「ひとりは、いや・・・」
ぱたぱたと暖かい滴がこぼれ、瞳の光が力を取り戻してゆく。
ぱたぱたと暖かい滴がこぼれ、瞳の光が力を取り戻してゆく。
(余計な真似をしおって・・・!)
嗄れた呻きと共に、銀の大鎌が振り上げられた。
「させるかっ!!」
(契約者よ、我に命ぜよ!彼奴らの命を刈り取れと!)
ぴくんとノイの身体が強張った。
「ノイちゃん!」
振り下ろされんとする鎌を必死に阻みながら柳が叫ぶ。
「『死神』の言うことを聞いちゃダメだ!」
「ノイちゃん!」
振り下ろされんとする鎌を必死に阻みながら柳が叫ぶ。
「『死神』の言うことを聞いちゃダメだ!」
(契約者よ・・・よもや我に逆らおうとは思うまいな?)
「あたし、やだ・・・だって。あたし・・・」
「いうこと、きかなくちゃ・・・あたし・・・けいやくしゃだから・・・でも・・・」
「ノイちゃん!」
びくっと電気にでも撃たれたかのように、泣き出しそうに少女が柳を見つめる。
「いうこと、きかなくちゃ・・・あたし・・・けいやくしゃだから・・・でも・・・」
「ノイちゃん!」
びくっと電気にでも撃たれたかのように、泣き出しそうに少女が柳を見つめる。
「ひとりは・・・嫌だろう?」
「友達が欲しいだろう?」
こくんと弱々しく、少女が頷く。
「外の世界を知りたいだろう!?」
今度ははっきりと、少女の頭が縦に揺れた。
「だったら、今、頑張るんだ!」
こくんと弱々しく、少女が頷く。
「外の世界を知りたいだろう!?」
今度ははっきりと、少女の頭が縦に揺れた。
「だったら、今、頑張るんだ!」
両の手をぎゅっと握りあわせて、少女はふたりの男と骸骨を代わる代わるに見つめた。
「ノイ・リリス。大丈夫だ」
「命を奪うのは嫌だ。そう死神に言いなさい」
例えノイが逆らっても、今の「死神」にはノイをどうこうは出来ない。
いかな死を司る存在とは言え契約者の命を自ら奪うことは文字通り自殺行為。
むしろ契約が破棄されれば、死神は心置きなく自分に逆らう者の命を自由に出来るのだ。
契約を維持したまま、ノイの自我を取り戻す。
ムーンストラックにとって薄氷の上を歩くように困難だった業を、ひとりの東洋から来た青年が実現させつつあった。
「あたし」
少女がぎゅっと拳を握る。
「もう死神のいうことはきかない!だれのこともあたしは、死なせない!」
「ノイ・リリス。大丈夫だ」
「命を奪うのは嫌だ。そう死神に言いなさい」
例えノイが逆らっても、今の「死神」にはノイをどうこうは出来ない。
いかな死を司る存在とは言え契約者の命を自ら奪うことは文字通り自殺行為。
むしろ契約が破棄されれば、死神は心置きなく自分に逆らう者の命を自由に出来るのだ。
契約を維持したまま、ノイの自我を取り戻す。
ムーンストラックにとって薄氷の上を歩くように困難だった業を、ひとりの東洋から来た青年が実現させつつあった。
「あたし」
少女がぎゅっと拳を握る。
「もう死神のいうことはきかない!だれのこともあたしは、死なせない!」
(この・・・っ)
黒い眼窩が少女を睨むが、もはや怯む事はない。
「あたしは、あなたの力は、いらないの!!」
(・・・・・・!)
ぎり、と歯噛みをするような耳障りな音を残して、死の化身は消え去った。
後に残ったのは静寂のみ。
ふらふらと倒れ込んだノイは、それでも少しばかり誇らしげに笑った。
「あたし、がんばったよ・・・!」
後に残ったのは静寂のみ。
ふらふらと倒れ込んだノイは、それでも少しばかり誇らしげに笑った。
「あたし、がんばったよ・・・!」
数日後、死神によって命を落とした少年のお葬式を、ふたりは遠くからノイに見せた。
「みんな、泣いてるね・・・」
「・・・うん。どんなに好きな人でも、死んでしまったら、もう二度と会えなくなってしまうからね」
柳は苦い表情で、ノイの頭にそっと手を置いた。
「・・・前に、教えただろう?死んだものには、神様に召されるまでは、会うことは出来ないのだ」
「だからといって、自分で自分の命を絶っても、天国へは行けないから誰にも会えない」
「命が尽きると決まっている日までは、誰でも一生懸命、生きなくてはいかんのだ。」
それが人間の役目なのだ。そうムーンストラックに説かれたノイの瞳から、一粒の涙がこぼれた。
「あたしも、かなしいの。さみしいの・・・」
「あの子は、あたしに石を投げたのに」
「あたしのこと、オバケっていったのに。あたしをいじめたのに。おそうしきを見てるとかなしいの。なんでだろ・・・」
柳はノイの頭に置いた手をゆっくり動かす。
「もう、仲直りが出来ないから、じゃないかな」
「なかなおり?」
「どんなにひどい喧嘩をしても、生きてさえいれば、いつかはまた会える」
「たとえ会えなくても、いつかはお互いを心の中で許せる日が、来るかもしれない」
ぽろぽろと、続けざまにノイの瞳から涙が溢れ出てきた。堪えかねた嗚咽が漏れる。
「あたし・・・もう、あの子にゆるしてもらえない?なかなおりできない?」
あたし、オバケなんかじゃないって、わかってもらいたかった。
ムーンストラックにしがみついて泣くノイに掛ける言葉は、大人ふたりにも見つからなかった。
「みんな、泣いてるね・・・」
「・・・うん。どんなに好きな人でも、死んでしまったら、もう二度と会えなくなってしまうからね」
柳は苦い表情で、ノイの頭にそっと手を置いた。
「・・・前に、教えただろう?死んだものには、神様に召されるまでは、会うことは出来ないのだ」
「だからといって、自分で自分の命を絶っても、天国へは行けないから誰にも会えない」
「命が尽きると決まっている日までは、誰でも一生懸命、生きなくてはいかんのだ。」
それが人間の役目なのだ。そうムーンストラックに説かれたノイの瞳から、一粒の涙がこぼれた。
「あたしも、かなしいの。さみしいの・・・」
「あの子は、あたしに石を投げたのに」
「あたしのこと、オバケっていったのに。あたしをいじめたのに。おそうしきを見てるとかなしいの。なんでだろ・・・」
柳はノイの頭に置いた手をゆっくり動かす。
「もう、仲直りが出来ないから、じゃないかな」
「なかなおり?」
「どんなにひどい喧嘩をしても、生きてさえいれば、いつかはまた会える」
「たとえ会えなくても、いつかはお互いを心の中で許せる日が、来るかもしれない」
ぽろぽろと、続けざまにノイの瞳から涙が溢れ出てきた。堪えかねた嗚咽が漏れる。
「あたし・・・もう、あの子にゆるしてもらえない?なかなおりできない?」
あたし、オバケなんかじゃないって、わかってもらいたかった。
ムーンストラックにしがみついて泣くノイに掛ける言葉は、大人ふたりにも見つからなかった。
柳の帰国の日。
「わざわざ空港まで見送りに・・・ありがとう」
「この子が、空港に行きたいと聞かなくてな」
とりあえず少女の意志が死神をねじ伏せた事で、一安心したのだろう彼の表情は、幾分穏やかだった。
「柳、あのね・・・これ」
お庭でつんだの、と一輪の紅いバラを差し出した。棘を引っかけたのだろう、小さなふっくらした手に、幾筋かの傷が付いている。
ありがとう、と受け取った柳に、ノイが深々とジャパニーズオジギをして言った。
「あたしとけっこんして下さい」
ムーンストラックは苦笑いして、ノイの頭を撫でる。
「まったく。テレビばかり見せていたもので、おませなことを言いたがって困る」
彼は子どもの言うことと簡単に捉えていたが、柳はこれまた深々と頭を下げた。
「不束者ですが、どうか末永くよろしくお願いします」
「わざわざ空港まで見送りに・・・ありがとう」
「この子が、空港に行きたいと聞かなくてな」
とりあえず少女の意志が死神をねじ伏せた事で、一安心したのだろう彼の表情は、幾分穏やかだった。
「柳、あのね・・・これ」
お庭でつんだの、と一輪の紅いバラを差し出した。棘を引っかけたのだろう、小さなふっくらした手に、幾筋かの傷が付いている。
ありがとう、と受け取った柳に、ノイが深々とジャパニーズオジギをして言った。
「あたしとけっこんして下さい」
ムーンストラックは苦笑いして、ノイの頭を撫でる。
「まったく。テレビばかり見せていたもので、おませなことを言いたがって困る」
彼は子どもの言うことと簡単に捉えていたが、柳はこれまた深々と頭を下げた。
「不束者ですが、どうか末永くよろしくお願いします」
「まさか、あれが本気だったとはな・・・」
「どーしたの?ムーンストラック」
「リジーさんが夕飯だって呼んでるよ」
「今日はね、ハンバーグなんだって!柳、ちっちゃく切るのはあたしがやるから、あーんして食べさせてね?」
「もちろん。ノイちゃんも俺にあーんで食べさせてよ?」
深く溜息をついた彼の平和な悩みは、今のところ尽きる気配はない。
「どーしたの?ムーンストラック」
「リジーさんが夕飯だって呼んでるよ」
「今日はね、ハンバーグなんだって!柳、ちっちゃく切るのはあたしがやるから、あーんして食べさせてね?」
「もちろん。ノイちゃんも俺にあーんで食べさせてよ?」
深く溜息をついた彼の平和な悩みは、今のところ尽きる気配はない。
死神少女は修行中・前章<死を携えし少女>END