ゆっくりと、意識が闇に引きずり込まれていく
冷たい雨にうたれながら、ぼんやりと、自分の命の灯火が消えていこうとしている事を自覚する
冷たい雨にうたれながら、ぼんやりと、自分の命の灯火が消えていこうとしている事を自覚する
…もっと早く、こうなっているべきだった
いや、そもそも、生まれてくるべきではなかった
自分のような存在が生まれたから、生まれてしまったから、あんなにもたくさんの人間を苦しめて、不幸にして、殺してしまった
いや、そもそも、生まれてくるべきではなかった
自分のような存在が生まれたから、生まれてしまったから、あんなにもたくさんの人間を苦しめて、不幸にして、殺してしまった
-----生まれてきて、御免なさい
口の中で小さく呟かれた言葉は、どこにも届かない
ただ
意識を失う、その、刹那
誰かが、自分に手を伸ばしてきたような気がして
意識を失う、その、刹那
誰かが、自分に手を伸ばしてきたような気がして
それは、そのまま静かに、意識を闇へと深く沈めた
…そこは、とある異界の中
現実とまったく同じようでいながら、しかし、誰も居ない世界
そのはずの世界に、人影が存在した
どこかの、病院の一室と思われる場所
そこに、人影達は集まっていた
現実とまったく同じようでいながら、しかし、誰も居ない世界
そのはずの世界に、人影が存在した
どこかの、病院の一室と思われる場所
そこに、人影達は集まっていた
「…大丈夫、かな?目を、覚ますかな…」
その一人、ダレンは、寝台に横たわっている青年を、酷く心配そうに見つめていた
寝台には、褐色肌に黒い髪の青年が横たわり、静かに寝息を立てている
……その体は、つい数時間前まで、あちこち傷だらけでボロボロだった
生きている事が不思議な程の大怪我を負って、倒れていた青年
それを、ダレンが見つけ、保護したのだ
恐らく、手当てしなければ……あのまま、命を落としていただろう
寝台には、褐色肌に黒い髪の青年が横たわり、静かに寝息を立てている
……その体は、つい数時間前まで、あちこち傷だらけでボロボロだった
生きている事が不思議な程の大怪我を負って、倒れていた青年
それを、ダレンが見つけ、保護したのだ
恐らく、手当てしなければ……あのまま、命を落としていただろう
「どうだろうな。まぁ、人外の生命力なら、どうにかなるだろうが」
この異界を形成している存在であるジブリルが、ダレンの呟きにそう答えた
…恩人であるダレンの事を気遣うがあまり…彼は、ダレンに真に味方をする者以外に対して、酷く強い警戒心を抱く
今も、この正体不明の青年に対し…ダレンのように同情を覚えるのではなく、ただ、強い警戒を抱いていた
…恩人であるダレンの事を気遣うがあまり…彼は、ダレンに真に味方をする者以外に対して、酷く強い警戒心を抱く
今も、この正体不明の青年に対し…ダレンのように同情を覚えるのではなく、ただ、強い警戒を抱いていた
「うん…目を、覚ますといいんだけれど………それにしても、この子、どう言う存在だろう…?」
頭から生えた角や、少しとがった耳
それに、蝙蝠のような翼
ダレンはピンと来ていないようだったが…ジブリルやディーデリヒ、それに、ザンは、この存在に覚えがあった
恐らくは、悪魔の一種
…だからこそ、よけいに、ザンもディーデリヒも警戒しているのだ
それに、蝙蝠のような翼
ダレンはピンと来ていないようだったが…ジブリルやディーデリヒ、それに、ザンは、この存在に覚えがあった
恐らくは、悪魔の一種
…だからこそ、よけいに、ザンもディーデリヒも警戒しているのだ
ダレンは、酷く慈悲深く、そしてお人好しだ
悪魔的な存在に騙されそうになった事も、一度や二度ではない
悪魔的な存在に騙されそうになった事も、一度や二度ではない
……今回も
この青年が、邪悪な存在であったならば
…………その時は、自分達が
ダレンに気づかれる事なく、ジブリル達が覚悟を決めていた、その時
この青年が、邪悪な存在であったならば
…………その時は、自分達が
ダレンに気づかれる事なく、ジブリル達が覚悟を決めていた、その時
「………ぅ、ん」
ぴくり、と
小さく、青年の体が跳ねた
…ゆっくりと、瞼が開く
小さく、青年の体が跳ねた
…ゆっくりと、瞼が開く
「あ……良かった、目を覚ましたんだね」
「…………?」
「…………?」
真っ赤な…まるで、血のような瞳を、開いて
青年は、ぼんやりと、周囲を見回す
己が置かれている状況を、把握するのに、時間がかかっているようだ
青年は、ぼんやりと、周囲を見回す
己が置かれている状況を、把握するのに、時間がかかっているようだ
「大丈夫?まだ、どこか痛い…?」
そっと
ダレンは、青年を気遣うように…青年に、手を伸ばした
ダレンは、青年を気遣うように…青年に、手を伸ばした
その、瞬間
「--------っ!!」
さぁ、と
青年の顔に……恐怖が、浮かんだ
ダレンが差し出した手を振り払い、逃げ出すように後ずさり、寝台から転げ落ちる
青年の顔に……恐怖が、浮かんだ
ダレンが差し出した手を振り払い、逃げ出すように後ずさり、寝台から転げ落ちる
「え?」
「ッダレン!」
「ッダレン!」
青年の行動に、ジブリルがさらに警戒を強め、行動にでようとする
…青年に、悪気が無かったと、しても……ダレンに対し、何らかの害を及ぼしてしまう可能性がある
それを、危惧してのことだ
…青年に、悪気が無かったと、しても……ダレンに対し、何らかの害を及ぼしてしまう可能性がある
それを、危惧してのことだ
しかし
その行動は、途中で止まる
その行動は、途中で止まる
「……ぃ」
ガタガタと、震えながら
青年は、自分の体を抱え込むように縮こまり、呟き続ける
青年は、自分の体を抱え込むように縮こまり、呟き続ける
「い、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…………言う事、聞きますから………も、ぶたないで………っ殴らないで………!」
カタカタと、震え続ける青年
その表情は、声は……暴力の恐怖に屈している様子で
今も、その暴力に晒されるのではないか、と、ただただ、震え続けている
その表情は、声は……暴力の恐怖に屈している様子で
今も、その暴力に晒されるのではないか、と、ただただ、震え続けている
「御免なさい……もう、逆らいませんから………言う事、何でも聞きます…………っあなた方の、不都合になることは、何もしません。だから、殴らないで、蹴らないで………斬らないで、首を絞めないで………っ」
ボロボロと、青年は涙を流し続けている
強い、強い、恐怖
それに囚われ………完全に、支配されてしまっている
強い、強い、恐怖
それに囚われ………完全に、支配されてしまっている
…ジブリルは思い出す
ダレンが、この青年を見つけたのが…「教会」の影響下が強い場所であった事を
ダレンが保護した時、青年の体中についていた、無数の傷を、傷跡を
ダレンが、この青年を見つけたのが…「教会」の影響下が強い場所であった事を
ダレンが保護した時、青年の体中についていた、無数の傷を、傷跡を
「こいつ……「教会」に、虐待されてたのか……っ」
恐らく…それだけでは、ない
「教会」に、何らかの目的で、いいように使い潰されていたのだろう
…「教会」内部には、悪魔を否定しながらも、その悪魔を利用し、敵対勢力を陥れるような事をしている一派が存在する事を、彼らは把握していた
この、青年は……恐らくは、それによって利用されていて……しかし、同時に、利用される局面ではない時には…不定な存在だからと、虐待を受け続けたのだろう
虐待の暴力による恐怖が完全に染み付いてしまっていて…ダレン達の事も、自分を虐待してきた者にしか、見えないのだろう
「教会」に、何らかの目的で、いいように使い潰されていたのだろう
…「教会」内部には、悪魔を否定しながらも、その悪魔を利用し、敵対勢力を陥れるような事をしている一派が存在する事を、彼らは把握していた
この、青年は……恐らくは、それによって利用されていて……しかし、同時に、利用される局面ではない時には…不定な存在だからと、虐待を受け続けたのだろう
虐待の暴力による恐怖が完全に染み付いてしまっていて…ダレン達の事も、自分を虐待してきた者にしか、見えないのだろう
震え続ける青年
…そんな彼に、ダレンはそっと、近づく
…そんな彼に、ダレンはそっと、近づく
「………っひ!?」
「ダレン!」
「…大丈夫」
「ダレン!」
「…大丈夫」
ディーデリヒの静止も、聞かず
ダレンは怯える青年に近づくと…その傍らに、跪いて
そっと…その頭を、撫でた
ダレンは怯える青年に近づくと…その傍らに、跪いて
そっと…その頭を、撫でた
ぴくりと、青年は怯えたように体を跳ねらせて
……しかし、いつまでも与えられない暴力に、やがて、不思議そうな表情を浮かべた
……しかし、いつまでも与えられない暴力に、やがて、不思議そうな表情を浮かべた
「ぁ……?」
「大丈夫…僕らは、君の敵じゃない。君に、酷い事なんてしないよ」
「…ぇ……ぁ……」
「大丈夫…僕らは、君の敵じゃない。君に、酷い事なんてしないよ」
「…ぇ……ぁ……」
ダレンから与えられた、優しい言葉に…青年は、酷く困惑している様子だった
戸惑ったように…信じられない、という表情で、ダレンを見つめる
戸惑ったように…信じられない、という表情で、ダレンを見つめる
「……っで、でも……僕は、淫魔、で…………ッ不浄な、存在で………生きている、価値なんて………どこにも……っ」
「そんな事、ないよ」
「そんな事、ないよ」
未だ、怯え続ける青年に
ゆっくり、優しく…ダレンは続ける
ゆっくり、優しく…ダレンは続ける
「生きている価値のない存在なんて、この世にはいないんだよ。誰もが誰かに求められていて、誰もが誰かの為に生まれて、生きている。どんな命であろうとも、生まれ出てきた事に、必ず、意味があるんだ」
「…い、み…?」
「僕は、君に生きていて欲しいと思う。君が、自分には生きている価値がないというのなら。僕が、君に生きていて欲しいと願う」
「…い、み…?」
「僕は、君に生きていて欲しいと思う。君が、自分には生きている価値がないというのなら。僕が、君に生きていて欲しいと願う」
死に行く命を、救う事ができるのならば
ダレンは、迷わずその命を救い上げる
そして、それを、絶対に見捨てることなどしない
ダレンは、迷わずその命を救い上げる
そして、それを、絶対に見捨てることなどしない
ダレンが、この哀れな淫魔を保護した段階で
この哀れな淫魔は、ダレンにとって、必ず救い上げるべき価値ある存在へと成っていたのだ
この哀れな淫魔は、ダレンにとって、必ず救い上げるべき価値ある存在へと成っていたのだ
淫魔は、生まれて初めて向けられたのであろう善意に…酷く、困惑し続けていた
「僕は…生きていて、いいの…?」
「当たり前だよ。ね、みんな」
「当たり前だよ。ね、みんな」
ダレンが、部屋に居た全員に、同意を求める
成り行きを見守っていたザンは、小さく苦笑した
成り行きを見守っていたザンは、小さく苦笑した
「まぁな。大体の事情を察した後じゃあ、見捨てるのも目覚めが悪いしな」
「…お前がそいつを救うというのなら、俺達はその手伝いをするまでだ」
「ダレンに害を与えないなら、問題ない」
「…お前がそいつを救うというのなら、俺達はその手伝いをするまでだ」
「ダレンに害を与えないなら、問題ない」
ザンの言葉に、ジブリルとディーデリヒも続いて
ダレンはにっこり笑って、淫魔に手を差し伸べる
ダレンはにっこり笑って、淫魔に手を差し伸べる
「さぁ、一緒に生きよう?もう、怖がらなくて、いいんだよ」
「………」
「………」
差し伸べられた、その手を
…淫魔は、恐る恐る、とった
ダレンはしっかりと、その手を掴む
…淫魔は、恐る恐る、とった
ダレンはしっかりと、その手を掴む
「僕は、ダレン。ダレン・ディーフェンベーカー…君の名前も、教えてくれる?」
「……僕、は……」
「……僕、は……」
しっかりと握られた手
それを、どこか弱々しく握り返しながら、淫魔は答える
それを、どこか弱々しく握り返しながら、淫魔は答える
「僕は…ディラン……ディラン・ドランスフィールド…です……」
…これが、彼らの出会い
この日より、蔑まれ続けた淫魔は生まれて初めて、味方を、仲間を、友を得た
この日より、蔑まれ続けた淫魔は生まれて初めて、味方を、仲間を、友を得た
しかし
かつての恐怖の記憶は、未だ彼を縛り続け
かつての恐怖の記憶は、未だ彼を縛り続け
彼の運命を、静かに縛り続けるのだ
to be … ?