プレダトリー・カウアード 日常編 14
「狩谷瑞樹だ。これからしばらく世話になる」
教壇から、姉ちゃんがクラスを――――いや、主に僕の方を向いて、語りかける。
唐突に登場した姉ちゃんに、いつも騒然としているクラスがさらにどよめきたった。
唐突に登場した姉ちゃんに、いつも騒然としているクラスがさらにどよめきたった。
「美人だ」
「ああ、美人だな」
「しかもオパーイがあるな」
「ああ、美人だな」
「しかもオパーイがあるな」
クラスで「三エロ」と呼ばれる男子からの寸評が入る。
一応言っておくと、姉ちゃんの見た目は綺麗だ。
男の平均を優に上回る身長はもとより、日ごろ鍛えているにもかかわらず磨り減る気配を見せない胸部の大きな塊はまさに圧巻。
ちょっと目つきはきついけれど、顔も「いい」部類に入るのだろう。
……ただし、それはあくまで「見た目」の場合に限る。
もし「内」も含めた総合的な判断を下すとなれば――――
一応言っておくと、姉ちゃんの見た目は綺麗だ。
男の平均を優に上回る身長はもとより、日ごろ鍛えているにもかかわらず磨り減る気配を見せない胸部の大きな塊はまさに圧巻。
ちょっと目つきはきついけれど、顔も「いい」部類に入るのだろう。
……ただし、それはあくまで「見た目」の場合に限る。
もし「内」も含めた総合的な判断を下すとなれば――――
「好きなものは弟。趣味は弟。将来の希望職業は弟の嫁だ!」
「残念美人だな」
「ああ、残念美人だな」
「だがオパーイはあるな」
「ああ、残念美人だな」
「だがオパーイはあるな」
――――とまぁ、こうなるわけで……。
……いや、三番目の人だけぶれてない? おお、凄いぞ、三番目の人!
……いや、三番目の人だけぶれてない? おお、凄いぞ、三番目の人!
「よーしお前ら、先生ホームルーム終わらせちゃうぞぉー」
姉ちゃんの自己紹介については特に言及せずに、担任が了を告げる。
結局佐藤君はその存在すら認知されなかった。憐れ。
担任は僕に一度だけ視線を向けてから、教室を後にした。
視線の色は憐憫。
僕が佐藤君を憐れむ一方で、担任は僕を憐れんでいたようだ。
結局佐藤君はその存在すら認知されなかった。憐れ。
担任は僕に一度だけ視線を向けてから、教室を後にした。
視線の色は憐憫。
僕が佐藤君を憐れむ一方で、担任は僕を憐れんでいたようだ。
本当なら、僕は教室を出た担任を追いたかった。
姉ちゃんの事について、出来る限り情報を集めておくべきだった。
けれど、僕の足は動かない。いや、動かせない。
――――だって、姉ちゃんが僕の元へと、歩いてきたのだから。
姉ちゃんの事について、出来る限り情報を集めておくべきだった。
けれど、僕の足は動かない。いや、動かせない。
――――だって、姉ちゃんが僕の元へと、歩いてきたのだから。
「オパーイのあるお姉様っ!! 今日から俺のことを義弟と呼んで下さいっ!!!」
「血のつながりを作ってから来い」
「血のつながりを作ってから来い」
姉ちゃんの進路を遮るようにして登場した三番目の人は、見事姉ちゃんに切り捨てられた。
というか姉ちゃん、それ医学的に無理だよ……。
というか姉ちゃん、それ医学的に無理だよ……。
「残念美人、歪みないな」
「ああ、歪みないな」
「くそぅ、やはり俺はこのクラスのペチャパーイどもを相手にしなければならないのか……」
「ああ、歪みないな」
「くそぅ、やはり俺はこのクラスのペチャパーイどもを相手にしなければならないのか……」
最後の発言に、クラスの女子がいきり立つ。
三番目の人 vs クラスの女子全員。
開戦するまでもなく結果が見えていた。
そんな分かりきった戦よりも、僕の目は姉ちゃんに固定されている。
三番目の人 vs クラスの女子全員。
開戦するまでもなく結果が見えていた。
そんな分かりきった戦よりも、僕の目は姉ちゃんに固定されている。
「どうしたー、弟よ。そんなに見つめられると、姉ちゃん照れるじゃないか」
ついに会話圏内にまで歩みを進めた姉ちゃんは、そんなことをのたまった。
至近での姉ちゃんの容姿に、日直さんがほうと眉を上げ、アリスちゃんにつねられている。
五十嵐君は柔和な顔を崩さない。何度か目撃しているだけあって、この程度では動揺しないらしい。
僕はといえば――――未だに現実が受け入れられていなかった。
至近での姉ちゃんの容姿に、日直さんがほうと眉を上げ、アリスちゃんにつねられている。
五十嵐君は柔和な顔を崩さない。何度か目撃しているだけあって、この程度では動揺しないらしい。
僕はといえば――――未だに現実が受け入れられていなかった。
「あの、姉ちゃん、大学は……?」
「有給休講だ」
「そんなのないし、有給だと給料が出る事になっちゃうよ……」
「じゃあ有単休講だな」
「有給休講だ」
「そんなのないし、有給だと給料が出る事になっちゃうよ……」
「じゃあ有単休講だな」
じゃあってなんだ、じゃあって。
「姉ちゃん教育実習的なものも兼ねて来てるんだぞー。すごいだろう」
「え、でも姉ちゃんが行ってるのってスポーツ科学部だよね」
「甘いな弟よ。体育教師というものがあってだな」
「……姉ちゃん体育の先生になるの? 初耳なんだけど」
「さっきも言っただろう。卒業後の進路はお嫁さんだ」
「え、でも姉ちゃんが行ってるのってスポーツ科学部だよね」
「甘いな弟よ。体育教師というものがあってだな」
「……姉ちゃん体育の先生になるの? 初耳なんだけど」
「さっきも言っただろう。卒業後の進路はお嫁さんだ」
そうだったね、僕忘れたかったよ……。
「で、でも、僕、働いてる女の人が好きかなー、なんて……」
「そうか。なら共働きだな」
「そうか。なら共働きだな」
結婚は動かないのね……。
もう駄目だ、もう駄目だよ天国のお父さん、お母さん。
僕一人じゃ姉ちゃんを抑えられそうにないよ……。
助けを求めて、五十嵐君へと目を向ける。
教室へ入ったときと同じような苦笑の後、五十嵐君が姉ちゃんへと言葉をかける。
もう駄目だ、もう駄目だよ天国のお父さん、お母さん。
僕一人じゃ姉ちゃんを抑えられそうにないよ……。
助けを求めて、五十嵐君へと目を向ける。
教室へ入ったときと同じような苦笑の後、五十嵐君が姉ちゃんへと言葉をかける。
「お久しぶりです、瑞樹さん。ご息災のようで何よりです」
「ん? …………ああ、禿坊主か」
「ん? …………ああ、禿坊主か」
姉ちゃんもご多分に漏れず、彼の事を「禿坊主」と呼んでいる。
「そうか。お前もこのクラスだったな」
「ええ、まぁ。それで瑞樹さん、普通教育実習は六月前後にするものでは?」
「強引にねじ込んだ」
「……普通は大学三年次に行うものだとも思いまずが」
「強引にねじ込んだ」
「…………なるほど」
「ええ、まぁ。それで瑞樹さん、普通教育実習は六月前後にするものでは?」
「強引にねじ込んだ」
「……普通は大学三年次に行うものだとも思いまずが」
「強引にねじ込んだ」
「…………なるほど」
ちらりと、五十嵐君がこちらを見た。
その目に浮んだのは、またしても憐憫。
先生だけでなく、どうやら五十嵐君にも憐れまれてしまったようだ。
その目に浮んだのは、またしても憐憫。
先生だけでなく、どうやら五十嵐君にも憐れまれてしまったようだ。
時計を見て、五十嵐君が再度口を開く。
「…………さて、そろそろ一時限目が始まりますが」
「あ、そうだよ姉ちゃん。体育の授業なら校庭か――――」
「いや、いい」
「あ、そうだよ姉ちゃん。体育の授業なら校庭か――――」
「いや、いい」
どん、と、僕の言葉を遮って、姉ちゃんが何かを僕の机の真横に置いた。
見れば、それは茶と灰色で構成された粗末な椅子。
僕らが使っているのと同じ、この学校のベーシックなものだ。
さっきまでは持っていなかったと思うんだけど、一体どこから出したんだろう……。
見れば、それは茶と灰色で構成された粗末な椅子。
僕らが使っているのと同じ、この学校のベーシックなものだ。
さっきまでは持っていなかったと思うんだけど、一体どこから出したんだろう……。
椅子の上に、姉ちゃんが座る。
その長い足を組んで、椅子に寄りかかった姿は中々に――――じゃなくて
その長い足を組んで、椅子に寄りかかった姿は中々に――――じゃなくて
「……何してるの?」
「見れば分かるだろう? 弟と一緒に、姉ちゃんも授業を受けるんだ」
「…………教育実習は?」
「いやなに、あの糞教授が『どうせなら高校の授業を受けなおしてきたらどうだね』なんて魅力的な提案をしてくれたものだからな」
「それ嫌味だと思うよ……」
「そうか? だが言質は取った。私はずっと弟の隣にいるぞ!」
「見れば分かるだろう? 弟と一緒に、姉ちゃんも授業を受けるんだ」
「…………教育実習は?」
「いやなに、あの糞教授が『どうせなら高校の授業を受けなおしてきたらどうだね』なんて魅力的な提案をしてくれたものだからな」
「それ嫌味だと思うよ……」
「そうか? だが言質は取った。私はずっと弟の隣にいるぞ!」
ふふんと得意げな顔をして、姉ちゃんが笑う。
時計を見れば、一時限目が始まるまで後四分。
今日の……いや、これからの学校生活は、疲れるものになりそうだった…………。
時計を見れば、一時限目が始まるまで後四分。
今日の……いや、これからの学校生活は、疲れるものになりそうだった…………。
【Continued...】