俺は腹を立てていた。
なんだかこう書くと俺が短気であるように思われるかもしれないが
決してそんなことはない。本来は気の長い人間である。
ところがセンセイにかかるといとも簡単に腹が立つ。
センセイは常に最短距離を進む。
一番早く行ける道を行くのではない。
地図上の最短距離を進むのだ。
街の中ならばまだいい。しかし山の中など沢や勾配を関係なしに直進する。
だから迷う。
直進しているはずなのに迷う。
そして怪我をする。獣道ですらないところを歩くのだから当然である。
しかも、センセイが怪我をするなら自業自得というものだが怪我をするのは俺なのだ。
聖人君子だって舌打ちくらいしそうなものだと思う。
そしてほうほうの体で雛見沢に辿り着いた俺は唯一の医療機関である入江診療所へと駆け込んだのである。
なんだかこう書くと俺が短気であるように思われるかもしれないが
決してそんなことはない。本来は気の長い人間である。
ところがセンセイにかかるといとも簡単に腹が立つ。
センセイは常に最短距離を進む。
一番早く行ける道を行くのではない。
地図上の最短距離を進むのだ。
街の中ならばまだいい。しかし山の中など沢や勾配を関係なしに直進する。
だから迷う。
直進しているはずなのに迷う。
そして怪我をする。獣道ですらないところを歩くのだから当然である。
しかも、センセイが怪我をするなら自業自得というものだが怪我をするのは俺なのだ。
聖人君子だって舌打ちくらいしそうなものだと思う。
そしてほうほうの体で雛見沢に辿り着いた俺は唯一の医療機関である入江診療所へと駆け込んだのである。
「面白い方ですねぇ」
診療後玄関口で、院長の入江は女のように束ねた髪を靡かせながら云った。
若いながら好好爺じみている目の先にはセンセイがいた。
ぶつぶつ何かを数えながら診療所の壁沿いを歩いている。
若いながら好好爺じみている目の先にはセンセイがいた。
ぶつぶつ何かを数えながら診療所の壁沿いを歩いている。
「蟻でも数えてるんでしょう」
「何か異変を感じたらいつでもいらしてください」
一瞬、入江の目が鋭くなったような気がする───
いや、気のせいだろう。
連続殺人事件が起こった村だということで、きっと俺も気が立っているのだ。
また足が痛みだしたらお世話になるとしよう。
いや、気のせいだろう。
連続殺人事件が起こった村だということで、きっと俺も気が立っているのだ。
また足が痛みだしたらお世話になるとしよう。
「ふろいでしぇえねるげってるふんげん」
俺の診療が終わったことに気付いたセンセイは歌いながらこちらへ近付いてきた。
「何かのおまじないですかね?」
やはり柔らかい目をしている医者は俺に問い掛けてきた。
「発音が悪いのと音痴なせいでわかりにくいですけど歓喜の歌ですね、きっと」
余りのはずれっぷりに立っていたはずの腹がくすぐられはじめている。
そしてその事実が再び俺の腹を立てた。
「発音が悪いのと音痴なせいでわかりにくいですけど歓喜の歌ですね、きっと」
余りのはずれっぷりに立っていたはずの腹がくすぐられはじめている。
そしてその事実が再び俺の腹を立てた。
「センセイのせいで俺が怪我したっていうのに何歌ってるんだよ!」
「沼上さんが怪我したのは沼上さんのせいだろう。それにこの場所には歓喜の歌がよく合う」
──────地上にただ一人でも
心を分かち合う魂があると言える者は歓呼せよ─────
心を分かち合う魂があると言える者は歓呼せよ─────
確かそんな歌詞だった。
こんな小さな村だ。
皆で心を理解しあえば惨劇は起きるはずがない。
あの写真の美しい少女───古手梨花も死ぬことなどない。
センセイはそう云いたい───わけがない。
そんなに深く考えているとは思えない。
大方この高台から見える美しい景色に昂り、知った歌が口をついただけだろう。
気がつくと歓喜の歌はいつの間にか遠ざかり
目的地、古手神社へと向かっていた。
突然俺たちに職務質問をかけた三人は刑事であるらしかった。
警察に足止めを喰らうのは最早慣れっこになっている。
未解決の殺人事件が起こった小さな村を見慣れない男が二人連れで歩いていれば尚更だろう。
しかし、今回は驚くほど早く解放された。
村を訪れる切っ掛けとなった赤坂の名が聞いたのだ。
三人の内最も年配の大石は地元の刑事だが、赤坂と懇意にしているらしい。
世の中は狭い。
解放されたのはいいのだが、宿代わりに貸してもらっている神社の社務所で捜査会議を開くのはいただけない。
俺は事件に関わるのはまっぴら御免だ。
オヤシロ様のことを少し調べられたらそれでいい。
こんな小さな村だ。
皆で心を理解しあえば惨劇は起きるはずがない。
あの写真の美しい少女───古手梨花も死ぬことなどない。
センセイはそう云いたい───わけがない。
そんなに深く考えているとは思えない。
大方この高台から見える美しい景色に昂り、知った歌が口をついただけだろう。
気がつくと歓喜の歌はいつの間にか遠ざかり
目的地、古手神社へと向かっていた。
突然俺たちに職務質問をかけた三人は刑事であるらしかった。
警察に足止めを喰らうのは最早慣れっこになっている。
未解決の殺人事件が起こった小さな村を見慣れない男が二人連れで歩いていれば尚更だろう。
しかし、今回は驚くほど早く解放された。
村を訪れる切っ掛けとなった赤坂の名が聞いたのだ。
三人の内最も年配の大石は地元の刑事だが、赤坂と懇意にしているらしい。
世の中は狭い。
解放されたのはいいのだが、宿代わりに貸してもらっている神社の社務所で捜査会議を開くのはいただけない。
俺は事件に関わるのはまっぴら御免だ。
オヤシロ様のことを少し調べられたらそれでいい。
「五年前の誘拐事件では敵はそれなりの組織力を持ってたらしいですね」
殺人事件だけでなく誘拐まで起こっていたのか。
田舎の村の割に物騒過ぎる。
田舎の村の割に物騒過ぎる。
「ええ、私たちも少ぉし痛い目見せられちゃいましたからねえ」
「敵の正体がわからねえことには動きづらくて仕方ねえな」
三人の刑事──大石、木場、青木は真剣に顔を突き合わせている。
矢張り興宮の警察署でやればいいと思う。
しかし「話を聞いて居ればオヤシロ様の正体に近付けるかもしれないじゃないか」
と主張するセンセイのせいで三人の刑事は留まっている。
俺達の同席を大石が易々と許可したところを見ると、赤坂は随分信頼されているのだろう。
矢張り興宮の警察署でやればいいと思う。
しかし「話を聞いて居ればオヤシロ様の正体に近付けるかもしれないじゃないか」
と主張するセンセイのせいで三人の刑事は留まっている。
俺達の同席を大石が易々と許可したところを見ると、赤坂は随分信頼されているのだろう。
「そうだ、人数いるならどこかに根城があるはずじゃあねえか」
「雛見沢にそんなものあったら目立ってしょうがありませんよ。あるとしたら興宮でしょう」
「待ってください大石さん。何度も興宮とを往復したらそれこそ目立ちますし
少なくとも詰め所の様なところはあるかもしれません」
少なくとも詰め所の様なところはあるかもしれません」
「山狩りでもするか?」
「怪しい建物ならあるじゃないですか」
予想もしなかった場所からの唐突な声に会議は刹那停止した。
全員の目がセンセイを捕える。
全員の目がセンセイを捕える。
「ほら、あの、ぬ───なんとか診療所」
「入江診療所のことですか?」
「そうその診療所。あれは変ですよね」
「俺も入江ってのには会ったが別段怪しいとは思わなかったぞ」
木場の言葉に青木も頷いた。
「僕は今は在野の妖怪研究家ですがね、昔は理系だったんですよ
だから戦争にも行かずにすみました」
だから戦争にも行かずにすみました」
木場と大石の表情が僅に歪む。
二人とも随分丈夫そうな体をしているから、先の戦争にはそれなりの想いが在るのだろう。
「建築も一応修めてるんですよ。ところで地盤の弱い土地の簡単な見分け方知ってます?」
「粘土質の土地──とか?」
青木はしどろもどろに答えているが、俺にもその程度の知識しかない。
「今の僕らの研究分野にも関わるもっと簡単な方法があるんですよ。ね、沼上さん」
「えっ俺は知らないよ」
「勉強不足だね。沼、芦、池等の漢字がつく土地は地盤が弱いことが多いんです」
「昔は水場だったからってえことか」
「そうです、後は沢や淵も──」
「雛見沢に鬼ヶ淵ですか」
「そんな土地のしかも高台というのは医療機関の立地としては些か不自然ですよ。
例えば興宮から繋がる道沿いの林を切り開いた方がよっぽどいい」
例えば興宮から繋がる道沿いの林を切り開いた方がよっぽどいい」
「しかし予算の都合ということもありますし、それだけでは──」
「大石さん、こんな小さな村の診療所に地下室は必要ですかね?」
「入江診療所に地下室があるんですか!」
「基礎の配筋が見えてたんで数えてみたらどうも多いんですよ」
─────あの時か!
「それに換気口も多すぎる」
─────換気の歌。
気分が昂ったわけでもなかった。ただの駄洒落だ。
「あれは地下があるとしか思えませんね。
高台に立てたのも建築中の地下室を村人に見られないためだと考えれば辻褄があいます」
高台に立てたのも建築中の地下室を村人に見られないためだと考えれば辻褄があいます」
センセイの癖に冴えすぎている。
気味が悪い。
青木と大石はセンセイに賛辞を送っている。
一方木場はどこかへ電話をかけていた。
早速入江診療所への調査を考えているようだ。
電話口から声がきこえる。
気味が悪い。
青木と大石はセンセイに賛辞を送っている。
一方木場はどこかへ電話をかけていた。
早速入江診療所への調査を考えているようだ。
電話口から声がきこえる。
「いいけど───伝承通り喉を掻きむしった死体が出たら解剖してもいい?」
世間は狭い。
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