「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 喫茶ルーモア・隻腕のカシマ-42

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喫茶ルーモア・隻腕のカシマ


少年と魔術師


目の前には山荘
脇には車が停まっている
車は完全に冷えている
他に車は無い

窓から部屋を覗く
赤く燃える暖炉の前に、少女と男がいた
あの男だ、間違いない
あの日から、一度だって忘れたことは無い
少女はぐったりとして動かない
生気の無い顔、呼吸もしている様には見えない
死んでいる
間違いなく死んでいた
そして、何よりもあの男の体も服も全て赤い
男は血まみれだった

またか……またなのか
この男は何も変わっていなかったのか
怒りが沸き立つ
髪が逆立つ様な、錯覚
竹刀袋から出した小太刀を佩き
ドアへと向かう
鍵は掛かっていない

静かにドアを開いた

*



「……お前……また、ヒトを殺したのか……」

魔術師が振り向く
血まみれの顔

「?!…………あの時のガキ……か……」

言いながら、ゆっくりと立ち上がる

「殺したのかと……聞いている」

押し殺した声で聞く
やや、間があって魔術師は応える

「……そうだな……俺が殺した…………だ」

小さくて聞き取れない
だが、殺したことを認めているのは確かだった

「外へ出ろ……」

こいつはやはり排除しておくべきなのか

「いいだろう……相手になってやる……」

山荘の脇の開けた場所、緩やかな斜面
うっすらと雪が地面を覆っている
対峙するのは、あの時以来
ボクは強くなった
今なら……巧くやれば勝てるかもしれない

*



「さて、やるか……ゲームの続きだ……あの日のな」
魔術師が口を開き、そのまま詠唱に入る
「優しき風よ……」
だが、続けさせはしない……腰に巻いたベルトからメスを引き抜く
「ヒュ?!」
喉に突き立つメス
抜刀と同時に駆け出し、一気に間合いを詰める
「ハッ!」
気合と共に刀が一閃する
転がる様にして魔術師はかわす
喉に刺さったメスを引き抜き、言葉を紡ぐ
「ヒュハッ……癒し……の……ヒュフッ……」
が、長くは言葉がつづかない
「シッ!」
刀を横に薙ぐ……が、またかわされる
「……と……ンで……レ!」
瞬間、魔術師の傷がふさがる
「チッ!」
距離は取らせない
そのまま連撃を放つ、再びかわされてしまう
型も何もなかった
ただ、憎しみで刀を振り回していた
だが……怒りに任せながらも、心の奥底では分かっている
殺すつもりで斬りかかっているわけではないと……
心の整理が付かないでいる
魔術師は転がりながらも、詠唱し……跳び上がる様に起きる
蒼い光がうっすらと漂う様に体を覆っていた

*



「……随分とやる様になったな……」
「あの日から、毎日鍛錬した……今度は守れる様に、二度と失わない様に」
「こんな短期間でここまで強くなるとは……やはり都市伝説は化け物だな」
「そうだよ、ボクは化け物だ……でも、それはお前も同じだッ!」
「へへっ、そうかよ」
「そして、マスターは……ボクやお前なんかのために命を失っていいヒトじゃなかったんだッ!」

独りで来た理由がやっと分かった
もし、仮に……男を殺すと決めた時……カシマさんの手を汚したくは無かった
サチには見せたくなかった……殺す場面を……
そして何よりも、復讐心と怒りで化け物となったボクの姿を見てほしくなかった

「……都市伝説が、仇討ちとはね……驚きだよ」
「……」
「俺を殺すことがお前の望みなんだな?」
「……」
「……お前の契約者はそれを望むと思うか?」
「!」
「本当にお前は俺を殺せるのか?」
「……」
「殺せないんだろう?……お優しいことだな」

挑発には乗らない
心を落ち着ける
だが、男の言葉が離れない
マスターは自分のために、ボクがヒトを殺すことを……望んでなどいない、きっと
なら、どうすればいいというのだ
この憎しみを収める鞘などない

*



でも……
本当は、ボクだってヒトの命を奪いたくなど……無いんだ
怖かった
ヒトの命を奪ったボクを、迎えてくれるヒトはいるだろうか?
ボクは今のままでいられるだろうか?

ずっと結論を出せずにいた
どんなに考えても、どんなに精神を鍛錬しても……
もし、この男が改心していたら……そう願った
反省し、心を入れ替えていたら……許そうと思っていた

刀を鞘に収め
相手が先に動くのを待つ

だが、男は動かない
だから聞く

「お前は、この先も都市伝説を狩り続けるつもりなのか?」
「狩るさ……俺は都市伝説が嫌いだからな」
「そう……なら……あの子は、なぜ死んだ?」
「?」
「さっき、お前が抱えていた人間の女の子の事だ」
「……お前に言う必要は無い」
冷静に考えれば、おかしな点があった
男は血まみれだったが、少女からは出血があった様には見えなかった
「殺したわけじゃないんだな?」
「……」
「……なぜ隠す?」
こんなことを隠しても何のメリットも無いのに……

*



背後から雪を踏む音がする
振り返る
メガネをかけた、華奢な体格の女性
……サチだった

「サチ?!……なんで……」

思考が停止する

「邪魔が入ったな……お喋りはおしまいだ……決着を付けよう」

男は詠唱を始める

「凍てつく風よ……」

メスを投げる……が、かわされる
速い!魔法のせいか?!

「北より来りて……」

最後のメスも投擲する

「眼前の敵の命を……」

今度は掴み取られる……完全に見切られていた

「奪え!」

詠唱が完成し、右腕が蒼い冷気に包まれる
疾駆する魔術師

*



すぐ背後からサチの悲痛な声が響く

「輪くんッ!……やめてッ!!」

捕らえきれない速さで迫る男

マスターの命を奪ったあの魔法

瞬間、脳裏をよぎる光景

吐き気を催す様な残酷な光景

マスターが死んだあの光景がフラッシュバックする

サチは庇う様にボクの前に出る

ボクは動かずに、ただ見送る

迫る魔術師の右腕




そして

切断され、落ちる───魔術師の右腕

「?!……何故だ」

まるで最初から分かっていたかの様に
刃がサチの脇をすり抜け、腕を斬り落としていた

いや、分かっていたのだ

「これが、二度目の失敗だったからだよ」

「……二度目の失敗?」

あの瞬間、脳裏をよぎった光景
いつもよりハッキリとしたイメージ
吐き気を催す様な残酷な光景

見えたのは
サチがボクを庇って───死ぬ光景
そして、マスターが死んだあの光景がフラッシュバックする

絶対に避けなければならない結末

*



その予知が見えた瞬間
ボクは決断する、その全てをもって……
未来は、理想にも絶望にも変わって行くものだ

ギリギリまで刀は鞘に収める
速くても遅くても結末は変わらない
間合いに相手が入る位置
予知で相手が来る位置は分かっている
そして、決して退かぬ強き心
ボクが諦めた瞬間───サチは死ぬ

『大事なのは間合い そして、退かぬ心だ』

抜刀する───己の成し得る最速の抜刀

そして……
切断され、落ちる右腕

「お前の……そしてボクの失敗……これで、二度目になるところだった」

「……そうか……これが、お前の力──限定予知──」

殺すつもりのない相手の命を奪ってしまった男
自分のせいで大事なヒトの命を奪われた少年

二度目の同じ過ちを予知する
これがボクの持つ能力

*



放心した様に、ドサッと崩れ落ちるサチ
刀を鞘に収め、サチに肩を貸す
「輪くん……こんな事、もうやめて……」
「大丈夫だよサチ……もう、戦う気は無いから」

「……いい抜刀だった」
いつの間にか、カシマさんが背後に立っていた
ジャックも一緒にいる
二人とも随分と傷ついていた

ドサりとカシマさんは肩に抱えていた男を下ろす
男の首からは、両断されたカメラがネックストラップによってぶら下がっていた

どうやら、カシマさんたちも1戦交えてきたらしい


*


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