少女、彼女――いや、神がそこにはいた。
「ど・・どう云う事だ」
京極堂が答える。
「関口君、ある意味君の専門分野だろ、こう云った症状は」
私の専門分野?
私は神を見やり。
私に心当たりあり。
私は神を見やり。
私に心当たりあり。
――多重人格・・・――それなら。
「古手梨花は幼少期から、実験体として用いられてきた」
――幼少期の精神的外傷はその後の人格形成に大きな影を落とす――
その時、私が何故か思い出したのは――あの、入江医師の顔で――仕草で――言葉で――
「ま・ま、まさか・・・あ・・な・・」
「止せ、関口、それは"言葉にする必要は無い"」
「止せ、関口、それは"言葉にする必要は無い"」
ああ、そうだ、言葉にする必要なんか無い。
京極堂は云った。
「貴方がこの雛見沢連続怪死事件の筋書きを書いた、首謀者ですね」
神はゆっくりと頷いた。
ああ――この存在がきっかけだったのだ。
京極堂は云う。
「貴方が誕生したのは、少なくとも5年以上前です。
貴方は鷹野三四さんを取り込み、この事件を計画した」
貴方は鷹野三四さんを取り込み、この事件を計画した」
神は微動だにしない。
「鷹野さんは優秀です。資金と施設さえあれば、病原体をすぐに特定出来ると思っていたのでしょう。
けど、それは見つからなかった、そんな時貴方が誕生した。鷹野さんは貴方に神を見たのでしょう」
けど、それは見つからなかった、そんな時貴方が誕生した。鷹野さんは貴方に神を見たのでしょう」
劇的な回心と云うやつか。
「そして、貴方はある計画を立てる――それは決意と云ってもいいかもしれない――」
――"貴方は神になろうとした"。
神になるだと――
そんな事の為に――
村人全員を殺す?――
そんな事の為に――
村人全員を殺す?――
「馬鹿げてる!馬鹿げてるぞ京極堂、僕はそんな、そんな"理由"は認めない!!」
京極堂ではなく神が答えた。
私が生まれたのは――
私の体に流れるのは――
私の存在する必然性は――
私の体に流れるのは――
私の存在する必然性は――
その声は神のものではなく、"少女のものだった"。
ああ――"それが理由なんだ"。
そこには神ではなく、一人の少女がいた。
京極堂は云う。
「貴方は神なんかじゃない、貴方は古手梨花と云う名の少女に生まれた、一つの人格にすぎない」
少女は頷いた。
「そして、今日貴方の計画は瓦解し、雛見沢症候群の研究も崩壊した」
少女は頷いた。
「もう、誰も貴方を傷つけません」
少女は頷いた。
――貴方の出番は終わったのです。
少女はその言葉に安心した顔を浮かべ――
私の方を振り向くと、唇を動かし――
まるで、糸が切れるかの様に――
ゆっくりと私の腕の中へ――
落ちた。
どこか遠くで、再び何かが啼いた。
私は両腕に少女の形を感じていた。
私は両腕に少女の形を感じていた。
全てに、始末を付けよう。
「京極堂、彼女が今回の事件の首謀者だったとして、
古手梨花が云っていた『羽入』とは一体何なんだ?
そして何故、古手梨花は過去を反芻し続けたんだ?」
古手梨花が云っていた『羽入』とは一体何なんだ?
そして何故、古手梨花は過去を反芻し続けたんだ?」
京極堂は答える
「それは、生物の本能の為せる業だよ。彼女、いや彼か、まあ『オヤシロ様』とでも云うべきかな。
古手梨花の中で『オヤシロ様』が誕生して、自らの命を絶つ事で神になろうとしたんだ。
けれどもそれは、同じ肉体を共有している古手梨花にとっては唯の突発的な死だ。
だから、彼女、古手梨花の心は自分の体の死に納得する必要があったんだ」
古手梨花の中で『オヤシロ様』が誕生して、自らの命を絶つ事で神になろうとしたんだ。
けれどもそれは、同じ肉体を共有している古手梨花にとっては唯の突発的な死だ。
だから、彼女、古手梨花の心は自分の体の死に納得する必要があったんだ」
――それで生まれたのが『羽入』、"彼女は二重人格ではなく三重人格だったんだ"。
そうか、いやそうだろうな。
「『羽入』の役割は彼女の心の保護だ、そこで行われたのが過去と運命の編纂だよ。
夥しい数の、死の運命を体験すれば、誰だって思うだろ――仕方がないって」
夥しい数の、死の運命を体験すれば、誰だって思うだろ――仕方がないって」
――木を隠すには森の中さ。
羽入は彼女の心を保護する為に生まれたのか。
「勿論、『羽入』だって、もうお役御免さ。彼女はこれからも生きていくんだから――」
私の外の世界では、
木場が鷹野三四を連れて行こうとしていた。
木場が鷹野三四を連れて行こうとしていた。
京極堂は大きく溜め息を吐くと、鷹野三四を見やり。
「鷹野さん、一つ確認させてください。
関口君達、『月刊實録犯罪』に告発文を出したのは貴女達ですね」
関口君達、『月刊實録犯罪』に告発文を出したのは貴女達ですね」
鷹野三四は表情で答えた。
私は京極堂に尋ねた。
私は京極堂に尋ねた。
「なぜ、そんな事をしたんだ、僕らを呼んで一体何が――」
京極堂は答える。
「関口君、君はね"物語の語り部として選ばれたんだよ"。
誰かが語らなければ物語は始まらない、もし君がいなければ
それこそ偽装されたまま、自然災害と云う形で決着してしまう」
誰かが語らなければ物語は始まらない、もし君がいなければ
それこそ偽装されたまま、自然災害と云う形で決着してしまう」
――だから君は生きているんだよ、そうじゃなければとっくに殺されているよ。
ああ、だから京極堂は東京へ帰れと――
――神の存在には怪異、いや奇跡が必須なんだ。
結局は人の業なのだ。
そう全てが人の業なのだ。
そう全てが人の業なのだ。
何処かから飛ばされてきた雲がまた、少しずつ月を、世界を、覆っていく。
京極堂はその月を見詰めていた。
京極堂はその月を見詰めていた。
「京極堂、この子はどうなるのかな?」
「関口君、この事件は刻(とき)の流れの中で少しずつきえ去る様な事件だ。
決して、表沙汰になる様な物ではないよ――事実が現実になるわけじゃない」
「関口君、この事件は刻(とき)の流れの中で少しずつきえ去る様な事件だ。
決して、表沙汰になる様な物ではないよ――事実が現実になるわけじゃない」
そうだろうな、我々以外の人間にはこの事件は現実にはならない。
幕が――
降りていく――
降りていく――
その様を見ている友人の横顔に、私は思うところがあった。
祭具殿で鷹野三四に親近感を持ったのは、私に似ていただけではなかった。
彼女は私だけではなく、この古い友人にも何処か似ている所があったのだ。
祭具殿で鷹野三四に親近感を持ったのは、私に似ていただけではなかった。
彼女は私だけではなく、この古い友人にも何処か似ている所があったのだ。
「京極堂、一ついいか?、僕が祭具殿で聞いた子供が跳ねる様な音は何だったんだろう」
「関口君、それは祭りの最中だろ、何かの合図で鳴らした花火が反響しただけだろうな」
「関口君、それは祭りの最中だろ、何かの合図で鳴らした花火が反響しただけだろうな」
くだらない、実にくだらない――そして現実的だ。
けれど、我々は――科学は――それを暴いて。
けれど、我々は――科学は――それを暴いて。
「くだらないな」
パンドラの匡の中には最後に希望が残されていたと云うが――そんなものが存在するのだろうか?
降りてきた帷(とばり)が京極堂を黒衣の殺し屋に戻していく。
京極堂は云った。
京極堂は云った。
「この世には不思議なことなど何もないのだよ、関口君」
後書きに代えて
始めにこの物語を書き始めたきっかけは、
『ひぐらしをミステリーとして成立させるにはどうすればいいか?』でした
『ひぐらしをミステリーとして成立させるにはどうすればいいか?』でした
「ひぐらしのなく頃に」は残念ながらミステリー(推理物)とは呼べない作品だったのですが
(作者の方が推理小説自体に詳しくなかったそうなので、故意に詐称したわけではないでしょうが・・)
(作者の方が推理小説自体に詳しくなかったそうなので、故意に詐称したわけではないでしょうが・・)
ならば、ミステリーとして成立させるには何が必要かと考えた時に
出題編で以下の物が提示、もしくは最低でも示唆されなくてはならないだろうと思いました
出題編で以下の物が提示、もしくは最低でも示唆されなくてはならないだろうと思いました
- 精神を錯乱させ、殺人衝動を増幅し、検死では発見されずに、
末期になると喉を掻きむしって自殺する未知の病気の存在
- 特定の人物にしか知覚されない、謎の生命体の存在
- 平行世界(?)の同時間軸を何度も繰り返し生きている人物の存在
- 殺人の隠蔽等ができうる特殊部隊の存在
- 1000人単位で人間を殺害する、国家規模の計画の存在
- 警察内部にいる内通者の存在
それらを組み込んで物語を創作してみました、いかがだったでしょうか?
もちろん、これでも狭義のミステリーとしては失格でしょうが(メタ視点の悪用は、悪魔としても・・)
もちろん、これでも狭義のミステリーとしては失格でしょうが(メタ視点の悪用は、悪魔としても・・)
と言っても、結局ほとんどの部分が写経しただけになっているので、
到底、自慢出来たものではないですけども(苦笑)
到底、自慢出来たものではないですけども(苦笑)
もう少し、物語に組み込めたら良かったのかもしれないのですが、
そうすると物語があまりに歪になってしまうので・・
そうすると物語があまりに歪になってしまうので・・
さて、ここからは感想とさせてもらいます
矢っ張り一番の感想としては「推理物は完結してから発表すべきだ」です(苦笑)
後から読み返してみると、もっと伏線を張れた場所(ミスリード含めて)が多々あり、
「勿体ないなあ」っと言うのが素直な感想です(文章の稚拙さは仕方ないとしても)
「勿体ないなあ」っと言うのが素直な感想です(文章の稚拙さは仕方ないとしても)
とは言え、それこそ原稿用紙2枚以上の文章を書いたのが高校の卒業文集以来という事もあり、
最初の投稿の段階で心が折れそうに成っていたました(苦笑)
あの状態では皆さんの叱咤激励が無ければ、完結まで辿り着けなかったのは間違いないので、
これも致し方ないのかとも思います
最初の投稿の段階で心が折れそうに成っていたました(苦笑)
あの状態では皆さんの叱咤激励が無ければ、完結まで辿り着けなかったのは間違いないので、
これも致し方ないのかとも思います
内容については(自画自賛になるのですが)
私的には関口君が走っている所は、なかなかどうして上手く書けているのではと思います
私的には関口君が走っている所は、なかなかどうして上手く書けているのではと思います
他には、「この人物はもっと賢いはずだ」等のご批判があるとも思いますが、
この世界には『作者よりも優れた人物を創り出す事は出来ない』と言う、
悲しい不文律が御座いますので、どうぞご容赦ください
この世界には『作者よりも優れた人物を創り出す事は出来ない』と言う、
悲しい不文律が御座いますので、どうぞご容赦ください
また、作中では回収出来てない謎(関口君が思い出そうとしていた物、等)は、
それぞれの原作で明かされています
機会がありましたら、原作の方を手に取って頂けましたら、
2次創作をした者としても、幸いだと思います(ただ、それぞれ癖の強い、人を選ぶ作品ですが・・・)
それぞれの原作で明かされています
機会がありましたら、原作の方を手に取って頂けましたら、
2次創作をした者としても、幸いだと思います(ただ、それぞれ癖の強い、人を選ぶ作品ですが・・・)
さて、それではお付き合い頂きました、
全ての読者の方に再びの厚い御礼を申しあげまして
全ての読者の方に再びの厚い御礼を申しあげまして
最後にこの言葉を使用させて貰います、ご愛読ありがとうございました
『一刻も早い、科学の再婚の成就を願って』
物語が終わっても世界は、現実は、刻(とき)は、止まる事なく流れ続けていく。
――この世には不思議なことなど何もないのだよ、関口君。
黒衣の殺し屋は私を向き。
「さあ次は、"君の番だよ関口君"」
そう云った。
「どう云う意味だ?、京極堂」
「そのままの意味だよ、関口君」
「そのままの意味だよ、関口君」
?
「いい加減にしろよ、まだ解らないのか」
??
「みんな気が付いているだろうに――最後まで手がかかるな、君は」
???
「本当におかしいんだよ、あまりにね」
おかしい?――何が?
「"関口君。今日は一体いつだ?"」
"いつ"?――何時?
闇が少しずつ光を、世界を浸食する。
「世界は理に基づいて成りっているんだ、それが破綻しているならそれは――」
――偽りの世界なんだ。
「きょ、・・京極堂・・・」
黒衣の殺し屋は告げた。
「いいかい、関口君。
"六月の、この日付の、この曜日の、この時間に、あの形の月が出るのはおかしいんだ"」
"六月の、この日付の、この曜日の、この時間に、あの形の月が出るのはおかしいんだ"」
――"今は昭和五十八年じゃない、もっと過去なんだよ"。
地面がぐらりと揺らぐ――
「"いい加減に自覚しろ、関口巽!、目を覚ますんだ!!"」
世界がぐにゃりと歪む――
『"仮想の世界の中にいる観測者には、その世界が仮想であると云う事が自覚出来ないんだ"』
―まったく、昭和五十八年なら、僕らはもう還暦を過ぎた老人だよ・・・
――刻が経てば言葉は風化するし、僕はあんな間違った日本語は使わないぞ・・・
―――大体、パンドラの匡って一体なんだい、拙いんだよ君は、同じ事を何度も考えたり・・・
――刻が経てば言葉は風化するし、僕はあんな間違った日本語は使わないぞ・・・
―――大体、パンドラの匡って一体なんだい、拙いんだよ君は、同じ事を何度も考えたり・・・
闇が広がっていく――私は腕の中にいる少女に――何故だか謝らなくてはいけない気がして――
遠くで――何かが泣いている、鳴いている、啼いている。
ああ、あれは・・・せみ?・・・ひぐらし?・・・とり?・・・とり!?
「鳥!!」
その途端。
川辺の、葦の間に居た小さなモノが、まるで熟れた果実を壁にぶつけたかのように、
ぱっと弾けたように見えた。飛沫が散った。
羽音。
鳥が飛び立ったのだ。
それだけだ。馬鹿馬鹿しい。
元の木阿弥だ。川の水雲(もずく)となって流れてしまえ。
どろどろどろどろどろ。川が流れる。
川辺の、葦の間に居た小さなモノが、まるで熟れた果実を壁にぶつけたかのように、
ぱっと弾けたように見えた。飛沫が散った。
羽音。
鳥が飛び立ったのだ。
それだけだ。馬鹿馬鹿しい。
元の木阿弥だ。川の水雲(もずく)となって流れてしまえ。
どろどろどろどろどろ。川が流れる。
――御免よ。本当に御免よ。
――本当は嫌いなんかじゃないんだよ。
川の音がする。水が――。
水が流れて行く。
どこも変わらぬ煤けた風景。私は天を仰ぐ。
曇っているのに空がやけに明るい。
今日は暑くなるかもしれないな。
そんな予感がする。
曇っているのに空がやけに明るい。
今日は暑くなるかもしれないな。
そんな予感がする。
そうだ、あいつのところに行こう――。
急にそう思った。
私は、後ろを見ることをやめて歩き始めた。
見ないでも――生きていけるものだろうか。それとも、見ないではいられないものなのだろうか。
それとも――。
蜩の声がする。
何も云わずに飛び出して来たのだから、妻は心配しているだろうな――帰ったら謝らなくては――
――そうだ、謝ろう――私はそんなことを考える。そして私は日常に埋没していく。
急にそう思った。
私は、後ろを見ることをやめて歩き始めた。
見ないでも――生きていけるものだろうか。それとも、見ないではいられないものなのだろうか。
それとも――。
蜩の声がする。
何も云わずに飛び出して来たのだから、妻は心配しているだろうな――帰ったら謝らなくては――
――そうだ、謝ろう――私はそんなことを考える。そして私は日常に埋没していく。
やがて――。
私は長い坂の下に立った。
どこまでもだらだらといい加減な傾斜で続いている長い坂道を登り詰めたところが――
――目指す京極堂である。
私は長い坂の下に立った。
どこまでもだらだらといい加減な傾斜で続いている長い坂道を登り詰めたところが――
――目指す京極堂である。
昭和二十七年、梅雨も明けようかと云う日のことである。
「後神の刻」~神貶し編(解答編)~ <完>