人が一度に処理出来る情報量は決まっているのだろうか?
私の粘菌脳ではそれは低く設定されているのかも知れない。
私の粘菌脳ではそれは低く設定されているのかも知れない。
黒衣の殺し屋が登場した時、私の脳味噌は限界を超えていた。
これは現実なのだろうか?
死ぬ間際に人間は、それまでの人生を走馬燈の様に見ると云う。
これはそれなのだろうか?
ここ何日かで起こった出来事は、私の本質を大きく揺さぶった。
もはや私の心は、ここではない何処かに行ってしまったようで。
もはや私の心は、ここではない何処かに行ってしまったようで。
黒衣の殺し屋は私の前までやって来た――ああ、こいつは私を殺しに来たのか?
そして――月光に照らされたその顔には見覚えがあった。
「京・・極・・・堂?」
「関口君、僕は東京に帰れと云ったはずだよ」
見慣れた顔の、黒衣の殺し屋はそう云った。
私はその声で、
酷く安心してしまった。
酷く安心してしまった。
心が安定を取り戻すと、思考が現れる。
粘菌脳が獲物を見つけた様に、もぞもぞと動きだす。
私の置かれている世界はどんな形だった?
粘菌脳が獲物を見つけた様に、もぞもぞと動きだす。
私の置かれている世界はどんな形だった?
そう私は、古手神社にやって来て・・・怪しい影と出会って・・・ああ、そうだ、銃を向けられて。
私は本殿の方へ顔を向けた。
そこに影はいた、矢張り銃を構えたまま。
そこに影はいた、矢張り銃を構えたまま。
そう京極堂が登場したところで、
何も現実は、現状は変化しないのだ。
私は絶体絶命で、命は風前の灯火なのだ。
何も現実は、現状は変化しないのだ。
私は絶体絶命で、命は風前の灯火なのだ。
京極堂は確かに弁が立つし、頭も切れる。
ただし体力面においては私と大差がない。
痩せぎすで、枯れすすきの様な男なのだ。
徒競走をしても、文字通り五十歩百歩だ。
ただし体力面においては私と大差がない。
痩せぎすで、枯れすすきの様な男なのだ。
徒競走をしても、文字通り五十歩百歩だ。
到底、銃弾をかいくぐり、八面六臂の活躍など望めるはずも無い。
これでは、何の解決にもならない。
「きょ、・・京・・極・・堂・・・・ぶ、・武・・器・・」
私の言葉が終わる前に、向かって一番右の影が再び号令を出した。
「構わない、一緒にやってしまいなさい」
文字通り、冥途の道連れは出来たが、そう云う問題ではない。
ああ、私はここで死ぬのか?――そう死ぬだろう。
私は目を瞑り、その時を待ちかまえた――せめて苦しまずに。
永遠に続くかと思われた時間は、音によって破られた。
私は目を瞑り、その時を待ちかまえた――せめて苦しまずに。
永遠に続くかと思われた時間は、音によって破られた。
鈍(どん)
どん?――「バン」じゃないのか?
「榎木津手刀!(えのきづチョップ!)」
まただ――これは?――榎木津手刀!?
何かが落ちて転がる音
私は瞼を開く。
幾つかの影が大立ち回りを演じている。
幾つかの影が大立ち回りを演じている。
暫くの喧騒の後(のち)、
その中から一つの影が、影を抱きかかえてこちらに歩いてくる。
その中から一つの影が、影を抱きかかえてこちらに歩いてくる。
月の光に照らされたその顔はブロンズ像の様で、
手の内に抱かれていたのは、少女の様で、
それはあまりに、画に映えていて、
手の内に抱かれていたのは、少女の様で、
それはあまりに、画に映えていて、
ああ、榎木津だ。
榎木津は、僕の出番がこれだけなんて到底納得出来るものでは無い、と云う様な目で私を睨むと、
私に少女を渡し、京極堂に何かを囁き、鳥居の方へ向かった。
私に少女を渡し、京極堂に何かを囁き、鳥居の方へ向かった。
この急展開に着いていけなくなった私は、とりあえず少女の拘束を解いてあげる事にした。
少女も酷く怯えている様で、私は軽く頭を撫でてやり――大丈夫だから、と云った。
少女も酷く怯えている様で、私は軽く頭を撫でてやり――大丈夫だから、と云った。
多分大丈夫だろう、榎木津と京極堂がいるなら文字通り鬼に金棒だ。
榎木津が外の世界、鳥居の下に声をかけると一人の男が登場した――大石だった。
本殿の方を見やると、制服の警官が銃を構えていた二つの影を捕縛していた。
本殿の方を見やると、制服の警官が銃を構えていた二つの影を捕縛していた。
目が慣れてきたのだろうか?
警官達の中には、四角い顔の戦友もいた。
制服の警官達が影達と去り、
残ったのは、私と、京極堂と、榎木津と、木場と、古手梨花と、大石と、初見の若い男性と、最後の影。
残ったのは、私と、京極堂と、榎木津と、木場と、古手梨花と、大石と、初見の若い男性と、最後の影。
それまでを飄(ひょう)とした表情で静観していた京極堂が、やっと口を開いた。
「どうやら、役者が揃った様ですね、それでは幕を下ろしましょう」
幕を下ろす?――京極堂はあの真相に辿り着けたのか?
「きょ、京極堂、君はもしかしたら勘違いをしているかも知れないよ」
私は云った。
――私だけが知り得た事実があるんだ。
そう、私は真相に辿り着いている
京極堂は柳の下の幽霊みたいな表情で私を睨んだ。
私は少し、怯んで。
「きょ、京極堂、この村にはオヤシロ様信仰の狂信者達がいて、
そ、そいつらが宗教的な儀式の為に古手梨花を殺すんだよ」
「きょ、京極堂、この村にはオヤシロ様信仰の狂信者達がいて、
そ、そいつらが宗教的な儀式の為に古手梨花を殺すんだよ」
私は少し、戸惑って。
「そ、そして、連続怪死事件に乗じて、富竹さんと鷹野さんを殺して、
や、奴らは、雛見沢症候群の研究結果を独占し、もう一度この村を支配するんだ」
「そ、そして、連続怪死事件に乗じて、富竹さんと鷹野さんを殺して、
や、奴らは、雛見沢症候群の研究結果を独占し、もう一度この村を支配するんだ」
京極堂は私の言葉を聞くと、大きな溜め息を吐いた。
「関口君、君は雛見沢症候群に感染しているよ、それも重傷だ」
「関口君、君は雛見沢症候群に感染しているよ、それも重傷だ」
私は少し、困惑して。
「そ、それは、ど・どう云う意味だい?・・まさか僕も」
「そ、それは、ど・どう云う意味だい?・・まさか僕も」
「関口君、僕は云ったぞ、君の出番は終わったって。
君に与えられた役目は、真相に辿り着く役目じゃなかったんだ。
そう、"ここにいる君には真相に辿り着けるだけの情報が与えられてない"」
君に与えられた役目は、真相に辿り着く役目じゃなかったんだ。
そう、"ここにいる君には真相に辿り着けるだけの情報が与えられてない"」
――君が知り得なかった事実があるんだ。
京極堂は云った。
「関口君、君は最後だ。大人しく見ていてくれないか」
そして、本殿の最後の影に向きなおり。
「僕は東京で拝み屋などをしている、中禅寺秋彦と云います――鷹野三四さん」
「僕は東京で拝み屋などをしている、中禅寺秋彦と云います――鷹野三四さん」
その声で最後の影が動き、月明かりに照らされる。
ああ、生きている。
最後に登場した顔に、私は吃驚(びっくり)した。
その顔は間違いなく、私が二日前に見た鷹野三四だった。
最後に登場した顔に、私は吃驚(びっくり)した。
その顔は間違いなく、私が二日前に見た鷹野三四だった。
「あ・貴女は死んだはずでは・・」
京極堂は嫌な者でも見る様に横目で私を睨みつけた。
私は思わず、口を噤(つぐ)んだ。
「さて、鷹野さん、貴女の計画は全て潰えました。
工作部隊ではなく、実行部隊が動いています、もう終わりです」
工作部隊ではなく、実行部隊が動いています、もう終わりです」
鷹野三四は表情を変えなかった、京極堂はこちらを向き返り、云った。
――今から、この雛見沢で起きた、そして起きようとしていた惨劇の全てを語ります。
京極堂は私を、ちゃんと聞いておけよ、と云う様な目でちらりと見やり、話を始めた。
「まず物語の始まりは、先の大戦中にある科学者が、
雛見沢村出身者にだけに見られる特殊な症状を発見した事でした。
その科学者は雛見沢村の口伝伝承などにも当たり、ある仮説を立てました。
『雛見沢には固有の風土病、雛見沢症候群があり、それは脳に寄生する細菌である』と云う説です。
そして、その説を提唱した科学者が高野一二三(ひふみ)先生です」
雛見沢村出身者にだけに見られる特殊な症状を発見した事でした。
その科学者は雛見沢村の口伝伝承などにも当たり、ある仮説を立てました。
『雛見沢には固有の風土病、雛見沢症候群があり、それは脳に寄生する細菌である』と云う説です。
そして、その説を提唱した科学者が高野一二三(ひふみ)先生です」
たかのひふみ?――それは・・・
「しかし、大戦末期であり、当時日本軍にはそれを研究する余裕は無かった。
そして、この仮説はそのまま刻(とき)の流れの中にきえ去るかと思われた。
けれど、日本の復興に合わせて、この仮説がまた再び陽の目を見る時が訪れた。
それが、研究用の入江機関であり、その設立に尽力したのが鷹野三四さん貴女だ」
そして、この仮説はそのまま刻(とき)の流れの中にきえ去るかと思われた。
けれど、日本の復興に合わせて、この仮説がまた再び陽の目を見る時が訪れた。
それが、研究用の入江機関であり、その設立に尽力したのが鷹野三四さん貴女だ」
たかのみよ?――やはり・・・