「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 赤い靴・DNo-06

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 ……それは、黄昏 正義という少年が、まだ小学生だった頃の話……



 注射男、と言う都市伝説が存在する
 女子供を襲う都市伝説だ
 それらしき男に、「今、何時だい?」とか「注射をしてもいいかい?」と尋ねられても、答えてはいけない
 注射をされて、死んでしまうから
 遭遇したら、すぐに逃げなければいけない
 答えなくとも、隙を見せれば注射をされてしまうから


 そんな危険で悪党な都市伝説が、通学路に出没する
 そんな噂を聞いて、黄昏 正義と言う少年は黙っていられなかった
 早速、注射男が出たと言う道を、自身が契約している「恐怖の大王」と共に歩く
 何故、自分が都市伝説退治の手伝いなんぞさせられなければならないのだ、とでも言うように、恐怖の大王はやや憂鬱だ

「放っておけば良いだろうに」
「駄目だよ。悪い事をしているのなら、やめさせなくちゃ」

 …そう簡単に止められるものか
 恐怖の大王は、そう考える

 都市伝説が人を襲うのは、「人間がそう言うように語っているから」だ
 人々が噂する 
 その都市伝説は、人を襲うと
 その考えが浸透すればするほど、その都市伝説は人間を襲い続ける
 逆に、その都市伝説が人を助ける存在として語られたならば、そのように存在し、行動するだろう

 しかし
 注射男に関しては、人を襲う、という話しか語られていない
 そんな存在を説得するなど、いかにこの少年の「地獄の説教」が、ベッド下の男すらをも改心させる効果を持っていたとしても、難しい
 注射男と言う存在、実は昭和50年辺りから語られている都市伝説であり、それなりの歴史もあるのだ
 歴史が深ければ深いほど、その存在を変える事は、不可能ではないにしろ、難しい

 …………いっそ、いい機会だから、都市伝説を説得する事のその難しさ、その身にわからせるべきだろうか
 が、一歩でも間違って、死なれてしまっては、困る
 恐怖の大王が、正義の後を進みながら悩んでいると


「-----注射をしても、いいかい?」


 暗い、暗い、陰気な声が
 正義と、大王の耳に、届いた

 はっと、顔をあげる大王
 正義が、注射男と遭遇したのかと思ったのだ

 だが、違う
 正義の周囲に、まだ、注射男の姿は、ない

 その、姿は
 彼らの、遥か前方に、いた

「ッ大王、あれ…」
「あぁ、注射男、だな」

 …語られるうちに、何かおかしくなったのか
 それとも、襲う相手が誰でもよくなったのか
 それとも、男と女の区別もつかないくらいの馬鹿だったのか

 その注射男が声をかけている相手は………男性、だった
 背が高い…身長180㎝以上あるのではないだろうか
 すらりとした体型で、黒い髪をしている
 正義達の位置から顔はよく見えないが
 確実に、男性である
 これでもし、女性だったら失礼な話ではあるが

「うん、いいよ」

 次に聞えてきた、注射男の質問に答える、声が
 明らかに男性の声だったので、まぁ、問題はあるまい

 ……いや
 問題である
 男性は、注射男の質問に、肯定の意を示したのだ
 このままでは、殺されてしまう
 事実、注射男は、包帯だらけの顔で、にぃ、と笑って…懐から、どす紫色の液体が入った注射器を、取り出していた

「大王っ!」
「っち……仕方ないな…!

 正義の求めに、大王はため息をつきながら応じる


 ----キラリ
 一瞬、天が光って
 次の瞬間、注射男と青年の、間に………一本の剣が、刃を下に向けて、天から落下してきた
 どすっ!!と、落下の勢いも手伝って、剣はアスファルトに突き刺さった


「む!?」
「………あれ?」

 警戒した様に、後方に飛びのく注射男
 青年の方は、きょとんとした表情で、落下してきた剣を見つめている

「大丈夫ですか?」

 急いで、青年に駆け寄る正義
 駆け寄ってきた正義の問いかけに、青年は優しく頷いて、答える

「うん、僕も彼も、怪我をしてはいないよ」

 どこか、おっとりとした口調
 黒い、優しそうな双眸が、正義を見つめてくる
 黒い髪から日本人かとも思ったが、顔立ちは西洋系だ
 その口から漏れ出す日本語は流暢だが、日本人ではないのかもしれない

 …それは、ともかく
 青年の答えに、やや、違和感を覚えた大王
 青年は「僕も彼も」と答えた
 ……正義は、「注射男に何かされていないか」と言う意味で「大丈夫ですか?」と青年に問いかけた
 だが、あの青年は

(…さっき、振ってきた剣で………自分と注射男が怪我をしたかもしれない、と言う事を心配したとでも?)

 まさか、と大王は、一瞬考えたそれを振り払う
 まさか
 あんな、あからさまにやばそうな注射を取り出してきた相手を、心配するお人好しなんぞいるはずがない

「…これは、これは………坊やぁ、注射をしてもいいかなぁ?」

 ニタニタと笑う、注射男
 本来のターゲットたる、子供である正義が自分の前に現れたことを、喜んでいるようで
 ターゲットを…青年から、正義へと、変更したようだ

「駄目だよ。悪い事をするのは、許さないぞ!」

 そう答え、剣を手に取る正義
 アスファルトから、抜こうとして…

「…あれ?」

 ……抜けない
 剣が深く突き刺さりすぎたのだ
 鍛えているとは言え、正義はまだまだ小学生
 アスファルトに深々と刺さった剣を抜くのは、難しい

「そうかぁい?困ったねぇ……」

 ニヤリ、と
 注射男の笑みが、深まる
 その笑いに、大王はぞくりとしたものを覚えた

 危険だ、と
 本能が警告する

「一旦、剣から手を放せ!」

 大王が指示を出したのと
 …注射男が、懐から合計10本の注射器を、それぞれ片手に五本ずつ、構え

「断られても………私は、注射をするけどねぇっ!!」

 その、注射器を
 一斉に、正義に向かって投擲してきたのは……ほぼ、同時だった
 10本の注射針が正義に向かってまっすぐに飛んでくる
 このままでは、避けきれない
 一本でも突き刺さり、液体が体内に注入されたら…その時点で、正義の命は、ない

 何か降らせて、注射器を破壊しようとした大王
 だが、それよりも

 正義が、護るように、庇うようにして立ち、その背後に護っていた青年が、動く方が、早かった


 っとん、と
 青年が、軽く……本当に、軽く
 そっと、虚空を叩いたように、大王には見えた

 その、次の瞬間
 ピシッ、と、何かにヒビが入ったような音が、響いて


 バリィィイイイン!!と
 耳障りな音を立てて………正義に向かって飛んできていた注射器が、一斉に破壊された


「何!?」

 驚愕の声をあげる注射男
 大王も、その結果に目を見張る

(こいつ…都市伝説契約者…………いや、「都市伝説そのもの」か!?)

 青年から感じる気配は、都市伝説契約者とは、少し違う
 都市伝説「そのもの」だ
 ……正確には、それも少し違うか
 「都市伝説に飲み込まれた者の気配」と言うのが、一番正しい

 都市伝説は、人間と契約できるが……場合によっては、契約した人間を「呑み込んで」しまう
 呑み込まれた人間は、死亡するか、その都市伝説そのものになってしまうか、どちらかだ
 この青年は…後者
 都市伝説に飲まれた存在、そのものだ


「大丈夫?」

 今度は、青年が正義に、心配そうにそう問いかけた
 はい、と素直に答える正義
 --ずるっ!と
 ようやく、アスファルトから、剣も抜けた

「さっきのは、あなたが…?」
「うん」

 正義の問いかけに、青年は答える
 そして………す、と、一歩、前に出て
 己の注射器を一瞬で破壊され、硬直していた注射男に、声をかける

「…僕には、注射をしてもいいよ。でも、この子には、駄目」
「え…」

 何を、言うのか
 とめようとした正義の言葉を遮るように、青年は続ける

「君が、僕に注射をして気がすむのなら。僕にはいくらでも注射をしてもいいよ。でも、この子には、駄目」

 それは
 注射男に注射される事で、何が起こるのか
 わかっていての、言葉のように、聞えた


 それは、正義とは少し違う
 それは、正義の味方とか、そう言うのとは、少し、違う
 それは、優しいお人好しの言葉
 誰かの為なら、平気で自分が犠牲になれる、優しすぎる男の言葉


「君がもう、他の誰にも注射をしないのなら、僕には、いくらでも注射をしてもいいよ」

 自分が死んでも構わない、という言葉
 平気で自分の命を投げ出すその言葉に、大王は薄ら寒いものを覚えた
 どうすれば、そんな究極のお人好しともとれる考え方など、抱けるのか 
 理解に、苦しむ

「……そうだねぇ……………それじゃあ、他の奴には、注射しないよぉ…」
「本当?良かった」

 注射男の言葉に、青年はほっとしたように、笑う

 だが
 注射男の、あの笑いは

 嘘をついている、笑いだ

 新たな注射器を手に、注射男は青年に近づく
 そして
 その注射器が、青年の腕に、届こうと、した瞬間

「-----そっちの坊やにも、注射してからねぇ!!!」

 注射器が
 青年の腕に、突き刺さる、瞬間

 正義が、一歩、前に踏み出て
 自分の身長と同じくらいの大きさの剣を…ぶぅん、と振るった


 ぱきんっ、と
 注射器が、真っ二つに切り裂かれる


「嘘をつくのは泥棒の始まりなんだよ!」

 きっ!と凛々しく注射男を睨みつける正義
 剣を、注射男に突きつけた
 注射男は舌打ちし、新たな注射器を取り出そうとして


「そこまでだ」


 ぐ、と
 注射男の背後に、突然………腕が、生えて
 その腕が、注射男の首を、掴んだ

「ぐが……っ!?」

 ずるり
 その体が、どこかへと引っ張り込まれて…消える

「え、な、何?」

 新たな都市伝説か、と警戒する正義
 そんな正義に、安心させるように、青年が告げようと

「あ…大丈夫、今のは、僕の友人の………」
「---ったく、何をやってるんだ、お前は!」

 ずるり
 何もない空間から…突然、大柄な男が現れた
 身長は2mにも達しているのではないだろうか?
 金髪に青い瞳の、西洋的な顔立ちの男性だ
 がっしりとした体格のせいもあって、余計に大男に見える
 その体格に相応しい大きな手は、間違いなく、先ほど、注射男を引きずり込んだ手だ

「「表」に出るなって、いつも言ってるだろうが」
「御免、ジブリル……でも、この辺りで、都市伝説事件が発生してる、って聞いたから」
「だったら尚更だ。「組織」に見付かったらどうする気なんだお前は…」

 深々と、ため息をつく大男
 く、と正義を見下ろしてきた

「あぁ、そっちも、怪我はないな?」
「はい」

 こくん、と頷いた正義
 …あの、と、大男に問いかける

「注射男は…」
「あぁ、こっちの異空間に引っ張り込んだから、向こうで仲間がうまくやって………………っと、終わったか」

 終わった
 それは、つまり
 …注射男が倒された、と言う事なのだろうか

 大男が、無造作に空間に手を向ける
 ぐ、とその手の先が、一瞬消えて

「っわ、わわっ」

 どさっ、と
 新たに、人影が姿を現す
 今度は、黒髪に黒い瞳、褐色肌の青年だ
 これまた、西洋的な顔立ちをしている
 …なかなかの美青年、なのだが……虚空から出現した直後、盛大に顔から転んでしまったため、台無しである
 …ふわ、と
 一瞬、甘い香りが辺りを漂ったような気がした

 ……少し
 青年が、悲しそうな顔をした事を
 正義は、見逃さなかった

「…ありがとう、ジブリル、ディラン」
「いいから、早く戻るぞ。ここが学校町じゃないとは言え、「組織」の目がないと限らない」
「っど、ドリス達も、待ってるから……早く、帰ろう…?」

 大男と褐色肌の青年に促され、うん、と頷いた青年
 …だが、その前に
 正義と、視線を合わせるように前屈みになって…優しく、微笑んだ

「…ありがとう、君は、僕を助けようとしてくれたんだね?」

 そっと、その手が正義の頭を撫でた
 酷く、酷く、優しい手
 その手に撫でられると、酷く、温かい気持ちがしみこんでくるような気がした

「本当に、ありがとう、君は優しいんだね…その優しさ、忘れちゃ駄目だよ」

 そう言って
 大男達の後をついていく青年
 正義は、そんな青年に慌てて声をかけた

「あ、あの、あなたは…」
「……僕?」

 くるり、振り返って
 青年は、優しく正義に笑いかけ、答える

「……ダレン。ダレン・ディーフェンベーカー。都市伝説に呑み込まれただけの、ただの人間だよ」

 都市伝説に飲まれた時点で、ただの人間ではなくなっている
 大王の、そんな心の突っ込みに気付いた様子もなく

 ダレンと名乗ったその青年は、大男達とともに、忽然と消えてしまったのだった



 …これが、どこまでもまっすぐに正義の道を進もうとする少年と
 あまりにも優しすぎるお人好しとの、ファーストコンタクト


 これが、彼らの運命に、どのような影響を与えたのか
 それは、まだ、誰にもわからない




to be … ?



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