「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 花子さんと契約した男の話-18

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匿名ユーザー

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 ひゅんひゅんと、風を切るような音が響き渡る
 ……すぱんっ!
 そして、壁に立てかけられていたモップが、真っ二つに切り裂かれた

「くそ…っ!?花子さん!」
「うん!」

 ひゅん!と
 飛び回るそれを束縛すべく、花子さんのトイレットペーパーが宙を舞う
 ……が

 ひゅんっ
 すぱすぱすぱすぱっ!

 それは、あっと言う間に切り刻まれた
 ぱらぱらと、ただの紙切れになって床に落ちる

「つ、捕まえられないの!?」
「っくそ、厄介だな、こいつは…」

 ひゅん、ひゅん
 そいつは、トイレの中を飛び回っている
 …の、だと思う
 何せ、見えないので断言できないが…

「…なぁ、『噛み男』!!」


 噛み男
 日本では、ちょいとマイナーな都市伝説かもしれない
 そう、こいつは外国産の都市伝説だ
 どんな都市伝説かと言うと…
 …まぁ、西洋版「鎌鼬」と言うべきか
 日本は、突然の突風による切り傷を、手が鎌になった鼬の姿をした妖怪の仕業とした
 が、なぜか西洋では、見えない男が噛み付いてくる、と言った感じで想像されたらしい


 ひゅんひゅん、鳴り響く風の音
 風の音に混じって、微かに噛み男の笑い声が聞こえてくる
 …まったく、鬱陶しい!

 ……に、しても、参った
 相手の姿が見えない、と言うのは厄介だ
 花子さんの攻撃で狙い打とうにも、姿が見えなければどうにもならない
 だからこそ、トイレットペーパーを風が吹き荒れる辺りに放ち、相手を拘束しようと思ったのだが
 …まさか、拘束する前に、全て噛み切られてしまうとは

 ひゅんっ、ひゅんっ
 風は、段々と俺達をトイレの壁際に追い詰めてきている
 じわり、じわり、と
 こちらを追い詰めて、じっくりと切り刻んでくるつもりか
 なんと言うどSだ
 何とも、戦いたくない相手だ

(…ここが学校だったら、先生たちの協力も得られたんだが…)

 …が
 残念ながら、ここは学校内じゃない
 俺の通学路の途中にある公園内の、公衆トイレだ
 …ついでに言うと女子トイレである
 大丈夫、真夜中だからきっと誰にも見られてない
 セーフだ、セーフ

 …近頃この公園周辺で、通り魔事件が発生していた
 被害者に一切の共通点なし
 ただ、共通しているのは
 …誰も、犯人の姿を見ていない
 いや
 見る事ができなかった、ということ

 見れる訳ねぇよな、畜生め
 ここまで高速で動き回られて目で追えるかっ!
 F1レーサー並の動体視力があればわからんが、俺には無理じゃ少なくとも!!

「----っ!?」
「けーやくしゃっ!?」

 ひゅんっ!と
 噛み男(らしき気配)が、俺の真横を通り抜けた
 はらりっ、と俺の髪が数本、ぱらぱらと舞い散る
 ーー畜生め、噛み男の攻撃範囲内に、そろそろ入るか…!?

 ごぽっ、と
 トイレの便器から、水が溢れ出す
 花子さんが、噛み男を攻撃しようとしているのだろう
 しかし…狙いが、定まらない
 せめて、相手の動きを止めなければ…

 考えろ
 考えるんだ
 相手は、噛み付く事で攻撃してくる
 そう、トイレットペーパーを切り裂いたのも、噛み付き…と言うか、牙での攻撃にすぎないのだ
 恐らく、相手はこちらに噛み付いてくる
 …ならば

「花子さん、トイレットペーパーの準備を」
「み?…う、うん」

 ふわりっ
 再び、トイレットペーパーが宙に浮かぶ
 俺は、それを確認して

 一歩、前に出た

「け、けーやくしゃっ!危ないよっ!」
「大丈夫」

 大丈夫だ
 …さぁ、来い、噛み男
 俺に、襲い掛かってきてみろ

 ひゅんひゅん、ひゅんひゅん
 耳に痛い、風の音
 それは、あっと言う間に俺に近づき

「------っ!!」

 肩に、激痛を感じた
 ずぷり
 牙が、食い込んでいく感触
 それは、一瞬だったはずだ
 しかし、その時間は、随分と遅く感じた

 だから、こそ
 俺は、その行動をとる事が出来たのかもしれない

 左肩に噛み付いてきている、噛み男
 俺は、俺のその左肩に、すぐに手を伸ばす
 …ある
 噛み男は、肉体をもっている!
 それを確認し、俺はそいつを鷲掴みにした

「----っ!?」
「…ッ捕まえたぞ、噛み男…!」

 俺に、頭を鷲掴みにされて…それは、姿を現した
 それは…男、と言っていいものか、どうか、よくわからない

 肉の塊
 それに、大きな、大きな口がついていて…その口に、無数の鋭い牙が並んでいた
 その無数の牙が、ずっぷりと、俺の左肩に食い込んでいる

「-ッ花子さん、今だ!」
「うん!」

 痛みを堪えて叫ぶと、花子さんはすぐに反応してくれた
 ぎゅん、と
 トイレットペーパーは、即座に俺に噛み付いてきていた噛み男をぐるぐる巻きにした
 ぎり、と締め付けられる痛みに、噛み男は俺から口を離す

「っつ…」

 ずきり
 牙が抜けていく感触
 …痛ぇ
 相当痛ぇ!?
 くっそ、これくらいしか手段を思いつかなかったとは言え、きついぞ!?
 じたばた、噛み男は花子さんのトイレットペーパーに締め上げられ、苦しみ続ける
 …が、花子さんのトイレットペーパーには、相手を絞め殺すだけの力はない
 あくまでも、これは相手を束縛する為の力なのだから
 だから、とどめは

「花子さん、そのままトイレットペーパーと一緒に流しちまえ!」
「は~い!」

 俺の言葉に、花子さんはぴ!と無邪気に返事して
 哀れ、噛み男はトイレットペーパーに巻きつかれたまま、トイレに吸い込まれていった
 ごぽごぽごぽごぽ…
 ……ごぽんっ!!
 一瞬、何かがトイレに詰まったような音も、聞こえてきたが
 噛み男は、そのまま問題なく、公衆トイレの便座の中へと吸い込まれていったのだった


 ずきずき
 ずきずきずきずきずきずきずき
 おぉぉ……痛い
 噛み付かれた部分が、そりゃもうズキズキと痛いっ!?

「けーやくしゃ、だいじょーぶ??痛いの痛いのとんでけする?ほーたい巻く?」

 …あぁ、なんていい子だ、花子さん
 でも、多分この痛みは痛いの痛いのとんでいけ程度じゃ消えてくれないし
 …花子さんや、それは包帯じゃなくてトイレットペーパーだよ
 それで止血するのはきついと思う

「いや、大丈夫…家に帰って、自分で手当てするから」
「そう…?」

 じーーーーーーっ
 うぅ、純真無垢な眼差しが突き刺さるっ!?
 花子さんを心配させたくはないのだ
 ただでさえ、俺は人間
 都市伝説である花子さんと比べて、あまりにも弱い存在
 …それは、わかっている
 先ほどの作戦とて、俺ではなく、花子さんが攻撃を受けて、そのまま相手を束縛…とする事もできた
 だが、俺としては、花子さんに傷ついて欲しくない
 だからこそ、俺が攻撃を受けたわけだが…今度は、花子さんをこうやって心配させてしまう始末
 なかなか、うまく行かないものだ

「ほら、俺は家に帰ってるから。花子さんも、帰ろうな?」
「う、うん…」

 何とか花子さんを宥め、帰らせる
 俺も、そっとトイレを出て帰路に付いた
 深夜の住宅街
 薄暗く、何とも不気味だ
 …こう言う時に出没する都市伝説もいる訳で
 冷静に考えれば、花子さんを先に帰らせず、家まで一緒に居るべきではあるのだが
 ……が、怪我をした俺が傍に居ては、花子さんがずっと俺を心配し続けてしまう
 俺としても、花子さんのような小さな女の子の姿をした存在に、家まで送ってもらうと言うのは男として若干プライドが傷つくと言うか何と言うか

 …とにかく、幸い、途中で他の都市伝説に遭遇する事無く、家に着いた
 そっと、家の門をあける
 …よし、誰もいないな?
 そ~っと、そ~っと
 俺は家の中に入ろうと、玄関をあけて…

「お帰り」
「うぉうっ!?お、親父!?」

 おぉぉおおおう!?
 な、何故親父が玄関にいる!?
 しかも、仁王立ちしている!?
 しまった、抜け出したのがバレていたかっ!?

「息子よ、こんな時間に外に出ていたとは、一体何が……む!?」

 …げ
 しまった、親父の視線が俺の肩の傷に……

「む、息子よ!?何故そんな傷を…っ!?」
「あ、いや、これは」
「むむむむぅうううう!まさか、またどこぞの悪餓鬼がお前に危害をくわえたか!?」
「いや、だからこれは」
「いや!?まさか、どこぞの組の者が…!?えぇい!!許さんぞ○○組ーーーっ!!」

 …………
 あ~…
 とりあえず、あれだ

「でい」

 っご!!!

「うごふっ!?」

 深夜に、大音量で騒いでいるのは近所迷惑と判断し
 俺は、問答無用で親父を背後から殴り倒した
 ばったり、倒れ、気絶する親父
 よし、騒音公害排除!!

「あらあら、お帰りなさい」

 …っち
 あの騒ぎで、お袋も起きて来たか
 こりゃ、妹もおきてくるな…

「…ただいま」
「あらあら、怪我をして…ちょっと待ってなさい。救急箱を持ってくるから。お部屋に入っていなさいな」

 お袋は、ころころと困ったように笑って、そう言って来た
 …これは、逆らう事ができない
 わかった、と俺は頷き、とりあえず玄関を上がる

「っあーー!?兄貴、その怪我…」

 あぁ、もう、やっぱり妹も来た!

「たいした怪我じゃないから大丈夫だ」
「で、でも…っ」
「あらあら、あなたまで起きてきて…お兄ちゃんの手当ては、お母さんがするから、大丈夫よ
 あなたは、ちゃんと寝ていなさいな」

 ころころ、微笑むおふくろにそういわれ
 むむぅ…と、妹は、やや不満そうな表情だったが
 お袋に逆らう事はできず、自分の部屋に戻っていった
 …これは、明日が面倒そうだ
 とにかく、俺はお袋に付いて行って…
 ……玄関には、俺が殴り倒した親父だけが残される結果となったが
 いつものことなので、とりあえず放置する事にしたのだった



 …しゅるり、と
 包帯が、巻きつけられる
 傷口を消毒し、包帯を巻く
 なんとも、手馴れた手つきだ

「あんまり、お父さんや妹を心配させては駄目よ?」
「……わかってるよ」

 わかってる
 わかってる、けど
 あの噛み男は、俺が気付いてしまったから
 気付いたからには、放っておく事もできない
 だから、俺と花子さんが行くしかないだろう
 それに、この程度の怪我
 …もしかしたら、これからもする可能性がある
 それを、恐れる訳にはいかないのだ
 自分が傷つく事をおそれ続けていては、都市伝説との戦いなど、続けられない

「…あなたが何をしているのか、お母さんは聞きませんよ」

 …しゅるん
 包帯を巻き終えて
 お袋は、やんわり、微笑んできた

「あなたが何をしているのか、お母さんはわからない
 でも、きっと、あなたは間違った事は、悪い事はしていないと、思うの」
「………」
「だから、ね。お母さんは、あなたの味方よ」
「…ありがとう」

 ぼそり、俺はそう答えて
 のろのろと、立ち上がった

 両親に心配かけたくない
 妹に心配かけたくない
 花子さんにも心配をかけたくない
 誰にも、心配をかけたくないのだ
 だが、都市伝説と戦い続ける以上、嫌でも、誰かに心配かけ続けてしまう
 …それを、否応なしに、自覚させられる

「…こんな真夜中に、御免。おやすみ…」
「はい、おやすみなさい。あした、お寝坊しないようにね」

 ころころと、お袋はいつも通り、穏かに笑ってきて
 そんなお袋を背後に、俺は自分の部屋に戻っていったのだった




fin





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