連載 - 黒服Hと呪われた歌の契約者-46a - 「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

　…優しく温かい、柔らかな感触を感じながら、ドクターは意識を浮上させた
　優しい指先が、頭を撫で、髪を梳いてきてくれているのがわかる

「…あ、ドクター。起こしちゃいましたか？」
「いや、いい……眠ってしまっていたか」

　起き上がろうとしたドクターを、しかし、メアリーは優しく制した
　診療所が同族殺しの口裂け女との戦いで半壊し、現在修復しつつ改築工事をしている最中
　それまでの仮住まいとして、プレハブ小屋を借りてそこで診療所を始める準備をしていたのだが
　その休憩時間、メアリーがドクターに膝枕して耳掃除などしてやっていて
　……その最中、日頃の疲れもあってか、ドクターは熟睡してしまっていた
　メアリーは、そのドクターを起こす事もせず、ゆっくり寝かせていたのだ

「もう少し、ゆっくり眠っていて大丈夫ですよ。診療所を始める準備は、有羽さん達ががんばってくれてますし」
「だが……」
「…ドクター、お願いですから、もう少しご自分の体を大切になさってください」

　少し、悲しそうに微笑むメアリー
　ドクターの髪を梳いて来る手は、どこまでも優しい

「広瀬　辰也さんも言ってましたよ？「倒れさせる為にデータを渡した訳じゃない」、って」
「…話したのか」

　苦笑するドクター
　いや、メアリーやミツキなど、ドクターの周りの者が話さなくとも、入院する事になった黒服Ｈが話したのかもしれないし…ドクターの様子から、隠しきれない疲労を感じ取ってきたのかもしれない

「渡されたデータに報いたい、そのドクターのお気持ちはわかります……でも、お願いですから。どうか、ご自分の体を大切にしてください」
「……メアリー」

　あぁ、頼むから
　そんな、悲しそうな顔をしないでくれ
　君にそんな顔をさせたい訳じゃあ、ないんだ

「…それでは、もう少しこのままの状態でいても、構わないだろうか？」
「もちろんです」

　優しく微笑んでくれたメアリー
　その微笑みに、ドクターも微笑み返して
　再び、意識をゆっくり、眠りへと沈めていったのだった

fin