---あの時の、あの男が何気なく発した、あの言葉が
お嬢様の心に楔を打ち込み、未練を作った
果たして、お嬢様自身に、その自覚があるかどうか
それは、わからぬままだ
お嬢様の心に楔を打ち込み、未練を作った
果たして、お嬢様自身に、その自覚があるかどうか
それは、わからぬままだ
…それは、まだ「組織」が完成する前
まだ、それがゆっくりと、しかし、急速に形作られている最中のこと
「東京の地下には巨大地か要塞が存在する」の中にて…
まだ、それがゆっくりと、しかし、急速に形作られている最中のこと
「東京の地下には巨大地か要塞が存在する」の中にて…
「…まったく、あのA-No.0とやら。この妾を呼び寄せておきながら、顔も見せぬとは何事なのじゃ」
やや不機嫌に歩くヘンリエッタの後ろを、数歩離れた位置を保ちながらジェラルドはついていく
ヘンリエッタの不満に、ジェラルドは答えない
どんな答えを告げたとしても、彼女の機嫌が直らないことを知っているからだ
ヘンリエッタの不満に、ジェラルドは答えない
どんな答えを告げたとしても、彼女の機嫌が直らないことを知っているからだ
もう何十年も、ヘンリエッタの笑顔など、見ていない
彼女の心は疲れ果て、死にかけているから
……人間に戻る手段
それを探し、数百年
彼女の心は疲れ、人間に戻る手段を見つけるという目標すら、諦めかけ
ゆっくりと、精神的な死へと向かっていっている
…それも、ジェラルドは知っている
しかし、彼には何も出来ない
その事実を歯痒く思いながらも……ずっと、何も出来ぬままなのだ
彼女の心は疲れ果て、死にかけているから
……人間に戻る手段
それを探し、数百年
彼女の心は疲れ、人間に戻る手段を見つけるという目標すら、諦めかけ
ゆっくりと、精神的な死へと向かっていっている
…それも、ジェラルドは知っている
しかし、彼には何も出来ない
その事実を歯痒く思いながらも……ずっと、何も出来ぬままなのだ
しばし、二人で歩いていると……前方に、人影が見えた
確か、あれは…
確か、あれは…
「…あぁ、ヘンリエッタ。どうかしたの?」
「……D-No.0か」
「……D-No.0か」
D-No.0と、X-No.0
ヘンリエッタと同じく、No.0をふられた2人
…ヘンリエッタよりも先に、A-No.0から誘いを受けて「組織」に入った者だったはず
X-No.0が、ヘンリエッタの言葉に、ややむっとしたような表情を浮かべた
ヘンリエッタと同じく、No.0をふられた2人
…ヘンリエッタよりも先に、A-No.0から誘いを受けて「組織」に入った者だったはず
X-No.0が、ヘンリエッタの言葉に、ややむっとしたような表情を浮かべた
「お互い名前わかってるんだし、そのナンバー呼びやめようぜ?こいつには、ちゃんと…」
「いいよ、ザン。ヘンリエッタが呼びやすい呼び方で、呼んでくれればいいんだから」
「いいよ、ザン。ヘンリエッタが呼びやすい呼び方で、呼んでくれればいいんだから」
X-No.0…ザンに、そう告げるD-No.0
ザンはやや不満そうな表情ではあるが、D-No.0の言葉に従う
ザンはやや不満そうな表情ではあるが、D-No.0の言葉に従う
…その、D-No.0に…ヘンリエッタは、やや、苦々しい表情を浮かべた
彼女は、D-No.0を、少々苦手としている
助け舟を出すべきか
そう判断し、ジェラルドは口を開いた
彼女は、D-No.0を、少々苦手としている
助け舟を出すべきか
そう判断し、ジェラルドは口を開いた
「………お嬢様、お時間が」
「む…わかっておる。妾は忙しいでな。貴様らの相手をしている暇などないのじゃ」
「む…わかっておる。妾は忙しいでな。貴様らの相手をしている暇などないのじゃ」
D-No.0の問いかけに答えることなく、そっけなくそう口にしたヘンリエッタ
やはり、ザンがむっとした表情を浮かべる
やはり、ザンがむっとした表情を浮かべる
「お前な。こいつは、お前を心配して…」
「ザン、そんなに怒らないで」
「ザン、そんなに怒らないで」
やはり、ザンのその怒りを、D-No.0が宥める
…D-No.0は、ヘンリエッタに申し訳無さそうな表情を浮かべて見せた
…D-No.0は、ヘンリエッタに申し訳無さそうな表情を浮かべて見せた
「御免ね、ヘンリエッタ。君は、大事な研究で忙しいのに、足止めさせてしまって」
その、D-No.0の謝罪に…ヘンリエッタは、表情を暗くした
ヘンリエッタとて、D-No.0に非がない事はわかっているのだ
だと言うのに…D-No.0は、まるで自分が悪いのだと言うように、こうやって謝罪してくるのだから
……それに
「研究」
その単語が、さらに、ヘンリエッタの心に、暗い影を落とす
ヘンリエッタとて、D-No.0に非がない事はわかっているのだ
だと言うのに…D-No.0は、まるで自分が悪いのだと言うように、こうやって謝罪してくるのだから
……それに
「研究」
その単語が、さらに、ヘンリエッタの心に、暗い影を落とす
「そ、その通りなのじゃ。妾は、研究で忙しいのじゃ!」
その暗い影を必死に表に出さないよう、己の中に閉じ込め、ややきつめの声でそう告げるヘンリエッタ
足早に、この場を立ち去ろうとして
足早に、この場を立ち去ろうとして
……しかし
「本当、ヘンリエッタは、強いね」
………D-No.0の言葉に
思わず、脚を止めてしまう
思わず、脚を止めてしまう
「君は、人間に戻る為に、研究を続けている………そんな幼い頃に、都市伝説に飲み込まれてしまって、それでもなお、人の心を保ち続けて………元に戻ろうと、努力を続けている。本当に、偉いね」
「------っ」
「大丈夫。君が努力を続ければ……必ず、元に戻る方法は、見つける事ができるはずだから。だって、君は都市伝説に飲み込まれてしまった今でも……どれだけ、その状態で長い時間を過ごしても、まだ、人間の心を、保てているのだから」
「------っ」
「大丈夫。君が努力を続ければ……必ず、元に戻る方法は、見つける事ができるはずだから。だって、君は都市伝説に飲み込まれてしまった今でも……どれだけ、その状態で長い時間を過ごしても、まだ、人間の心を、保てているのだから」
…言葉の、一つ一つが
ヘンリエッタの、心にしみこむ
疲れ果て、諦めようとしていた、彼女の心に
未練が、生まれる
未練と言う楔が、打ち込まれる
ヘンリエッタの、心にしみこむ
疲れ果て、諦めようとしていた、彼女の心に
未練が、生まれる
未練と言う楔が、打ち込まれる
「……ふん……都市伝説に飲まれれば、それは化け物にすぎぬだろうよ……妾は、ただ、あがいているだけ。さぞや、無様に見えるだろうな」
「そんな事ないよ」
「そんな事ないよ」
ヘンリエッタの、その自虐的な言葉を
D-No.0は、即座に否定する
D-No.0は、即座に否定する
「ヘンリエッタは、人間だよ。君は、ちゃんと人間の心を保てていて……」
まるで
ヘンリエッタの心を、見透かしたかのような言葉が、続く
ヘンリエッタの心を、見透かしたかのような言葉が、続く
「…そして、都市伝説に飲まれてしまっているその現状を、悲しみ続けているのだから」
…かすかに
ヘンリエッタの体が震え出した事を、ジェラルドは見逃さなかった
ヘンリエッタの体が震え出した事を、ジェラルドは見逃さなかった
D-No.0の優しさに
彼女の心が……耐えられない
彼女の心が……耐えられない
「っう、煩い煩い煩い!!!百年も生きておらぬ小童が!!妾の心をわかった気になるな!!!」
癇癪を起こしたように叫び、走り去るヘンリエッタ
…ジェラルドは、すぐにはその後を追わず……D-No.0とザンに向き直り
…ジェラルドは、すぐにはその後を追わず……D-No.0とザンに向き直り
……小さく、頭を下げた
「………お許しを。お嬢様は、今、少々気が立っておられますので」
「あ…ううん、いいんだよ。僕が悪いんだから」
「お前な…」
「あ…ううん、いいんだよ。僕が悪いんだから」
「お前な…」
D-No.0の言葉に、あきれた表情を浮かべているザン
……本当に、D-No.0は人が良すぎる
これが、いつか悪い結果を招かなければ良いのだが
そう考えながら…ジェラルドは、静かに告げた
……本当に、D-No.0は人が良すぎる
これが、いつか悪い結果を招かなければ良いのだが
そう考えながら…ジェラルドは、静かに告げた
「…………お嬢様を、人間として認めていただき……ありがとう、ございました」
「………え?」
「………え?」
D-No.0の、どこかきょとんとした声に、答える事はなく
ジェラルドは、足早にヘンリエッタの後を追い始めた
ジェラルドは、足早にヘンリエッタの後を追い始めた
俯いているヘンリエッタ
彼女は、己に割り当てられている部屋に辿り着くまで、顔をあげる事はなかった
彼女は、己に割り当てられている部屋に辿り着くまで、顔をあげる事はなかった
……その苦悩を、全て知りながら
しかし、ジェラルドは何もできず
ただ、見守る事しかできぬ己を、卑下し続けるのだった
しかし、ジェラルドは何もできず
ただ、見守る事しかできぬ己を、卑下し続けるのだった
to be … ?