四-三
明深さんが借りてくれた場所は、地元で古い、何か出ると評判の公民館だった。
公民館には、広くて寂れた道場と、いくつかのホールがある。そのそれぞれに、様様なお化けが出るとの噂だった。
そんな曰く付きの、施設がまだ残っているのか。立て直す気がない、市が悪い。
さして気にせず、使い続ける市民の慣れも悪いと思う。
小学生の頃、地区でお遊びの集まりをした時、近所の子供には見えて、自分には見えない何かがいた。
そして、一部にトラウマを残した何かは、良くわからない文様の描かれた札を用意した冴さんによって速攻で払われていた。
「よし。簡易だけど結界を張ったわ。破れるまで、暴れないでよ」
簡単に結界を張ったとか言われても、いまいち実感もない。道場の隅に巣くう良くわからないものが取り除かれたのも、そんな気がしただけかもしれない。
というか、冴さんは一体、何者なんだ?
考えを読まれたのか、明深が袋に入った長物で、頭を小突いてきた。
「余計な詮索をするな」
明深は、持っていた長物とアタッシュケースを部屋の隅に持っていく。
冴と武も、後をついていき、私物をそこに置いた。
「今日の装備は?また、スプーン?」
冴さんは、ちょっとイヤな笑いを浮かべていた。
が、気にしないことにする。
今日はここで、気にしたら負けな気がする。ようやく出来た像が完成目前で、色を間違えて塗ったような気分になる。
「今日は、これでいこうかと思って」
武がスクールバックから出した長物に、冴は思わずその名前を口にした。
「定規…」
部屋の隅で、明深さんがため息をついていたが、気がついていないことにする。
この借りは、ムサシに返してもらうことにした。
冴さんは、取り出した二本の定規をしみじみ見ると聞いてきた。
「何で竹と、ステンレスがあるの?」
「気の通りがどう違うのか、確かめたくて」
「やっぱり違うの?」
「スプーンとかフォークとか短い方が、早いよ。早いけど消耗も早いかな」
「ふぅん…」
得意げに話す武を、冴は冷静に観察した。
その視線を、変に湾曲して解釈した二人。
二人のうちの、片方。明深が、冴に声を掛ける。
「冴様、私は素手の方がいいのでは?」
「いえ、どうせやるならムサシにぎゃふんと言わせてやりたいの。私自身がやれたら、最高なんだけどね。あの子、オカルト系には馬鹿みたいに強い。それだけは、認めるわ」
冴は、明深に対してにこりと笑いかけながら言った。
「だから、最初は"虎口"を出しましょう」
「…飛ばしますね」
明深は、何を反論するでもなくアタッシュケースに手を掛けた。
公民館には、広くて寂れた道場と、いくつかのホールがある。そのそれぞれに、様様なお化けが出るとの噂だった。
そんな曰く付きの、施設がまだ残っているのか。立て直す気がない、市が悪い。
さして気にせず、使い続ける市民の慣れも悪いと思う。
小学生の頃、地区でお遊びの集まりをした時、近所の子供には見えて、自分には見えない何かがいた。
そして、一部にトラウマを残した何かは、良くわからない文様の描かれた札を用意した冴さんによって速攻で払われていた。
「よし。簡易だけど結界を張ったわ。破れるまで、暴れないでよ」
簡単に結界を張ったとか言われても、いまいち実感もない。道場の隅に巣くう良くわからないものが取り除かれたのも、そんな気がしただけかもしれない。
というか、冴さんは一体、何者なんだ?
考えを読まれたのか、明深が袋に入った長物で、頭を小突いてきた。
「余計な詮索をするな」
明深は、持っていた長物とアタッシュケースを部屋の隅に持っていく。
冴と武も、後をついていき、私物をそこに置いた。
「今日の装備は?また、スプーン?」
冴さんは、ちょっとイヤな笑いを浮かべていた。
が、気にしないことにする。
今日はここで、気にしたら負けな気がする。ようやく出来た像が完成目前で、色を間違えて塗ったような気分になる。
「今日は、これでいこうかと思って」
武がスクールバックから出した長物に、冴は思わずその名前を口にした。
「定規…」
部屋の隅で、明深さんがため息をついていたが、気がついていないことにする。
この借りは、ムサシに返してもらうことにした。
冴さんは、取り出した二本の定規をしみじみ見ると聞いてきた。
「何で竹と、ステンレスがあるの?」
「気の通りがどう違うのか、確かめたくて」
「やっぱり違うの?」
「スプーンとかフォークとか短い方が、早いよ。早いけど消耗も早いかな」
「ふぅん…」
得意げに話す武を、冴は冷静に観察した。
その視線を、変に湾曲して解釈した二人。
二人のうちの、片方。明深が、冴に声を掛ける。
「冴様、私は素手の方がいいのでは?」
「いえ、どうせやるならムサシにぎゃふんと言わせてやりたいの。私自身がやれたら、最高なんだけどね。あの子、オカルト系には馬鹿みたいに強い。それだけは、認めるわ」
冴は、明深に対してにこりと笑いかけながら言った。
「だから、最初は"虎口"を出しましょう」
「…飛ばしますね」
明深は、何を反論するでもなくアタッシュケースに手を掛けた。
*
それは異様な光景だった。
決闘上に立つは、学生服姿の男子。手に取るエモノは、長さ50センチの定規。
持ち手には、テーピングが巻きつけられているが、どう見たって武器ではない。
対峙する人間もまた異様で。身にした服は、執事を思わせる赤シャツに黒のベスト。何故かズボンは、黒の皮のズボンで。
衣装に似合わぬエモノは、両手にはめられた篭手。
篭手は、これまた不釣合いなくらい古めかしく芸術的な、虎が牙を向く瞬間を模したものだった。
その二人の間に立つ女性は、ただの審判で決闘の景品ではなかった。
「じゃあ、初めっていったら初めてね」
少し離れたところで、二人の間に立った冴は、二人に声を掛ける。
対峙した敵と敵。決闘前の微量な沈黙の中、先に口を開いたのは明深だった。
「武君、二つハンデをあげるから。是非言うことを聞いて欲しい」
呼びかけられた武は、顔を上げる。道場に上がる際、靴を脱いでしまったので、ついでに靴下も脱いでしまおうか考えている途中だった。
「一つ、始まる前に人格を入れ替えろ。もう一つ、武器に気を通していい」
明深の視線は、冷ややかだった。
舞台に上がったのは、あくまで主の命であって、これは茶番に過ぎないと。
むしろ、茶を出すまでもなく。いきなり、ぶぶ漬け食って帰れって勢い。
温厚のフリをした、事なかれ主義の武でもコレには腹が立った。
腹の底で熱くなったのは、ムサシと同時だった。
武は、自分が思うより熱く、その言葉を突っぱねた。
「…遠慮します」
「良いのかい?」
「僕はあなたの力量を知らないのに、ハンデなんか入りません」
「次からは、そうするといいよ」
力量の差を魅せるのに言葉は要らぬと、目の前の武人は敵前で目を伏せた。
「では。…初めっ!」
冴が、スタートの合図に腕を振り上げてすぐ、武はムサシを呼び起こす。
入れ替わったムサシが、感じたのは今までにない程、絶望的な敗北の臭い。
視界に飛び込んで来たのは、獰猛な虎の篭手。
明深の指先が届く寸でで、ムサシは気を通していないただの定規でガードに周る。
バキンーーー。
音を立てて砕け散った、竹の定規がスローモーションで四散し、間から牙が延びる。
言うなれば、虎が瞬時に獲物の息の根を止めるように、喉笛に食らいつかれ床に叩きつけられた。
「が、はっ!!」
息の固まりが喉で詰まり、僅かに口に残った空気を音に変換する。
「そこまで!!!」
冴の声に、明深は体を起こし、放心状態のムサシを引き上げた。
「だから、言っただろうに」
先刻より、更に冷ややかな目線。
今までにない屈辱。
冴の声も届かない。
外界の全てが、麻痺して自分の心臓だけが正しく、嫌に早く、鼓動打っている。
―俺が負けた?負けた?
―負けた?
―まさか、嘘だ。あり得ない。
―どうして。
―どうして、なんだ。
―宮本武蔵は、無敗のハズだろう!?
「ガァアアア!!!!」
ムサシの心が弾ける。
筋肉は、脳からの電気信号で火花を散らし。喉元から出る雄叫びは、この世の元とは思えない。
外界の全てが遮断された身の内で、ムサシは獣と化した。
否。獣ではない。
元より、都市伝説という人智を超えた何かだったのだ。
化け物。鬼。
そういった表記の方が正しいかもしれない。
人の皮を被った何かは、本来の何かに戻りつつあった。
変貌の中で、ムサシはただ確実に、眼前の敵を殺そうとした。
人でも都市伝説でも何でも良い。
目の前の敵に、敗北という名の死を。
だが、ムサシの持つ折れた竹が、明深に届くことはなかった。
「破邪顕正」
明深が紡いだ単語に、籠手が呼応する。
烈火の如く、迸る紅い気を流し込まれた篭手が、単なる道具を越え、魔具に変質する。
魔具は、"虎口"の名の通り虎に変質し。虎はその鋭い牙を剥き、折れた竹を元の形などわからぬよう粉砕し、ムサシの腕を裂いた。
武の腕は現実には、切り裂かれていない。
それは、ムサシと武の。都市伝説と契約者の繋がりを、腕のみ断絶した形となった。
しかし、それは都市伝説契約者には、肉を切られたも同じ。
特に、ムサシと武の様な心体の繋がりの深い契約者には、実の腕を切り裂かれたも同然だった。
「う!あぁああああああ!!」
ムサシは、床の上で悶え苦しむ。
血の出ていない腕は、ドロドロと気を垂れ流し、気を通す脈は崩壊し、丹田は行き場をなくした気を抑えられずにいた。
片腕を押さえつける姿は、金の髪と黒の髪が入り交じり、眼も赤と黒に濁り混じっていた。
「明深!!やりすぎでしょう!!」
冴は、ムサシに駆け寄り、腕を押さえる。
「大丈夫!?しっかりしなさい!!」
ムサシの片手を上から握り締め、ガクガクと痙攣する腕を片手で押さえつけ。頭から冷水をぶっ掛けたように、クリアな思考を巡らせる。
記憶から、鎮めと、霊脈を通す言を選び出し、それをごく短く要点を纏め構築し紡ぎ出す。
「彼のものに。
此処は、水月の水面。月の形を誰が歪めようか。此は、鏡月。月の形を誰が歪められようか。
道は、帰路か行路か。道を通すは、我。陽の光と、陽の造りし影を羅針盤に。歩は、止まる。道を造りしは、我。
彼のものに」
錬気の術を施すと、次第に腕の痙攣は治まり、髪の色が金色に染まっていく。
眼を開いた瞬間、ムサシは冴を振りほどき、明深に飛び掛った。
「諦めが悪いな」
今度は気も通すこともしなかったのか、鋼鉄で固められた拳が腹を撃ち抜いてくる。
床に再び落ちたムサシに背を向け、明深は部屋の隅に置いてあった長物の包みを開ける。
「私の本当のエモノは、これだ」
ムサシは、目を見開いた。
痛みや、悔しさではない。ただそれが、余りに武器として名高く圧倒的な武器だったからだ。
大千鳥十文字槍。
千鳥が羽ばたく姿を象った十文字の槍は、戦国の頃、幾多の武人達が使っていた姿と相違なく。
また、朱色に胴を塗られた槍は、多くの首級を上げた者にしか使うことを許されない特別な物だった。
ムサシの偏った知識から算出すれば、あの武器の持つ謂れは判断できる。
問題は、そこではない。
ムサシの眼からすれば、あの槍は何十人、何百人の血を浴びた因果を持つ妖刀である。
「今の君に、この朱槍を越え、私の間合いに入り込む技量は無い」
ムサシは、敗北を認めざる終えなかった。
武器として研ぎ澄まされたそれを、あの人間は事もなく手にしているのだ。
勿論、先のダメージもある。
それ以前に、レベルの雲泥の差は、今この場で詰めようがなかった。
「帰る」
これで戦場なら、死人である。
ムサシは、蟠りを抱えながら、敗走した。
決闘上に立つは、学生服姿の男子。手に取るエモノは、長さ50センチの定規。
持ち手には、テーピングが巻きつけられているが、どう見たって武器ではない。
対峙する人間もまた異様で。身にした服は、執事を思わせる赤シャツに黒のベスト。何故かズボンは、黒の皮のズボンで。
衣装に似合わぬエモノは、両手にはめられた篭手。
篭手は、これまた不釣合いなくらい古めかしく芸術的な、虎が牙を向く瞬間を模したものだった。
その二人の間に立つ女性は、ただの審判で決闘の景品ではなかった。
「じゃあ、初めっていったら初めてね」
少し離れたところで、二人の間に立った冴は、二人に声を掛ける。
対峙した敵と敵。決闘前の微量な沈黙の中、先に口を開いたのは明深だった。
「武君、二つハンデをあげるから。是非言うことを聞いて欲しい」
呼びかけられた武は、顔を上げる。道場に上がる際、靴を脱いでしまったので、ついでに靴下も脱いでしまおうか考えている途中だった。
「一つ、始まる前に人格を入れ替えろ。もう一つ、武器に気を通していい」
明深の視線は、冷ややかだった。
舞台に上がったのは、あくまで主の命であって、これは茶番に過ぎないと。
むしろ、茶を出すまでもなく。いきなり、ぶぶ漬け食って帰れって勢い。
温厚のフリをした、事なかれ主義の武でもコレには腹が立った。
腹の底で熱くなったのは、ムサシと同時だった。
武は、自分が思うより熱く、その言葉を突っぱねた。
「…遠慮します」
「良いのかい?」
「僕はあなたの力量を知らないのに、ハンデなんか入りません」
「次からは、そうするといいよ」
力量の差を魅せるのに言葉は要らぬと、目の前の武人は敵前で目を伏せた。
「では。…初めっ!」
冴が、スタートの合図に腕を振り上げてすぐ、武はムサシを呼び起こす。
入れ替わったムサシが、感じたのは今までにない程、絶望的な敗北の臭い。
視界に飛び込んで来たのは、獰猛な虎の篭手。
明深の指先が届く寸でで、ムサシは気を通していないただの定規でガードに周る。
バキンーーー。
音を立てて砕け散った、竹の定規がスローモーションで四散し、間から牙が延びる。
言うなれば、虎が瞬時に獲物の息の根を止めるように、喉笛に食らいつかれ床に叩きつけられた。
「が、はっ!!」
息の固まりが喉で詰まり、僅かに口に残った空気を音に変換する。
「そこまで!!!」
冴の声に、明深は体を起こし、放心状態のムサシを引き上げた。
「だから、言っただろうに」
先刻より、更に冷ややかな目線。
今までにない屈辱。
冴の声も届かない。
外界の全てが、麻痺して自分の心臓だけが正しく、嫌に早く、鼓動打っている。
―俺が負けた?負けた?
―負けた?
―まさか、嘘だ。あり得ない。
―どうして。
―どうして、なんだ。
―宮本武蔵は、無敗のハズだろう!?
「ガァアアア!!!!」
ムサシの心が弾ける。
筋肉は、脳からの電気信号で火花を散らし。喉元から出る雄叫びは、この世の元とは思えない。
外界の全てが遮断された身の内で、ムサシは獣と化した。
否。獣ではない。
元より、都市伝説という人智を超えた何かだったのだ。
化け物。鬼。
そういった表記の方が正しいかもしれない。
人の皮を被った何かは、本来の何かに戻りつつあった。
変貌の中で、ムサシはただ確実に、眼前の敵を殺そうとした。
人でも都市伝説でも何でも良い。
目の前の敵に、敗北という名の死を。
だが、ムサシの持つ折れた竹が、明深に届くことはなかった。
「破邪顕正」
明深が紡いだ単語に、籠手が呼応する。
烈火の如く、迸る紅い気を流し込まれた篭手が、単なる道具を越え、魔具に変質する。
魔具は、"虎口"の名の通り虎に変質し。虎はその鋭い牙を剥き、折れた竹を元の形などわからぬよう粉砕し、ムサシの腕を裂いた。
武の腕は現実には、切り裂かれていない。
それは、ムサシと武の。都市伝説と契約者の繋がりを、腕のみ断絶した形となった。
しかし、それは都市伝説契約者には、肉を切られたも同じ。
特に、ムサシと武の様な心体の繋がりの深い契約者には、実の腕を切り裂かれたも同然だった。
「う!あぁああああああ!!」
ムサシは、床の上で悶え苦しむ。
血の出ていない腕は、ドロドロと気を垂れ流し、気を通す脈は崩壊し、丹田は行き場をなくした気を抑えられずにいた。
片腕を押さえつける姿は、金の髪と黒の髪が入り交じり、眼も赤と黒に濁り混じっていた。
「明深!!やりすぎでしょう!!」
冴は、ムサシに駆け寄り、腕を押さえる。
「大丈夫!?しっかりしなさい!!」
ムサシの片手を上から握り締め、ガクガクと痙攣する腕を片手で押さえつけ。頭から冷水をぶっ掛けたように、クリアな思考を巡らせる。
記憶から、鎮めと、霊脈を通す言を選び出し、それをごく短く要点を纏め構築し紡ぎ出す。
「彼のものに。
此処は、水月の水面。月の形を誰が歪めようか。此は、鏡月。月の形を誰が歪められようか。
道は、帰路か行路か。道を通すは、我。陽の光と、陽の造りし影を羅針盤に。歩は、止まる。道を造りしは、我。
彼のものに」
錬気の術を施すと、次第に腕の痙攣は治まり、髪の色が金色に染まっていく。
眼を開いた瞬間、ムサシは冴を振りほどき、明深に飛び掛った。
「諦めが悪いな」
今度は気も通すこともしなかったのか、鋼鉄で固められた拳が腹を撃ち抜いてくる。
床に再び落ちたムサシに背を向け、明深は部屋の隅に置いてあった長物の包みを開ける。
「私の本当のエモノは、これだ」
ムサシは、目を見開いた。
痛みや、悔しさではない。ただそれが、余りに武器として名高く圧倒的な武器だったからだ。
大千鳥十文字槍。
千鳥が羽ばたく姿を象った十文字の槍は、戦国の頃、幾多の武人達が使っていた姿と相違なく。
また、朱色に胴を塗られた槍は、多くの首級を上げた者にしか使うことを許されない特別な物だった。
ムサシの偏った知識から算出すれば、あの武器の持つ謂れは判断できる。
問題は、そこではない。
ムサシの眼からすれば、あの槍は何十人、何百人の血を浴びた因果を持つ妖刀である。
「今の君に、この朱槍を越え、私の間合いに入り込む技量は無い」
ムサシは、敗北を認めざる終えなかった。
武器として研ぎ澄まされたそれを、あの人間は事もなく手にしているのだ。
勿論、先のダメージもある。
それ以前に、レベルの雲泥の差は、今この場で詰めようがなかった。
「帰る」
これで戦場なら、死人である。
ムサシは、蟠りを抱えながら、敗走した。
四-3 了