弐
「で、どうしたのさ?」
武は、隣の席で朝ご飯のおにぎりを、かじりながら聞いていた。
今日も、昨日無茶した所為で、朝はかったるくギリギリまで布団でまどろんでいたところ。
掃除機を装備した、母親の襲撃に会った。
襲撃に来た母親が、弁当の他に、おにぎりを勝手に鞄に装備してくれたことはいい。
素直にありがとう、と言いたい。
武は、マンガのような顔と同じくらいのおにぎりを頬張りながら思う。
何でこんなに、デカいんだ…と。
マンガおにぎりは、具なしの塩むすびだ。
いや、塩むすびであることに、不満はない。
だから、何でこんなにデカいんだ…と。
「文句があんなら、くれよ」
晃は、察したように声をかける。
「半分な」
「それでいい」
「で、さっきの続き何だけど」
武は、おにぎりをくるむアルミごと、半分を割って晃に渡す。
具がなかったのが、幸いだ。
具なしのおにぎりを、二人してかじりつつ、武は本題に入った。
「佐竹山さん、ちゃんと帰ってた?」
「んなもん、確認できねぇよ。怖かったから、ソッコー帰った」
問いから、コンマ一秒で返ってきた答えに、武は唖然とし、おにぎりを落としかけた。
そして、間を空けて食べ掛けのおにぎりを机におくと、晃に向かった。
「そんな!頼んだじゃん!」
晃も負けじと、声を荒げる。おにぎりの安全は勿論確保した後だ。
「途中で、お化けに会ったんだぞ!?」
「そんなん、ただのちょっと愉快で、グロい幽霊じゃん!!」
「愉快で、ニヒルにグロい、説教好きな幽霊だったぜ!チクショウ!!」
端。と。
気がつくと、周りの視線が痛い。
朝の清々しい気分の教室をぶち壊しにした二人には、教室をたまたま通り過ぎるハズの幽霊ですら、視線を注いでいた。
「…」
「…」
二人は、無言でおにぎりを片づける作業に入った。
しばらくすれば、興味を無くしたのか、一人また一人と視線を向ける者が居なくなってくる。
「…いや、押しつけた僕が悪かったね。ごめん」
「いや、バイトあったんだろ」
ぽつぽつと、おにぎりを食べながら、言葉を交わす。
「肉まん、またおごるから」
「それより、そっちはどうなんだよ」
今度は、晃が本題に入ってきた。
昨日は、死体洗いのバイトの契約者と戦ったとか。解決してないから、本を預けるとか。
佐竹山が無事帰ったかの確認とか。コンビニで、ちらっとしか聞いてない。
武の返事は、やっぱり釈然としない答えだった。
「わかんないな。ムサシはあの後寝ちゃったのか、起きてこないしな…」
武は、目線を泳がせる。多分、本当にわからないんだろう。
武とムサシは、二重人格だ。
厳密には、武が「AB型は二重人格」と契約し、二つ目の人格が自分でムサシと名乗っている。
普通の二重人格と(リアルにお目にかかったことはないが)は、大分離れている気がするのは、もう一つの人格が「AB型は二重人格」という都市伝説から生まれた人格だからだろうか。もしくは、遊戯王の影響だと思う。
昔、都市伝説契約者は、契約形態を幾つかに、分類ができると聞いたことがある。
分離型、共生型、寄生型、召喚型…分けるなら、自分と同じ寄生型なのだろうか?
その点は、非常に微妙な存在であるような気がした。
ムサシは、武にトレーニングを課している。日々鍛錬を掲げる、ムサシらしい心情だ。
それは心情の問題だけではなく、武の外見を含め、ある程度までステータスがムサシに反映されてしまうのが理由だろう。
幼なじみの立場から言わせてもらえば、武の運動神経はすこぶる悪い。
なにもないところで、転ぶのは日常だし。小学校の時も、逆上がりが出来なくて毎日放課後まで粘っていたくらいだ。
太っているとか、筋肉がないとかではなく、多分運動の神経が、ぷっつんしているんだと思う。
幼なじみとしてはそう、思っておきたい。
その運動神経の悪さも、ムサシが現れてから、少しはマシになった。
気がするだけかもしれない。が、前より転ばなくなったし、前向きに捉えれば、受け身がとれるようになった。
しかし、ムサシが表に出ているときの、爆進力とは比べようがない。というか、あれは本当に人間ではない。
多分。武とムサシは、一つの本体で、中身のソフトを入れ替えてるようなもんなんだと思う。
本体には、ソフトのデータが残るやつ。PSPみたいな。
本体が他のソフトで、セーブデータ(記憶)を読みとろうとしても出来ない。
セーブデータがある、ってことしかわからない。
基本的にはそう。あくまで他者からの感想だ。
もう、てっとり早く、事件の当事者に聞いた方が早いと思った。
「どっちかっーと、お前よりムサシの話を聞きたいんだけど」
晃の言葉に、武はようやく片づいたおにぎりの包みを、くしゃりと丸める。
「無理に、起こせないよ。ムサシ、すごい怒るだろうし。責任取れる?」
「無理。まず口より先に手が出るし、俺の喧嘩拳法じゃ、聞きたいこと聞ける前に脳震盪起こす」
晃は、最後の一口を喉に詰まらせながら、おにぎりを片付けた。
武は、隣の席で朝ご飯のおにぎりを、かじりながら聞いていた。
今日も、昨日無茶した所為で、朝はかったるくギリギリまで布団でまどろんでいたところ。
掃除機を装備した、母親の襲撃に会った。
襲撃に来た母親が、弁当の他に、おにぎりを勝手に鞄に装備してくれたことはいい。
素直にありがとう、と言いたい。
武は、マンガのような顔と同じくらいのおにぎりを頬張りながら思う。
何でこんなに、デカいんだ…と。
マンガおにぎりは、具なしの塩むすびだ。
いや、塩むすびであることに、不満はない。
だから、何でこんなにデカいんだ…と。
「文句があんなら、くれよ」
晃は、察したように声をかける。
「半分な」
「それでいい」
「で、さっきの続き何だけど」
武は、おにぎりをくるむアルミごと、半分を割って晃に渡す。
具がなかったのが、幸いだ。
具なしのおにぎりを、二人してかじりつつ、武は本題に入った。
「佐竹山さん、ちゃんと帰ってた?」
「んなもん、確認できねぇよ。怖かったから、ソッコー帰った」
問いから、コンマ一秒で返ってきた答えに、武は唖然とし、おにぎりを落としかけた。
そして、間を空けて食べ掛けのおにぎりを机におくと、晃に向かった。
「そんな!頼んだじゃん!」
晃も負けじと、声を荒げる。おにぎりの安全は勿論確保した後だ。
「途中で、お化けに会ったんだぞ!?」
「そんなん、ただのちょっと愉快で、グロい幽霊じゃん!!」
「愉快で、ニヒルにグロい、説教好きな幽霊だったぜ!チクショウ!!」
端。と。
気がつくと、周りの視線が痛い。
朝の清々しい気分の教室をぶち壊しにした二人には、教室をたまたま通り過ぎるハズの幽霊ですら、視線を注いでいた。
「…」
「…」
二人は、無言でおにぎりを片づける作業に入った。
しばらくすれば、興味を無くしたのか、一人また一人と視線を向ける者が居なくなってくる。
「…いや、押しつけた僕が悪かったね。ごめん」
「いや、バイトあったんだろ」
ぽつぽつと、おにぎりを食べながら、言葉を交わす。
「肉まん、またおごるから」
「それより、そっちはどうなんだよ」
今度は、晃が本題に入ってきた。
昨日は、死体洗いのバイトの契約者と戦ったとか。解決してないから、本を預けるとか。
佐竹山が無事帰ったかの確認とか。コンビニで、ちらっとしか聞いてない。
武の返事は、やっぱり釈然としない答えだった。
「わかんないな。ムサシはあの後寝ちゃったのか、起きてこないしな…」
武は、目線を泳がせる。多分、本当にわからないんだろう。
武とムサシは、二重人格だ。
厳密には、武が「AB型は二重人格」と契約し、二つ目の人格が自分でムサシと名乗っている。
普通の二重人格と(リアルにお目にかかったことはないが)は、大分離れている気がするのは、もう一つの人格が「AB型は二重人格」という都市伝説から生まれた人格だからだろうか。もしくは、遊戯王の影響だと思う。
昔、都市伝説契約者は、契約形態を幾つかに、分類ができると聞いたことがある。
分離型、共生型、寄生型、召喚型…分けるなら、自分と同じ寄生型なのだろうか?
その点は、非常に微妙な存在であるような気がした。
ムサシは、武にトレーニングを課している。日々鍛錬を掲げる、ムサシらしい心情だ。
それは心情の問題だけではなく、武の外見を含め、ある程度までステータスがムサシに反映されてしまうのが理由だろう。
幼なじみの立場から言わせてもらえば、武の運動神経はすこぶる悪い。
なにもないところで、転ぶのは日常だし。小学校の時も、逆上がりが出来なくて毎日放課後まで粘っていたくらいだ。
太っているとか、筋肉がないとかではなく、多分運動の神経が、ぷっつんしているんだと思う。
幼なじみとしてはそう、思っておきたい。
その運動神経の悪さも、ムサシが現れてから、少しはマシになった。
気がするだけかもしれない。が、前より転ばなくなったし、前向きに捉えれば、受け身がとれるようになった。
しかし、ムサシが表に出ているときの、爆進力とは比べようがない。というか、あれは本当に人間ではない。
多分。武とムサシは、一つの本体で、中身のソフトを入れ替えてるようなもんなんだと思う。
本体には、ソフトのデータが残るやつ。PSPみたいな。
本体が他のソフトで、セーブデータ(記憶)を読みとろうとしても出来ない。
セーブデータがある、ってことしかわからない。
基本的にはそう。あくまで他者からの感想だ。
もう、てっとり早く、事件の当事者に聞いた方が早いと思った。
「どっちかっーと、お前よりムサシの話を聞きたいんだけど」
晃の言葉に、武はようやく片づいたおにぎりの包みを、くしゃりと丸める。
「無理に、起こせないよ。ムサシ、すごい怒るだろうし。責任取れる?」
「無理。まず口より先に手が出るし、俺の喧嘩拳法じゃ、聞きたいこと聞ける前に脳震盪起こす」
晃は、最後の一口を喉に詰まらせながら、おにぎりを片付けた。
結局、佐竹山さんは、学校に来なかった。
体調不良で休むと、保護者からキチンと連絡があったらしい。
隣のクラスのことなのに、佐竹山さんのテストの答案をゲットしてくるところ、晃はどんな交友関係でどんな手を使っているのか、友達があんまり居ない武にはわからなかった。
テストの返却という名目を引っさげ、僕らは放課後佐竹山さんの家に向かうことになった。
体調不良で休むと、保護者からキチンと連絡があったらしい。
隣のクラスのことなのに、佐竹山さんのテストの答案をゲットしてくるところ、晃はどんな交友関係でどんな手を使っているのか、友達があんまり居ない武にはわからなかった。
テストの返却という名目を引っさげ、僕らは放課後佐竹山さんの家に向かうことになった。
弐 了