「た・・・だい、ま」
夏の祭典に無事参加を終え、両手に重たい戦利品を抱えて疲労困憊で帰宅した響を迎えたのは、彼の妹であり、担当黒服である桜の姿だった。
両親と、双子である響と桜の兄妹。
何不自由ない彼らの人生に変化が生じたのは、桜が剣道の大会に優勝したお祝いにと出かけた家族旅行。
山道のカーブで突如ブレーキが利かなくなり、対向車線のトラックに激突した。
両親は即死、後部座席にいた響と桜は重傷を負いながらも奇跡的に助かった。
夏の祭典に無事参加を終え、両手に重たい戦利品を抱えて疲労困憊で帰宅した響を迎えたのは、彼の妹であり、担当黒服である桜の姿だった。
両親と、双子である響と桜の兄妹。
何不自由ない彼らの人生に変化が生じたのは、桜が剣道の大会に優勝したお祝いにと出かけた家族旅行。
山道のカーブで突如ブレーキが利かなくなり、対向車線のトラックに激突した。
両親は即死、後部座席にいた響と桜は重傷を負いながらも奇跡的に助かった。
(父さんは?母さんは?桜はっ!?)
(響くん、落ち着いて聞いてね、ご両親は・・・)
(事故の影響で、妹さんの心臓は・・・)
(そんな!俺・・・僕達は両親を亡くしたばかりなんですよ!?)
(響くん、落ち着いて聞いてね、ご両親は・・・)
(事故の影響で、妹さんの心臓は・・・)
(そんな!俺・・・僕達は両親を亡くしたばかりなんですよ!?)
目を閉じれば今でも、遣り取りした医師の目つきまではっきり思い出せる。
二人が入院している間に両親は荼毘にふされ、遺体を見ることも出来なかった。両親の、形ある最後の姿を。
事故の後遺症で心臓を病んだ桜の容態は日毎に悪化し、天涯孤独となる事をいよいよ覚悟した、ある日のこと。
二人が入院している間に両親は荼毘にふされ、遺体を見ることも出来なかった。両親の、形ある最後の姿を。
事故の後遺症で心臓を病んだ桜の容態は日毎に悪化し、天涯孤独となる事をいよいよ覚悟した、ある日のこと。
「敷島響くんに、妹さんの桜さんですね」
その黒服はやって来た。
その黒服姿の男は自らを「組織」と呼ばれる機関の者であると名乗り、目的を彼らに明かした。
その黒服姿の男は自らを「組織」と呼ばれる機関の者であると名乗り、目的を彼らに明かした。
「君たちの両親は事故ではなく『都市伝説』に殺された」
「都市伝説」人の間で語り継がれる、人ならぬ存在。
彼らの両親を殺したのは「白いソアラ」と呼ばれるもの。
そういえば車種まではわからなかったが家の車は確かに白い車だったと彼の人生やら経験やら、とにかく想像すらした事がなかった様な話にぼんやり耳を傾けた。
彼らの両親を殺したのは「白いソアラ」と呼ばれるもの。
そういえば車種まではわからなかったが家の車は確かに白い車だったと彼の人生やら経験やら、とにかく想像すらした事がなかった様な話にぼんやり耳を傾けた。
「ご両親の、仇を討たないかね?」
口元だけを上げた、張り付けたような笑みを向けたまま二人を見つめる黒服。サングラスのレンズが室内の蛍光灯を反射する。
「勿論です!・・・響も、やるよね?」
おい桜、と言いかけたその時。
「お待ちなさいな」
いつの間にか窓際に、一人の少女が腰掛けていた。
「ο(オウ)-3ですか、いや、貴女の様な上位メンバーがわざわざこの様な処まで・・・」
張り付いた愛想笑いのままで男が少女を振り返る。
「いくら両親の仇討ちとはいえ、子供を『過激派』入りは感心できないわねぇ?」
お前だって子供だろ、とは言わせない迫力がその少女にはあった。
張り付いた愛想笑いのままで男が少女を振り返る。
「いくら両親の仇討ちとはいえ、子供を『過激派』入りは感心できないわねぇ?」
お前だって子供だろ、とは言わせない迫力がその少女にはあった。
「その二人、うちで預かるわ」
「お断り申し上げます・・・と言ったら、A-No.とο-No.で戦争勃発ですか、女王様?」
揶揄するような物言いにも少女は動じる事はない。少女の手元で何かが閃いた。
「戦争・・・笑わせないで?こうなるだけよ!」
ごがっと鈍い音がして。
二匹の蛇の意匠をあしらった杖でぶん殴られた黒服は伸び、そのままこの少女「桐生院るり」に拉致同然で退院させられた。
あの杖はただ相手に触れるだけで眠らせられる代物だという事、黒服を殴ったのは単なる私怨だという事を響たちが知ったのは、もう暫く後。
二匹の蛇の意匠をあしらった杖でぶん殴られた黒服は伸び、そのままこの少女「桐生院るり」に拉致同然で退院させられた。
あの杖はただ相手に触れるだけで眠らせられる代物だという事、黒服を殴ったのは単なる私怨だという事を響たちが知ったのは、もう暫く後。
選びなさいと差し出された何枚かの都市伝説契約書。
相性もあるからあまり考えずにピンと来たものを、とは言われた。
(どれもピンとこねーよ)
とりあえず全部裏返して目を閉じ、えいっと一枚引っこ抜く。
「『小さいおっさん』?なんだこりゃ」
「小さいおじさんの姿をした、妖精みたいなものね」
なんだそりゃと響はいささか凹む。大体「組織」やら契約やらに乗り気なのは桜だけで、響はなんとも返事をしていない。
「嫌なら止めてもよくてよ?その代わり、組織の存在を一般人に知られるわけにいかないから」
びしっ、と杖の先を突きつけられ
「『組織』の事も、都市伝説の事も、『組織』入りする妹の事も。全部忘れてもらうわ」
都市伝説やら組織やらはともかく、桜との記憶を人質に取られては、響には従うしか方法がなかった。
相性もあるからあまり考えずにピンと来たものを、とは言われた。
(どれもピンとこねーよ)
とりあえず全部裏返して目を閉じ、えいっと一枚引っこ抜く。
「『小さいおっさん』?なんだこりゃ」
「小さいおじさんの姿をした、妖精みたいなものね」
なんだそりゃと響はいささか凹む。大体「組織」やら契約やらに乗り気なのは桜だけで、響はなんとも返事をしていない。
「嫌なら止めてもよくてよ?その代わり、組織の存在を一般人に知られるわけにいかないから」
びしっ、と杖の先を突きつけられ
「『組織』の事も、都市伝説の事も、『組織』入りする妹の事も。全部忘れてもらうわ」
都市伝説やら組織やらはともかく、桜との記憶を人質に取られては、響には従うしか方法がなかった。
「桜、お前は何にした?」
「あたし、この「七星剣」にする!」
契約書兼説明書を見ると、「破邪や鎮護の力を宿す剣。契約者の技量によっては都市伝説に絶大な威力を発揮する」とある。
「お前には似合うんじゃねえの」
頷いて紙をぺらっと返す。なるほど剣道の上手い桜には相応しい気がした。
「あたし、この「七星剣」にする!」
契約書兼説明書を見ると、「破邪や鎮護の力を宿す剣。契約者の技量によっては都市伝説に絶大な威力を発揮する」とある。
「お前には似合うんじゃねえの」
頷いて紙をぺらっと返す。なるほど剣道の上手い桜には相応しい気がした。
だが、契約を交わしたその瞬間、桜は意識を失った。
「桜!?」
「敷島桜」を造っていた要素が解け、輪郭が光となって弾け―再び構成された「敷島桜」は「組織の黒服」として七星剣に飲まれていた。
「桜、さくらっ!!」
「桜!?」
「敷島桜」を造っていた要素が解け、輪郭が光となって弾け―再び構成された「敷島桜」は「組織の黒服」として七星剣に飲まれていた。
「桜、さくらっ!!」
ほどなく意識を取り戻した桜は、人間だった頃の記憶を失っていた。
都市伝説に飲まれた人間としては珍しくない現象だが、そのことによって大して考えていなかった「白いソアラ」への復讐の火が彼の胸に灯った。
都市伝説に飲まれた人間としては珍しくない現象だが、そのことによって大して考えていなかった「白いソアラ」への復讐の火が彼の胸に灯った。
両親を失っても、まだ自分は孤独ではないと思っていた。
けれど桜の記憶が失われたことで、家族の記憶は彼ひとりのものとなった。
けれど桜の記憶が失われたことで、家族の記憶は彼ひとりのものとなった。
(『白いソアラ』を見つけてぶっ潰す。桜の記憶も取り返す)