それは、3月27日の、夜のこと
キッチンから漂ってくる、いい匂い
どれも、望の好きな料理の香りだ
…本日も、家事に逃避している翼
多分、今日の夕食は豪勢な事になるだろう
手伝う事はあるか、と一応聞いたのだが
キッチンから漂ってくる、いい匂い
どれも、望の好きな料理の香りだ
…本日も、家事に逃避している翼
多分、今日の夕食は豪勢な事になるだろう
手伝う事はあるか、と一応聞いたのだが
「今日は、お前はゆっくりしとけ」
と、言われてしまった
そう言われても、特にやる事もなく
さて、どうしたものか…
そう言われても、特にやる事もなく
さて、どうしたものか…
……ちゅちゅー
「あら?どうしたの、ノロイ」
ちゅー
ちょこちょこ、いつの間にやらまたハムスターケージを抜け出し、望のすぐ傍までやってきたノロイ
…何か、持ってきたようだが
…何か、持ってきたようだが
ちゅちゅちゅー
ちょこん、と後ろ足だけで立ち、咥えて来たそれを前足で器用にもって、望に差し出してきたノロイ
…何と言うか、本当、ハツカネズミを超越した生き物になりつつある
まぁ、それはさておき、だ
差し出されたのは、飴玉の空き袋か何かの中に何か入っていて、その開き口をリボン辺りの切れ端で結んだ物
…まさか、これもノロイが自分でやったのか
都市伝説になりかけのはずだが、もう都市伝説なのではないか、この鼠
…何と言うか、本当、ハツカネズミを超越した生き物になりつつある
まぁ、それはさておき、だ
差し出されたのは、飴玉の空き袋か何かの中に何か入っていて、その開き口をリボン辺りの切れ端で結んだ物
…まさか、これもノロイが自分でやったのか
都市伝説になりかけのはずだが、もう都市伝説なのではないか、この鼠
「何?それ、くれるの?」
ちゅう
望を見上げたまま、頷いてきたノロイ
ありがとう、と受け取っておいた
…この感触……向日葵の種か?
どこで拾ったのか、それとも餌の残りかどっちだ
ころり、甘えるようにくっついてきたノロイ
そんなノロイを軽く指先で撫でながら、望は夕食が出来上がるのと、黒服が帰ってくるのを待っていた
ありがとう、と受け取っておいた
…この感触……向日葵の種か?
どこで拾ったのか、それとも餌の残りかどっちだ
ころり、甘えるようにくっついてきたノロイ
そんなノロイを軽く指先で撫でながら、望は夕食が出来上がるのと、黒服が帰ってくるのを待っていた
-3月27日と言う、この日
この日は、望の誕生日だった
昼間には、詩織や友美からもプレゼントをもらって
翼も、夕食を誕生日の祝いとして豪勢に作ってくれた他にも、プレゼントをくれて
……そして
この日は、望の誕生日だった
昼間には、詩織や友美からもプレゼントをもらって
翼も、夕食を誕生日の祝いとして豪勢に作ってくれた他にも、プレゼントをくれて
……そして
「望さん」
黒服に、声をかけられて
ぴくり、望は慌てて顔をあげた
今、詩織は風呂に入っているし
翼は、自分の部屋に行っている……ノロイは、ハムスターケージの中の寝床で寝ているし
今、リビングは
自分と黒服の、二人きり
その事実に、望はやや、緊張してしまう
…黒服や翼と共に生活するようになって、黒服と二人きりの状況など、今まで何度もあったと言うのに
何故、今でもこうやって緊張してしまうのか
……世間一般では、それを「乙女心」と呼ぶ
ぴくり、望は慌てて顔をあげた
今、詩織は風呂に入っているし
翼は、自分の部屋に行っている……ノロイは、ハムスターケージの中の寝床で寝ているし
今、リビングは
自分と黒服の、二人きり
その事実に、望はやや、緊張してしまう
…黒服や翼と共に生活するようになって、黒服と二人きりの状況など、今まで何度もあったと言うのに
何故、今でもこうやって緊張してしまうのか
……世間一般では、それを「乙女心」と呼ぶ
「ど、どうしたの、黒服」
「いえ、まだ、渡していませんでしたので…お誕生日、おめでとうございます」
「いえ、まだ、渡していませんでしたので…お誕生日、おめでとうございます」
どうぞ、と手渡されたそれ
可愛らしい包装紙に包まれている
…クリスマスに、黒服からプレゼントを貰った時の事を、思い出す
可愛らしい包装紙に包まれている
…クリスマスに、黒服からプレゼントを貰った時の事を、思い出す
「あなたの好みに、合えば良いのですが」
小さく苦笑し、そう言って来た黒服
望くらいの年頃の少女の好みが、よくわからないのだろう
そんな黒服の言葉に…望は渡されたプレゼントを大切そうに抱きしめ、微笑み返した
望くらいの年頃の少女の好みが、よくわからないのだろう
そんな黒服の言葉に…望は渡されたプレゼントを大切そうに抱きしめ、微笑み返した
「あなたが私の為に選んでくれたのなら、私の好みに合わない訳がないじゃない……ありがとう」
望の言葉に、ほっとしたような笑みを浮かべた黒服
…そんな黒服を見つめ、望はふと、考える
…そんな黒服を見つめ、望はふと、考える
黒服は、翼のことを「翼」と呼び捨てで呼んでいる
だが、望の事は「望さん」とさん付けだ
それは、黒服と知り合ってからの関係の長さが、関係しているのだろうけれど
翼の方は呼び捨てで、自分は違う…と言うのは、少し、悔しい
だが、望の事は「望さん」とさん付けだ
それは、黒服と知り合ってからの関係の長さが、関係しているのだろうけれど
翼の方は呼び捨てで、自分は違う…と言うのは、少し、悔しい
「……ねぇ、黒服」
「?何でしょう?」
「一つ、お願いがあるんだけど……いい?」
「?何でしょう?」
「一つ、お願いがあるんだけど……いい?」
望のその言葉に、構いませんよ、と答えてくれた黒服
視線を合わせるような体勢になって、聞いてくれる
視線を合わせるような体勢になって、聞いてくれる
…何を、緊張しているのだろうか
別に、緊張する必要など、ないはずだ
ただ、単純な願い事なのだから
別に、緊張する必要など、ないはずだ
ただ、単純な願い事なのだから
「その…私のこと、「さん」付けじゃなくて……望、って。そう、呼んでくれる?」
もっと
もっと、黒服に近しい存在になりたい
近しい存在でありたい
その想いをこめて…望は、そう、黒服に頼んだ
もっと、黒服に近しい存在になりたい
近しい存在でありたい
その想いをこめて…望は、そう、黒服に頼んだ
望の、その願いに
黒服は、一瞬、きょとんとしてきて
……しかし、すぐに微笑んでくれた
黒服は、一瞬、きょとんとしてきて
……しかし、すぐに微笑んでくれた
「えぇ、あなたが望むのでしたら、それで構いませんよ……望」
とくんっ、と
鼓動が、高鳴ったのを感じた
鼓動が、高鳴ったのを感じた
黒服に、名前を呼び捨てにされた
…ただ、それだけの事で
こんなにも、嬉しいと感じてしまう
…ただ、それだけの事で
こんなにも、嬉しいと感じてしまう
「…?どうかなさいましたか?」
「い、いえ、何でもないわ」
「い、いえ、何でもないわ」
頬が、赤くなっているのを自覚しつつ
そう、誤魔化した望
黒服は、そんな望の様子に、小さく首を傾げてきて
そう、誤魔化した望
黒服は、そんな望の様子に、小さく首を傾げてきて
…そして、そっと
望の頭を撫でてきて、くれて
望の頭を撫でてきて、くれて
「お誕生日、おめでとうございます」
改めて、そう、言ってきてくれて
「生まれてきてくれて、ありがとうございます」
黒服がかけてくれた、その言葉が
酷く、酷く嬉しくて
酷く、酷く嬉しくて
「…どういたしまして」
と、黒服から渡されたプレゼントを抱きしめながら
そう言って、幸せに笑って見せたのだった
そう言って、幸せに笑って見せたのだった
あなたが生まれてきてくれた、奇跡に、ありがとう
fin