「坂本さんってそんなに荒れてたんですか?」
「彼の家庭や学校生活は荒んでいたようだから。私と出会った時もその頃よりひどかったわ」
「ほんとですか?」
「ええ。いきなり私を殺しにかかってきたほどだったからね。叩きのめしたが」
「彼の家庭や学校生活は荒んでいたようだから。私と出会った時もその頃よりひどかったわ」
「ほんとですか?」
「ええ。いきなり私を殺しにかかってきたほどだったからね。叩きのめしたが」
捜索から一息つき、2人は石原邸を出、コンビニへと足を進めていた。捜索状況は芳しくなく、一向に見つかる様子はない。
その分麦野アブラカダブラの口は軽くなり、櫛間篤子は話に耳を傾ける。
その分麦野アブラカダブラの口は軽くなり、櫛間篤子は話に耳を傾ける。
「それでも、この2年間で彼はずいぶんと成長したわ。そうなる様に一応の教育も施しはしたけれど」
「そういえば、その口裂け女……さんはどこにいるんですか?前回は見ませんでしたけど」
「そういえば、その口裂け女……さんはどこにいるんですか?前回は見ませんでしたけど」
口裂け女と口にした篤子の顔が少し歪む。彼女にとって口裂け女あまりいい思い出はない。
「ああ、彼女は今車に乗っているのよ。前の時も車に乗っていたわ。といっても今は喋れないし口も開かないし、自分じゃまともに動くこともできないし、意思も無いが」
「え……」
「ちょうど半年ほど前に、それなりに大規模な戦闘を行ってね。その戦闘が原因で彼女はアイデンティティを失ってしまった」
「……聞いちゃいけないことでした」
「これぐらいなら構わないわ。その本質を話さないのなら、概要を話すくらいは問題ない」
「そうですか」
「え……」
「ちょうど半年ほど前に、それなりに大規模な戦闘を行ってね。その戦闘が原因で彼女はアイデンティティを失ってしまった」
「……聞いちゃいけないことでした」
「これぐらいなら構わないわ。その本質を話さないのなら、概要を話すくらいは問題ない」
「そうですか」
そうは言ったものの、篤子の心は晴れることはない。口を閉ざし、会話は流れを失いそのまま停滞してしまう。
しばらく歩き続け、ふと麦野は篤子の頭をなでる。
しばらく歩き続け、ふと麦野は篤子の頭をなでる。
「ドレスは、ジュリアナは最近回復の兆候を見している。もしかすればこの町の滞在期間中には自分の意思を取り戻すかもしれない」
「……」
「聞かれたくないことだったら初めから答えないわよ。だから気に病む必要はないわ」
「……ありがとうございます」
「そうそう。素直はいいことよ。そういった娘は好きだわ。……いろんな意味で」
「えっ!?」
「……」
「聞かれたくないことだったら初めから答えないわよ。だから気に病む必要はないわ」
「……ありがとうございます」
「そうそう。素直はいいことよ。そういった娘は好きだわ。……いろんな意味で」
「えっ!?」
モデルケース『ターボババア』③
「んで?なんで温泉に来てんだよ」
『白いソアラ』を手に入れた麦野アブラカダブラ、坂本光輝、ジュリアナ女の3人は今井、吉田(ヨシタ)と別れ町の温泉街へとやって来ていた。
今麦野たちが滞在している町には大きな温泉街があり、毎年多くの観光客がやってくる。周りを見れば必ず観光客を目にするほどだ。
賑わっているだけあって温泉街にある湯屋は活気づき、とても繁盛している。
世間で言われている不景気などものともしないこの場所で、ひと際活気に満ちた湯屋がある。その名も『湯宿・分福湯釜』という。
温泉街の中でもひと際大きく、ひと際見栄え良く、ひと際人の出入りが多い。温泉街でひと際活気があると言っても過言ではない。
そんな旅館である分福湯釜の前に麦野たちは立っていた。ちなみに、ソアラは道が狭い温泉街には入れることはできないので近くの広場に駐車している。
今麦野たちが滞在している町には大きな温泉街があり、毎年多くの観光客がやってくる。周りを見れば必ず観光客を目にするほどだ。
賑わっているだけあって温泉街にある湯屋は活気づき、とても繁盛している。
世間で言われている不景気などものともしないこの場所で、ひと際活気に満ちた湯屋がある。その名も『湯宿・分福湯釜』という。
温泉街の中でもひと際大きく、ひと際見栄え良く、ひと際人の出入りが多い。温泉街でひと際活気があると言っても過言ではない。
そんな旅館である分福湯釜の前に麦野たちは立っていた。ちなみに、ソアラは道が狭い温泉街には入れることはできないので近くの広場に駐車している。
「温泉なんざ町に来た初日に入ったじゃねえか」
坂本の言うとおり温泉自体には町に来た初日に思う存分堪能している。ジュリアナ女など4時間は入りっぱなしだった。
もっとも、今目の前にあるような豪勢なところの温泉ではないが。
もっとも、今目の前にあるような豪勢なところの温泉ではないが。
「また入りたいのか?構わないが初日の時のように女湯を覗いてマスターベーションなどしないでくれよ」
「……え?なんって?」
「もう麦野さん!光輝君は思春期なんですから、仕方ないから内緒にしておいてあげようって言ったじゃないですか!」
「そうだったな。ごめんなさいね坂本君。でもいくら人がいなかったからといってお風呂場でそういう事をしない方がいい」
「……………………」
「さて、中に入ろうか」
「そうですね」
「……………ちょっ、ちょ待てよ!どうして知って…じゃねえ!俺はんなことやってねえから!まじで!」
「……え?なんって?」
「もう麦野さん!光輝君は思春期なんですから、仕方ないから内緒にしておいてあげようって言ったじゃないですか!」
「そうだったな。ごめんなさいね坂本君。でもいくら人がいなかったからといってお風呂場でそういう事をしない方がいい」
「……………………」
「さて、中に入ろうか」
「そうですね」
「……………ちょっ、ちょ待てよ!どうして知って…じゃねえ!俺はんなことやってねえから!まじで!」
血相を変えた坂本を放置し、麦野とジュリアナ女は何の気兼ねも無く入り口をくぐり、堂々と宿の奥へ進んでいく。
フロントにいる仲居達はそれをしっかり目撃しているのだが、誰も彼女たちを止めることなどしない。麦野はあらかじめ建物の中がわかっているかのように進んでいく。
カウンターを通り過ぎて右に少し入ったところにエレベーターがある。今はちょうど1階に止まっていた。上を押しドアが開く。
二人が入るのを見ると坂本も慌ててエレベーターに飛び込んだ。麦野は何の戸惑いも無く4階を押す。
フロントにいる仲居達はそれをしっかり目撃しているのだが、誰も彼女たちを止めることなどしない。麦野はあらかじめ建物の中がわかっているかのように進んでいく。
カウンターを通り過ぎて右に少し入ったところにエレベーターがある。今はちょうど1階に止まっていた。上を押しドアが開く。
二人が入るのを見ると坂本も慌ててエレベーターに飛び込んだ。麦野は何の戸惑いも無く4階を押す。
「おい、麦野さんよ。なんで堂々と不法侵入してんだ?こういうのは普通カウンター通すだろうがよ。てか温泉側もなんでこっち無視してんだよ」
「こういうのは堂々と入れば案外わからないものよ。カウンターや給仕が客の顔をすべて把握しているわけじゃない。多少怪しくてもあまり話しかけてこないのさ」
「へー……じゃねえ納得してる場合じゃねえ!俺はな別に風呂でオナってなんかないんだよんなことしてねえししたことねえしかくれてたしちょっと触れてただけというか」
「言えば言うほど自分の首を絞めることになるぞ」
「ぐっ!」
「こういうのは堂々と入れば案外わからないものよ。カウンターや給仕が客の顔をすべて把握しているわけじゃない。多少怪しくてもあまり話しかけてこないのさ」
「へー……じゃねえ納得してる場合じゃねえ!俺はな別に風呂でオナってなんかないんだよんなことしてねえししたことねえしかくれてたしちょっと触れてただけというか」
「言えば言うほど自分の首を絞めることになるぞ」
「ぐっ!」
坂本は口を天岩戸のごとく閉じ切り微動だにしなくなった。麦野もジュリアナ女も喋らない。エレベーターの中に完璧な沈黙が訪れた。
坂本が多少の息苦しさを感じるほど、安全性と静穏を重視した作りになっているこのエレベーターは通常のエレベーターより上昇下降が遅い。
息苦しさに耐えきれなくなりそうだと感じ始めたころ、トライアングルのような音と共にエレベーターのドアが開いた。場所は4階、目的地到着である。
だれも一言も声を発さずエレベーターから出る。別に4階は特別な作りをしているわけではなかった。
ごく普通の旅館の中と言った感じである。珍しい点を無理にでも捩じりだすとすれば、廊下の幅が多少広く感じるぐらいであろうか。
この旅館に何度も足を運んだことがあるかのような足取りで歩き続ける麦野。それに何の疑問も持っていないかのようについていくジュリアナ女。
旅館内を見回しながら歩く坂本。
坂本が多少の息苦しさを感じるほど、安全性と静穏を重視した作りになっているこのエレベーターは通常のエレベーターより上昇下降が遅い。
息苦しさに耐えきれなくなりそうだと感じ始めたころ、トライアングルのような音と共にエレベーターのドアが開いた。場所は4階、目的地到着である。
だれも一言も声を発さずエレベーターから出る。別に4階は特別な作りをしているわけではなかった。
ごく普通の旅館の中と言った感じである。珍しい点を無理にでも捩じりだすとすれば、廊下の幅が多少広く感じるぐらいであろうか。
この旅館に何度も足を運んだことがあるかのような足取りで歩き続ける麦野。それに何の疑問も持っていないかのようについていくジュリアナ女。
旅館内を見回しながら歩く坂本。
「……のか……………!」
「おふ………!………………いか!」
「おふ………!………………いか!」
丁度廊下を曲がったところから、坂本の耳に何か声が聞こえ始めた。どちらも老人特有の嗄れ声だ。声の高さからしてどちらか一方は女であることは間違いない。
何か言い争っているような声だ。……いや、そうではない。
何か言い争っているような声だ。……いや、そうではない。
「……のかい!……よくもまあ……!」
「だからそ……これ……!」
「だからそ……これ……!」
喋っている内容はよくわからないが、どちらかと言えば一歩的な口撃のように思える。どうにも老女の方が声に感情が乗っている感じである。
歩みを進めるごとにその声は大きく、よりはっきりと聞こえてくる。まるでこの声のもとに向かっているかのように。
歩みを進めるごとにその声は大きく、よりはっきりと聞こえてくる。まるでこの声のもとに向かっているかのように。
(ようにじゃねえねな。向かってやがる)
本来ならば客などが足を運ばないようなフロアの隅の方にある物置廊下。その一番奥に、声の主たちはいた。
仲居のような紺色の着物を来た老女と、これまた紺色の着流しの老人だった。
老女の背は低く、髪は後頭部にお団子のようにまとめてある。身なりはしっかりと整っており、ある種の美意識を感じられる。
老人のほうは角ばった顎に短く刈り込まれた頭髪が印象的で、まるで時代劇にでも出てきそうな勢いである。
老女老人だけあって二人の髪の毛は真っ白で、黒髪などは一本も見つからない。
そんな老人たちがいるところに麦野は初めから目指していたかのような足取りでここまでたどり着いたのである。初めからここに来ようと思っていなければとれない行動だ。
仲居のような紺色の着物を来た老女と、これまた紺色の着流しの老人だった。
老女の背は低く、髪は後頭部にお団子のようにまとめてある。身なりはしっかりと整っており、ある種の美意識を感じられる。
老人のほうは角ばった顎に短く刈り込まれた頭髪が印象的で、まるで時代劇にでも出てきそうな勢いである。
老女老人だけあって二人の髪の毛は真っ白で、黒髪などは一本も見つからない。
そんな老人たちがいるところに麦野は初めから目指していたかのような足取りでここまでたどり着いたのである。初めからここに来ようと思っていなければとれない行動だ。
「大体、今回入ってきた新人はなんだい!毎回!毎回!毎回新人を入れるたびに口を酸っぱくして言ってるじゃないか!礼儀をしっかり身に付けた奴を入れろって!」
「しっかり身についてるだろ!厳しいんだよ基準が!」
「馬鹿かいあんたは!いいかい!お客様はこっちが礼儀正しく尽くせばまた来てくれるんだ!あの程度の礼儀作法で満足してもらえるわけじゃないだろ!」
「しっかり身についてるだろ!厳しいんだよ基準が!」
「馬鹿かいあんたは!いいかい!お客様はこっちが礼儀正しく尽くせばまた来てくれるんだ!あの程度の礼儀作法で満足してもらえるわけじゃないだろ!」
麦野とジュリアナ女は立ち止ったまま何もせず、老人たちを見ている。坂本もそれに追従し立ち止る。
老人は喋りは普通だが、老女はずいぶんと早口だ。
老人は喋りは普通だが、老女はずいぶんと早口だ。
「売り上げも軌道に乗って順調なんだ!これ以上はいいだろう!」
「ふ~ざけんじゃないよ!もっともっと上を目指さないでどうするんだい!鈍いのはきらいだけど、止まってるのも嫌いだよ!とりあえず矢島はあたしが仕込むからね!」
「そんなことしたらまた逃げるだろ!何人逃げたと思ってんだ!厳しすぎなんだよ!」
「ふ~ざけんじゃないよ!もっともっと上を目指さないでどうするんだい!鈍いのはきらいだけど、止まってるのも嫌いだよ!とりあえず矢島はあたしが仕込むからね!」
「そんなことしたらまた逃げるだろ!何人逃げたと思ってんだ!厳しすぎなんだよ!」
服装から察するに、老女は仲居で間違いないのだろう。そして老人の方は少なくとも仲居より下の格好をしているとは思えない。
来ている着流しも生地からして上質のもので、それを品よく身にまとっている。そんな着流しの老人が、仲居の老女に対して下手に出ている。
他に何か違和感があるとすれば、老人と老女の年齢差だろうか。
確かに二人とも老人なのだが、顔に刻まれた皺の数や肌の張り具合から年齢に差があることがはっきりとわかる。
皺、肌の張り、背筋、声。これを吟味すると老女の方が大体20歳以上は年齢が高いだろう。年齢はおそらく80歳後半から90歳ほど。
そう考えると着流しの老人は60歳から70歳ほどだと判断できる。
来ている着流しも生地からして上質のもので、それを品よく身にまとっている。そんな着流しの老人が、仲居の老女に対して下手に出ている。
他に何か違和感があるとすれば、老人と老女の年齢差だろうか。
確かに二人とも老人なのだが、顔に刻まれた皺の数や肌の張り具合から年齢に差があることがはっきりとわかる。
皺、肌の張り、背筋、声。これを吟味すると老女の方が大体20歳以上は年齢が高いだろう。年齢はおそらく80歳後半から90歳ほど。
そう考えると着流しの老人は60歳から70歳ほどだと判断できる。
「なに軟弱なこと言ってるんだい!無いもの身に付けるんだからき~ついのは当然じゃないか!それに谷本さんは耐えて今じゃ仲居の中じゃ欠かせない存在になってるよ!」
「谷本さんははじめっから礼儀が行き過ぎてただけじゃないか!彼女を基準にするなよ!」
「う~るさい!親に口答えするもんじゃないよ!」
「経営してんのは俺だぜお袋!」
「谷本さんははじめっから礼儀が行き過ぎてただけじゃないか!彼女を基準にするなよ!」
「う~るさい!親に口答えするもんじゃないよ!」
「経営してんのは俺だぜお袋!」
どうやら老人たちは実の親子であるらしい。そして着流しの老人が経営者のようだ。いくら母親とはいえ、経営者に楯つくとは母は強しと言ったところだろうか。
「いい加減隠居しろよお袋!老いたら息子の言う事聞くのがこの世の常だぜ!」
「なぁにぃ~!?つまんねいこと言うんじゃないよ!あたしに呆けろって言いたいのか!はッ!つまんないジジイになったもんだ!育て方間違ったね!」
「ボケ防止なら働かなくてもいいだろ!」
「うるさいね!これだからジジイやババアは嫌いなんだよ!みんな同じようなことばっか言いやがって!お前はあたしの婆さんそっくりだよ!い……」
「どうし………」
「なぁにぃ~!?つまんねいこと言うんじゃないよ!あたしに呆けろって言いたいのか!はッ!つまんないジジイになったもんだ!育て方間違ったね!」
「ボケ防止なら働かなくてもいいだろ!」
「うるさいね!これだからジジイやババアは嫌いなんだよ!みんな同じようなことばっか言いやがって!お前はあたしの婆さんそっくりだよ!い……」
「どうし………」
老人たちが顔を麦野たちに向ける。その顔を大きく口を開け呆けてる顔だ。よほどこの場に客がいることが予想外なのだろう。
しかし、そこはさすがに客商売。
しかし、そこはさすがに客商売。
「「これはこれは御見苦しい所を見せてしまい申し訳ありません」」
先程までの剣呑で騒がしい雰囲気は一気に霧散し、二人は客向けの接待顔と接待声になっている。
「このような場所に足を運ばれてご見学でしょうか?すみません。生憎ここは従業員専用になっておりまして」
「しかし、ご覧になりたいのであればどうぞご見学してください」
「しかし、ご覧になりたいのであればどうぞご見学してください」
先程まで喧嘩していたとは思えない見事な連携プレーである。
「ここは私が案内するから仲居さんは持ち場に戻ってくれてもかまいませんよ」
「そうですねぇ。ではそうさしてもらいます」
「そうですねぇ。ではそうさしてもらいます」
着流しの老人の言葉に仲居の老女は反応し、そそくさとその場から退散しようとする。
「ちょっと待ってもらえますか?」
それを制したのは麦野だった。
「私は実は客ではない」
「「え!?」」
「私はあなたに、上野(かみの)小竹さんに用があってきたの」
「あ、あたしに!?なんだいあんたら!?客じゃないって一体「昨日の夜」……!」
「「え!?」」
「私はあなたに、上野(かみの)小竹さんに用があってきたの」
「あ、あたしに!?なんだいあんたら!?客じゃないって一体「昨日の夜」……!」
麦野が呟いた『昨日の夜』という言葉に仲居の老女は、上野小竹は過剰なまでに反応した。
「その件について少しお話しがあるのですよ」
「んだてめえら!警備員呼ばれたくなけりゃさっさと「お止め利雄!」お袋!?なんで止める!」
「い~いから。お前は黙ってどっかに行け。フロントや警備に泊ってる客の顔を全部覚えるように言って来な!
それとね、こいつらと松の部屋にしばらく籠るから入ってくんじゃないよ」
「お袋!」
「黙って言う事を御聞き!ま~、心配はぁいらないよ。こいつらは別にあたしに危害を加えようとか思ってないさ」
「……ちっ!30分だ!30分経って部屋から出てこなかったら警察呼ぶからな!」
「利「うるせえ!これが最大限の譲歩だ!これを認めなきゃ今すぐ警備を呼ぶ!」……はぁ~、仕方ないね。わかったよ。あんたらもそれでいいね」
「ええ、構わない」
「んだてめえら!警備員呼ばれたくなけりゃさっさと「お止め利雄!」お袋!?なんで止める!」
「い~いから。お前は黙ってどっかに行け。フロントや警備に泊ってる客の顔を全部覚えるように言って来な!
それとね、こいつらと松の部屋にしばらく籠るから入ってくんじゃないよ」
「お袋!」
「黙って言う事を御聞き!ま~、心配はぁいらないよ。こいつらは別にあたしに危害を加えようとか思ってないさ」
「……ちっ!30分だ!30分経って部屋から出てこなかったら警察呼ぶからな!」
「利「うるせえ!これが最大限の譲歩だ!これを認めなきゃ今すぐ警備を呼ぶ!」……はぁ~、仕方ないね。わかったよ。あんたらもそれでいいね」
「ええ、構わない」
麦野の返事を聞くと小竹は歩きだす。
「こっちだ。ついてきな」
その言葉に従い、麦野、ジュリアナ女は坂本は小竹に従い歩きだす。息子の利雄の顔はいかにも不機嫌と言った顔であり、今にも怒りだしそうなほど青筋を立てている。
さっきのようになんやかんや文句を言い合ってはいても、そこは親子。怪しい連中に親を合わせるのは心配なのだろう。それを当の本人が許可していてもである。
物置廊下を離れ、エレベーターの方まで戻ってくる。その間、小竹や麦野たちとの間に会話は一切ない。
この状況に坂本はすでに息苦しさを覚え始めていた。エレベーターから降りたときから一言も言葉を発していない。空気は張り詰め喋りだす雰囲気でもない。
彼は我がままではあるが、傍若無人ではない。ゆえにその場の雰囲気に遭わせているのだが、我慢強い方かと問われればそうでもない。
乗ってきたエレベーターを過ぎたあたりで、坂本は限界を迎え始めていた。限界を迎えてしまえば、彼は何の意味も無く大声で叫ぶだろう。
若い彼にとって無言と言うのは拷問にも等しいのだ。
さっきのようになんやかんや文句を言い合ってはいても、そこは親子。怪しい連中に親を合わせるのは心配なのだろう。それを当の本人が許可していてもである。
物置廊下を離れ、エレベーターの方まで戻ってくる。その間、小竹や麦野たちとの間に会話は一切ない。
この状況に坂本はすでに息苦しさを覚え始めていた。エレベーターから降りたときから一言も言葉を発していない。空気は張り詰め喋りだす雰囲気でもない。
彼は我がままではあるが、傍若無人ではない。ゆえにその場の雰囲気に遭わせているのだが、我慢強い方かと問われればそうでもない。
乗ってきたエレベーターを過ぎたあたりで、坂本は限界を迎え始めていた。限界を迎えてしまえば、彼は何の意味も無く大声で叫ぶだろう。
若い彼にとって無言と言うのは拷問にも等しいのだ。
「ここだよ」
彼が叫びだし、周りの客に迷惑をかける寸前で丁度小竹が言っていた松の部屋に到着した。引き戸の横にかけられている細長い木板には一文字『松』と達筆に書かれている。
引き戸開け、中に入っていく一行。松の部屋の中は特に変わったところはない。
部屋は16畳ほどで中央には少し大きめの座卓が置かれており、窓側からは温泉街が一望できる。その景色は特別印象に残るほどでもない。
名前の松は松竹梅の松ではないのだろう。
だれも示し合わすことなく座卓に群がり、これまた示し合わすことなく4人はほぼ同時に腰を下ろした。
上座にはジュリアナ女、左は小竹、右は麦野、下座は坂本と言った感じである。
引き戸開け、中に入っていく一行。松の部屋の中は特に変わったところはない。
部屋は16畳ほどで中央には少し大きめの座卓が置かれており、窓側からは温泉街が一望できる。その景色は特別印象に残るほどでもない。
名前の松は松竹梅の松ではないのだろう。
だれも示し合わすことなく座卓に群がり、これまた示し合わすことなく4人はほぼ同時に腰を下ろした。
上座にはジュリアナ女、左は小竹、右は麦野、下座は坂本と言った感じである。
「そいで、あたしに一体何の用だッてんだい」
真っ先に口を開いたのは小竹である。突然訪ねられた彼女にとってそれは当然の疑問だろう。しかし、麦野がその質問に答える前に小竹の言葉に続いたのは坂本だった。
「知るかババア!俺だってわけもわからず連れてこられたんだ!俺が聞きてえ!」
先程までの無言を払うかのように坂本は声を張り上げる。もしかしたら隣に聞こえているのではないかと思うほどの声量だ。
それほどまでにフラストレーションが溜まっていたのだろう。
それほどまでにフラストレーションが溜まっていたのだろう。
「はぁ~、生意気だけど活気のある子じゃないか!いいねいいいね。若いってのはそうじゃなきゃいけないよ!」
初対面の人間に失礼なことを言われたはずなのだが、小竹はそれを含めて坂本を気に入ったようだった。
彼女にとって活気とは、元気とは暴言すら彼方に追いやるものなのだろう。
彼女にとって活気とは、元気とは暴言すら彼方に追いやるものなのだろう。
「し~かし、それじゃあ話も進まないんだがね。ほら、あんたがリーダーなんだろ?さっさと話しな。そうだねどうして昨日の夜のことを知ってるのか、
そこから話してもらおうじゃないか」
「そうだぜ麦野さんよ!昨日の夜の件ってなんだ!?あんた昨日の夜は俺らと一緒に寝てたじゃねえか!」
そこから話してもらおうじゃないか」
「そうだぜ麦野さんよ!昨日の夜の件ってなんだ!?あんた昨日の夜は俺らと一緒に寝てたじゃねえか!」
麦野に対し小竹と坂本の両者は問いかける。なぜ知っているのか、昨日の夜に何があったのか。
それらの問いに対し、麦野が口を開く。
それらの問いに対し、麦野が口を開く。
「まず昨日の夜の件とは、ターボババアのことよ」
「ターボババア!?出てたのかよ!?」
「ああ、ここからすぐの高速道路に出現した。そしてその時そこを走っていた暴走族たちを抜き去りそのままどこかへ消えていった」
「つまり、あれか!それに反応したこのババアがターボババアか!?」
「すごい推理力ね光輝君!」
「ターボババア!?出てたのかよ!?」
「ああ、ここからすぐの高速道路に出現した。そしてその時そこを走っていた暴走族たちを抜き去りそのままどこかへ消えていった」
「つまり、あれか!それに反応したこのババアがターボババアか!?」
「すごい推理力ね光輝君!」
驚愕の事実を知り、小竹に指を突き付ける坂本。もっとも、驚愕の事実だと思っているのは坂本だけであり、ジュリアナ女を除いた2人はあきれた目で見ている。
「いや待て。そうなるとおかしいぞ!このババアにはさっき息子がいたじゃねえか!都市伝説が子持ちなわけがねえ!」
「君は口裂け女のなんだ坂本君」
「そんなもん契約者に決まって…………そうか!このババア、ターボババアの契約者か!」
「……何だいこの子。活気がいいのは好きだけど馬鹿は嫌いだよ」
「光輝君も頑張って生きてるんですよ」
「君は口裂け女のなんだ坂本君」
「そんなもん契約者に決まって…………そうか!このババア、ターボババアの契約者か!」
「……何だいこの子。活気がいいのは好きだけど馬鹿は嫌いだよ」
「光輝君も頑張って生きてるんですよ」
喋り終えた途端ジュリアナ女は顔面を蹴られもんどりうって倒れ転がる。そこからマウントポジションへ移行し、坂本はなんのためらいも無く拳を振るう。
そんな光景を無視しながら、麦野は話を進めていく。
そんな光景を無視しながら、麦野は話を進めていく。
「それでなぜ昨日のことを知っているかと言えば」
「あそこにはあたしと、高級車馬鹿どもしかいなかった。これは確かさね。あたしはただ突っ走ってるだけじゃないよ。周りもちゃんと把握してる。
まわりには部外者なんていなかった!言いきれるね」
「上野さん。私も契約者なのよ。この町からあなたを探せたのも、昨日のレースを見れたのも私の契約能力の内の一つ」
「なるほどね。それなら納得だ。納得ついでにどんな能力か聞いてもいいかい?」
「かまいませんよ。私が使用した能力はリモートビューイング。日本語では、、、、あー、なんと言うのだろう?ニュアンスとしては千里眼が一番近い感じするな」
「あそこにはあたしと、高級車馬鹿どもしかいなかった。これは確かさね。あたしはただ突っ走ってるだけじゃないよ。周りもちゃんと把握してる。
まわりには部外者なんていなかった!言いきれるね」
「上野さん。私も契約者なのよ。この町からあなたを探せたのも、昨日のレースを見れたのも私の契約能力の内の一つ」
「なるほどね。それなら納得だ。納得ついでにどんな能力か聞いてもいいかい?」
「かまいませんよ。私が使用した能力はリモートビューイング。日本語では、、、、あー、なんと言うのだろう?ニュアンスとしては千里眼が一番近い感じするな」
麦野アブラカダブラは両親が共にハーフであるクォーターであり、人生の半分以上をアメリカで過ごしてきた人間である。
正規の日本語勉強を受けたことがなく、彼女の日本語のすべては両親が使っていた日本語であり、それ以外はわからない。
リモートビューイングは日本語で遠隔視というのだが、日常的に使う言葉ではないこの言葉を彼女は知っているわけなかった。
正規の日本語勉強を受けたことがなく、彼女の日本語のすべては両親が使っていた日本語であり、それ以外はわからない。
リモートビューイングは日本語で遠隔視というのだが、日常的に使う言葉ではないこの言葉を彼女は知っているわけなかった。
「とりあえず、その場から動かずして離れたところを観察する能力、かな?半径は3キロ。基となった都市伝説なら別の国のことすらみえるのだが」
「大層なもんじゃないか。はぁ~。んで、こそこそ観察してあたしに何をしたいんだい?」
「あなたには勝負を受けていただきたいのです」
「しょ~ぶ?」
「大層なもんじゃないか。はぁ~。んで、こそこそ観察してあたしに何をしたいんだい?」
「あなたには勝負を受けていただきたいのです」
「しょ~ぶ?」
小竹の顔が大きく歪む。その顔は心底疑問を表している。なぜ勝負などしなければならないのかと。
小竹には勝負をする理由などない。小竹がターボババアと契約して3年ほど経つが、その間に誰かに暴力を振るったことはない。力の悪用などほとんどしたことはない。
悪用と言えば、高速道路にやってくる走り屋どもと走るため交通法を破ったくらい。恨まれるようなことはしていない。
小竹には勝負をする理由などない。小竹がターボババアと契約して3年ほど経つが、その間に誰かに暴力を振るったことはない。力の悪用などほとんどしたことはない。
悪用と言えば、高速道路にやってくる走り屋どもと走るため交通法を破ったくらい。恨まれるようなことはしていない。
「別に恨みだとかそういったことで勝負を挑んではいませんよ」
小竹の心を読んだかのように麦野は喋る。
「勝負と言っても相手を殴る蹴るといったものでもない。本当に単純なものですよ。あなたはいつも通り車を抜けばいいんですから」
「……そいつはつまり」
「レースですよ。場所はいつもの高速道路。開始は深夜0時、昨日の彼らと同じ場所から同時にスタートし、そこから10キロ先がゴールです。それと私は車に乗りますから」
「確かに単純だねぇ」
「……そいつはつまり」
「レースですよ。場所はいつもの高速道路。開始は深夜0時、昨日の彼らと同じ場所から同時にスタートし、そこから10キロ先がゴールです。それと私は車に乗りますから」
「確かに単純だねぇ」
本当に単純な勝負である。小竹がいつもやっていることと変わらない。
変わっていることと言えば乱入ではなく初めから、そして同時スタートの点、距離が決められている点ぐらいだろうか。
しかし、まだ疑問が残る。小竹にとってこれは一番重要である。
変わっていることと言えば乱入ではなく初めから、そして同時スタートの点、距離が決められている点ぐらいだろうか。
しかし、まだ疑問が残る。小竹にとってこれは一番重要である。
「どうしてあんたはあたしと勝負したいんだい?」
単純だが、一番重要な疑問。恨みでもなければなんだというのか。質問を受けた麦野は口元を大きく釣り上げる。
「面白そうだから。これじゃいけませんか」
面白そう。それだけの理由で小竹に勝負を挑んできているのだ。もちろん、それが真実だとは限らない。嘘かも知れない。
ただ、麦野の笑顔はきれいだった。嘘でもいい。小竹はそう思う。
ただ、麦野の笑顔はきれいだった。嘘でもいい。小竹はそう思う。
「『あ~っはっはっはっはっはっはははっはっはっはっは~はっ!』」
「「「!?」」」
「「「!?」」」
小竹の口から大きな笑い声が漏れた。しかし、それはおかしな現象を伴っていた。声が2重になって聞こえるのだ。片方は間違いなく小竹の声なのだが、もう一つは違う。
小竹の声もそれなりに高いのだが、それよりもっと高い声だ。それと、小竹と違ってあまりしゃがれてはいない。
殴り殴られていた坂本もジュリアナ女も動きを止め小竹を見つめる。
小竹の声もそれなりに高いのだが、それよりもっと高い声だ。それと、小竹と違ってあまりしゃがれてはいない。
殴り殴られていた坂本もジュリアナ女も動きを止め小竹を見つめる。
「いいじゃないか!いいじゃないか!そういった単純な理由は大好きさ!そうさ!うざったい理由は要らないね!特にレースにはさぁ!」
『最近退屈してたんだよ!トロイ奴ばっかでさ!契約者が相手なら少しは楽しくなるんだろうね!』
『最近退屈してたんだよ!トロイ奴ばっかでさ!契約者が相手なら少しは楽しくなるんだろうね!』
気がつけば小竹の顔の右半分が大きく膨らんでいた。
膨らんだ顔の耳のあたりからも一つ耳が出てくる。目が出てくる。鼻が出てくる。口が出てくる。黒が混じった灰色の髪が出てくる。
さらに左右の胸のあたりから腕も出てきた。しわくちゃで弛んだ、しかし少し太めの腕。その腕は小竹の肩を掴むと、プールのふちからあがる様に腕を伸ばした。
小竹の体から、もうひとつババアの体が現れる。
膨らんだ顔の耳のあたりからも一つ耳が出てくる。目が出てくる。鼻が出てくる。口が出てくる。黒が混じった灰色の髪が出てくる。
さらに左右の胸のあたりから腕も出てきた。しわくちゃで弛んだ、しかし少し太めの腕。その腕は小竹の肩を掴むと、プールのふちからあがる様に腕を伸ばした。
小竹の体から、もうひとつババアの体が現れる。
「『その勝負うけようじゃないか!あたしゃ(わたしは)強いよ!』」
小竹の体から現れたババアはまっさらなランニングシャツにクリーム色のチノ・パンツを履いていた。
おそらくこのババアこそ、上野小竹と契約しているターボババアなのだろう。
おそらくこのババアこそ、上野小竹と契約しているターボババアなのだろう。
「か~ってに出てきてんじゃないよ糞ババアぁ!さっさと引っ込みな!」
『なにさ!わたしが出ちゃいけないってのかい!』
「ババアの姿なんて見たくないさね!」
『そんなこと言ってたら力貸さないよ!』
「そしたらあんたが勝負できなくなるだけさ!おまえ他に契約してくれる当てがあんのかい!?」
『ぐっ……』
「わかったらさっさと戻りな!」
『自分だってババアだってこと忘れんなよ!』
『なにさ!わたしが出ちゃいけないってのかい!』
「ババアの姿なんて見たくないさね!」
『そんなこと言ってたら力貸さないよ!』
「そしたらあんたが勝負できなくなるだけさ!おまえ他に契約してくれる当てがあんのかい!?」
『ぐっ……』
「わかったらさっさと戻りな!」
『自分だってババアだってこと忘れんなよ!』
ひとしきり言い争った後、渋々といった感じでターボババアは再び小竹と同化していく。
(不仲なのか)
(仲悪!)
(変な格好してるわねこのターボババア。もっとらしい格好はしないのかしら)
(仲悪!)
(変な格好してるわねこのターボババア。もっとらしい格好はしないのかしら)
それを麦野、坂本、ジュリアナ女はそれぞれの感想を思い浮かべながら見つめていた。
その後、話はついたので旅館からでた麦野たちは時間まで時間をつぶした。
そして時間は過ぎ、午後23時56分。
その後、話はついたので旅館からでた麦野たちは時間まで時間をつぶした。
そして時間は過ぎ、午後23時56分。
「ソアラぁ!?」
麦野たちが集合場所に着いた時にはすでに上野小竹はそこにいた。昼と違い、茶色のチノパンに紺のダウンジャケットを着ている。そんな小竹の第一声。
「あんた!勝負しようっていっときながら勝負する気ないってのはどういう事だい!」
当たり前だがソアラは決して速い車とは言えない。平均的な一般車両である。
サリーンですら相手にならないターボババアにソアラで挑むというのはやる気がないのと同じ、いや、侮辱である。
なぜなら麦野は、ターボババアとサリーンの勝負を見ているのだ。その結果を知っていてこの車に乗って来ているのだ。
麦野は小竹に答えるべく窓を開ける。運転席には麦野。助手席にジュリアナ女。後部座席には坂本が座っている。
サリーンですら相手にならないターボババアにソアラで挑むというのはやる気がないのと同じ、いや、侮辱である。
なぜなら麦野は、ターボババアとサリーンの勝負を見ているのだ。その結果を知っていてこの車に乗って来ているのだ。
麦野は小竹に答えるべく窓を開ける。運転席には麦野。助手席にジュリアナ女。後部座席には坂本が座っている。
「いやいや、これはただのソアラじゃありませんよ。サリーンなんてそれこそ目じゃないくらいに」
「は~ん。改造車かい。でもなんでわざわざソアラなんだか」
「は~ん。改造車かい。でもなんでわざわざソアラなんだか」
小竹が言うように白いソアラは超絶なカスタムが施してある。スペック上ならばサリーンなどはるかに超えているのだ。
しかし、ソアラなどを速く走らせる意味はない。ソアラの見た目は万人が格好いいと言えるものではない。典型的な日本車と言った感じである。
そんな車を改造するなんてよほどの変わりものであり、小竹は麦野をそう印象付けた。
しかし、ソアラなどを速く走らせる意味はない。ソアラの見た目は万人が格好いいと言えるものではない。典型的な日本車と言った感じである。
そんな車を改造するなんてよほどの変わりものであり、小竹は麦野をそう印象付けた。
「しかし、どんな改造したんだかねっ、、、!っんだいこりゃ!?」
小竹がソアラに手を触れようとして、驚いた顔をして素早く手を引っ込め瞬間に道路端まで体を後退させる。その顔からは脂汗がにじみ出ている。
よほど強いプレッシャーを感じたのだろう。
よほど強いプレッシャーを感じたのだろう。
「ほら。あれが本来の契約者の姿だ」
「そうですよ。普通はああなるんですよ。このソアラは気配を隠そうともしていないんですから。普通は感じ取れるんですよ」
「うっせえ!俺は初心者なんだよ!感じ取れなくて悪かったな!契約されちまってよ!」
「騒がしい連中だぁね」
「そうですよ。普通はああなるんですよ。このソアラは気配を隠そうともしていないんですから。普通は感じ取れるんですよ」
「うっせえ!俺は初心者なんだよ!感じ取れなくて悪かったな!契約されちまってよ!」
「騒がしい連中だぁね」
いつの間にやら再び近くまで来ていた小竹はあきれた様な口調で声を出す。しかし、その顔には先程までの様なプレッシャーを感じていたあとはない。
ただ、笑みを浮かべている。
ただ、笑みを浮かべている。
「しっかしね、いつもと変わった相手って思うと歳がいも無く胸が高鳴るもんさ。改造車で都市伝説なんて、一体どんな芸当を見せてくれるのかねぇ」
(人殺すだけの都市伝説に芸当もくそもねえよ)
(レース中にどさくさにまぎれてターボババアを殺すとかくらいは出来そうですけどね)
「とりあえずここに来る前にゴール地点には目印を付けておきました。それとこれを」
(人殺すだけの都市伝説に芸当もくそもねえよ)
(レース中にどさくさにまぎれてターボババアを殺すとかくらいは出来そうですけどね)
「とりあえずここに来る前にゴール地点には目印を付けておきました。それとこれを」
麦野が足元から何かを取り出し、小竹に渡す。それは小さめの時計だった。時間は23時58分を指している。
「ちょうど0時になるようにセットされている。それを足元においてください。それがなったらスタートです」
「はいよ」
「はいよ」
後2分後にスタートである。スタートに向けてソアラを移動させる麦野。レースをしていた走り屋たちが横一列に並べていた所には高めの電灯が備え付けられている。
そこを目印にして車を移動させた。小竹は自分とソアラのちょうど中間あたりに時計を置く。
23時59分。
ソアラは音を響かせエンジンを温める。横に並んだ小竹はソアラなど見ずに足をぶらつかせ余裕の笑みを浮かべている。
刻一刻と時間が迫る。ソアラのハンドルを握る麦野に余裕の表情はない。
相手はターボババア、都市伝説としてはただの与太話であるが話をよく深読みすれば恐ろしい能力である。ターボババアは車と共に並走し、そして抜き去るのだ。
つまり、速く移動することにおいて特化した都市伝説なのである。そんな相手に余裕などない。
麦野は目線を前から小竹へと向ける。すると目があった。小竹もこちらを見ていたのだ。その口が笑みを浮かべ開かれる。
0時00分。
そこを目印にして車を移動させた。小竹は自分とソアラのちょうど中間あたりに時計を置く。
23時59分。
ソアラは音を響かせエンジンを温める。横に並んだ小竹はソアラなど見ずに足をぶらつかせ余裕の笑みを浮かべている。
刻一刻と時間が迫る。ソアラのハンドルを握る麦野に余裕の表情はない。
相手はターボババア、都市伝説としてはただの与太話であるが話をよく深読みすれば恐ろしい能力である。ターボババアは車と共に並走し、そして抜き去るのだ。
つまり、速く移動することにおいて特化した都市伝説なのである。そんな相手に余裕などない。
麦野は目線を前から小竹へと向ける。すると目があった。小竹もこちらを見ていたのだ。その口が笑みを浮かべ開かれる。
0時00分。
ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ!
甲高い電子音と共に時計が鳴り響く。
鳴った瞬間にはすでにソアラは発進していた。時計の時刻をセットしたのは麦野である。時計の時刻は秒単位で車に内蔵されている時計とリンクしている。
麦野は時計が鳴るのを聞かず、内蔵時計を見て発進した。だからこそ、これほどまでに好調なスタートダッシュが切れたのである。
それに比べると契約者であるとはいえ、時計が鳴るまで踏み出せない小竹はワンテンポ遅れることになる。
お互いが拮抗した速さであれば、そのワンテンポは勝負の明暗を完全に分けることになる。しかし、ワンテンポ遅れたはずの小竹はなお笑みを浮かべていた。
麦野たちが乗る改造ソアラは発進から時速100キロに到達するのに約1.2秒。市販車最高クラスのブガッティ・ヴェイロンは約2.5秒。
比べてみるとこのソアラがどれだけ高性能なのかわかるだろう。しかし、小竹は笑わずにはいられない。
ワンテンポが決定打になるのはあくまで同等の速度を持つ車のみ。そして小竹は、ターボババアは時速100キロに到達するのに1秒も掛からない。
走りだした瞬間には、すでに100キロを超えている。ワンテンポ遅れた小竹が走り出す。ワンテンポの遅れは約0.4秒ほど。
走りだした瞬間に100キロすでに超えていた小竹は瞬時にソアラの後ろにつく。彼女にとってこれは遊びである。
小竹がターボババアと契約したのは約4年ほど前のことである。その4年間、どれほどの車と速さを競ってきたのだろうか。100や200ではない。
昔から速さに飢えていた小竹は走るのを自重しなかった。100や200を超える勝負にすべて勝ち、4年間で培ってきた勝利の自負はゆるぎないものへと昇華していた。
そんな彼女にとっては100キロまでに1秒以上も掛かるようなものはおもちゃ同然。改造ソアラもいつもより長く遊べるおもちゃでしかない。
遊ぶため、ソアラの後ろについたのはそんな思いだからだろう。しかし、小竹はわかっていなかった。この改造ソアラがどんな改造が施されているかを。
そして足りなかった。「戦う」という行為が。これは戦闘なのだ。
小竹が気がついたとき、すでにそれは起こっていた。
鳴った瞬間にはすでにソアラは発進していた。時計の時刻をセットしたのは麦野である。時計の時刻は秒単位で車に内蔵されている時計とリンクしている。
麦野は時計が鳴るのを聞かず、内蔵時計を見て発進した。だからこそ、これほどまでに好調なスタートダッシュが切れたのである。
それに比べると契約者であるとはいえ、時計が鳴るまで踏み出せない小竹はワンテンポ遅れることになる。
お互いが拮抗した速さであれば、そのワンテンポは勝負の明暗を完全に分けることになる。しかし、ワンテンポ遅れたはずの小竹はなお笑みを浮かべていた。
麦野たちが乗る改造ソアラは発進から時速100キロに到達するのに約1.2秒。市販車最高クラスのブガッティ・ヴェイロンは約2.5秒。
比べてみるとこのソアラがどれだけ高性能なのかわかるだろう。しかし、小竹は笑わずにはいられない。
ワンテンポが決定打になるのはあくまで同等の速度を持つ車のみ。そして小竹は、ターボババアは時速100キロに到達するのに1秒も掛からない。
走りだした瞬間には、すでに100キロを超えている。ワンテンポ遅れた小竹が走り出す。ワンテンポの遅れは約0.4秒ほど。
走りだした瞬間に100キロすでに超えていた小竹は瞬時にソアラの後ろにつく。彼女にとってこれは遊びである。
小竹がターボババアと契約したのは約4年ほど前のことである。その4年間、どれほどの車と速さを競ってきたのだろうか。100や200ではない。
昔から速さに飢えていた小竹は走るのを自重しなかった。100や200を超える勝負にすべて勝ち、4年間で培ってきた勝利の自負はゆるぎないものへと昇華していた。
そんな彼女にとっては100キロまでに1秒以上も掛かるようなものはおもちゃ同然。改造ソアラもいつもより長く遊べるおもちゃでしかない。
遊ぶため、ソアラの後ろについたのはそんな思いだからだろう。しかし、小竹はわかっていなかった。この改造ソアラがどんな改造が施されているかを。
そして足りなかった。「戦う」という行為が。これは戦闘なのだ。
小竹が気がついたとき、すでにそれは起こっていた。
「ギャッ!!」
車の後部から突然の爆発音が聞こえ、その衝撃と熱を後ろにいた小竹はまともに受けてしまった。
顔は腕でうまく隠すことができたが前を見ることはかなわず、走る足を止めることもできない。
そのまま何かに躓き体勢が崩れ、その勢いのままアスファルトの上に打ち付けられた。車はその爆発音とともに急加速し、1.2秒に至る前に100キロを超えた。
『ナイトラス・オキサイド・システム』
日本ではよくニトロエンジンなどと呼ばれている加速するための噴射装置である。
転がった小竹を無視し、そのままの勢いでソアラは順調な加速を続け小竹を大きく引き離すことに成功した。
顔は腕でうまく隠すことができたが前を見ることはかなわず、走る足を止めることもできない。
そのまま何かに躓き体勢が崩れ、その勢いのままアスファルトの上に打ち付けられた。車はその爆発音とともに急加速し、1.2秒に至る前に100キロを超えた。
『ナイトラス・オキサイド・システム』
日本ではよくニトロエンジンなどと呼ばれている加速するための噴射装置である。
転がった小竹を無視し、そのままの勢いでソアラは順調な加速を続け小竹を大きく引き離すことに成功した。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
しかし、それで黙る小竹ではなかった。雄たけびを上げながら力強く立ち上がる。額からは顎に引くほどの血を流し、ダウンジャケットの右腕は転がった衝撃で破けている。
それでも覇気はいささかも衰えることはなく、むしろ上がっている。
それでも覇気はいささかも衰えることはなく、むしろ上がっている。
「ナイトロかい!噴射の仕方からみてダイレクトショットォ!しゃ~まけなぁ(生意気な)!」
上がり続ける覇気を表すかのようにアスファルトを蹴りつけ、蹴られたアスファルトは砕け散る。
小竹の肩のあたりからターボババアの顔が浮き出してくる。
小竹の肩のあたりからターボババアの顔が浮き出してくる。
『どうすんだい!そんな様でさ!』
「決まってんだろ!あいつらの度肝抜いてや~のさぁ!」
「決まってんだろ!あいつらの度肝抜いてや~のさぁ!」
再びアスファルトを蹴りつけ前進する。蹴られるアスファルトは蹴られるたびに砕け散り、破片を飛び散らかせ、小竹から発生する衝撃で吹き飛んでいく。
勝負開始から6秒。ソアラとターボババアの差はすでに600メートルほど離れている。ソアラの速度はナイトロによりスペックを超えすでに300キロ以上に達している。
勝負はまだはじまったばかりである。
勝負開始から6秒。ソアラとターボババアの差はすでに600メートルほど離れている。ソアラの速度はナイトロによりスペックを超えすでに300キロ以上に達している。
勝負はまだはじまったばかりである。