在した宗教観に通ずるものがあった。
オシュトルの考察が正しければ、運営は、そういった普遍化されたルールから逸脱した、不測の事態を検知する意図があるとみられる。

「――けどさぁ、幾ら“不測”と前置きしたとしても、運営が危惧する幽体離脱まがいなことって、普通に考えたら、起こり得るものじゃないよね?
いや…幾つもの世界線が存在するから、断言するのは早計かな?
まぁ少なくとも、俺がいた世界では、オカルトの域に片足突っ込んでるような事案なんだけどさ。
オシュトルさんやヴァイオレットちゃんの世界では、どうだったかな?」

臨也は、肩を竦めながら、オシュトルとヴァイオレットに質問を投げ掛けた。
ヴァイオレットは首を横に振り、オシュトルもまた「それは……」と口篭る。
二人にとっても、死を介さない魂の離脱という事案は、怪談や禍日神(ヌグィソムカミ)などと結びついた逸話で聞いたことがある程度にとどまっている。

「どうやら、俺のとこだけの常識じゃないみたいだね。いやぁ良かった良かった〜。
まぁでも、他の世界線だなんだといっても、結局このμが作ったとされるこの殺し合いの世界(かいじょう)の中だと、幽体離脱は、偶発的に起きる可能性も排除できないってことで、主催者はそれを監視したいってことなんだよね……。
それで何故連中が、そんなことを憂慮しているのか考えてみたんだけどさ―――」

そこまで言うと、臨也はそこで言葉を区切り、ディスプレイに投影される内容をスクロールし、レポートの冒頭の辺りまで戻した。

「この『実験』の前提として、連中は、参加者の肉体(うつわ)と魂(なかみ)を別々に準備して、それを人為的に接着させたんじゃないか――って思ったんだけど、どうかな?」

「「――っ!?」」

臨也が唱えた仮説に、ヴァイオレットとオシュトルは瞠目した。
確かに、参加者を準備する上で、本来は帰属関係にない肉体と魂を、何らかの技術で接着させ一塊に集約させていると仮定した場合、その不具合に備えるのは、システムを構築したものにとっては、至極当然の責務といえるだろう。
裏を返せば、この首輪がある限り、そういった不測の『肉体と魂の離別』を見逃さまいという思惑が見えてくる。

「Stork君によれば、μはメビウスでNPCっていう人間の贋作を創って、メビウスに招かれた人間達の生活に融け込ませていたらしい……。
恐らく、このNPCが、今回の参加者の肉体(うつわ)に当て嵌まるんじゃないかな?
ほら、首輪にもご丁寧に『メビウスをベースとした世界で生み出された存在』って書いてあるしね…」

臨也は、可笑しそうに笑うが、二人は笑う気にはなれなかった。
臨也の仮説が正しければ、今いる自分達の存在は、結局のところ主催者の創作物であり―――。
記憶も、人格も、想いも―――全てが贋作に過ぎないことになる。

「――で肝心の魂(なかみ)をどうやって、肉体(うつわ)に流し込んだのかについてだけど……オシュトルさん―――」

「…ふむ?」

「オシュトルさんが話していた、大いなる父(オンヴィタイカヤン)ってのは、大層発展した科学技術を誇っていたようだったけど、例えば、擬似人格を人工物にねじ込むことってできたりしたのかな?」

その問いかけにオシュトルは、一瞬目を見開く。
己が記憶を掘り起こせば、思い当たる節があったからだ。

「……可能だ……。無論皆が出来るわけではないが、ある程度の技術を齧っていれば、自分達の人格をコピーし、それを人形などにインストールする芸当はそう難しくはものではないと、我が主から聞き及んでいる……」

あくまでも、ヤマトの國に生まれた亜人として、その身命を捧げた御仁から伝え聞かされていたというていで、臨也に情報を与えるオシュトル。
事実、旧人類の時代を生きていたハクとしては、臨也が話した人格のインストール技術については、覚えがある。
旧人類達は、自分達の人格をコピーし、それをマスコットだの代理人形(ブロクシード)にインストールさせていたし、ハク自らも必要な機材さえあれば、出来なくもない。

「成程ね…もしかしたらって思ったけど、ビンゴだったって訳か」

「つまりは、『魂』とはμの創ったNPCにインストールされたデータであって、主催者は大いなる父(オンヴィタイカヤン)の技術を用いて、それを実現させた――と、臨也殿は、そう申されているのだな?」

「確定ではないよ。今手元にある情報を繋ぎ合わせて、最も辻褄が合いそうな考察を導き出したまでに過ぎない。まぁ俺個人としては―――」

臨也は、そこで言葉を区切ると、オシュトルとヴァイオレットを交互に見ながら、それまで張り付けていたへらへらした表情を崩した。

「こんなクソッタレな考察が、的外れであることを、心から願ってるんだけどさ……」

能面のような無表情で、人間愛好者は、そう吐き捨てるのであった。

――不愉快だね……

情報屋の胸中に蠢くは、純粋な不快感であった。
この会場では、眼前の二人をはじめ、本当に興味の尽きない人間が、揃い踏んでいた。
しかし、この殺し合いの背景について、考察を進めるうちに、今自身が好奇を抱いている対象が人間を模した紛い物であると可能性が高いと突きつけられてしまえば、興醒め以外の何者でもない。

――ああ、とても不愉快だよ……

人間愛を至上とする臨也にとって、このような展開は悪夢に他ならない。
そして内に宿す言いようのない喪失感が、主催者への反感を、肥大化させていく。

しかし――。

――だけど、あんた達には、俄然興味が湧いてきたよ、テミス……

その裏返しとして、テミスを始めとした主催者陣営への関心も、増々膨らんでくる。
このクソッタレな仮説が正しかったとして、何故彼女らは、盤上に75の駒を創作した上で、このような殺人ゲームを開催したのか――。
盤上での出来事を、どのような思いで観察しているのか――。
もしも、取るに足らない存在とみていた駒達によって、盤面をひっくり返されでもしたら、どのような反応を示してくれるのだろうか――。

――まぁ今は、あんた達の掌の上で、俺らしく振る舞わせてもらうよ。
あんた達も、それを俺に期待しているんだろうしね。

臨也は、テミスら主催者陣営に対し、胸中でそう告げる。
今は、敢えていつもの自分らしく、どうしようもなく『人間』を愛する情報屋として、盤上を転げ回ってみせよう。
そして最終的には、その盤面を覗き込む彼女らも愛するとしよう。
μを使役する黒幕達が『人間』であることを願いつつ、臨也はその口角を吊り上げるのであった。




「ロクロウ様は、どちらに向かわれたのでしょうか?」

レポート内容の整理及び、それに伴う考察を纏めたオシュトル達は、次なる目標を一先ず『覚醒者』の確保と定めて、遺跡を発たんとしていた。
そんな折、ヴァイオレットは、遺跡前ですれ違ったロクロウのことをふと思い出し、オシュトルに尋ねた。
去り際に垣間見せて彼の危うい雰囲気--それが、ヴァイオレットにはどうしても気になっていた。

「……恐らく、鬼舞辻無惨を討ちに行っているかと思うが……。
具体的に何処に向かうかまでは、某も聞いておらぬ……」

「……左様でございましたか……」

オシュトルからの返答に物憂げに顔を俯かせるヴァイオレット。
そんな彼女の姿を視線に捉えながら、オシュトルもまた、先のロクロウとのやり取りを思い返し、不安を覚える。

――果たして、シグレ・ランゲツ殺害の下手人を告げたのは正解だったのか、と。

放送直後、己が目標を失った夜叉の業魔は、死人のような目のまま、放心したように佇んでいた。
そこに漂っていたのは虚無。しかし、一方で何を仕出かすか分からないという危うさも孕んでいた。
言ってみれば、導火線に火の付いた爆弾を目の前にしているような緊張感が、オシュトルを包み込んでいた。
故に、万が一、その火種が爆発した時を想定して、間違っても自分や他の仲間たちに被害が及ばぬようにと、その矛先を他所に向かうよう材料を与えたのだ。
『シグレ・ランゲツを殺したのは、ベルベット・クラウである』と――。

それを聞いたロクロウは、ただ一言「そうか…」とだけ零して、去っていった。
結果だけみれば、ロクロウが我を失うことはなかったので、杞憂に終わった。
しかし、今回の一手が、最終的にロクロウの行く末に如何なる影響を与えるのかは、計り知れない。

「――そうそう、オシュトルさん。
ずっと気になっていることがあるんだけどさ――」

とここで、ロクロウの話には全く興味を示していなかった臨也が、唐突にそう切り出すと、オシュトルの思考は現実へと引き戻される。

「……如何したか……?」
「いやね、オシュトルさんは、自分のこと亜人だと言ってはいるけどさぁ。
俺の見立てでは、実際は『人間』--オシュトルさんの世界でいう旧人類だと思うんだよ……。大いなる父(オンヴィタイカヤン)ってやつ?」

――ドクンッ!!

瞬間、オシュトルは心の臓が飛び跳ねる感覚に襲われた。

「何故、そう思うか……?」

動揺を押し殺しながら、平静を装って臨也に尋ねるオシュトル。

「例えば、この施設にあるコンピュータに精通しすぎなところとか、亜人特有?の獣耳や尻尾がないとか、理由を挙げるとキリがないんだけど……。
それを踏まえてもどうにも、オシュトルさんからは、獣臭さが感じ取れないんだよね。
まあ、この場合、俺の直感ってヤツも大きいんだけど、さ」

臨也は、ねっとりとオシュトルの表情を品定めするような視線を送る。

なるほど、確かに情報を整理すれば、違和感を覚えるのも無理はない。
偽りの仮面を被るものとしては、その振る舞いに、些か迂闊な部分があったなとオシュトルは、心中で自らを叱責する。

「臨也殿――誤解なきよう願いたいのだが、某は、ヤマトの地に生まれた正真正銘の亜人だ。
旧人類が遺した機器に精通していたのは、聖上より賜った知識を実践していたに過ぎぬ」

少し無理はあるなと、自分でも感じながらも、オシュトルは言葉を紡いでいく。

「次に、某の容姿についてだが、亜人の男性の多くは、成人時に尾を切断するもの故、某の尾がないのも当然。
耳についても、種族によっては旧人類のそれと変わらないものもいる」

伝え聞いている情報も織り込ませながら、どうにか臨也の指摘事項を一つ一つ潰していく。

「最後に獣臭さと申されたが、それは心外だな。
我らは、臨也殿のいう『人間』に、他の生物の遺伝子を組み込んだのが起源と聞く。
故に我らのベースは『人間』であり、『人間』と同等の知性を以って、理知的に行動する。
そして、我らにも『人間』と同様に心もある旨、ご承知願いたい」

今後クオンやムネチカと合流することも想定して、臨也の亜人に対する認識を改めさせんと、オシュトルは畳み掛ける。

「なるほどね……。まぁ、オシュトルさんがそう言うなら、そういうことにしておくよ」 

臨也は未だ好奇の目をオシュトルに向けつつも、それ以上追及することなく、くるりと向きを変えて、歩き出してしまう。
その背中を追う形で、オシュトルとヴァイオレットも続いていく。

(……やれやれ…相変わらず、食えん男だ……)

臨也の後ろ姿を眺めながら、オシュトルはそっと溜め息をつく。
全くもって、油断も隙もあったものではないと。
如何に此処がヤマトでなくても、偽りの仮面を纏う身であるオシュトルにとって、自身が『大いなる父』であることを認めてしまっては、後々不都合が生じるのは必定だ。
少なくとも、あの男にその情報が渡ってしまうと、ロクなことにならぬであろうことだけは、断言出来る。
故に、臨也への警戒については、引き続き怠らぬようにする。

(--まぁやり辛いと言えば、此方もそうだが……)

オシュトルの目線が、隣を歩くヴァイオレットへと向けられる。
寡黙な自動書記人形はただ前を向いて、黙々と歩いていく。
今はこうして、三者協力の態勢を築きつつ、行動を共にしているが、ウィキッドなどの殺し合いに乗った側の参加者と遭遇でもすれば、その処遇を巡って、不殺主義を掲げるヴァイオレットとの関係に亀裂が入る可能性が想定される。

(……ったく、追加労働手当をいくら積まれても割に合わんぞ……)

仮面の下でそっと溜め息を吐きながら、オシュトルは、この主義主張の全く異なる二人との行く末に、頭を悩ませるのであった。

【E-4/大いなる父の遺跡入り口付近/夜/一日目】

【オシュトル@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]:健康、疲労(大)、全身ダメージ(中)、強い覚悟
[服装]:普段の服装
[装備]:オシュトルの仮面@うたわれるもの 二人の白皇、童磨の双扇@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品一色、工具一式(現地調達)、チョコラータの首輪
[思考]
基本:『オシュトル』として行動し、主催者に接触。力づくでもアンジュを蘇生させ、帰還する
0:臨也、ヴァイオレットとともに『覚醒者』を探す。
1:レポートに記載されている『覚醒者』を確保する(優先はあかり、麗奈)
2:ロクロウを蝕んでいる毒(無惨の血)の治癒方法を探る
3:首輪解除に向けて、首輪の緊急解除コードを探る
4:クオン、ムネチカとも合流しておきたい
5:ヴライ、無惨を警戒
6:ゲッターロボのシミュレータについては、対応保留。流竜馬とその仲間を筆頭に適性がありそうな参加者も探してきたい。
7:殺し合いに乗るのはあくまでも最終手段。しかし、必要であれば殺人も辞さない
8:『ブチャラティ』を名乗るものが二人いるが、果たして……。
9:誰かに伝えたい『想い』か……。
[備考]
※ 帝都決戦前からの参戦となります
※ アリア、新羅と知り合いの情報を交換しました。
※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※ 首輪の説明文を読みましたが、「自分たちが作られた存在」という部分については懐疑的です。
※ 『覚醒者』について纏められたレポートを読み、覚醒者『003』がミカヅチであることを認識しました。
※ どこに向かっているかは次の書き手様にお任せします。

【折原臨也@デュラララ!!】
[状態]:疲労(中)、全身強打、右拳骨折、言いようのない喪失感
[服装]:普段の服装(濡れている)
[装備]:
[道具]:大量の投げナイフ@現実、病気平癒守@東方Projectシリーズ(残り利用可能回数0/10、使い切った状態)、まほうのたて@ドラゴンクエストビルダーズ2、マスターキー@うたわれるもの 二人の白皇、不明支給品0~1(新羅)
[思考]
基本:人間を観察する。
0:オシュトル、ヴァイオレットとともに『覚醒者』を探す。
1:レポートに記載されている『覚醒者』を確保する(優先はあかり、麗奈)
2:首輪解除に向けて、首輪の緊急解除コードを探る
4:茉莉絵ちゃんは本当に面白い『人間』だったのに...残念だよ。
5:平和島静雄はこの機に殺す。
6:『月彦』は排除する。化け物風情が、俺の『人間』に手を出さないでくれるかな。
7:佐々木志乃の映像を見た本人と、他の参加者の反応が楽しみ。
8:主催者連中をどのように引きずり下ろすか、考える。
9:『帰宅部』、『オスティナートの楽士』、佐々木志乃、オシュトル、ヴァイオレットに興味。
10:オシュトルさんは『人間』のはずなのに、どうして亜人の振りをしてるんだろうね?
11:ロクロウに興味はないが、共闘できるのであれば、利用はするつもり。
[備考]
※ 少なくともアニメ一期以降の参戦。
※ 志乃のあかりちゃん行為を覗きました。
※ Storkと知り合いについて情報交換しました。
※ Storkの擬態能力について把握しました
※ ジオルドとウィキッドの会話の内容を全て聞いていました。
※ 無惨との情報交換で、第一回放送時の死亡者内容を把握しました。
※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※ 首輪の説明文を読みましたが、「自分たちが作られた存在」という部分については懐疑的です。
※ 『覚醒者』について纏められたレポートを読みました。
※ 無惨を『化け物』として認識しました。

【ヴァイオレット・エヴァーガーデン@ヴァイオレット・エヴァーガーデン】
[状態]:全身ダメージ(大) 、肩口及び首負傷(止血及び回復済み)
[服装]:普段の服装
[装備]:手斧@現地調達品
[道具]:不明支給品0~2、タイプライター@ヴァイオレット・エヴァーガーデン、高坂麗奈の手紙(完成間近)、岸谷新羅の手紙(書きかけ)
[思考]
基本:いつか、きっとを失わせない
0:オシュトル、臨也とともに『覚醒者』を探す。
1:レポートに記載されている『覚醒者』を確保する(優先はあかり、麗奈)
2:お嬢様……どうかご無事で...
3:主を失ってしまったオシュトルが心配。力になってあげたい。
4:麗奈と再合流後、代筆の続きを行う
5:手紙を望む者がいれば代筆する。
6:ゲッターロボ、ですか...なんだか嫌な気配がします。
7:ブチャラティ様が二人……?
[備考]
※参戦時期は11話以降です。
※麗奈からの依頼で、滝先生への手紙を書きました。但し、まだ書きかけです。あと数行で完成します。
※ オシュトルからうたわれ世界の成り立ちについて、聞かされました。
※ アリア、新羅と知り合いの情報を交換しました。
※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※ 首輪の説明文を読みましたが、「自分たちが作られた存在」という部分については懐疑的です。


■ 『覚醒者』に関するレポートについての補足

運営のサーバに用意された、会場内で観測した『覚醒』について纏めた資料。
不定期更新となっており、現在のところ、覚醒者として定義された参加者と、彼らに割り当てられている番号は、以下の通り。

『001』→鎧塚みぞれ
『002』→煉獄杏寿郎
『003』→ミカヅチ
『004』→安倍晴明
『005』→琵琶坂永至
『006』→高坂麗奈
『007』→鬼舞辻無惨
『008』→ベルベット・クラウ
『009』→ウィキッド
『010』→神隼人
『011』→メアリ・ハント
『012』→間宮あかり

尚、レポート上では参加者が元いた世界線について、以下のようにアルファベットが割り当てられている。

世界線A→『テイルズオブベルセリア』の世界
世界線B→『うたわれるもの 二人の白皇』の世界
世界線C→『東方Project』の世界
世界線D→『ダーウィンズゲーム』の世界
世界線E→『鬼滅の刃』の世界
世界線F→『緋弾のアリアAA』の世界
世界線G→『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』の世界
世界線H→『Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-』の世界
世界線I→『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』の世界
世界線J→『とある魔術の禁書目録』の世界
世界線K→『響け!ユーフォニアム』の世界
世界線L→『新ゲッターロボ』の世界
世界線M→『デュラララ!!』の世界
世界線N→『虚構推理』の世界
世界線O→『ドラゴンクエストビルダーズ2 破壊神シドーとからっぽの島』の世界
世界線P→『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の世界

前話 次話
偽りの枷 投下順 追跡セヨ -夜宵のNext Order-

前話 キャラクター 次話
たとえようのないこの想いを 折原臨也 戦々凶々(前編)
たとえようのないこの想いを ロクロウ・ランゲツ Cold War
たとえようのないこの想いを オシュトル 戦々凶々(前編)
たとえようのないこの想いを ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン 戦々凶々(前編)
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