「勿体ないな」
綿流しの予行練習をする青年団を見ながら僕は呟いた。
綿流しとは、夏になり不要になった布団の中の綿に感謝の意を込めて川に流すという行事なのだそうだ。
勿体ない。
京極堂は相変わらずのしかめっ面で練習を眺めている。
綿流しとは、夏になり不要になった布団の中の綿に感謝の意を込めて川に流すという行事なのだそうだ。
勿体ない。
京極堂は相変わらずのしかめっ面で練習を眺めている。
「いつからそんな倹約家になったんだい、関口くん」
「昭和の時代ならまだしも、これは古くからのしきたりなのだろう。
冬は豪雪になるこの辺りは綿の栽培には向かないし
他地域との交流が少ないなら買ってくることも難しい。
それなのに毎年綿を捨てるなんて矢張り勿体ないだろう」
冬は豪雪になるこの辺りは綿の栽培には向かないし
他地域との交流が少ないなら買ってくることも難しい。
それなのに毎年綿を捨てるなんて矢張り勿体ないだろう」
京極堂は、ふむと考え込んだ。
いつもは僕のいうことなど小鳥の囀り程度にも気にかけないのにである。
僕は気をよくして更に言葉を繋げる。
いつもは僕のいうことなど小鳥の囀り程度にも気にかけないのにである。
僕は気をよくして更に言葉を繋げる。
「だから鷹野さんの云っていた通り、腸流しなんじゃないか?
鬼ヶ淵の鬼が人を食って──」
鬼ヶ淵の鬼が人を食って──」
「調子に乗ったな、君は」
ため息混じりに図星を突かれた僕の顔は見る見る赤くなった。
「まず前半部分に反論をするなら、綿とは別に木綿のみを指す言葉ではない。
布団や座布団に入っているなら仮令藁でも「綿」と呼ぶのだよ。
だから昔の綿流しは木綿ではなく他の物を流していたのかもしれない」
布団や座布団に入っているなら仮令藁でも「綿」と呼ぶのだよ。
だから昔の綿流しは木綿ではなく他の物を流していたのかもしれない」
なるほど、聢それなら勿体なくなどないし合点もいく。
「次に鬼による腸流しだったかな。
鬼が何故腸を捨てる?獣は腸を好むものだ。
丑と寅を合わせた鬼だって腸を喰らうだろうし
現にそういう話は各地に伝わっている。
内臓を放る物──ホルモンなどと呼ぶのは人間だけだよ」
鬼が何故腸を捨てる?獣は腸を好むものだ。
丑と寅を合わせた鬼だって腸を喰らうだろうし
現にそういう話は各地に伝わっている。
内臓を放る物──ホルモンなどと呼ぶのは人間だけだよ」
「そうか、そうだな」
「では何故人間は腸を捨てる?」
「雑菌や寄生虫がいるからだろう」
「その通りだ。それを踏まえると腸を川に流すという
おどろおどろしい行為の印象が別の物に変わるだろう」
おどろおどろしい行為の印象が別の物に変わるだろう」
───内臓を川で清めている。
「つまり、綿流しではなく腸流しだとすると
鬼ヶ淵には鬼に例えられるような風土病──それも伝染するような──
があったという考え方もできるということだ。
淀んだ沼からやってきた鬼は、清らかな川を下って消える」
鬼ヶ淵には鬼に例えられるような風土病──それも伝染するような──
があったという考え方もできるということだ。
淀んだ沼からやってきた鬼は、清らかな川を下って消える」
青年団が流した綿は既に見えなくなっていた。
「そんな病気があったとしたら、医者なら何か知っているかもな」
そう云って診療所があると教えてもらった方へ目をやると、
坂の途中に数人の男がいた。
下駄のような四角い顔の男が、丸く肥えた男に詰め寄っている。
四角い方は、こんな所にいるはずもない良く似た男を知っている。
鬼の木場修──病気になどなりそうもない頑丈な男だ。
坂の途中に数人の男がいた。
下駄のような四角い顔の男が、丸く肥えた男に詰め寄っている。
四角い方は、こんな所にいるはずもない良く似た男を知っている。
鬼の木場修──病気になどなりそうもない頑丈な男だ。