ウィキッドとの交戦を終え、一旦の休息の為に身を隠した王。
彼は休憩の余暇として、支給品であるビデオカメラを弄っていた。
彼は休憩の余暇として、支給品であるビデオカメラを弄っていた。
白衣を着た医者が拘束した男を意識のある状態のまま、つま先から順に切り刻んでいく。
響き渡るくぐもった悲鳴、飛び散る血しぶき、犠牲者の悲痛な表情、嗤う医者の後ろ姿。
ビデオカメラの小さな画面に映し出されるのは、そんなひたすらに陰惨で狂気的なものだった。
響き渡るくぐもった悲鳴、飛び散る血しぶき、犠牲者の悲痛な表情、嗤う医者の後ろ姿。
ビデオカメラの小さな画面に映し出されるのは、そんなひたすらに陰惨で狂気的なものだった。
「ん~70点ッ」
画面を指さしながら、王は自分勝手に点数を着ける。
「人間解体ショーを撮影しようって趣味は悪くねえ。けどこのカメラマンたちは駄目だなぁ~。エンターテイメントって奴をわかっちゃいねえ。
今日日、ただのスナップフィルム垂れ流しなんざ流行らねーよ?もっと視聴者に愛を込めてみんなで楽しんで貰わなくちゃ」
今日日、ただのスナップフィルム垂れ流しなんざ流行らねーよ?もっと視聴者に愛を込めてみんなで楽しんで貰わなくちゃ」
このビデオカメラの主―――チョコラータは猟奇殺人鬼だが、王のように派手に暴れまわるのを好む性質ではない。無論、手段としては無差別な殺人も厭わないが、彼はあくまでも被験者の泣き叫び歪んでいく顔を眺めるのが目的であり、このようにカメラに保存しておくのも、あくまでも己が楽しむ為だ。他人からの視線など最初から眼中になく、暴れること自体を目的とする王とは趣向は違って当然である。
だがそんなことは王の知ったことじゃない。チョコラータからすれば傑作のこのビデオも王から見れば半端な作品にすぎないのだ。
手前勝手な批評を終えると、王はパタンとカメラを閉じた。
だがそんなことは王の知ったことじゃない。チョコラータからすれば傑作のこのビデオも王から見れば半端な作品にすぎないのだ。
手前勝手な批評を終えると、王はパタンとカメラを閉じた。
「そんじゃあ俺さまちゃんがいっちょう本当のエンターテイメントって奴を教えてあげちゃおうか!」
☆
ガタンゴトン ガタンゴトン
弁慶、久美子、セルティの3人が電車に乗り込んで早10分。
東側の景色を眺めながら早めの朝食をとる弁慶。
万が一にも麗奈達がいやしないかと西側を眺める久美子とセルティ。
万が一にも麗奈達がいやしないかと西側を眺める久美子とセルティ。
久美子は部の皆のことを考える。
あすか先輩は面倒ごとはのらりくらりと躱すあの容量の良さでなんとかやっていけるだろう。
希美先輩は快活な美人だ。緊張してる人をほぐして安心させているかもしれない。
のぞみ先輩は控え目がすぎるけど、それでも気難しいタイプではないのでトラブルはあまりないはずだ。
問題は麗奈。負けず嫌いのあの子のことだからこんな状況でも勝気でいるのは想像に難くない。
口が上手い方でもないし、問題ごとを起こしてないといいけれど。
あすか先輩は面倒ごとはのらりくらりと躱すあの容量の良さでなんとかやっていけるだろう。
希美先輩は快活な美人だ。緊張してる人をほぐして安心させているかもしれない。
のぞみ先輩は控え目がすぎるけど、それでも気難しいタイプではないのでトラブルはあまりないはずだ。
問題は麗奈。負けず嫌いのあの子のことだからこんな状況でも勝気でいるのは想像に難くない。
口が上手い方でもないし、問題ごとを起こしてないといいけれど。
セルティ・ストゥルルソンは考える。
新羅は変人で狂人だ。それは己でも認めているし私含む皆がそう思っている。
けれど私への愛情は本物だ。彼は私を護るためならば喜んで身を投げ出すくらいのことはしてしまう。故にいまの状況ではそれが恐い。
早く合流して護ってやりたい。
静雄は殺し合いを肯定することはないだろう。だが短気だ。
久美子のようなか弱い女の子ならいざ知らず、弁慶のような体格の男が恐怖で錯乱しようものなら必要以上の制裁を振るってしまうかもしれない。
臨也はいつも通りだろう。
あの手この手で状況をかき乱し人間観察を愉しんでいる姿が容易に想像つく。
新羅は変人で狂人だ。それは己でも認めているし私含む皆がそう思っている。
けれど私への愛情は本物だ。彼は私を護るためならば喜んで身を投げ出すくらいのことはしてしまう。故にいまの状況ではそれが恐い。
早く合流して護ってやりたい。
静雄は殺し合いを肯定することはないだろう。だが短気だ。
久美子のようなか弱い女の子ならいざ知らず、弁慶のような体格の男が恐怖で錯乱しようものなら必要以上の制裁を振るってしまうかもしれない。
臨也はいつも通りだろう。
あの手この手で状況をかき乱し人間観察を愉しんでいる姿が容易に想像つく。
武蔵坊弁慶は考える。
晴明は確実に闘争と混乱を巻き起こす。
それ以上に、奴は和尚様たちの仇だ。確実に引導を渡してやる。
竜馬はこんなゲームなんぞにビビる性質ではないし殺し合いに乗るとも思えない。
ただ馬鹿だ。馬鹿正直にしか進めない為、他の参加者と衝突が絶えないのも想像がつく。
隼人もまたいつも通りだろう。
だが非常に合理的だ。倫理観やらなんやらを平然と踏み越え策に至ってしまう可能性はある。
晴明は確実に闘争と混乱を巻き起こす。
それ以上に、奴は和尚様たちの仇だ。確実に引導を渡してやる。
竜馬はこんなゲームなんぞにビビる性質ではないし殺し合いに乗るとも思えない。
ただ馬鹿だ。馬鹿正直にしか進めない為、他の参加者と衝突が絶えないのも想像がつく。
隼人もまたいつも通りだろう。
だが非常に合理的だ。倫理観やらなんやらを平然と踏み越え策に至ってしまう可能性はある。
各々の想いはあれど、総括すれば『心配だ』のひとことだ。
これまでは比較的呑気にしていた彼らも、次第に殺し合いという現実の空気の重さに警戒心が高まり口数も少なくなっていた。
「あっ、セルティさん、弁慶さん、あれ!」
ふと、線路の先にあるものを見つけた久美子が声を上げる。
セルティと弁慶が窓から身を乗り出し確認すると、そこには一つの人影があった。
セルティと弁慶が窓から身を乗り出し確認すると、そこには一つの人影があった。
「おい!そこにいるとあぶねえぞ!!」
電車が人影のもとへと辿り着くまであと20秒も無いが、回避までには充分に余裕がある。
しかしピクリとも動かない人影に、万が一の事態を案じた弁慶は声を張り上げた。
その声が届いたのか、人影は寸前でピョンと飛び退き電車の射線から外れた。
誰の知り合いでもないが、自分たちが走らせていた電車で死人が出ては気が滅入る。
一同は思わずふぅと息を吐く。
しかしピクリとも動かない人影に、万が一の事態を案じた弁慶は声を張り上げた。
その声が届いたのか、人影は寸前でピョンと飛び退き電車の射線から外れた。
誰の知り合いでもないが、自分たちが走らせていた電車で死人が出ては気が滅入る。
一同は思わずふぅと息を吐く。
瞬間。
空気を震わすほどの強い衝撃が走り、三人の身体が重力を失い世界が逆に回転した。
☆
『よいこのみんな!僕だよ、王さんだよ!今日も元気に【エイスチャンネル】やっちゃうよぉ~!』
ビデオカメラの画面に映る王が、にこやかにVサインを向けながら声を張り上げている。
『ではでは本日のコーナーはこちら!じゃじゃん!!王さんの、猿でもわかる電車の倒し方!!』
『電車に乗ってるとさあ、「満員電車とかマジダリィ」「会社を休む口実が欲しいなあ」なんて思っちゃうこと、あるよね。そんな沈んだ気分をスッキリ解決出来る方法をご紹介しまぁ~す』
『人間が一番スッキリ出来ることがなにかわかるかい?そう、モノを思い切りぶっ壊した時だね。それもデカイものなら猶更。けど電車ってのはとても硬いんだ。流石の王さんでもまともに殴ってたら壊せない。
それが出来るのは僕ちんの友達にいるけど皆が出来ることじゃあない。だからこそココを使うのさ』
それが出来るのは僕ちんの友達にいるけど皆が出来ることじゃあない。だからこそココを使うのさ』
とんとん、と王は己のこめかみを指でつついた。
『電車ってのは線路がないと動けない仕組みになっている。じゃあその線路が途切れたら...どうなるだろうねえ』
王がしゃがみ込み、足元の線路に向かって腕を一振り。するとどうだろう、線路は一瞬にして裂けてしまったではないか。
『これをもうちょっと弄って...ハイ完成!!さて後は電車がここを通過すれば完成です!ちょうど来てるみたいだしぃ、早速試してみようか!』
王はぴょんと軽快に線路から飛び退き電車の行く末を見守る。
『そんじゃ行くぞぉ!3・2・1...』
人差し指中指薬指の3本をカメラに向かって立てつつカウントする。そして
『0!!!』
カウントが0になるのと同時、電車は気持ちのいいほど脱線し宙を舞った。
『イェ―――イ大成功ォ!というわけでエイス式・電車ブッ壊し方でしたぁ!この番組を見てくれたみんなもやってみてくれよな!』
☆
それはほんの数十秒の間の出来事だった。
線路から脱線した電車の衝撃は乗客の悲鳴を奪い去る。久美子はおろか弁慶やセルティでさえまともに立つことすら許されない。
視界はぐるぐると回り床と天井と身体が叩きつけられて。
ひたすら困惑し狼狽する久美子。身体の自由を奪われながらも必死に脱出経路を模索する二人。
このままでは危ない。セルティは身を投げ出される覚悟で、傍の窓枠を影で掴む。
逃走経路を確保したセルティは弁慶と久美子も共に連れて行こうと影を伸ばそうとする。
が、突如飛来したモノの衝突に身体が弾き飛ばされ影のコントロールが乱れ車窓から投げ出される。
ぶつかってきたのは久美子だ。弁慶が彼女を投げ飛ばしたのだ。
何故、などとは問わない。問うような余裕も無い。
セルティの影が彼らに届くよりも早く列車の崩壊が迫っていた。
故に弁慶は久美子を投げ渡した。自分はもう間に合わない、ならばせめて久美子だけでも助けようと。
宙を舞う久美子とセルティの視線の先で、崩壊する電車に弁慶が飲まれ、彼の姿が完全に消えるのと同時、赤色の液体が散った。
視界はぐるぐると回り床と天井と身体が叩きつけられて。
ひたすら困惑し狼狽する久美子。身体の自由を奪われながらも必死に脱出経路を模索する二人。
このままでは危ない。セルティは身を投げ出される覚悟で、傍の窓枠を影で掴む。
逃走経路を確保したセルティは弁慶と久美子も共に連れて行こうと影を伸ばそうとする。
が、突如飛来したモノの衝突に身体が弾き飛ばされ影のコントロールが乱れ車窓から投げ出される。
ぶつかってきたのは久美子だ。弁慶が彼女を投げ飛ばしたのだ。
何故、などとは問わない。問うような余裕も無い。
セルティの影が彼らに届くよりも早く列車の崩壊が迫っていた。
故に弁慶は久美子を投げ渡した。自分はもう間に合わない、ならばせめて久美子だけでも助けようと。
宙を舞う久美子とセルティの視線の先で、崩壊する電車に弁慶が飲まれ、彼の姿が完全に消えるのと同時、赤色の液体が散った。
「......!!」
もはや弁慶に影は届かない―――届いても意味はない。
きっとあの壊れた車両の奥は見るも絶えない有様になっているだろう。
弁慶は自分たちを助ける為に命を落としてしまった。
だがセルティにそれを嘆く暇も悲しむ暇もない。
この速度で地面に叩きつけられれば、不死身のデュラハンである自分はともかく久美子はただでは済まない。
ここで彼女を死なせてはそれこそ弁慶の死は無駄になってしまう。
ならば。足掻く。足掻く。一筋の可能性に賭けて。
動かせる全ての影を久美子へと集中させ全身を包む。
本当ならば自分もまとめて包みたいところだが時間が足りない。
先に落下したセルティの背に激痛が走る。その衝撃で身体は何度も地面を跳ね、派手に吹き飛び影の拘束が緩み、久美子の全身がスポンと抜け出てしまう。
今度こそ地面に落下する久美子だが、影で勢いを殺された為に命を落とすには至らず背中を強く打つ程度にとどまり、小さく呻き声をあげた。
きっとあの壊れた車両の奥は見るも絶えない有様になっているだろう。
弁慶は自分たちを助ける為に命を落としてしまった。
だがセルティにそれを嘆く暇も悲しむ暇もない。
この速度で地面に叩きつけられれば、不死身のデュラハンである自分はともかく久美子はただでは済まない。
ここで彼女を死なせてはそれこそ弁慶の死は無駄になってしまう。
ならば。足掻く。足掻く。一筋の可能性に賭けて。
動かせる全ての影を久美子へと集中させ全身を包む。
本当ならば自分もまとめて包みたいところだが時間が足りない。
先に落下したセルティの背に激痛が走る。その衝撃で身体は何度も地面を跳ね、派手に吹き飛び影の拘束が緩み、久美子の全身がスポンと抜け出てしまう。
今度こそ地面に落下する久美子だが、影で勢いを殺された為に命を落とすには至らず背中を強く打つ程度にとどまり、小さく呻き声をあげた。
久美子のもとへ行こうとするセルティだが動けない。激痛と共に、立つべき足があらぬ方向へと折れ曲がっていたからだ。
おかしい、と彼女は思う。
デュラハンはほとんど不死といっても差し支えない存在だ。刃物で身体を斬り裂かれようが車の衝突で身体を破壊されようがたちまちに再生してしまうからだ。
その修復がかなり遅い。これも公平を期すために主催達が仕組んだのだろうか。
おかしい、と彼女は思う。
デュラハンはほとんど不死といっても差し支えない存在だ。刃物で身体を斬り裂かれようが車の衝突で身体を破壊されようがたちまちに再生してしまうからだ。
その修復がかなり遅い。これも公平を期すために主催達が仕組んだのだろうか。
「カハッ!!」
久美子は痛みと共に溜め込んだ空気を吐き出した。
いましがた自分の身に起きたことに理解が追いつかず、目だけ動かしキョロキョロと辺りを見回す。
いましがた自分の身に起きたことに理解が追いつかず、目だけ動かしキョロキョロと辺りを見回す。
あまりにも短い間の出来事だった。
つい先ほどまで平穏だった電車が瞬きする間もなく地獄へと変貌していた。
つい先ほどまで平穏だった電車が瞬きする間もなく地獄へと変貌していた。
「べ、弁慶さん...セルティさん...ッ」
同行者二人の名を呼ぶが、思っている以上に声が出なくなっている。
声を張ろうとする度に肺が軋み邪魔されるからだ。
息を荒げそのまま地面に倒れこむ。
でも。こんなところで寝てる場合じゃない。はやく二人のところにいかないと。
助けてくれたあの人たちの為になにかしないと。
久美子は這ってでも倒壊した電車へと向かっていく
声を張ろうとする度に肺が軋み邪魔されるからだ。
息を荒げそのまま地面に倒れこむ。
でも。こんなところで寝てる場合じゃない。はやく二人のところにいかないと。
助けてくれたあの人たちの為になにかしないと。
久美子は這ってでも倒壊した電車へと向かっていく
「あわてんぼうのエイスのリーダー、クリスマスまえーにーやってきたー♪」
背後から歌が聞こえた。
ドスの利いた、低い歌声が。
ドスの利いた、低い歌声が。
「楽しくランランラン、楽しくランランラン、流しておくれよなみだー♪」
その隠す気もない下卑た声音に久美子の背筋は凍てつき、相手の姿を確認もしていないのに身体が震え始める。
「さぁて、子供向けの健全番組はお終いだ。ここからは思春期男子へのクリスマスプレゼントの時間だよお、可愛いお嬢ちゃん」
おそるおそる振り返る。
己を見下ろすその爬虫類のような目つきに、獲物を見つけた野獣のように吊り上がる口角に、久美子の喉がヒィと鳴った。
己を見下ろすその爬虫類のような目つきに、獲物を見つけた野獣のように吊り上がる口角に、久美子の喉がヒィと鳴った。
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