「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - プレダトリー・カウアード-18

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uranaishi

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プレダトリー・カウアード 日常編 18


 行為には、主体と客体が内包される。
 それは揺ぎ無い事実だ。
 独り言にしてもそれは同じ。
 己を主体とし、己と客体としているだけで、行為の本質はなんら変わらない。
 例外なく、それは全てにあてはまる。
 「狩り」にしてもそうだ。
 主体として「狩る」者が、客体として「狩られる」者がそこに在る。
 僕は「狩る」側にいる。生を欲し死を恐れる臆病者として。
 だから僕は、探さなければならない。
 客体――――狩られる側を。


                        Predatory Coward
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 学校町には、種々様々な都市伝説が存在する。
 世界的に見ても稀だと対抗都市伝説すら肯認する、都市伝説のるつぼ。
 けれどそこで僕にとっての「獲物」たり得るのは、その中でも特に最下層にいる都市伝説だけだ。
 人の心の内には「器」があり、その大小が対抗都市伝説としての己を左右する。
 僕の「器」は小さく、故に歳弱の都市伝説のみ、僕は喰らうことができる。

 ……問題なのは、そこなのだ。
 この世には人に害を為す都市伝説が数多く点在する。
 倫理を持つものとして、元「人間」として、そういった都市伝説を退治できればと、対抗都市伝説から話を聞かされた時、思っていた。
 けれど、現実はそう甘く作られていない。
 僕が取り込むべき都市伝説は、最弱。
 そして都市伝説の力が弱ければ弱いほどに、人への影響力もまた、低くなる。
 つまり、僕にとっての客体は、「無害」な都市伝説なのだ。

「………………くぅーん」

 ――――たとえば、目の前で震える、小さな人面犬のように。

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 西区の工場地帯。かつてはいくつもの社団法人が競うようにその名を連ねていたこの地に対しても、不況の波は不可避。
 点々と、あるいは固まって、無尽の廃工場たちがここには取り残されている。
 それら廃工場の中、特に群れと化した区画では、夜に一縷の明りも漏らさない。
 さらにその中心ともなれば、隣接する工場からの人工燈の火すら届かず、ただ月光のみがその空間を彩っている。
 僕が佇むのは、その淡い光まで避けた、ある廃工場の中。
 少しだけ開けたその場所で、僕は何をするでもなく、立っていた。
 足元では一匹の都市伝説が身体を丸め、迫る運命を待っている。

≪一日か、二日か……いずれにせよ、この世に生を受けてまだそう時を経ていない都市伝説であろうな≫

 対抗都市伝説からの注釈が入る。
 「獲物」としては最適だという、最低のお墨付きと共に。

 身体は依然として、寒さを訴えてくる。
 あれから姉ちゃんを適当にごまかして、僕は家を出た。
 これは僕の問題だから。僕の「戦」だから。姉ちゃんを巻き込みたくはなかった。

 探索開始から約三十分弱、僕はようやく、この薄汚い路地裏で、一匹の都市伝説を見つけた。
 先に対抗都市伝説が言ったとおりの、生まれて間もない人面犬。
 人語は解するようだが、まだアウトプットの段階ではないらしい。
 先程から一度も人としての言葉を発せず、ただ僕を見上げている。

 ――――コレを、僕が、殺す…………?

 その顔を除き、見た目はただの犬だ。
 それも人を見てただ怯えるだけの、か弱い存在。
 それは確かに、僕が餌食とすべき存在でもあった。

 ……笑えてくる。
 分かっているつもりだった。
 僕の行うべきは捕食であり、一方的な殺戮であり、ただの蹂躙なのだと。
 分かっているつもりで、けれど、実感はしていなかった。
 唇を噛む。
 考える。為すべきことを。為さねばならないことを。

 僕は…………僕は――――――

≪――――主よ≫

 内からの声。
 恐らく躊躇する僕を叱咤しての発言だろう。

「ごめん、もうちょっと時間を――」
≪いいや、違う。そうではないのだ、主よ≫

 ――――かつん、と。
 人がいないはずの路地裏に、乾いた足音が反響する。
 僕のものでは……ない。
 振り返る。ゆっくりと。
 僕の中の「何か」が、雄叫びを上げた。
 歓喜で、ただひたすらの喜びで、「何か」が吼える。
 それは、飲まれたはずの都市伝説。
 僕が始めてその身に取り込んだ「あいつ」が、僕の内で、叫んでいる。
 同士を、同胞を、同類を、仲間を、求めて。

 ……僕の目がソレを捉える。
 月光りを背に影へと身を邁進させる、ソレを。

≪――新手だ≫

 ――――吸血鬼。
 二度目の邂逅を…………僕は、果たした。

【Continued...】




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