喫茶ルーモア・隻腕のカシマ
夢を観る者
輪がサチの家の前に着くと
そこにはウロウロと家の前を行ったり来たりしている不審人物がいる
そこにはウロウロと家の前を行ったり来たりしている不審人物がいる
「……はぁ……疲れるんだよね、こういう展開」
「ん?……おぅ!輪、遅かったなぁ」
「ん?……おぅ!輪、遅かったなぁ」
ボクサーだった
「サチに呼ばれたんでしょ?何で入らないのさ」
「いや、まぁ……緊張するっつうか」
「今、そういう状況じゃないでしょ?」
「でもよぉ……ピンチをチャンスに変えるのがヒーローだろ?」
「それはねぇ……自分のピンチをチャンスに変えるのが格好良いんであって
他人のピンチをチャンスに変えるのは悪役だから……分かる?ボクサーさん」
「へへへ、そっか……でもさ、アレだろ?カシマさんだし、大丈夫だよな?」
「……何その信頼……ちょっと……格好良いじゃないか……ちょ、ちょっとだけだからねッ」
「よしッ!いくかッ!!」
「……ふぅ……スルーされるとはね……じゃ、いくよ……」
「いや、まぁ……緊張するっつうか」
「今、そういう状況じゃないでしょ?」
「でもよぉ……ピンチをチャンスに変えるのがヒーローだろ?」
「それはねぇ……自分のピンチをチャンスに変えるのが格好良いんであって
他人のピンチをチャンスに変えるのは悪役だから……分かる?ボクサーさん」
「へへへ、そっか……でもさ、アレだろ?カシマさんだし、大丈夫だよな?」
「……何その信頼……ちょっと……格好良いじゃないか……ちょ、ちょっとだけだからねッ」
「よしッ!いくかッ!!」
「……ふぅ……スルーされるとはね……じゃ、いくよ……」
*
二人がサチに案内されて一室に入ると、カシマが眠っていた
規則正しく胸が上下し、呼吸が乱れていない事が判る
規則正しく胸が上下し、呼吸が乱れていない事が判る
縁側のある畳敷きの部屋で、布団に寝ているカシマを見ていると
問題など、どこにも無い様に思える
問題など、どこにも無い様に思える
ジャックが静かに座していた
真剣な眼差しでカシマを見つめる
真剣な眼差しでカシマを見つめる
「ジャック……カシマさんは?」
「……眠っていますね……私が来てからも10分の間ですが……
外部の刺激に対して反応が無いところをみると昏睡と言っても良いかもしれません」
「原因は分からないの?何かこういう病気があるとか……」
「呼吸や反射機能には問題ありませんし、もう少し様子を見てみましょう」
「そう……」
「サチ、お茶を頂けませんか?少し、リラックスしてから考えてみようと思います」
「あ、はい……ハーブティーは嫌いじゃないですか?」
「好きですよ、ハチミツもあれば尚良い」
「お湯は沸かしてありますからすぐに用意できます……リビングへ移動しましょうか」
「……眠っていますね……私が来てからも10分の間ですが……
外部の刺激に対して反応が無いところをみると昏睡と言っても良いかもしれません」
「原因は分からないの?何かこういう病気があるとか……」
「呼吸や反射機能には問題ありませんし、もう少し様子を見てみましょう」
「そう……」
「サチ、お茶を頂けませんか?少し、リラックスしてから考えてみようと思います」
「あ、はい……ハーブティーは嫌いじゃないですか?」
「好きですよ、ハチミツもあれば尚良い」
「お湯は沸かしてありますからすぐに用意できます……リビングへ移動しましょうか」
リビングへと移動する4人
それぞれがソファーへと腰をかけ、サチがキッチンへと向かう
数分で人数分のお茶が運ばれてくる
それぞれがソファーへと腰をかけ、サチがキッチンへと向かう
数分で人数分のお茶が運ばれてくる
「手際いいなぁ」
「サチはルーモアでの仕事もよく出来てるってマスターが褒めてたよ」
「やだ、改まって言われると、何だか照れちゃうね」
「ローズヒップティーですね……いい香りです」
「ぅぉ……すっぺぇ……」
「すっぱいと思う方は、ハチミツを入れるか舐めながらどうぞ」
「このハチミツの瓶、うちのと同じだ」
「そうなの、これマスターに取り寄せてもらったの」
「あれ?……これ、うちのと味が違う?」
「これはオレンジの花のハチミツですね」
「ああ、そっか、うちでミルク用に使ってるのは違う花のハチミツなんだ」
「確かに、オレンジっぽい様な柑橘系の匂いがするなぁ……流石、姐さん良く判るなぁ」
「アネさん?……私の事ですか?ボボーリさん」
「……姐さんは確かにアンタのことをいったんだけどよぉ……ぼぼーり?って何?俺のこと?」
「そうですよ、ボボーリさん……違いましたか?」
「いや、明らかに違うだろ?!どこの国の名前だよ!!俺の名前は、ぼごぉりッ?!!」
「サチはルーモアでの仕事もよく出来てるってマスターが褒めてたよ」
「やだ、改まって言われると、何だか照れちゃうね」
「ローズヒップティーですね……いい香りです」
「ぅぉ……すっぺぇ……」
「すっぱいと思う方は、ハチミツを入れるか舐めながらどうぞ」
「このハチミツの瓶、うちのと同じだ」
「そうなの、これマスターに取り寄せてもらったの」
「あれ?……これ、うちのと味が違う?」
「これはオレンジの花のハチミツですね」
「ああ、そっか、うちでミルク用に使ってるのは違う花のハチミツなんだ」
「確かに、オレンジっぽい様な柑橘系の匂いがするなぁ……流石、姐さん良く判るなぁ」
「アネさん?……私の事ですか?ボボーリさん」
「……姐さんは確かにアンタのことをいったんだけどよぉ……ぼぼーり?って何?俺のこと?」
「そうですよ、ボボーリさん……違いましたか?」
「いや、明らかに違うだろ?!どこの国の名前だよ!!俺の名前は、ぼごぉりッ?!!」
トレーで、ポカンとボクサーの頭を叩くサチ
「ちょっとボクサーさん、静かにしてくださいっ」
「サチ?……お、おぅ……悪ぃ」
「ボボーリではなく、ボゴーリでしたか……失礼しました」
「違うだろッ!今、明らかに頭叩かれたからだったろ?!」
「もうイイでしょ……ボボーリでもボゴーリでもボクサーでもさ、似た様なものだよね」
「でも確かに、ジャックさん、よくオレンジの花のハチミツって判りましたね」
「そうだね」
「ラベルに"Arancio"と書いてありましたから」
「あらんちょ?」
「イタリア語で、オレンジの木という意味です」
「なるほど……ジャックさんイタリア語も話せるんですか?」
「話せませんが、少しだけ読めます」
「あ、このハチミツとローズヒップ合うね」
「組み合わせはマスターから聞いてるから間違いないですよ」
「確かに良いマリアージュです……
ローズヒップの酸味、柑橘の香りと甘みが調和していると思いますよ」
「ぉ?……確かに飲みやすくなったなぁ……でもこのハチミツお高いんでしょう?」
「高いですよ……聞きます?値段」
「……やめとくわ」
「さて、大分リラックスできましたね……ごちそうさまでした、サチ」
「美味しかった、ごちそうさまでした」
「おぅ!俺も緊張が解けて来た、ごちそーさん」
「お粗末さまでした」
「サチ?……お、おぅ……悪ぃ」
「ボボーリではなく、ボゴーリでしたか……失礼しました」
「違うだろッ!今、明らかに頭叩かれたからだったろ?!」
「もうイイでしょ……ボボーリでもボゴーリでもボクサーでもさ、似た様なものだよね」
「でも確かに、ジャックさん、よくオレンジの花のハチミツって判りましたね」
「そうだね」
「ラベルに"Arancio"と書いてありましたから」
「あらんちょ?」
「イタリア語で、オレンジの木という意味です」
「なるほど……ジャックさんイタリア語も話せるんですか?」
「話せませんが、少しだけ読めます」
「あ、このハチミツとローズヒップ合うね」
「組み合わせはマスターから聞いてるから間違いないですよ」
「確かに良いマリアージュです……
ローズヒップの酸味、柑橘の香りと甘みが調和していると思いますよ」
「ぉ?……確かに飲みやすくなったなぁ……でもこのハチミツお高いんでしょう?」
「高いですよ……聞きます?値段」
「……やめとくわ」
「さて、大分リラックスできましたね……ごちそうさまでした、サチ」
「美味しかった、ごちそうさまでした」
「おぅ!俺も緊張が解けて来た、ごちそーさん」
「お粗末さまでした」
*
ジャックがカシマの様子を確認しに行き、数分で戻ってくる
変わりは無い、少し時間を置き、様子を見に行くを繰り返す
変わりは無い、少し時間を置き、様子を見に行くを繰り返す
お茶を飲んでから、1時間と少しが経過した頃だろうかジャックが口を開く
「現状では何ともいえませんが、気になる事が一つあります」
「気になること……ですか」
「人は眠る時、2つのパターンを繰り返しながら体と脳を休めています」
「2つのパターン……レム睡眠とノンレム睡眠のこと?」
「そうです、Rapid Eye Movement sleep──REM睡眠
……これは急速眼球運動がみられる睡眠のことを言います」
「レム睡眠の時に夢を見ているんでしたっけ?」
「概ねその通りです……脳が情報を処理している時に見ている映像──夢を……
現実の眼も追いかけている……だから、レム睡眠の時に夢を見る事が多いと言われている様です」
「それで、そのレム睡眠がどうかしたのかよぉ?」
「この1時間半──90分の間、10分毎に様子を見に行きましたが……」
「うん」
「常に急速眼球運動が見られました」
「つまり……レム睡眠中ってことなの?」
「ええ、通常……」
「気になること……ですか」
「人は眠る時、2つのパターンを繰り返しながら体と脳を休めています」
「2つのパターン……レム睡眠とノンレム睡眠のこと?」
「そうです、Rapid Eye Movement sleep──REM睡眠
……これは急速眼球運動がみられる睡眠のことを言います」
「レム睡眠の時に夢を見ているんでしたっけ?」
「概ねその通りです……脳が情報を処理している時に見ている映像──夢を……
現実の眼も追いかけている……だから、レム睡眠の時に夢を見る事が多いと言われている様です」
「それで、そのレム睡眠がどうかしたのかよぉ?」
「この1時間半──90分の間、10分毎に様子を見に行きましたが……」
「うん」
「常に急速眼球運動が見られました」
「つまり……レム睡眠中ってことなの?」
「ええ、通常……」
入眠時にはまずノンレム睡眠が現れ、続いて約1時間から2時間ほどでレム睡眠に移る
以後、ノンレム睡眠とレム睡眠が交互に現れ、レム睡眠はほぼ90分おきに20~30分続く
以後、ノンレム睡眠とレム睡眠が交互に現れ、レム睡眠はほぼ90分おきに20~30分続く
「長すぎるんです、レム睡眠が……それどころか、ノンレム睡眠をしていない様に思える」
「ずっとレム睡眠のままでいるってことですか……」
「言い換えれば……カシマは、寝ている間ずっと……」
「ずっとレム睡眠のままでいるってことですか……」
「言い換えれば……カシマは、寝ている間ずっと……」
"夢を見続けている可能性がある"
*
「夢に関連した都市伝説による攻撃の可能性は?」
「否定は出来ません」
「もし、そうなら……いつ、その都市伝説と接触したんだ?」
「私は心当たりがありません……サチ何か憶えていませんか?」
「わたしも記憶にありません……ごめんなさい」
「輪はどうです?」
「……昨日の朝稽古に遅れたよね……夢見が悪いって言ってたかな?」
「そういやぁ、昨日はカシマさんの知り合いの軍人達に会ったなぁ」
「カシマの知り合いの軍人……都市伝説ですか?」
「うん、カシマさんと同じ"今の日本は平和か"っていう都市伝説の人達」
「……その彼等と話していた時のカシマは?」
「普通だったし、攻撃を受けたとかは無かったと思うよ」
「でもよぉ……あのメガネの副官とか怪しくなかったかぁ?あの時のこととか、約束みたいなこと言ってたし」
「……約束……ですか」
「そうかなぁ……あの人達は信じても良いと思うけど……」
「いずれにせよ決め手に欠けますね……直接、話しを聞きましょう、その都市伝説に」
「しばらくは学校町にいるって言ってたから……あの場所に行けば会えると思う」
「では、私と輪で行きましょう……仲介役、頼めますね?」
「うん、いいよ」
「俺は?」
「貴方はサチとカシマの様子を看ていて下さい、眼球運動があるかの記録も頼みます」
「分かりました……気を付けて下さいね」
「心配無用ですよ……輪は私が護ります」
「たぶん、敵対する様な人達じゃないから心配しないで待っててよ」
「うん……行ってらっしゃい」
「否定は出来ません」
「もし、そうなら……いつ、その都市伝説と接触したんだ?」
「私は心当たりがありません……サチ何か憶えていませんか?」
「わたしも記憶にありません……ごめんなさい」
「輪はどうです?」
「……昨日の朝稽古に遅れたよね……夢見が悪いって言ってたかな?」
「そういやぁ、昨日はカシマさんの知り合いの軍人達に会ったなぁ」
「カシマの知り合いの軍人……都市伝説ですか?」
「うん、カシマさんと同じ"今の日本は平和か"っていう都市伝説の人達」
「……その彼等と話していた時のカシマは?」
「普通だったし、攻撃を受けたとかは無かったと思うよ」
「でもよぉ……あのメガネの副官とか怪しくなかったかぁ?あの時のこととか、約束みたいなこと言ってたし」
「……約束……ですか」
「そうかなぁ……あの人達は信じても良いと思うけど……」
「いずれにせよ決め手に欠けますね……直接、話しを聞きましょう、その都市伝説に」
「しばらくは学校町にいるって言ってたから……あの場所に行けば会えると思う」
「では、私と輪で行きましょう……仲介役、頼めますね?」
「うん、いいよ」
「俺は?」
「貴方はサチとカシマの様子を看ていて下さい、眼球運動があるかの記録も頼みます」
「分かりました……気を付けて下さいね」
「心配無用ですよ……輪は私が護ります」
「たぶん、敵対する様な人達じゃないから心配しないで待っててよ」
「うん……行ってらっしゃい」
*
1時間ほど経った頃だろうか、輪とジャックはサチの家へと戻ってきていた
「お帰りなさい、どうだった?」
「うん……たぶん、戦っているんじゃないかって」
「攻撃を受けているんですか?」
「私達もまだ何も知りません……詳しくは一緒に来て頂いた彼に話を聞かせてもらいましょう」
「"今の日本は平和か"の艦隊の副官さんに来てもらったから」
「うん……たぶん、戦っているんじゃないかって」
「攻撃を受けているんですか?」
「私達もまだ何も知りません……詳しくは一緒に来て頂いた彼に話を聞かせてもらいましょう」
「"今の日本は平和か"の艦隊の副官さんに来てもらったから」
ジャックの後ろから、白い軍服を着たメガネの男が玄関内に入って来る
「失礼、お嬢さん……上がらせてもらう」
「あ……はい、どうぞ」
「あ……はい、どうぞ」
カシマの寝ている部屋へと向かう
「サチ、カシマの様子はどうでしたか?」
「ジャックさんの言っていた通り、ずっとレム睡眠が続いています」
「やはりそうですか……」
「ジャックさんの言っていた通り、ずっとレム睡眠が続いています」
「やはりそうですか……」
副官がジャックがしていた様にカシマの状態を診ていく
「ふむ……聞いていた通りだな」
「この状態に心当たりがあるのですね?」
「ああ、カシマが "隻腕のカシマ" となった時もこういう状態になったからな」
「カシマさんが隻腕のカシマになった?!」
「ああ……あの男は元々、カシマレイコに類似する都市伝説ではなかったという事だ」
「おい?……どういうことだ?」
「全く、揃いも揃って貴様等は……不自然だとは思わなかったのか?」
「不自然?……何が……ですか?」
「この状態に心当たりがあるのですね?」
「ああ、カシマが "隻腕のカシマ" となった時もこういう状態になったからな」
「カシマさんが隻腕のカシマになった?!」
「ああ……あの男は元々、カシマレイコに類似する都市伝説ではなかったという事だ」
「おい?……どういうことだ?」
「全く、揃いも揃って貴様等は……不自然だとは思わなかったのか?」
「不自然?……何が……ですか?」
誰もが怪訝な表情をする
「"傷痍軍人の鹿島"と"今の日本は平和か"という……
本来は別々の都市伝説であるものが……ひとつの都市伝説として存在している事に、だ」
本来は別々の都市伝説であるものが……ひとつの都市伝説として存在している事に、だ」
確かに最初は違和感を持った
だが、共に過ごす内に……自然とそれを受け入れていた
カシマはそういう都市伝説であると、疑いすらしなかった
むしろ、副官の言った言葉の方が受け入れ難いとさえ思える
だが、共に過ごす内に……自然とそれを受け入れていた
カシマはそういう都市伝説であると、疑いすらしなかった
むしろ、副官の言った言葉の方が受け入れ難いとさえ思える
そして、その事がカシマに異常を引き起こしている原因であるというのか
「じゃあ、カシマさんて……何なの?……普通の都市伝説じゃないってこと?」
「それをこれから説明しようというのだ」
「それをこれから説明しようというのだ」
副官の話が始まる
それは長い物語だ
それは長い物語だ
カシマの過去が……今、語られようとしていた……