プレダトリー・カウアード 日常編 17
僕の姉ちゃんは、超がつく不器用だ。
こと料理に関しては、その才能を遺憾なく発揮する事ができる。
そして、才能というものは得てして親から子へと受け継がれるものだ。
姉ちゃんは不器用なお父さんとお母さんの子供。
こと料理に関しては、その才能を遺憾なく発揮する事ができる。
そして、才能というものは得てして親から子へと受け継がれるものだ。
姉ちゃんは不器用なお父さんとお母さんの子供。
「姉ちゃん…………乱切りってなに?」
――――そして「子」である以上は、僕もそんな遺伝子を受け継ぐ一人なのだ。
「切り方など気にするな。腹に入ればどうとでもなる」
「見た目も重要だと思うよ、姉ちゃん」
「見た目も重要だと思うよ、姉ちゃん」
かつて台所でその腕を振るってくれた人は、もういない。
本当ならその感傷に浸るべきところなのだけれど、日常の茶飯事すらまともにできない僕たちに、その余裕はあまり残されてはいなかった。
本当ならその感傷に浸るべきところなのだけれど、日常の茶飯事すらまともにできない僕たちに、その余裕はあまり残されてはいなかった。
僕たちは今いるのは、あの二階建ての一軒家ではない。
「事件」が未解決。且つ犯人は逃亡中という事になっている今、あの家の中は、未だに警察の人たちの戦場と化している。
だからしばらくの間――ひょっとしたらこれからもずっと――僕たちは近くのアパートに住むことになった。
幸い保険や国からの各種手当てのお陰で、ローンのせいで夜逃げするとか、日々の生活が立ち行かないなどの状態にはなっていない。
けれども、僕たちの生活に「余裕」があるわけでもない。
生活は出来る限り切り詰めなければならないし、外食などはもってのほか。財布の敵だ。
……そこで、話は冒頭へと戻る。
「事件」が未解決。且つ犯人は逃亡中という事になっている今、あの家の中は、未だに警察の人たちの戦場と化している。
だからしばらくの間――ひょっとしたらこれからもずっと――僕たちは近くのアパートに住むことになった。
幸い保険や国からの各種手当てのお陰で、ローンのせいで夜逃げするとか、日々の生活が立ち行かないなどの状態にはなっていない。
けれども、僕たちの生活に「余裕」があるわけでもない。
生活は出来る限り切り詰めなければならないし、外食などはもってのほか。財布の敵だ。
……そこで、話は冒頭へと戻る。
「きゃーっ!!?? レンジの卵が爆発したよ、姉ちゃん!!」
「誰もが通る道だ。気にする事はないぞ、弟よ」
「誰もが通る道だ。気にする事はないぞ、弟よ」
とどのつまり、僕たちは自炊しているのだ。
家庭科以外では包丁にも触れたことの無い、二人が。
家庭科以外では包丁にも触れたことの無い、二人が。
*****************************************
「…………これ、何だろうね、姉ちゃん」
「酢豚だろう?」
「僕、黄色い酢豚なんて初めて見たよ…………」
「酢豚だろう?」
「僕、黄色い酢豚なんて初めて見たよ…………」
皿の上に乗っているのは、黄色い何かをかけられた黒いなにか。
最早前衛アートの一種にしか見えないそれは、残念な事に今日の僕たちの晩御飯だ。
その他にも赤、青、茶。鮮やか過ぎて目が痛くなるような料理が並んでいる。
僕は…………明日の日の目を見ることが出来るのだろうか。
最早前衛アートの一種にしか見えないそれは、残念な事に今日の僕たちの晩御飯だ。
その他にも赤、青、茶。鮮やか過ぎて目が痛くなるような料理が並んでいる。
僕は…………明日の日の目を見ることが出来るのだろうか。
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「――――今日の学校はどうだった」
いただきますの後、楽しいけど胃に苦しいご飯が始まる。
何故か味の薄い味噌汁を啜っていると、姉ちゃんが話を振ってきた。
おわんから口を外して、答える。
何故か味の薄い味噌汁を啜っていると、姉ちゃんが話を振ってきた。
おわんから口を外して、答える。
「姉ちゃんも一緒だったでしょ? 時々寝てたけど」
結局、姉ちゃんはあの後最後まで一緒に授業を受けた。
英語に始まり、世界史に終わるまで、ずっと。
ただその間、姉ちゃんがきちんと授業に参加していたかと言えば、そうでもない。
三回姉ちゃんの方を見たとしよう。
その内の一回はお休みタイムだ。椅子にもたれて寝ている姉ちゃんを見れるぞ。
残りの二回は弟タイムだ。視線を向けるとどうしてか僕と目が合うぞ。
つまり姉ちゃんは、授業の間中は「寝る」か「弟」の二択で過ごしているだけだ。
これは他のクラスメイトからも証言が取れている。バカップルめ死ね! との言葉と共に。
英語に始まり、世界史に終わるまで、ずっと。
ただその間、姉ちゃんがきちんと授業に参加していたかと言えば、そうでもない。
三回姉ちゃんの方を見たとしよう。
その内の一回はお休みタイムだ。椅子にもたれて寝ている姉ちゃんを見れるぞ。
残りの二回は弟タイムだ。視線を向けるとどうしてか僕と目が合うぞ。
つまり姉ちゃんは、授業の間中は「寝る」か「弟」の二択で過ごしているだけだ。
これは他のクラスメイトからも証言が取れている。バカップルめ死ね! との言葉と共に。
「ふっ。弟ばかりを見ていたからな。学校の様子など全く頭に残っていない!」
質問に、キラリと歯を見せて答えられた。
それは別に、誇れる事じゃないと思うんだけど……。
それは別に、誇れる事じゃないと思うんだけど……。
「それに、だ。私が聞きたいのは『弟から見て』のものだからな。私視点などあてにはならないだろう」
「うーん………………」
「うーん………………」
今日一日のことを考える。
朝五十嵐君と会ってから、夕方この家に帰ってくるまでの、一日を。
朝五十嵐君と会ってから、夕方この家に帰ってくるまでの、一日を。
「…………楽しかった、かな?」
振り返って見ると、色々あった。
五十嵐君が、契約者だった事。
佐藤君が、その存在を抹消されていた事。
そして何より、姉ちゃんがクラスに乗り込んできたこと。
考えなければならない事があった。
憂うべき事もあった。
けれど、それら全てをひっくるめて、今日は楽しかったと、そう思う。
五十嵐君が、契約者だった事。
佐藤君が、その存在を抹消されていた事。
そして何より、姉ちゃんがクラスに乗り込んできたこと。
考えなければならない事があった。
憂うべき事もあった。
けれど、それら全てをひっくるめて、今日は楽しかったと、そう思う。
「そうか」
姉ちゃんは微笑んで、食事を続ける。
……きっと僕は、姉ちゃんに救われているのだろう。
ふと唐突に、思う。
先ほど「日常」に忙しくて感傷に浸る余裕がないと、僕は言った。
けれど、それは少しだけ違うのかもしれない。
余裕は無い。それは確かにそうだ。
ただ、肝心の原因が何かといえば、それは「日常」の中でも極々一部。言い換えれば「姉ちゃん」の存在が大きかったのかもしれない。
ふと唐突に、思う。
先ほど「日常」に忙しくて感傷に浸る余裕がないと、僕は言った。
けれど、それは少しだけ違うのかもしれない。
余裕は無い。それは確かにそうだ。
ただ、肝心の原因が何かといえば、それは「日常」の中でも極々一部。言い換えれば「姉ちゃん」の存在が大きかったのかもしれない。
あれ以来、いつだって僕と一緒にいた姉ちゃん。
その「時」はただ目が回るような緻密さで通り過ぎ、「傷」の痛みを感じる暇なく、過ぎていった。
今日の学校にしたって、同じ。
僕は姉ちゃんに振り回されて、けれど、だからこそ、崩れずにここに「いる」。
その「時」はただ目が回るような緻密さで通り過ぎ、「傷」の痛みを感じる暇なく、過ぎていった。
今日の学校にしたって、同じ。
僕は姉ちゃんに振り回されて、けれど、だからこそ、崩れずにここに「いる」。
「あのさ、姉ちゃん…………」
勘ぐり過ぎかもしれない。
ただいつも姉ちゃんがやっていることの、延長なのかもしれない。
けれど、僕は姉ちゃんに感謝しなければならない。
……いや、これは義務じゃない。
僕は、姉ちゃんに感謝したい。そういうただの願望が、胸にある。
だから、言おう。
一度でも、一度だって、言っておこう。
ただいつも姉ちゃんがやっていることの、延長なのかもしれない。
けれど、僕は姉ちゃんに感謝しなければならない。
……いや、これは義務じゃない。
僕は、姉ちゃんに感謝したい。そういうただの願望が、胸にある。
だから、言おう。
一度でも、一度だって、言っておこう。
「んー?」
「その、姉ちゃん、あり――――」
「その、姉ちゃん、あり――――」
――――運命は残酷だ。
いつも唐突、いつだって突然、やってくる。
いつも唐突、いつだって突然、やってくる。
後たった三文字の言葉が、出てこなかった。
「つまった」のではなく、「出せなくなった」。
身体が寒い。凍える。凍えてしまう。
何だ。
「つまった」のではなく、「出せなくなった」。
身体が寒い。凍える。凍えてしまう。
何だ。
これは。
そんな。
そんな。
冷たい。
寒い。
寒い。
一体何が。
凍える。
凍える。
何だと――――
≪主よ、『時間』だ≫
「声」が、告げる。
今までずっと、静寂を守ってきた、「声」が。
今までずっと、静寂を守ってきた、「声」が。
≪主の『マナ』が尽きようとしている。分かるか、分かるだろう、主よ≫
「声」が発する。「声」が宣言する。
「日常」から「非日常」への。
「休息」から、「戦」への、合図を。
「日常」から「非日常」への。
「休息」から、「戦」への、合図を。
≪――――これより、我らの『食事』の時間だ≫
【Continued...】