「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 怪奇チャンネル-三回線参

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コツコツと、ドアをノックする音が室内に響く。
「いいわよ、入って。今は、対したことしてないから」
冴は、万年筆を走らせながら、ドアの向こうに居る明深に声をかけた。
明深は入ってくるなり、眉をしかめて小言を言う。いつもの恒例行事だ。
「また、魔方陣ですか」
「そう。まぁ、気晴らしよね」
縦、横、斜め全ての和が同じになった数字を使ったパズルを幾通りも書き込んだ何十枚もの紙の真ん中で、部屋の主はまた一枚の数字の詰まった箱をひらりと床に落とした。
着替えたのか、部屋を訪れたときとは違う服装の冴は、周りに散らばる数字列と共に見ると、何やら儀式めいて見える。
内巻きの黒髪が、赤いカーディガンの上を流れている。白いシャツの首元で、きちりと結ばれたリボンタイは、その服の主の性格を表している様で。黒いベルベットのスカートから延びた足は、色気のない怪獣のスリッパを履いていた。
ゴジラのスリッパで、現実に引き戻された明深は散らかった紙を纏めながら言う。
「気晴らしにしては、派手にやりましたね」
明深は、縦横が十二桁の魔方陣を見つけると、苦笑いした。
「よくもま、こんな難解な式を自分に出しますね」
明深は、思う。こういうところは、兄妹まんま一緒だ。
拓磨もよく小難しい数式を自分で建てて、自分で唸っていた。
すぐに解ける簡単なものに、すればいいのに何時間だって自分の出した問いに挑んでいる。
それが、数学者が長年悩んできた解でもだ。
ふと、明深はオカルト的な観点から、冴に聞いた。
「魔方陣は、"鍵を掛ける"という点で、今でも需要あるんですか?」
「需要か…。あるんじゃないのかしら?数字と魔法は、切っても切り離せないし。古典適法方だけど、魔方陣で鍵つけちゃえば、門番も必要ないし。頭良い人だったら、解いちゃうかも知れないけど。簡単に解ける法式を、構築した方が悪いのよ」
紙の上に走らせていた万年筆の動きを止めると、冴えはふぅと息をつく。
説教臭くなってイヤだな…。誰に似たんだろ。
頭の片隅から浮かぶ、父親の顔に心の底がズキリと痛む。
冴は、万年筆のキャップを閉め、散らばした紙を片付け始めた。
「冴様、もう良いんですか?」
「良い。頭も、よく冷えたし。それに、これはウチの家系では、"気の調整"の意味もあるの。数字に向き合ってるのが、好きな家系だからね」
「そうだ、調整」
冴は今の一言で、しまった。と、息を吐く。明深は、静かにまくし立てて来た。
「お加減はどうですか?何で、こう言うときに限って、式を一匹もつれて歩かないんですか?何ですぐ、オレを呼んでくれないんですか?今、その格好で寒くないですか?紅茶、飲まれます?」
「今はもう元気、あいがとう。学校に行くだけのつもりだった。だって、もう明深は自分の家に帰っている時間だったでしょ。今日は暖かいから、寒くない。飲みたい、煎れてください。レモンで」
冴の回答に、ため息を混じらせながら明深は立ち上がり、自分が纏めた紙を机の上に置く。
「あんまり無茶しないでください。私が、拓磨に殴られる」
「本気で、避けちゃえば?」
「初撃のグーパンかわしたら、次は何が出てくるか」
ガクブルしながら、ドアに向かう明深。
冴が、机の上に筆記用具を戻すと、「あ、そうだ」と声を掛けてくる。
「そう言えば、手紙出してきましたよ。テレビの懸賞か何かですか?」
「うん…、まぁ。そんなとこね」
冴は、言葉を濁した。都市伝説に関わっていることは、明深は勿論、兄も知っている。
黙っているのは、自分も"都市伝説と契約した契約者"だと言うこと。
そんなことが知れたら、血相を変えた兄がここに飛び込んで来て、計画は台無しになる。
ここは、父が死んだ町。学校町。
父は此処で、"魂を抜かれ"死んでいた。
人は死んでしばらくは、体と魂を繋いでいる。それが、徐々に断ち切れるか、すっぱりと無くなるかは、その人間の信じるもの(例えば宗教とか)により変わってくる。
父の死に様は、外見だけなら発作的な死。見えるものには、異様な光景。
何らかの犯罪が起きた現場だと、知らしめるものがあった。
父の魂は、食い千切られ、吸い取られ、無残に食い散らかされた後だった。
残骸からは、父の持つ霊力と共に、魂はどこかに持ち去られた可能性を見せていた。
見えるものには、事件性があっても。見えないものには、単なる死。
否、見えるものも、見えないふりをしただろう。元々、見えてはならぬものも見えてしまうことが多い彼らは、シカトすることにも長けていた。
そのくらい凄惨な死に様だったのだ。佐竹山 義重(サタケヤマ ヨシシゲ)という陰陽師の死に方は。
父の亡骸を見たときのことを思い出すと、冴は震えた。
明深は、それを見て察するものがあったのか。冴の前に、しゃがみこんだ。
「紅茶、砂糖はいくつ入れます?」
屈託のない笑顔で、明深は微笑みかけた。
「…」
それから数秒経って、ようやく冴の眼に光が戻る。
「…、ストレートっていつも言ってるじゃない」
「そうでしたね。すぐ、煎れますから」
すく、と立ち上がると明深は、また「あ」と思い出したように言う。
「それと下で、こんなん捕まえたんですよ」
固く結ばれたスーパーの小さな袋を、見せる明深。
冴は、盛大に嫌な予感がした。
明深は、ある程度見えるが、怪異に嫌われる性質を持った人間である。嫌われると言うより、撥ね付けるの方が正しいかもしれない。
だからこそ、兄の拓磨は明深を、自分の護衛につけたんだと思う。
友達に妹の護衛を押し付けるなんて、正気じゃない。というか、明深の人権はドコ!?
とかなったが、当の本人も乗り気だったので、わざわざ隣町の実家から通って頂いている。
兄妹揃って昔からの付き合いってのが一番。兄が二人いるみたいなもんだと思う。
正反対の兄が二人。それなりに楽しくやってきたつもりだが、思うところは、明深には勿論、実兄にも聞けていない。
そして、そのながーい付き合いが、アレはロクでもないものを拾ってきたと弾き出したのだ。
「今見せますねー」
「や、やめ!!」
明深が封を切った瞬間、何かが部屋を横切り、跳弾のごとく部屋を飛び交った。
その羽音しか聞こえない何かを、明深は両手でパクンと捕まえたのだ。
「…それ、そうやって捕まえたの?」
「え、普通じゃないですか?ほら、見ます?空飛ぶシラス」
「見ない。今すぐ、逃がしてきて」

ここは学校町。スカイフィッシュも飛び交う怪奇の町…。



参 了

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