物語が終わっても世界は、現実は、刻(とき)は、止まる事なく流れ続けていく。
――この世には不思議なことなど何もないのだよ、関口君。
黒衣の殺し屋は私を向き。
「さあ次は、"君の番だよ関口君"」
そう云った。
「どう云う意味だ?、京極堂」
「そのままの意味だよ、関口君」
「そのままの意味だよ、関口君」
?
「いい加減にしろよ、まだ解らないのか」
??
「みんな気が付いているだろうに――最後まで手がかかるな、君は」
???
「本当におかしいんだよ、あまりにね」
おかしい?――何が?
「"関口君。今日は一体いつだ?"」
"いつ"?――何時?
闇が少しずつ光を、世界を浸食する。
「世界は理に基づいて成りっているんだ、それが破綻しているならそれは――」
――偽りの世界なんだ。
「きょ、・・京極堂・・・」
黒衣の殺し屋は告げた。
「いいかい、関口君。
"六月の、この日付の、この曜日の、この時間に、あの形の月が出るのはおかしいんだ"」
"六月の、この日付の、この曜日の、この時間に、あの形の月が出るのはおかしいんだ"」
――"今は昭和五十八年じゃない、もっと過去なんだよ"。
地面がぐらりと揺らぐ――
「"いい加減に自覚しろ、関口巽!、目を覚ますんだ!!"」
世界がぐにゃりと歪む――
『"仮想の世界の中にいる観測者には、その世界が仮想であると云う事が自覚出来ないんだ"』
―まったく、昭和五十八年なら、僕らはもう還暦を過ぎた老人だよ・・・
――刻が経てば言葉は風化するし、僕はあんな間違った日本語は使わないぞ・・・
―――大体、パンドラの匡って一体なんだい、拙いんだよ君は、同じ事を何度も考えたり・・・
――刻が経てば言葉は風化するし、僕はあんな間違った日本語は使わないぞ・・・
―――大体、パンドラの匡って一体なんだい、拙いんだよ君は、同じ事を何度も考えたり・・・
闇が広がっていく――私は腕の中にいる少女に――何故だか謝らなくてはいけない気がして――
遠くで――何かが泣いている、鳴いている、啼いている。
ああ、あれは・・・せみ?・・・ひぐらし?・・・とり?・・・とり!?
「鳥!!」
その途端。
川辺の、葦の間に居た小さなモノが、まるで熟れた果実を壁にぶつけたかのように、
ぱっと弾けたように見えた。飛沫が散った。
羽音。
鳥が飛び立ったのだ。
それだけだ。馬鹿馬鹿しい。
元の木阿弥だ。川の水雲(もずく)となって流れてしまえ。
どろどろどろどろどろ。川が流れる。
川辺の、葦の間に居た小さなモノが、まるで熟れた果実を壁にぶつけたかのように、
ぱっと弾けたように見えた。飛沫が散った。
羽音。
鳥が飛び立ったのだ。
それだけだ。馬鹿馬鹿しい。
元の木阿弥だ。川の水雲(もずく)となって流れてしまえ。
どろどろどろどろどろ。川が流れる。
――御免よ。本当に御免よ。
――本当は嫌いなんかじゃないんだよ。
川の音がする。水が――。
水が流れて行く。
どこも変わらぬ煤けた風景。私は天を仰ぐ。
曇っているのに空がやけに明るい。
今日は暑くなるかもしれないな。
そんな予感がする。
曇っているのに空がやけに明るい。
今日は暑くなるかもしれないな。
そんな予感がする。
そうだ、あいつのところに行こう――。
急にそう思った。
私は、後ろを見ることをやめて歩き始めた。
見ないでも――生きていけるものだろうか。それとも、見ないではいられないものなのだろうか。
それとも――。
蜩の声がする。
何も云わずに飛び出して来たのだから、妻は心配しているだろうな――帰ったら謝らなくては――
――そうだ、謝ろう――私はそんなことを考える。そして私は日常に埋没していく。
急にそう思った。
私は、後ろを見ることをやめて歩き始めた。
見ないでも――生きていけるものだろうか。それとも、見ないではいられないものなのだろうか。
それとも――。
蜩の声がする。
何も云わずに飛び出して来たのだから、妻は心配しているだろうな――帰ったら謝らなくては――
――そうだ、謝ろう――私はそんなことを考える。そして私は日常に埋没していく。
やがて――。
私は長い坂の下に立った。
どこまでもだらだらといい加減な傾斜で続いている長い坂道を登り詰めたところが――
――目指す京極堂である。
私は長い坂の下に立った。
どこまでもだらだらといい加減な傾斜で続いている長い坂道を登り詰めたところが――
――目指す京極堂である。
昭和二十七年、梅雨も明けようかと云う日のことである。
「後神の刻」~神貶し編(解答編)~ <完>