「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 怪奇チャンネル-三回線四-4

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参回戦 四-四

気がつくと、武は鞄をあの場所に置いて来ていた。
どうでもいい。そんなこと。
身の内に深く沈んだムサシは、武の呼びかけに応じない。
ムサシが負けた。
それがただただ信じられなくて。悔しくて。悲しくて。
いつの間にか、落ちていた夜の帳に、家々のライトがつくけれど。町の明かりは、何時までもぼやけたままだった。
武とムサシの絆は深い。文字通り、一心同体だった。
それは、契約でもありながら、自分に現れる都市伝説という変化を固体として認め、共に叱咤激励しあう。
友達のような感覚だと、武は思っていた。
だから、共に笑い。泣き。最強を目指す仲間に、体を貸していた。
武は今の今まで忘れていたのだ。
どういう条件化で、自分が都市伝説と契約したのかを。
自宅の明かりを前に、腕で顔を擦り、玄関に上がる。
鍵は開いていた。
「ただいま」
「おかえりー、遅かったね。夕ご飯は、」
母親はこういうときに限って、玄関先まで出迎えてくれる。
武は、足元だけを見て靴を履き替えた。
母親の足先が、こちらを向いて止まる。
具合の悪い予感がした。
「…たけちゃん、誰かと喧嘩したでしょ」
「…。…してないよ」
精一杯だった。
自分がどんな顔をしているのか、考えたくもない。
早く自室に籠もって、ムサシと話し合いたい。
武は脇をすり抜けようとするも、母親が赤毛を揺らし道を阻んできた。
いつのまにか追い越していた目線が、見つめてくる。
止めろ。
「嘘、したでしょ」
止めろ。
「してない」
止めろ。
「した」
止めろ止めろ止めろ止めろ止めてくれ!!!
「してないって言ってるだろ!!」
上がろうとした腕が上がらない。
今の自分の顔は、どんな顔なのだろうか。
考えたくもない。
目の前に陣取っていた母親は、怯えた顔で自分の体を抱いていた。
「ご、ごめん…なさい」
武の脳内で、思い出したくない記憶が渦を巻く。
それは渦を巻いたまま、再生されない。
決して再生されることはない。
それが武とムサシの契約だった。
「たけちゃん…」
足早に過ぎ去った後ろで、母親は泣きだしそうな声で名前を呼んだ。


ドアを閉め、電気をつける。
ゲームや雑誌で乱雑とした世界の向こう。
開けっ放しのカーテンを越え、窓ガラスの向こうの世界に、自分と同じ顔をした金髪の少年が立っていた。
「………ムサシ」
武は、ムサシに呼びかける。
ムサシは、壁の方を向いてしまい顔色を窺うことは出来ない。
「…僕また、母さんを殴ってしまいそうだった」
"また"と言ったが、"また"というには、実感がない。
さっき腕を止めたのは、ムサシだ。
武は、自分が心底嫌な人間に思えていたが、窓の向こうのムサシは、何も言わない。
そういう条件を交わした上での契約だった。
三年前、ぽっと出て沸いた人格。
影の中。意識の底。浮かんでは消える、自分ではない誰か。
悔やむ過去を抱えながら、それでも誰かを何かを傷つけ、壊していた。
それがいきなり掻き消えて、変わりに自分の中でもう一つの自我が生まれていた。
そして、武は完全に人が変わっていた。
暴力を振るうだけの手は無くなり、罵声だけを放つ口は無くなり、人を蹴り飛ばすだけの足は無くした。
もう一つの自我にビックリはしたが、彼のお陰で人が変われたのだ。
自我は、その内に自分は「ムサシ」だと名乗った。
結論を言えば、武はムサシに過去の記憶を押し付け。ムサシは武に、最強になるために体を貸せといった。
その契約は、今も続いている。
何時終わるかなんて考えなかった。この関係がずっと続くと思っていた。
それは、単なる世迷言だった。
「………なぁ、ムサシ」
「何だよ!シツコいな!」
ガラスの向こうで、ムサシは怒鳴る。
良かった反応してくれた。
武はムサシを目の前に、ムサシが言われたくないことを言うために身を固くした。
「明深さん、強かったね。オマエよりも」
ムサシの眼が、見開かれ強い視線を放つ。
手が震え、足が震え、呼吸がうまく出来なくなりそうだった。
意識の底、魂から繋がった人格が一つの器の中で、暴走しそうになっている。
それでも、武は言葉を繋げた。
「今まで戦ってきた、誰よりも強かった」
「黙れ!黙れ黙れ黙れ!!!オレは…、オレには…!!!」
体のコントロールを奪われ、鋏の先が喉元に突きつけられる。
激高したムサシの感情が、こちら側に流れ込んでくる。
憎しみと怒りが入り混じって、溶け出したマグマのような感情が心を焼き尽くす。
武は、飲まれないように必死で留まる。
その必死の思いが障壁になったが、簡単にボロボロと崩れ落ちていく。
鋏が、喉の表皮に当たる。
冷たい鋼の感触も、内に流れるマグマより怖くない。
やがてマグマは勢いを失い、手から鋏が滑り落ちた。
「オレには、それしか無いんだよ。戦って、勝って、戦って、勝って。それだけが、オレの存在意義なんだ」
はらりはらりと。
目頭が急に熱くなって、涙が眼から溢れて止まらなかった。
どっちが泣いているのか、わからない。
わからないし重要じゃない。
武は涙を袖で拭うと、ムサシと向き合った。
「でも今回は、敵じゃないんだ。教えてもらおう、戦い方を」
ムサシは、また答えない。
けど、怒りもしない。
その提案に、無言という回答を返していた。
武は、ムサシに言う。
「今のまま、回数を重ねても、もう無理なんだ。いつか、僕らは負ける」
思えば今まで、連戦連勝だったのがおかしいくらいだ。
運がいい。といより、正直ムサシは相手を選んで喧嘩をしていた気がする。
RPGみたいに、レベルを上げるために効率的に。今まで、無茶なことはしていたが、確実に勝って来た。
その慢心が、今回の件でハッキリしたのだ。
そこまでわかって、死ぬ気でムサシを説得するのは、最強になることがムサシの願いだったからだ。
「…、オレは頼まないからな」
「僕が頼む。でも言うことは、ちゃんと聞いてくれよ」
「善処する」
ガラスの向こうで、ムサシは眉間にしわを寄せ、苦々しい顔で答えてくれていた。



参回戦 四-4 了

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