悠司が、こちらの手を引いて何か言っている
……聞こえない
……聞こえない
カラミティが、必死にこちらに呼びかけている
………聞こえない
………聞こえない
ただ
エイブラハム司祭長の声、だけが
耳に、届いて
エイブラハム司祭長の声、だけが
耳に、届いて
「貴方の姉の死を真相を、伝えましょう」
その、言葉が
まるで呪縛のように、この場所に足を縛りつけてくる
まるで呪縛のように、この場所に足を縛りつけてくる
ずっと、知りたかった
だが、知ることができずにいた真実
それを、ようやく知ることが、できる
だが、知ることができずにいた真実
それを、ようやく知ることが、できる
何故、今、この場で?と
疑問を感じてもいる
疑問を感じてもいる
しかし
それでもなお、その真実を知りたいと言う欲求が、足を地に縛り付ける
それでもなお、その真実を知りたいと言う欲求が、足を地に縛り付ける
「彼女は、ね。飲まれたのですよ。契約に失敗して」
「…契約、に、失敗?」
「…契約、に、失敗?」
------な
「そうです。契約できずに、飲まれて消滅しましたよ……ですから、あの棺桶の中に、あなたの姉の…マリア・ディーフェンベーカーの亡骸は存在しません」
--------くな
「いいですか?カイン、あなたの姉は」
-------聞くな
「あなたの姉が契約しようとして、失敗したのは……」
-------、聞くな
「「奇跡を起こすサントニーニョ」」
「--ッカイン、それ以上聞くなっ!!」
カラミティの叫ぶ言葉が、耳に届いた時には、すでに遅く
「今、あなたが契約している存在ですよ」
その、真実が
カインへと、告げられた
カインへと、告げられた
「………ぇ」
かすかに、カインの体がふらつく
「ご存じでしたか?あなたが契約した、その奇跡を起こす存在は……契約のリスクが、大変と高い存在なのですよ」
…知らない
そんな事実、聞かされた事もなかった
そんな事実、聞かされた事もなかった
「高い適正のある者でなければ、一瞬で飲み込まれ、消滅します……まぁ、正確には、その存在の一部となっているのでしょうけれどね。あれはそうやって、何人もの人間を飲み込んできたのですよ」
知らない
本体であるあの人形自体、一度もそんな事実を伝えてきた事は、なかった
本体であるあの人形自体、一度もそんな事実を伝えてきた事は、なかった
「つまり…………あなたの姉も、それに飲み込まれたのですよ」
………飲まれた?
飲み込んだ?
自分が契約している存在が?
飲み込んだ?
自分が契約している存在が?
「つまり」
それじゃあ
自分は、何も、知らずに
自分は、何も、知らずに
「あなたは………自らの姉を殺した存在と、契約したのですよ」
「-------ぁ」
「-------ぁ」
知らない
知らなかった
知らなかった
自分が契約した存在は、ただ、誰かを癒す為の存在だと信じていた
誰かを害するような存在だなどと、考えた事もなかった
誰かを害するような存在だなどと、考えた事もなかった
まさか
姉が、唯一の家族が
それに飲み込まれたなどと
考えた事も、なかった
姉が、唯一の家族が
それに飲み込まれたなどと
考えた事も、なかった
「-----ぁ、あ…………」
まさか
自分が、姉を飲み込んだ存在と
この世から、消し去ってしまった存在と
契約していたなどと
自分が、姉を飲み込んだ存在と
この世から、消し去ってしまった存在と
契約していたなどと
知っていたはずも、なかった
ぐらり、と
大きく、カインの体がふらつく
倒れそうになった体を、慌てて悠司は支えた
大きく、カインの体がふらつく
倒れそうになった体を、慌てて悠司は支えた
……悠司の位置から、カインの表情は、見えない
ただ……その体が小さく震えているのが、伝わってくる
ただ……その体が小さく震えているのが、伝わってくる
き、と、悠司は、カインに言葉をかけた存在を睨み付けた
真っ赤な鎖に全身を縛られ、その姿が見えない、それを
真っ赤な鎖に全身を縛られ、その姿が見えない、それを
「--タマモ…」
己が契約している存在の力を借りて
悠司は、それを攻撃しようとした
悠司は、それを攻撃しようとした
だが
「おや、どうしたのです?カイン司祭……知りたかったのでしょう?マリア・ディーフェンベーカーの死の真相を。良かったではないですか、知ることができて…」
なおも、言葉を続けようとした、それを
「黙れ」
先に
カラミテxの言葉が貫いた
カラミテxの言葉が貫いた
どこから現れたのだろうか
光り輝く槍が………真っ赤な鎖の塊に、突き刺さっている
人体ならば、ちょうど、心臓辺りの位置だろうか
光り輝く槍が………真っ赤な鎖の塊に、突き刺さっている
人体ならば、ちょうど、心臓辺りの位置だろうか
「黙れ」
低い声
カラミティが、杖を、鎖の塊に向けている
カラミティが、杖を、鎖の塊に向けている
「----っそれ以上、喋るな!」
叫びと同時、カラミティの頭上に、光り輝く槍が現れる
鎖の塊に突き刺さっているのとは別なそれは、幾重にも別れながら鎖に向って飛んでいき、ざくざくと突き刺さる
鎖の隙間から、どろり、と真っ赤な血が溢れ出した
間違いなく、鎖によって束縛されている存在は、体中を光り輝く槍で串刺しにされているはずだ
だと、言うのに
鎖の塊に突き刺さっているのとは別なそれは、幾重にも別れながら鎖に向って飛んでいき、ざくざくと突き刺さる
鎖の隙間から、どろり、と真っ赤な血が溢れ出した
間違いなく、鎖によって束縛されている存在は、体中を光り輝く槍で串刺しにされているはずだ
だと、言うのに
「何故です?私は、彼が知る事を望んだ真実を伝えたまでですよ」
「うるせぇ、黙れ、似非救世主、サタナエル、アンチ・クライストッ!!マリア・ディーフェンベーカーを殺したのはお前だ。契約しなければならない状況に持ち込んだのはお前だっ!!!」
「うるせぇ、黙れ、似非救世主、サタナエル、アンチ・クライストッ!!マリア・ディーフェンベーカーを殺したのはお前だ。契約しなければならない状況に持ち込んだのはお前だっ!!!」
カラミティが叫ぶたび、彼の周囲に何かが生まれる
光り輝く剣が生まれ、鎖の塊に突き刺さる
闇を生み出しながら、しかし、同時にその闇を吸い込み続ける球体が生まれ、鎖の塊に飛んで行って、束縛された存在の骨を粉砕すべく叩きつけられる
光り輝く剣が生まれ、鎖の塊に突き刺さる
闇を生み出しながら、しかし、同時にその闇を吸い込み続ける球体が生まれ、鎖の塊に飛んで行って、束縛された存在の骨を粉砕すべく叩きつけられる
呪文の詠唱なしに、ただただ、憎悪だけを込めて、カラミティが魔法を使っている
カラミティの持つ杖が、体中に身に着けている装飾具が、光り輝き続けている
カラミティの持つ杖が、体中に身に着けている装飾具が、光り輝き続けている
「おや、人聞きの悪いことを、彼女は自ら望んで、「奇跡を起こすサントニーニョ」と契約したのですよ」
「……っそうさせたのは、お前だ!!後に引けぬ状況を作り出し、そうせざるを得ない状況を作り出した癖にっ!」
「……っそうさせたのは、お前だ!!後に引けぬ状況を作り出し、そうせざるを得ない状況を作り出した癖にっ!」
ぴくり
小さく、カインの体が跳ねた事に、悠司は気づいた
……声は、聞こえているようだ
その体は震えている 握りしめられている拳は、血の気が失せているようにも見えた
だが……茫然自失の状態には、辛うじて陥っていないらしい
小さく、カインの体が跳ねた事に、悠司は気づいた
……声は、聞こえているようだ
その体は震えている 握りしめられている拳は、血の気が失せているようにも見えた
だが……茫然自失の状態には、辛うじて陥っていないらしい
「………本当に、人聞きが悪いですね」
カラミティが、攻撃する事に意識をさいたせいだろうか
鎖の束縛が緩んだのだろう、鎖が引きちぎれ、束縛されていた存在が姿を現す
鎖の束縛が緩んだのだろう、鎖が引きちぎれ、束縛されていた存在が姿を現す
---エイブラハム・ヴィシャス
その男が、全身を光り輝く槍で、剣で串刺され、叩きつけられた球体によって顔の半分を破壊された状態で
しかし、笑顔で立っていた
こんな傷など、大したことはない
そうとでも言うように、優雅に両腕を広げながら続ける
その男が、全身を光り輝く槍で、剣で串刺され、叩きつけられた球体によって顔の半分を破壊された状態で
しかし、笑顔で立っていた
こんな傷など、大したことはない
そうとでも言うように、優雅に両腕を広げながら続ける
「彼女は、こう言ったのですよ。『自分ならば、契約できる。だから、契約させてほしい』と……ですから、私は彼女に、契約を実行させたまでです。実際は、失敗してしまいましたがね」
「--っそれは」
「--っそれは」
ぎり、と
カラミティが、杖をきつく、握りしめている
カラミティが、杖をきつく、握りしめている
……そして
己が口にする、事実が
カインをさらに傷つけてしまうかもしれないと言う、リスク
それを恐れながらも口にする
己が口にする、事実が
カインをさらに傷つけてしまうかもしれないと言う、リスク
それを恐れながらも口にする
「それは………マリア・ディーフェンベーカーが、カインを護ろうとしたからだ」
再び、カインの体が、跳ねる
まだ、体は小さく震え続けている
何か、口にしようとして……しかし、言葉を紡ぎだせずにいる
まだ、体は小さく震え続けている
何か、口にしようとして……しかし、言葉を紡ぎだせずにいる
「お前は……マリア・ディーフェンベーカーに、「奇跡を起こすサントニーニョ』の契約リスクを説明したうえで、カインを、それと契約させる為に「教会」に引き取ると、そう告げたんだろ……マリア・ディーフェンベーカーを引き取りに来た、その日にっ!!」
エイブラハムの頭上に、巨大なハンマーが現れた
やけに握る柄の部分が短いそれが、エイブラハムに叩きつけられる
びちゃびちゃと、血と肉片が辺りにまき散らされ、白い雪を真っ赤に染め上げていく
やけに握る柄の部分が短いそれが、エイブラハムに叩きつけられる
びちゃびちゃと、血と肉片が辺りにまき散らされ、白い雪を真っ赤に染め上げていく
「…だから、マリア・ディーフェンベーカーは、自分が契約すると言ったんだよ。カインに、そのリスクを背負わせない為に」
エイブラハムからカインに告げられた情報
それは、覆しようのない真実
神ですら否定できぬ絶対の事実
それは、覆しようのない真実
神ですら否定できぬ絶対の事実
今、カラミティが口にしている事も、また真実
カインと友人になった後、姉の死の真相を知りたがるカインの為にカラミティが調べ……しかし、告げる事ができずにいた事実
カインと友人になった後、姉の死の真相を知りたがるカインの為にカラミティが調べ……しかし、告げる事ができずにいた事実
ただ、唯一の姉が、家族が
自分を護る為に死んだのだとしたら
カインが、どれだけ悲しむか
それを知っていたが為に伝えられず、秘め続けた情報
自分を護る為に死んだのだとしたら
カインが、どれだけ悲しむか
それを知っていたが為に伝えられず、秘め続けた情報
二人の口から語られる情報が、混ざり合い
カインに、真なる事実を、真実を伝える
カインに、真なる事実を、真実を伝える
「…その際に、マリアはこう告げたはずだ。『自分が契約するから、弟には契約させないでほしい。そんなリスクを弟に背負わせないでほしい』と……お前が、それに了承したから、マリアは契約したんだよ。自分が失敗するだろうことを覚悟の上でな」
エイブラハムを叩き潰したハンマーが消滅する
残された、血飛沫と肉片
残された、血飛沫と肉片
「----っその約束を、お前は破って、カインを引き取って契約させやがったんだ。神に約束したからマリアが信じた約束を破ってっ!」
「…そうですね」
「…そうですね」
飛び散った、肉片が
一か所に、集まっていく
着ていた服すらも、完璧に
エイブラハムは、傷ついた痕跡すら残さず、再生していく
一か所に、集まっていく
着ていた服すらも、完璧に
エイブラハムは、傷ついた痕跡すら残さず、再生していく
「確かに、彼女にそう、約束しましたね」
「-----っ」
「-----っ」
……カインの、震えが
止まった
俯き、握られていた拳が、とかれる
止まった
俯き、握られていた拳が、とかれる
「ですが………何も、問題はありませんよ」
エイブラハムは微笑んでいる
気高く、しかし、高慢に
目の前にいる存在全てを見下しているような、そんな表情で、笑う
気高く、しかし、高慢に
目の前にいる存在全てを見下しているような、そんな表情で、笑う
「神である私が、決めた事なのですから。「奇跡を起こすサントニーニョ」の契約者には、カイン・ディーフェンベーカーがふさわしい。だから、契約すべきだ。私がそう決めたのですから………彼女との約束など、些細な事ですよ」
「ってめぇ…っ」
「ってめぇ…っ」
再び、光り輝く槍が、剣が生まれ、エイブラハムを串刺しにしていく
しかし、それらの傷は即座に再生していき……エイブラハムの言葉を止める事はできない
しかし、それらの傷は即座に再生していき……エイブラハムの言葉を止める事はできない
「……カイン司祭。つらいでしょうね?……自分の姉を消滅させた存在などと、たくさんの人間を消滅させてきた存在などと契約し……その力を借りていたなど。知りたくもなかったでしょうね」
手が
カインに向けて、伸ばされる
まるで、手を差し伸べるように
カインに向けて、伸ばされる
まるで、手を差し伸べるように
カラミティが、即座に魔法でその手を打ち砕く
しかし、すぐにその手は再生し……カインに差し伸べられ続ける
しかし、すぐにその手は再生し……カインに差し伸べられ続ける
「カイン・ディーフェンベーカーよ」
神が
否
悪魔が、誘う
否
悪魔が、誘う
「救われたくはありませんか?」
それは、完全なる、悪魔の囁き
酷く誘惑的な響きを纏い、それは誘う
酷く誘惑的な響きを纏い、それは誘う
「マリア・ディーフェンベーカーを……私が、蘇らせてあげましょうか?」
仕組まれた奇跡を演出しようと
その手は、哀れな司祭へと、まっすぐに差しのべられた
その手は、哀れな司祭へと、まっすぐに差しのべられた
to be … ?