「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - ハーメルンの笛吹き-22

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【上田明也の探偵倶楽部】
シャーロック・ホームズのコスプレをした男が安楽椅子に腰掛ける。
キィ、キィ、と椅子の軋む音色。
「こんにちわ、皆さん。
 誰もが愛する名探偵笛吹丁です。
 こんばんわ、皆さん。
 誰もが愛する殺人鬼上田明也です。
 いつも考えて居るんですが探偵ってなんなんでしょうね?
 例えば医者は人を救うし軍人は国を守ります。
 商売人は物を売るだろうし政治家は天下国家を論じるでしょう。
 そう、多分だけど探偵は真実なんて語らない。
 探偵は事実を語るんだ。
 更に言えば……、殺人鬼は愛を語るに違いない。」

安楽椅子から立ち上がると上田明也は所長室のドアを開き、事務所へ向かう。

「良いフレーズじゃないかな?
 殺人鬼は愛を語る。
 韻も含みも無いシンプルな言葉が胸を打つ。
 法則の無さが何時だって歴史を作り上げるんだ。」
【上田明也の探偵倶楽部2~殺人鬼は愛を語る~】

「……というわけなんです。」
「成る程ねえ、お姉さんが帰ってこないと。」
「大学に行くようになってから帰りがどんどん遅くなって……。
 それである日友達と遊びに行くって言ってから帰ってこなくなりました……。」
笛吹丁は探偵として目の前の少女から依頼を受けていた。
少女の姉がこの町のとあるクラブに遊びに行ってから帰っていないらしい。
ちなみにこの少女の姉が失踪した日、上田明也という殺人鬼がそのとあるクラブで人を殺して回って居る。
彼が少女の姉を手にかけている可能性もある。
探偵・笛吹丁は心を痛めていた。
「ふむ………。
 行方不明人の捜索は大変なんだけど……、お金かかるよお姉さん。」
「貯金なら有ります!どうしても姉を捜して欲しいんです!」
「そうか……、ちなみに幾らぐらい有るのかな?」
「10万円、位……です。」
「あのねえ、こういうのって普通稼働時間×一万円くらいかかるんだよ。
 十万円だと十時間かな?
 その時間でお姉さんを見つけられると思うかい?」
「う………。」
言葉に詰まる少女。
そんなこと、少女だって解っていたはずだ。
しかし笛吹丁は容赦しない。

「恐らくこのような非生産的なことにお金を使う暇があったら自分の為に貯金する方が良い。
 チラシを見てきたんだろうけどお互いの為に俺は半端な仕事をするつもりはないな。」
「そんな………。
 どこでも相手して貰えなくてもうここしか無いんですよ!
 だからお願いします!何もやらないわけにはいかないんです!」
少女が頭を下げる。
笛吹はそれを見て困った顔をしていた。
「うぅ……。仕方ない。
 調査費用でまず5万円貰って、もしお姉さんを見つけられたら残りの5万円を貰う。
 それで良いかな?」
「……受けて下さるんですか!?」
「人の心を持っていたらこの状況では断れないでしょうに……。」
やれやれ、といった感じでため息混じりに笛吹丁は答える。
「ありがとうございます!
 両親も諦めていたのに……本当にありがとうございます!」
「連絡先教えておいてくれるかな、もし見つかった時には連絡したいから。」
「はい!」
そういって少女、――――――向坂境は嬉しそうに笛吹丁に自分の携帯の電話番号を教えた。


少女が去ってから、笛吹丁、否、上田明也は後ろに居るらしい誰かに話しかけた。
「なぁ、どう思うよお前は?」
「まあお前の口からそんな言葉を聞けるとは思わなかったかな?
 ずいぶん人情派の探偵の演技が板についているじゃないか上田明也。
 そもそも無理ってなんだ、私が居るんだから楽勝じゃないか。
 私の目から逃れうる一個人がこの世界に存在すると思っているのか?
 それとも私に手伝わせてくれないのか?」
扉を開けて出てくる赤毛の少女。
彼女の名前は橙・レイモン。
ラプラスの悪魔とウォーリ―を探せ!という二つの都市伝説と契約している少女だ。
「言ってくれるな橙。お前はまだ都市伝説を使うのがきついんじゃないのか?」
「何を言っている、それ位手伝うよ。」
フ、と鼻で笑うと最近膨らんできた胸をトンと叩く橙。
「なぁ橙。」
「なんだ上田明也。」
「お前は将来ロリとはほど遠いキャラクターになりそうだな。」
橙の胸元を凝視しながらなげく上田明也。
「安心しているよ。それともその前につまみ食いするか?」
不敵に微笑む小六ロリ。
「残念ながら俺は純愛派だ。つまみ食いなんて不埒な真似は美学に反する。
 さっさとさっきの女の子のお姉さんを探してくれ。」
あっさり誘いを断る上田明也。
彼は純粋な愛に生きる男なのだ。
「本当に上田明也は探偵の仕事をしないな。」
「よく言われる。」
「誰に?」
「自分に。」
「一人じゃないか。」
「それが俺にとっての全員だろうが。」
「やれやれ……。じゃあ始めるぞ。」

橙が安眠用のアイマスクを目につけて椅子に座り込む。
「探す人間の名前は?」
「向坂垣間だな。」
「サキサカカイマね、噛むぞ、三階くらい言えば十中八九噛むぞ。
 身長とかって解るか?」
「身長は160cm前後だとよ。」
「ふむ……。」
そのままポケ―っと椅子に座り込む。
恐らく彼女の都市伝説を使っているのだろう。

「お!」
橙が何かを見つけたらしい。
「どうした橙。」
「意外と近いところに居るぞ、学校町の東区の住宅街だ。」
「え、死体じゃないの?」
上田は最初から死んでいる物と決めていたらしい。
探偵にあらざる態度だ。
「ああ、生きて居るぞ。割と元気だ。」
「じゃあ準備をしたらさっさと迎えに行くか。」
「なんか都市伝説と契約しているみたいだから気をつけろよ?」
「そうか、その話も聞かせてくれ。」
「ああ、それがだな………。」


数日後、ハーメルンの二人組はフィアット500に乗っていた。
笛吹丁とメルは東区のとある住宅街、その中にあるアパートに向かっていたのだ。
「マスター、お姉さんが契約している都市伝説ってなんなんですか?」
「スナッフフィルム。
 効果は解らないけれど仕掛けられたカメラに一度写るとアウトって考えた方が良いと思うぞ。」
「もしいきなり襲いかかられたらどうしようもないじゃないですか?」
「そう思うだろう?
 ところがどっこいなんだよね。
 良いか?」
何かをメルに耳打ちする上田明也。
それを聞くとメルは納得したように手を打った。

数分後。
フィアットをアパートの前に止めると二人は橙に伝えられた部屋の前に来る。
「じゃあ行くぞメル。お前は少し隠れていろ。」
「はい、解りました。」
アパートの陰に隠れるメル。
そして笛吹丁はチャイムを鳴らした。

ガチャリ
なんの警戒もなくドアを開けて中から出てくる女性。
「すいません、只今化粧品のアンケートをしているのですがお時間宜しいでしょうか?
 お肌にやさしい自然由来の製品を使った物についてでして………」
化粧品のセールスマンになりきって話をする笛吹丁。
適当すぎるが結局顔さえ解ればいいのだ。
それが向坂垣間らしき人物だということが解れば向坂境にそれを伝えれば良い。
「あ、丁度良いわ。
 化粧品変えようかと思っていたんですよ!
 お茶も入ってますからちょっとお話聞かせてくれないかしら!」
そう言われて部屋に招き入れられる笛吹丁。
あまりに簡単に家に入れる物だから逆に彼の方が警戒していた。

「あの……、ずいぶん沢山カメラが有りますね?」
「あらあらうふふ、これ趣味なんですよ。」
「は、はぁ……。」
リアルにあらあらうふふなど聞くとは思っていなかったのだろう。
笛吹丁はちょっと退いていた。
「化粧水とか扱ってますかね?出来ればそういう物が欲しいんですよ。」
「はい、有りますよ。ああ、あとこちらのアンケートもよろしくお願いします。」
「あら、忘れていました。」
目の前の女性はアンケートに名前を書き込む。
間違いなく向坂垣間と書いているところが彼の目に見えた。
アンケートを書いている間、しばらく会話が無くなる。

「そう言えば、最近都市伝説みたいな殺人事件が有ったらしいですね。」
「え?」
先に口を開いたのは向坂垣間だった。
「事件の発生現場ってクラブだったらしいんですけど女性が一人買い物に行っている間にみんな殺されていたそうです。
 世間ではハーメルンの笛吹きと呼ばれる殺人鬼の犯行だって言われています。」
「そ、それがどうしたんですか?」
「その女性って……、私のことなんですよね。
 待っていましたよ、殺人鬼サン。」
笛吹丁はたち上がって逃げようとする。
だが身体の自由が効かない。
「――――――これは!?」
身体の自由を奪われて焦る笛吹丁。
「私の都市伝説『スナッフフィルム』はカメラで撮影されている相手の動きを問答無用で止めてしまいます。
 相手はカメラの電池が無くなるか死ぬまで動けません。
 あ、でも安心して下さい。
 喋る自由はちゃあんと有るんで助けを呼んでも良いんですよ?
 カメラが回って居る限り誰も助けに来ないですけど。」
「馬鹿な!そんな能力が有るなんて……!
 俺の正体をどこで知ったっていうんだ!?」
「そりゃあ……、クラブから出てくる貴方を見ていましたから。
 DJの人が血相変えて中から出てきたんで何かと思ったらすぐに返り血を浴びた貴方が出てくるんですもの。
 顔なんてはっきり覚えていましたよ。
 クラブに戻った時は驚いたなあ……。
 青が基調の内装が真っ赤になっているんですもの。
 赤、赤、赤………。
 良いわよね血のどす黒い赤ってゾクゾクしちゃう!
 個人的には動脈から出てくる鮮やかな色も良いんだけどやっぱり死んでから少し経ったくらいが絶品ね。
 そんな時、この都市伝説と契約したの。
 この前から沢山の“作品”を作っていてですね、正直人を殺すのって楽しいんですよね。」
「スナッフフィルムか……。
 自分の欲望で人を殺すなんて邪悪なことをやっていると……死ぬよ?」
笛吹丁は冷たい声で言い放つ。

「どこぞの過去視の探偵でも気取っているんですか?
 殺人鬼が探偵を気取るなんてずいぶんですね。」
「いやいや、これが中々冗談でもない。貴方の妹さんに依頼されてここには来たんです。」

そう言って不敵に笑う笛吹丁。

「あ、外に隠れていた貴方の仲間ですけど隠しカメラで撮影中ですからね?
 あと妹が人質にとられても私はもう痛くもかゆくもないですよ?
 もう家族とかよりこっちの方が大事ですから。」
「え………。」
「あの小さい女の子はもう動けない筈ですよ?」
「えええ………。」
弱り切った顔をする笛吹丁。
「もしかして貴方が囮になって私を倒そうとしていたんですか?
 それは無理という物です。 
 ベタな台詞ではありますがここであなたは私の作品になるからです。
 チェーンソーでザクッといきますか?
 それとも柳刃包丁を何本も何本も突き刺して失血死するのを待ちますか?
 リアルで真綿で首をしめてみるのも楽しめますよ?
 あっ、そうだ!
 灯油でゆっくり燃やされるのなんて新しいですよね!
 動けないのに火だるまになってゆっくり燃やされるんですよ!」
「狂ってる………。」
笛吹丁は信じられない、といった表情で呟いた。

「よぉし!私決めちゃった☆」
台所に向かった垣間が小出刃包丁を持ってくる。
「これでゆっくり頭蓋骨を解体しようかと思います!」
「ええええええええええええ!?」
「それではケーキ(脳みその白的な意味で)入刀です!」
垣間が包丁を振り上げて笛吹の頭にそれを突き立てようとした瞬間だった。

「ごめんなさい!許して下さい!」
「え……?」
場に広がる沈黙。
何が起きているのか解っていないようだ。
「命だけは許して貰えないですか?」
「な、何を言っているの?」
「え、ほら、俺ってイケメンじゃないですか?」
笛吹丁はクルリと後ろを“振り返って”垣間に話しかける。

「え、何を言っているの?
 ――――――――――――!」
向坂垣間が見たのは操作を無視して立ち上がる笛吹丁だった。
「知らなかったみたいだから言っておこうか。
 操作系の都市伝説は都市伝説やその契約者に対しては効きが悪いんだよ。
 そして、――――――イケメンが命じる!
 ここで有ったことを誰にも言わずに一日後、できるだけ私達が来たことを秘密にして、証拠も消して自殺しろ!」
笛吹丁は向坂垣間の瞳をまっすぐに見つめると一息で命令を与えた。
「………はい。」

ピキーン!

ガラスが罅割れるような音がして向坂垣間は崩れ落ちる。
それを確認すると笛吹丁は部屋から立ち去った。


それから数分後。
「ああ、見つかったぜ。
 東区のアパート、●●アパートの三号室な。
 あんたのことを待っているはずだ。
 じゃあなー。
 報酬?
 あー、………調査に一時間かからなかったから良いや。
 どうせお金なんて最初から無いんだろう?
 どうしても払いたい?
 ………じゃあ俺の事務所でバイトでもするか?
 そのうち面接にでも来なよ、お茶くみの子が一人欲しかった。」
フィアットの運転席で携帯電話を切る上田明也。
「まったく、兄ぃも人使いが荒い。わざわざ冬休みの僕を呼ばないでくれよ。」
「はっはっは、ごっめん!バイト代は弾むぞ!」
「キャッホゥ!」
フィアットの客席で愚痴る笛吹丁。
「てか所長、私が今回欠片も役に立ってないんですけど。」
つまらなさそうな顔のメル。
「安心しろ、“俺”はもっと何もしていない。探偵『笛吹丁』は八面六臂の大活躍だったけどな。」
「もうこれ外して良い?
 かなり蒸れるんだよね、このマスク。」
ベリベリベリ!
笛吹丁の顔が二つに裂けて中から中性的な顔立ちをした少女が現れる。
彼女の名前は平唯。
※ただしイケメンに限る、の契約者。
イケメンであることを生かして人間(ただし彼女をイケメンと思った相手に限る)を自らの支配下におけるのだ。
上田明也とは従兄弟同士の間柄で、学校町には親の里帰りのついでに寄っていたのだ。

「ほら、お兄ちゃんからのお年玉。」
ポン、と四万円を手渡す上田。
「キィヤッホゥ!」
喜ぶ平唯。
「ところで美味いスイーツの店を見つけたんだがお前も来るか?」
「待っていましたお兄様!」
「じゃあ少し飛ばすぜ!」
唯とメルが青くなって顔を見合わせると上田明也は容赦なくアクセルを踏み込んだ。
赤いフィアットは速度を上げて真冬の凍った道路を走り出したのであった………。

【平唯の人間観察第五話「探」 fin】

バツン!
古畑任●郎よろしく場面が暗転してどこからともなくスポットライトを浴びた上田明也が現れる。
「と、言うわけで今回のお話楽しんで頂けましたか?
 平唯に橙と普段活躍していない面々がメインの話になりましたねえ。
 意外と俺も優しいところがあるでしょう?
 姉を失って傷心の少女の心をケアする為にバイトに誘ってみたり
 従妹を殺そうとしたひどい輩に妹と会話をする為の最後の時間を与えたり
 やはり幾つになっても心配ですからね、年下の親族ってものは。
 そのうえあの子、実は養子なんですよ。だからなおのこと……ね。
 探偵笛吹丁は笛吹探偵事務所の探偵であって俺のことではない。
 俺はあくまで上田明也という一個人であって笛吹探偵事務所の探偵こそが笛吹丁と名乗るべきなんですよ。
 だからあくまで途中に出てきた平唯は笛吹丁であって平唯でもあると。
 今回探偵をやらなかった俺が笛吹丁を名乗る資格はないでしょう?
 そう、探偵はイケメンだから許されるという下らない事実を語り、
 殺人鬼は離ればなれの姉妹に再会の時間を与える為に嘘を吐いた。
 どうですか?
 殺人鬼ってなかなか愛に満ちた仕事でしょう?
 ちなみに向坂さんですが今は俺の事務所でバイトしています。
 中々真面目な子で助かっていますよ。」
どこぞの探偵を気取っているのだろうか?
愁いに満ちた表情で滔々と語り始める上田明也。

「ところで彼女の学校で面白い事件が有ったのですが……。
 まあ良い。
 これはまた次の機会のお話です。
 主人公が探偵と殺人鬼の二足のわらじを履く推理をしない探偵小説をどうぞヨロシク。
 さようなら、さようなら。」

それだけ言うと上田明也は暗闇の中に消え去っていった。
彼の立っていた場所にスポットライトが当たり続けているだけだった……。
【上田明也の探偵倶楽部】

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