「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 魔法少女銀河-16

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【不思議少女シルバームーン第七話 第五章「飛翔」】

 眼下に広がる白雲。
 抜けるような青い空。
 轟々と響くエンジン音。
 それに比べて静かな機内。
 俺は今、輸送用の飛行船の中に居た。

「……しかしまあ静かだな。」
「うん、そこにいるのは全部ジャックが血を吸って作った眷属だからね。
 自分の意志も何もなくとにかくジャックの命令に従うだけの人形だよ。」

 飛行船に直立不動で並ぶ物言わぬ屍達。
 吸血鬼の眷属である食屍鬼だ。

「しかしあれから訳一週間、本当になにも無かったな。」
「そうだね。ジャックの本当の目的を邪魔しない限りどうでも良いんじゃない?」
「そういうことか……。」


 ジャックの指揮する大戦争が今正に始まっていた。
 俺とルルの役目は一万体の食屍鬼を最新鋭のステルス飛行船に載せて英国に飛ぶこと。
 俺のコンピュータを操る都市伝説としての能力とルルの感知能力によって俺たちは防空レーダーの網を抜けて英国に近づいていた。

「しかし本当に何も無いな。」
「無いね。」
「このままだと後二時間程でイギリスに着いちゃうんだが。」
「うん、そうだね。」
「そういえばお前、この戦争が終わったら俺に言いたいことあるんだっけ?」
「うん。だからゆっくり待っててね。」
「解った、俺も話したいことが有ってさ、もう此処まで来たから言うけど。」
「うん。」
「俺これからジャックを裏切ろうと思うんだよね。」
「知ってる知ってる。」
「ついてこないとブッ殺すぞー」
「キャー怖いよー、裏切るのは心苦しいけど暴力で脅されちゃあ仕方ないなあー」


「茶番は終わった?」


 その時、飛空艇に突如として通信が入る。
 モニターに映しだされるその顔はジャック・ジョーカー。
 ネバーランドのリーダーであり、俺たちのリーダーだった男。

「ようジャック、俺急に正義の心に目覚めたからお前裏切るわ。」
「うん、そろそろ頃合いだと思ってた。」
「で、俺たちをどうする?この飛行船は完全に俺の制御下にあるぞ?」
「良いよ、構わない。」
「食屍鬼で俺たちを圧殺するつもりか?人数が64億ほど足りねえが。」
「良いよ、そいつらは君の目的のために好きに使っちゃって。
 たぶん適当に命令しちゃえば動くし。要らなくなったら自爆スイッチでも押してよ。」
「じゃあ要件はなんだ?」
「上田明也との戦いをどうする気か聞きたくてさ。」
「勿論続行だ。」
「それなら良いよ。好きにして。」
「はいよー。」
「嘘なら…………」
「大丈夫だってば。それだけは偽らざる本音だ。」
「そうか、君たち親子は本当に……本当に何なんだろうね。
 では僕の古い友人、前に話したスバルという男も年上の彼女を連れて遊びに来ているし、
 ああもう本当に汚らしい魔女が僕のスバルを誑かすなんて腹が立つったら……。
 まあそれは後でぶち殺すとして。
 ライディーンも生き別れのお兄さんと絶賛交戦中だそうでね。
 学校町方面も忙しくなってきたから回線を切らせてもらおう。」
「おう、武運を祈る。」
「ああ、君もせいぜい君の父を打ち倒せば良い。
 そうだ、最後に一つ言い忘れていたよ。」
「なんだ?」
「僕はジョーカー、切り札にして道化、そして嘘つき。
 君には最後まで僕の役に立ってもらうよ。」

 連絡が途切れる。
 それと同時に俺とルルが居る操縦室の扉に何かが打ち付けられる音。
 ひしゃげた扉の隙間からは生気のない腕がチラリと見えた。

「高度一万メートル。一万のゾンビと優雅な空の旅か。」
「ジャックが私達を襲うように仕向けたって訳?」
「まあ俺たちを襲わせて親父が確実にこっちに来るように仕向けたのだろうさ。
 気が利くねえ、泣けるぜ。」
「これからどうするの?」
「俺が暴力でなぎ払う、これなら半分はなんとかなる。」
「残り半分」
「お前が何とかしろ。」
「無理」
「だろうなあ~、じゃあ逃げようか。」
「え?」
「俺は半分都市伝説でな、俺の母親がコンピュータっつーかネットワークを媒介にして異空間を作る能力を持っている。」
「貴方もそれを使えるの?」
「試したことがない。」
「怖いなおい!」
「もう一つ簡単な方法がある。」
「なに?」
「俺の上司に連絡して助けに来てもらう。」
「イイじゃんそれ。」
「この緊急時にわざわざここまで助けにこさせられるかよ。」
「うーん……。」

 その時突然小さな爆発音が船内に響く。

「なにがあった?」
「エンジンルーム爆破されたね。」
「はぁ!?俺の能力じゃ感知できなかったぞ!?」
「ワタシだってそうだよ、きっとコンピュータ制御じゃない時限爆弾に悪魔払いの札でも貼ってたんでしょ。」
「これはいよいよ華々しく散るしか無いかな。」
「そうだね。」
「ちょっと待て、その前に連絡しなきゃいけない人達が居るから。」

 俺は携帯電話を取り出してまずはエーテルさんに連絡する。
 二回ほどコール音がなるとすぐに聞き覚えのある声が耳に入り込んできた。

「もしもし上田です、裏切ったら高度一万メートルでゾンビ千体に囲まれました。
 只今コックピットに籠城中です。」
「おお明尊無事……ではないなそれ。」
「とりあえず英国を空から攻めているのは俺の部隊だけです。
 海から攻めてくる奴らも居るらしいんで警戒してください。」
「後ろからゾンビっぽい声が聞こえているがお前は大丈夫なのか?」

 エーテルさんが何時になく心配そうな声で尋ねる。
 普段は修行でボコボコにされるからなんというかこう……むずがゆい。

「大丈夫じゃないとして、今戦力は割けないでしょう。千体ならなんとかなりますよ、俺だし。」
「……まあ確かにな。」
「という訳でここの飛空艇は俺が大西洋にでもたたき落としておくんで海の方に注意してください。」
「解った、任せる。」
「それと最後に、ジャック・ジョーカーの目的はこの戦争の勝利じゃないみたいです。
 あいつがなにを考えているのかは分かりませんが巨大都市伝説を行使した地球破壊レベルのことをやる可能性があります。
 エーテルさんはそっちの阻止をお願いします。」
「ああ解った。それじゃあ……生きて帰ってこいよ。
 それと解っていると思うが裏切りのタイミングを伝えるためにこちらからメッセンジャーを出した。」
「はい。その連絡はまだ来てないですけどね。」
「知っている、念の為に言っておくがそいつと“合流”するんだぞ?」
「はい。解ってますよ。俺の爺さんじゃないんですから。
 戦いよりは人を守ることを優先しますってば……さて、こんどこそ切りますよ。」
「ああ。」

 電話を切る。
 さて、次は……。

「明尊ちゃん、エンジン壊れてること言わなくて良いの?」
「良いの。そしたら助けに来ちゃうだろあの人。」
「敵の数だって!」
「良いの、そしたら本当にたすけにきちゃうよあの人。」
「明尊ちゃん!」
「少し待ってろ。」

 電話帳の一番最初に入れてある番号にかける。

「はいもしもし?」
「あ、吉静さん!」

 俺の大好きな大好きな初恋の人、穀雨吉静さんだ。

「あらどうしたの明尊くん!?貴方が居なくなって大変なことになってるんだよ!?」
「すいません……色々事情があって……」
「良いから早く帰って来た方が……」
「吉静さん!」
「なに?」
「俺吉静さんのことが好きです!帰ってきたら返事ください!」

 通話を切った。
 携帯の電源を切る。

「さて、やるべきことは終わった。」
「…………いくの?」

 ルルが滅茶苦茶複雑そうな顔でこちらを見ている。

「俺の血が騒いでいる、この先に居る敵を倒せと叫んでいる。
 この先に居る雑兵共を殲滅せよと、この先に居る悪魔を叩き潰せと。
 戦争交響曲の前奏を奏でている。
 行くぞルル、敵は一万向かうは地獄、一世一代大立ち回りだ。」

 殆んど壊れかけた扉。
 その向こうに待つのは最新鋭の武装で固めた一万のゾンビ。
 今、迷いはない。
 俺にはずっと解っていた。
 助けを呼ぶ必要は無いことが。
 扉の向こうに俺の待っていた男がいるのだから。
 その男をラプラスの探知能力で“やっと”見つけたルルは顔を青くして俺の袖を引っ張る。
 所詮調べるだけの都市伝説。
 血で感じあえる相手ならば俺のほうが気づくのは早いということか。

「え?うそ!?ねえ待って、今ならまだ間にあうよ逃げよう。私良い方法を思いついたんだ。
 私が明尊ちゃんの都市伝説の部分と契約して能力をブーストすればインターネット経由して逃げられるよ!
 だから駄目だよ、この扉は絶対にあけちゃ駄目!
 この扉の向こうに居るって!本当に殺されちゃうよ!
 あの人私たちを助けに来たわけじゃない!貴方の言うエーテルって人の指示を無視してる!」 
ラプラスの悪魔の予知は外れるタイプの予知だ。
 お前の予知を外させることができなきゃお前にでかい顔ができん。」
「嘘だ!口から出任せだよ!だって明尊ちゃん何時もでかい顔してるじゃない!」
「解るか?」
「解るよ!明尊ちゃんはこの非常事態に扉の向こうに居る人と戦いたいだけなんでしょう?」
「おう!」
「狂ってる!」
「おう!」

 扉を蹴破る。
 並み居るゾンビの群れ、その中央に、誰も意識していないその場所に、男が一人立っていた。
 煙草をゆるりとくゆらせて、洒落た真紅のコートを纏い、男は一人立っていた。
 俺が心から戦いたかった男。
 臨戦態勢の奴を目の前にした今なら解る、戦う理由なんてなんでも良かったのだ。
 なのに俺はなんて遠回りをしてしまったのだろうか。

「やれやれ、やっと来たか。」

 まるで幽鬼のようにやつれてこそいるが、男はシニカルに笑ってみせた。
 挨拶がわりとでも言わんばかりに近くにいた食屍鬼を素手で十体ほど吹き飛ばすと、男は声高らかに名乗りを上げる。

「笛吹探偵事務所所長笛吹丁!売られた喧嘩を買いに来た!
 俺の女に手を出した命知らずはどこのどいつだ!」

 あの男の存在を計算に含めた予知の先にルルはなにを見ているのだろう。
 恐怖のあまり腰を抜かしてその場に座り込んでしまっている。

「そこの女かぶち殺す!」

 世界も、他人も、全てを無視して、彼はやってきた。
 これがおそらくジャックの狙いだ。
 上田明也を一分一秒でも自分のところから遠ざけることが。
 良いぞ、乗ってやる、貴様のような下衆と違って俺は嘘をつかん。

「そいつじゃねえ!俺が命令してやらせたんだ!
 そこの女は俺に命令されて仕方なくやっただけだからな!
 ムカツイてるならかかってこいバカ親父!
 言っておくが息子より年下の女こさえる屑が今更説教なんてするんじゃねえぞ!
 そこのモブ共なんて無視して!さあ!早く!」

 すいません、敬愛なるエーテルさん。
 こんなバカなことしてないでさっさと世界でも救いに行くべきですよね。
 すいません、最愛なる吉静さん。
 貴方の事が好きだって言ったけど貴方以外の女性の為にも戦っています。
 すいません、親愛なる母さん。
 俺、貴方の愛した人が大嫌いです。

「てめえだったのか!そんなこったろうと思ったぜ!
 勿論だバカ息子!今日くらいは鉛弾でキャッチボールしてやる!
 楽しい親子の触れ合いだ!」

 嫌いで嫌いで……そして、ああ、そうだ。
 そうだったんだ、俺はそれでもあいつのことが……

「腰痛めるなよバカ親父!」
「うるせえぞ、てめえら二人とも事務所の面々に土下座させてやる!」

 大好きだ。

【不思議少女シルバームーン第七話 第五章「飛翔」】

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