でも――私が海を好まぬ理由はそれだけではないように思う。
何か自分にとって決定的な事柄を、私は失念しているのではないか。
何か自分にとって決定的な事柄を、私は失念しているのではないか。
そうなら――それは何だ。
――何を忘れてる?
何も思い当たる事はない。
――どうでも――いいことか。
多分、どうでもいいことなのだ。
例令(たとえ)何かを忘れているにしろ、私は取り敢えず日常生活を送れているのだから。
――何を忘れてる?
何も思い当たる事はない。
――どうでも――いいことか。
多分、どうでもいいことなのだ。
例令(たとえ)何かを忘れているにしろ、私は取り敢えず日常生活を送れているのだから。
――でも。
私は何か忘れている事すらも忘れて、それで諾諾(だくだく)と暮らしていたのではないのか。
そう考えると少しだけ怖くなった。
私は精彩の欠いた景色を焦点の定まらぬ眸(ひとみ)に映し乍ら(ながら)ただ悶悶とした。
そう考えると少しだけ怖くなった。
私は精彩の欠いた景色を焦点の定まらぬ眸(ひとみ)に映し乍ら(ながら)ただ悶悶とした。
淙淙(そうそう)と川の流れる音がする。
――水の匂いがする
私はその湿り気を、胸いっぱいに吸い込む。
ああ、生きている、と思う。
――水の匂いがする
私はその湿り気を、胸いっぱいに吸い込む。
ああ、生きている、と思う。
まるで湿性類だ。ほとんどの人が額に汗して働いているであろうその時間に、
私はただ無為に、呼吸をすることで生を実感している。
そうして私は、社会の一部として機能していないへの背徳さ(うしろめたさ)を満喫する。
私はいつもそうだ。
無為だ。徹底的に無為だ。
草の間に水鳥がとまっている。
私はただ無為に、呼吸をすることで生を実感している。
そうして私は、社会の一部として機能していないへの背徳さ(うしろめたさ)を満喫する。
私はいつもそうだ。
無為だ。徹底的に無為だ。
草の間に水鳥がとまっている。
――鷺か。
違うかもしれない。
私は無心に鳥を見つめた――鳥を――
――鳥を――
違うかもしれない。
私は無心に鳥を見つめた――鳥を――
――鳥を――
「鳥!!」思わず叫んでいた。
「うへえ」誰かが叫んでいた。
「うへえ」誰かが叫んでいた。
ここは――この天井は――
「関口先生ー吃驚(びっくり)するじゃないですか」
誰かが云う。
「大体、何度も云いますけど、僕は鳥じゃなくて鳥口ですよ」
鳥口が云う。
「それに先生、鍵もかけないで不用心ですよ――さあ早く起きてください、お祭りに行きますよ」
誰かが云う。
「大体、何度も云いますけど、僕は鳥じゃなくて鳥口ですよ」
鳥口が云う。
「それに先生、鍵もかけないで不用心ですよ――さあ早く起きてください、お祭りに行きますよ」
――ううーん
頭を振る、陽が低く色が変わりだしている。
もう夕刻だ。
頭を振る、陽が低く色が変わりだしている。
もう夕刻だ。
「鳥口君、一体どこに行っていたんだい?」
「いやあ、僕は優しい男ですから、義を見てせざるは優なきなり、ですよ」
「鳥口君、その『ゆう』は優しいじゃなくて、勇ましい、勇敢の『ゆう』だよ」
「いやあ、僕は優しい男ですから、義を見てせざるは優なきなり、ですよ」
「鳥口君、その『ゆう』は優しいじゃなくて、勇ましい、勇敢の『ゆう』だよ」
「うへえ」
雛見沢に向かう途中、鳥口が仕入れてきた情報を聞いた。
「4年目の事件、去年の事件ですね。どうやら本当にあったみたいです。
話によると被害者は北条玉枝、2年目の事件の、北条夫妻の親戚にあたるみたいですね。
やっぱり秘匿捜査の指定がかかって報道はされなかったようです」
雛見沢に向かう途中、鳥口が仕入れてきた情報を聞いた。
「4年目の事件、去年の事件ですね。どうやら本当にあったみたいです。
話によると被害者は北条玉枝、2年目の事件の、北条夫妻の親戚にあたるみたいですね。
やっぱり秘匿捜査の指定がかかって報道はされなかったようです」
富竹と鷹野三四の話は真実だったのか・・・
「それで、これが凄い情報なんですけど実は全部の事件が被害者は1人だけじゃないんですよ、なん―」
「1人が消えるんだろ、一緒に」
鳥口が嬉しそうに語るので、突っこみを入れてみた。
「1人が消えるんだろ、一緒に」
鳥口が嬉しそうに語るので、突っこみを入れてみた。
「先生!なんで知ってるんですか!」
「いや、昨日鷹野さんと富竹さんに聞いたんだよ」
「なら、僕にも教えてくださいよ、大体文屋にとって情報は命の次に大事な――」
「いや、昨日鷹野さんと富竹さんに聞いたんだよ」
「なら、僕にも教えてくださいよ、大体文屋にとって情報は命の次に大事な――」
――悪かった、と謝っておいた。
「で、ですね、どこまで知ってるんですか」
「えーと、最初が殺人犯の犯人、次が一緒に落ちた奥さん、死んだ神主の奥さん、
そして、えーと、2年目の夫妻の子供だっけ」
「えーと、最初が殺人犯の犯人、次が一緒に落ちた奥さん、死んだ神主の奥さん、
そして、えーと、2年目の夫妻の子供だっけ」
ガタガタ――と車が舗装されていない道路に入った。
「最初の方はともかく、最後の事件の消えた被害者には関連性が見えないよ」
「最後の事件の失踪者は、北条・・・えー・・沙都子(さとこ)ちゃんのお兄さんだから、
北条悟史 (さとし)君ですね」
鳥口が答える。
「悟史君は、2年目の事件の後、沙都子ちゃんと一緒に親戚の家に預けられたみたいですね。
ホント北条家ってのは呪われているんですかね、沙都子ちゃんも大変な目に遭っていたし」
鳥口がぼやく。
「沙都子ちゃん?それは誰だい?」
「それは、ほら、さっき云った、今日助けた、少女ですよ」
「最後の事件の失踪者は、北条・・・えー・・沙都子(さとこ)ちゃんのお兄さんだから、
北条悟史 (さとし)君ですね」
鳥口が答える。
「悟史君は、2年目の事件の後、沙都子ちゃんと一緒に親戚の家に預けられたみたいですね。
ホント北条家ってのは呪われているんですかね、沙都子ちゃんも大変な目に遭っていたし」
鳥口がぼやく。
「沙都子ちゃん?それは誰だい?」
「それは、ほら、さっき云った、今日助けた、少女ですよ」
そう云えば、部屋で鳥口が何か云っていた――
鳥口は私の横顔をちらりと見て、溜め息をついた。
鳥口は私の横顔をちらりと見て、溜め息をついた。
「北条沙都子ちゃんは、義父の北条鉄平に虐待されていたんです。
いや、実は北条鉄平は最近雛見沢に帰ってきたらしくて、そこで僕が人肌脱ぎまして――」
いや、実は北条鉄平は最近雛見沢に帰ってきたらしくて、そこで僕が人肌脱ぎまして――」
私の頭は処理能力を超えてしまったらしく、頭が痛くなってきた。
「鳥口君、もう『北条』が多すぎて、僕には何が何やら」
「関口先生、それは"順番が間違っているから、わかりにくい"だけですよ」
「関口先生、それは"順番が間違っているから、わかりにくい"だけですよ」
順番が間違っているから、わかりにくい――そうなのかもしれない。
「でも鳥口君、それは君の説明能力が足りないんじゃないのかい?」
――うへえ
鳥口はゆっくり、丁寧に説明した。
鳥口はゆっくり、丁寧に説明した。
北条家には2人の子供がいた、悟史と沙都子。
2人は2年目の事件で北条夫妻がいなくなると、親戚の鉄平・玉枝夫妻に預けられる事になる。
(北条夫妻は2年目の被害者、ダム推進派のリーダー格だった)
けれど、4年目の事件で今度は、玉枝と悟史がいなくなった。
残ったのは鉄平と沙都子だけ、だが鉄平は沙都子を残して雛見沢を離れていた。
そして、最近なぜか鉄平が戻ってきた。そして沙都子を虐待していた。――らしい。
2人は2年目の事件で北条夫妻がいなくなると、親戚の鉄平・玉枝夫妻に預けられる事になる。
(北条夫妻は2年目の被害者、ダム推進派のリーダー格だった)
けれど、4年目の事件で今度は、玉枝と悟史がいなくなった。
残ったのは鉄平と沙都子だけ、だが鉄平は沙都子を残して雛見沢を離れていた。
そして、最近なぜか鉄平が戻ってきた。そして沙都子を虐待していた。――らしい。
「で、そこで、鳥口守彦様登場と云う事かい?」
「そうです、先生にも見せたかったな僕の雄志を」
鳥口は誇らしげに云う。
「そうです、先生にも見せたかったな僕の雄志を」
鳥口は誇らしげに云う。
「でも、それで鉄平がいなくなったら、沙都子ちゃんはどうなるんだい?」
「これは、鉄平がいなかった間もそうなんですけど、
古手神社で古手梨花ちゃんと一緒に暮らしていたそうです。だからその後も問題は無いですよ」
「古手梨花?」
「何云ってるんですか、一昨日会ったでしょう、ほら神社で――」
「これは、鉄平がいなかった間もそうなんですけど、
古手神社で古手梨花ちゃんと一緒に暮らしていたそうです。だからその後も問題は無いですよ」
「古手梨花?」
「何云ってるんですか、一昨日会ったでしょう、ほら神社で――」
――ああ、あの少女だ。
「神社で暮らしているって・・・」
「古手梨花ちゃんは3年目の事件で両親を亡くしています、その後しばらくは村長の所でいたそうですが
今は神社の中の家に1人で、沙都子ちゃんもいれると2人で住んでいるそうです」
「古手梨花ちゃんは3年目の事件で両親を亡くしています、その後しばらくは村長の所でいたそうですが
今は神社の中の家に1人で、沙都子ちゃんもいれると2人で住んでいるそうです」
――また、頭が痛くなってきた。
「でも、まだ子供じゃないか、大丈夫なのかい?」
「まあ、ここら辺は田舎ですからね、そこらへんは大らか何でしょう」
鳥口は笑う。
「でも、まだ子供じゃないか、大丈夫なのかい?」
「まあ、ここら辺は田舎ですからね、そこらへんは大らか何でしょう」
鳥口は笑う。
「それにしても確かに北条家は呪われてるのかもしれないね、残された沙都子ちゃんには
両親の他界、兄の失踪、叔母の殺害、叔父の虐待、不幸の大行列だ」
「そうですね、今は入江診療所に入院しているみたいですけど」
鳥口が告げる。
「入院してる?」
「ええ、虐待によって、ちょっと錯乱状態と云うか、おかしい感じで――」
両親の他界、兄の失踪、叔母の殺害、叔父の虐待、不幸の大行列だ」
「そうですね、今は入江診療所に入院しているみたいですけど」
鳥口が告げる。
「入院してる?」
「ええ、虐待によって、ちょっと錯乱状態と云うか、おかしい感じで――」
――幼少期の精神的外傷はその後の人格形成に大きな影を落とす――
私は学生時代、自分の鬱病を克服するために神経医学や精神医学を志した時期がある。
そうして手に入れたのが――鬱病は完治する事はないという事実だった。
そうして手に入れたのが――鬱病は完治する事はないという事実だった。
彼女、北条沙都子に共感を覚えた。
「それは・・・」
「それは・・・」
鳥口は私の顔を見て――明日にでもお見舞いに行きましょうよ、と陽気に云った。
少し気が滅入った。
【入江診療所にて】
「入江、沙都子の病状はどうなのですか?」
「入江、沙都子の病状はどうなのですか?」
「今は薬が効いてきて、落ち着いて来ています。もう大事にはならないでしょう」
「それは良かったのです、よろしくお願いするのです」
「はい――沙都子ちゃんは私の命に代えても守ってみせます」
「なら、もっと早く動いて欲しかったのです」
「それは・・・・」
「冗談なのですよ」
そう云うと少女はにぱー、と笑った。
【白馬の猿】
「沙都子、良かったですね」
「沙都子、良かったですね」
「そうね、何が起こるのかわからないものだわ」
「梨花・・・もしかして期待しているのですか?」
「・・・」
「梨花・・期待した分だけ、失望は大きくなるのですよ・・・」
「羽入(はにゅう)、それはそうだけど、でも今回は今までとは違うわ
今まで関口や鳥口なんて、登場した事がないわ」
今まで関口や鳥口なんて、登場した事がないわ」
「でも梨花、あんな猿顔の男は主役には成れないのですよ」
少女は頬笑んで。
「でも羽入にはお似合いじゃないかしら、羽入が見えているかもしれないし――」
「あうあう、梨花がひどい事を云うのですよ」