鬼、ですか――と年齢の判らぬ古書肆は神妙な面持ちで云った。
「ええ鬼です。寄って集って獲物を喰らうという、まあ人喰い鬼ですね――それが何か」
「はあ、なんと云いますか」
薫紫亭こと宮村加奈男は愛想よく笑いながらも、どこか困ったような顔になった。
「以前にも、鬼について話したことがあったなと思い出しましてね。あれは確か――そうそう」
昭和27年の9月ですよ――と宮村は云った。
それは――その年の9月と云えば、あの武蔵野連続バラバラ殺人事件の――バラバラ?
――馬鹿な。
私は頭を振った。あの事件はとっくに解決してる。雛見沢の事件と関係など、ある筈がない。
急に黙りこくったのを訝しんだのだろう宮村に大丈夫ですか――と尋ねられ、慌てて平静を取り戻す。大丈夫ですと告げると宮村はやや不安そうにしながらも話を続けた。
「そうですねえ、その頃は丁度大変な事件が起こって世間が騒がしかった時分ですから、印象に残っていたんですね。武蔵野の――そうですそうです、9月の中旬ですよ。3人目の被害者の腕だか脚だかが見つかったと騒ぎになっていた。
その頃よく店に来て頂いていたお客さんと、鬼について語ったんです」
「鬼について――とは」
「それはもう、私が存じていること総てですよ。鬼とはいったいどんなものかと――そう持ち掛けられたんでしたっけねえ。これがなかなか面白くッて、京極堂さんにもお話しようかと思っていたことなんですけれども。
まあそれはそれでいいのですが、実は気になることが御座いまして」
「気になること?」
泣き笑いのような顔で宮村が頷く。
「そのお客さんなんですがね、それまでは足繁く通って頂いていたのですが――鬼の話をした日を境にぱたりと見えなくなりましてねえ。今思うと話をしていた時から何やらただならぬ様子ではあったのですよ。兎に角拘っておられましたし、その、人を喰うとか云う話もしました」
人食い鬼――。
「詳しくは知らないのですが、その後どうも逐電されたようなんですよ――」
宮村の声はもう私には届いていなかった。ただ齎された情報が、ぐるぐると頭の中を廻っていた。
人食い鬼――バラバラ殺人――失踪――。
これは。
これはなんて厭な符合だ。
「ええ鬼です。寄って集って獲物を喰らうという、まあ人喰い鬼ですね――それが何か」
「はあ、なんと云いますか」
薫紫亭こと宮村加奈男は愛想よく笑いながらも、どこか困ったような顔になった。
「以前にも、鬼について話したことがあったなと思い出しましてね。あれは確か――そうそう」
昭和27年の9月ですよ――と宮村は云った。
それは――その年の9月と云えば、あの武蔵野連続バラバラ殺人事件の――バラバラ?
――馬鹿な。
私は頭を振った。あの事件はとっくに解決してる。雛見沢の事件と関係など、ある筈がない。
急に黙りこくったのを訝しんだのだろう宮村に大丈夫ですか――と尋ねられ、慌てて平静を取り戻す。大丈夫ですと告げると宮村はやや不安そうにしながらも話を続けた。
「そうですねえ、その頃は丁度大変な事件が起こって世間が騒がしかった時分ですから、印象に残っていたんですね。武蔵野の――そうですそうです、9月の中旬ですよ。3人目の被害者の腕だか脚だかが見つかったと騒ぎになっていた。
その頃よく店に来て頂いていたお客さんと、鬼について語ったんです」
「鬼について――とは」
「それはもう、私が存じていること総てですよ。鬼とはいったいどんなものかと――そう持ち掛けられたんでしたっけねえ。これがなかなか面白くッて、京極堂さんにもお話しようかと思っていたことなんですけれども。
まあそれはそれでいいのですが、実は気になることが御座いまして」
「気になること?」
泣き笑いのような顔で宮村が頷く。
「そのお客さんなんですがね、それまでは足繁く通って頂いていたのですが――鬼の話をした日を境にぱたりと見えなくなりましてねえ。今思うと話をしていた時から何やらただならぬ様子ではあったのですよ。兎に角拘っておられましたし、その、人を喰うとか云う話もしました」
人食い鬼――。
「詳しくは知らないのですが、その後どうも逐電されたようなんですよ――」
宮村の声はもう私には届いていなかった。ただ齎された情報が、ぐるぐると頭の中を廻っていた。
人食い鬼――バラバラ殺人――失踪――。
これは。
これはなんて厭な符合だ。