バトルロワイアル - Invented Hell - @ ウィキ

新(ひびけ!!)ユーフォニアム 変えたい未来、変わらない世界

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kyogokurowa

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―――み―――

んむむ...毛の生えた...

―――み―――こ―――

むにゃ...黒い...らいだー...

く――み―――こ―――!!起っきろおおお!!

んにゃはい!?


「やっと起きた。いつまで寝てるのさー」
「あ、あれ?葉月ちゃん?なんでここに?」
「まだ寝ぼけてるみたいだね。だったらこれで目ぇ覚ませー!」

「わっ、わしゃわしゃしないでよぉ。...私、寝てたの?」
「うん。気が付いたらホームルーム中ずっと」
「えぇー...じゃあもう少し早く起こしてよぉ」

「あんまりにも気持ちよさそうだったからつい。けどもうすぐ部活の時間だから流石にね」
「むぅ...放置されなかっただけ有難いと思うべきなのかな。緑ちゃんはもう行ったの?」

「うん。今日は私の愛が抑えきれそうにないんですぅ!って一目散に行っちゃった」
「そっか...よし、私たちも行こう葉月ちゃん!」
「おっし!今日も頑張るぞー!!」


音楽室に着き、緑ちゃんをはじめとした部の皆に挨拶を交わし、少しばかり世間話をしてから演奏の準備に取り掛かる。


なんだろう。なにか変な夢を見ていた気がするけど思い出せない。

...まあいいか。

今はとにかく練習がしたい。北宇治高校が、全国でも金賞を取れるようになるために。

なんて、そこまで考えてふっ、と口元が緩む。

まったく人生とはわからないものだ。かつては「本気で全国にいけると思ってたの?」なんて本気で目指している子に言ってしまった自分が、いまや本気で全国を目指す子になってしまっている。
あの時の自分なら今の自分の姿を絶対に思い描けないだろう。
そんな自嘲染みた想いで誰よりも『本気』の子―――麗奈へと目線を向けてみる。

「あれっ」

もうすぐ全体練習が始まるというのに、麗奈はいなかった。珍しい。麗奈だったらどんな状況でも遅刻すらあり得ないのに。
不思議なこともあるものだなあ、と席に着く。そして、気が付く。いつも隣に座るあすか先輩もまだ来ていない。
頭に疑問符を浮かべならキョロキョロと見回してみれば、みぞれ先輩と希美先輩もいない。他の人はみんないるのに。

応援に徹している希美先輩だけならまだしも、誰より練習に励んでいるあの三人が同時に遅刻だなんて本当に不思議なこともあるものだと思っていると、ガララ、と音楽室の扉が開いた。

滝先生がやってきたのだ。彼の姿を認めると、部全体のスイッチが切り替わり、散らばっていた部員たちもすぐに己の席に着いていく。

先生は教壇に立ち、私たちをぐるりと見まわしいつもの微笑みと共に一言。

「全員、揃ってますね。では本日も頑張っていきましょう」

先生の簡素な挨拶に、部員たちはみんな、力強く「ハイ!!」と返した。...私を除いて。

先生が指揮棒をかざし、みんなもそれに従い演奏の形に入る中、私は未だにポカンと口を開いて呆けたままだった。

「どうしました、黄前さん」

私の様子に気が付いた先生の呼びかけに、ようやく硬直していた思考と身体が動き出す。

「あの、先生。まだ麗奈とあすか先輩、希美先輩にみぞれ先輩が来てないんですけど...」

おずおずと口に出した言葉に、滝先生や周りの皆がキョトンとした表情で私を見つめてくる。
えっ、いま私、変なこと言ってないよね?


「黄前ちゃん、やっぱり私じゃ心許ないかな...」

夏紀先輩が、申し訳なさそうな表情を浮かべながら私の顔を覗き込む。
いや、なんでそうなるんですか。確かにあすか先輩の方が上手だけど、だからって夏紀先輩が足手まといだなんて思うわけないでしょ。

未だに困惑している私の耳に、ひそひそと小さな声の内緒話が届きだす。

というか、なんであすか先輩たちがいないのが当たり前みたいな感じで練習が始まろうとしてるんだろう。
ひょっとして、私が寝てるうちに四人が偶然病気かなにかで休むって連絡がきてたのかな。

「皆さん静粛に」

パン、と掌を叩きながらの滝先生の言葉に、皆の内緒話が静まり返り、先生の視線が私を真っすぐに射貫く。

「黄前さん。彼女たちと親交が深かったあなたがすぐに切り替えられない気持ちはわかります。ですが、それでは金賞をとることはできませんよ。彼女たちの想いを繋ぐのは私たちなんですから」

滝先生の言葉に、部の皆が同感だというように小さく頷いた。けれど私だけは頷くどころかなんの反応もできなかった。
だっておかしいよ。先生の言い方じゃまるで―――彼女たちが辞めてしまったみたいではないか。

「もう一度言います。いなくなった彼女たちの想いを受け継ぐのは私たちですよ、黄前さん」

ハッキリと告げられた。彼女たちはもう戻ってこないのだと。
そこから先の記憶は曖昧だ。先生に理由を尋ねた気もするし、ただ私がわけのわからない言葉を並べていただけな気もする。
でも、私がはい、と小さく返事を返すと、これでこの問題はお終いと言わんばかりに、先生の指揮を合図に合奏が始まった。
皆で奏でられる演奏。皆で目指す本気の夢。なのに。
もう、好きだったはずの合奏はどこからも消えてしまっていた。





そわそわ。とんとんとん。

「なあ、もう少し落ち着けよセルティ」

気絶してしまった久美子が起きるのを待つ弁慶とセルティ
方や、大量のジュースを抱えながら次々に缶を空けていき、片や、落ち着かない様子でしきりに貧乏ゆすりをしたり膝を指で叩いている。

「仲間が心配なのはわかるけどよ、そんなに挙動不審だとまたこの子に勘違いされちまうぜ」
『すまない。やはり会場に新羅がいるとなるとどうにも』

セルティとて目を覚まさぬ久美子にイラついている訳ではない。ただ単純に、新羅が無事でいるかが心配なだけだ。
しかし、こうもソワソワとしていてはあらぬ誤解を受けても仕方ないだろう。

「そんなに気になるならこの子は俺に任せてどこか心当たりを探しに行ってもいいんだぜ?」
『いやそれは無理だろう』
「もとはといえば俺が撒いた種なんだ。俺がなんとかするのが筋...ああいや、種を撒こうってんじゃねえぜ!?無理強いはよくねえからよ」
『最後のは聞かなかったことにしておくが、私にあまり気を遣わなくていいぞ。これは私の意思でやってるんだからな』

弁慶の心遣いは有難く思うが、かといって半分は自分が気絶させたような彼女を弁慶に押し付けるのは後味が悪い。
ここはやはり、二人で誤解を解いてから身の振りかたを考えるべきだろう。

ふぅ、と小さく肩を落とすセルティをまじまじと見つめながら弁慶は己の顎を撫でる。

「ところでよ、セルティ。その新羅って奴とはどういう関係なんだ?そんだけ心配するからにはただの知り合いって訳じゃねえだろうが...ひょっとしてコレか?」
『!!』

言いながら立てられた弁慶の小指の意味を理解したセルティの首元の影が海藻のようにぐにゃぐにゃと揺れる。

『こ、ここここ恋人というか同居人というか、その』
「なんだよわかりやすく取り乱して。ひょっとしてあんなこととかこんなこともしちまってんじゃねえの?」
『~~~~~~~~~!!!』

おちょくるように肘で肩をつついてくる弁慶に、セルティは周囲の影を荒ぶらせ、弁慶を拘束し、チクチク攻め立てる。
頭部が無いはずなのに、一目で照れているとわかるほど取り乱すセルティに、弁慶は笑いながら頭を下げる。


「いで!いででで!悪かったセルティ!ちょっとふざけすぎた!」
『まったく...』
「ん...」

小さく漏れた声に、弁慶とセルティの意識は即座にそちらへと向く。
久美子が目を覚ましかけているのだ。

『弁慶、ジュースの準備だ』
「おう!」

セルティと弁慶がばたばたと忙しく動き回る。セルティは首元を隠す為にビニール袋を被り久美子の頭の下に膝を滑り込ませ、弁慶はジュースを傍らに置き久美子の横にあぐらをかき座り込む。
どうすれば誤解が解けるのか、二人が出した案はジュースで手をうつというあまりにもシンプルなものだった。
彼女の趣味嗜好、その他の情報がなにもない以上、これ以上の最善手があるとは思えなかった。

やがて、うっすらと開けられる久美子の瞼。
意識が覚醒すると共に、いまの自分がどういう状況だったかをぼんやりと思い返す。

「大丈夫か嬢ちゃん。痛いところとかねえか?」

かけられる声に気だるげに振り向く久美子。
彼女は思い出す。確か、殺し合いとかいう妙な出来事に巻き込まれて、この厳つい男に遭遇して、逃げ出して、転んで、それで見せられたのが毛の生えた...

「...イモムシ...」

ふと口をついて出てしまった単語に、久美子は慌てて己の口を塞ぐ。
最悪なタイミングで最悪なことを言ってしまった。恐る恐る弁慶の方へと視線を向けるが、彼が浮かべる表情は怒りではなく困惑。
まるで心当たりがないと言わんばかりに眉を潜め小首を傾げている。

「おお、こいつのことか!」
『見せなくていい!!』

パッ、と明るい表情になり、ごそごそとズボンをまさぐる弁慶と気持ちのいい音を立てて彼の頭部を叩くセルティ。
そんな二人を見ていれば、久美子の警戒心が解けるのも時間の問題だった



『高坂麗奈、田中あすか、鎧塚みぞれ、傘木希美。この四人が久美子ちゃんの知り合いなんだね?』
「はっ、はい」

久美子は弁慶からもらったジュースを飲みながら、二人と情報交換の場に着いていた。
共有するのは、互いの知り合いと知っている施設、そして今後をどうするかだ。

『久美子ちゃんの友達は北宇治高校出身なんだよね。だったら私が様子を見てくるよ』
「おお、そりゃいいな。セルティはついでに新羅を探せるし、久美子ちゃんも安全な場所に隠れられるし一石二鳥だ」

セルティが離れて行動し、弁慶と久美子が池袋駅に留まる。
これならば、セルティが晴明のような手に負えなさそうな相手に出会っても逃げやすいし、久美子も比較的安全な場所に留まれる。
現状では確かに効率的な判断だ。

「あの、セルティさん。私も一緒に連れていってくれませんか?」

けれど、久美子は我慢が出来なかった。思わず、身を乗り出してセルティに詰め寄ってしまった。

『久美子ちゃん?』
「我が儘かもしれないのはわかってます。でも、もしここでじっとしてたらきっと後悔する。そんな気がしてならないんです」

セルティや弁慶が信用できない訳ではない。
ただ、もし自分が動かず隠れていれば、一刻も早くみんなと合流しなければ、なにかとても大切なものが壊れてしまうような、そんな言いようのない不安感に胸を押しつぶされそうになっていた。

「お願いします。私も連れて行ってください」

深々と頭をさげる久美子に、弁慶とセルティは困ったように顔を見合わせ、やがてやれやれと言わんばかりにセルティはかぶりを振り、久美子の肩に手を置いた。

『わかった。一緒に向かおう』

顔を上げ、セルティの返事を見た久美子はお礼と共にもう一度頭をさげた。

『弁慶はどうする?』
「なら俺も行くぜ。ここに竜馬や隼人が来るとは思えねえし、もしセルティが新羅と会えてたら待ちぼうけくらうことになるからな」
「結局、みんな行くことになっちゃいましたね」
「だな。んじゃ、ここには書置きでもしておくか」

駅のポスターの一つを剥がし、裏面に大きく『北宇治高校にて待つ 武蔵坊弁慶』と書くと、ペンを久美子に渡し、久美子も弁慶の隣に名前を書き、今度はセルティがその隣に名前を書いた。
ポスターを駅長室の机に重しを置いて固定すると、三人はさっそく電車に乗り込もうとする。
が、ピタリと弁慶の足が止まる。

「あっと、忘れるところだった」
『どうした?』
「けっこうジュースを飲んじまったからな。ここの奴を補充しておかねえと」

どれだけ食い意地を張ってるんだ。そんなセルティと久美子の冷ややかな視線を露知らず、弁慶は目の前の自販機を再び破壊し、ありったけの缶ジュースをデイバックに詰め込むのだった。





がたんごとん がたんごとん。

なんとか明るく振舞っていた私たちの空気も、会話が減れば自然と重たくなってしまう。

果たして、この先、私たちはいくつの出会いと別れを味わわされるのだろうか。
もしも耐えきれぬ悲しみに晒された時、私は私でいられるのだろうか。

止め処ない不安に覆われる私たちの心とは裏腹に、電車の揺れる音は残酷なほどに普段と変わらない。

願わくば、このまま普段の日常に戻れるように祈りながら。

―――そして、次の曲が始まるのです。

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