05 ソレイユ、参上!
雨に濡れた夜道をユキオ少年は走っていた
勿論それは後ろから追いかけてくる変質者数名から逃れるためである
勿論それは後ろから追いかけてくる変質者数名から逃れるためである
「ハァッ、ハァッ」
角を曲がり、走り、更に角を曲がり
少年はブロック塀にもたれかかって荒い呼吸を繰り返した
少年はブロック塀にもたれかかって荒い呼吸を繰り返した
動揺する心を抑えながら彼は耳を澄ませる
何ということだ――あれだけ逃げたというのに、連中の迫りくる足音が聞こえてくるではないか!
何ということだ――あれだけ逃げたというのに、連中の迫りくる足音が聞こえてくるではないか!
「なんで……っ!」
パニックのあまり叫んでしまいたくなるのを堪える
ユキオ少年は変質者が未だ執拗に彼を追跡しているという事実に恐怖していた
ユキオ少年は変質者が未だ執拗に彼を追跡しているという事実に恐怖していた
発端は学習塾からの帰宅途中に近道しようと街灯の少ない道へ入ったことだ
すると奇妙な装束に身を包んだ彼らが急に現れ、奇声を上げて追い掛けてきたのだ
すると奇妙な装束に身を包んだ彼らが急に現れ、奇声を上げて追い掛けてきたのだ
「どっ、どうしよう……っ!」
こうなったら民家に逃げ込んで警察を呼んでもらうしかない
パニックながらもユキオ少年の判断は的確かつきわめて常識的なものだった
パニックながらもユキオ少年の判断は的確かつきわめて常識的なものだった
「変な人に追い掛けられてるんですって、事情を説明すれば……!」
だが問題は少年を追う彼らにその常識が通用しないという点にある!
言うまでもない! ユキオ少年を追い回す不埒な輩とは、その実、都市伝説なのである!
言うまでもない! ユキオ少年を追い回す不埒な輩とは、その実、都市伝説なのである!
「留守だったらどうしようっ!? でもっ!!」
グズグズしている暇はない
ユキオ少年は意を決し、近くの家宅に駆け込もうと次の曲がり角を飛び出た、次の瞬間!
ユキオ少年は意を決し、近くの家宅に駆け込もうと次の曲がり角を飛び出た、次の瞬間!
「赤いマントはいらンかァァァッッ!!!」
「うわああああああああああっっっっ!?!?」
「うわああああああああああっっっっ!?!?」
曲がり角からコンニチハしたのは、なんと先程の変質者ではないか
そう、その変質者とは近頃の学校町内を跋扈する都市伝説「赤マント」である!
そう、その変質者とは近頃の学校町内を跋扈する都市伝説「赤マント」である!
「あか、あか、あかーいィィィィィィィィィィィィィィィィー……」
「マぁぁぁぁぁントはぁ、いーらんかァァァァァァァァァァァァァァー……」
「マぁぁぁぁぁントはぁ、いーらんかァァァァァァァァァァァァァァー……」
ユキオ少年は驚きのあまり後退ろうとして躓いてしまった
角から現れたひとり。そして、何ということだ、少年の後方からも更にふたり、赤マントが近寄ってくるではないか
角から現れたひとり。そして、何ということだ、少年の後方からも更にふたり、赤マントが近寄ってくるではないか
「あっ、ぅあ……っ」
完全に不意を突かれた彼の口から漏れるのは悲鳴ではなく吃音
少年の恐怖を知ってか知らずか、赤マント達は緩慢な挙動で距離を詰める
少年の恐怖を知ってか知らずか、赤マント達は緩慢な挙動で距離を詰める
「 赤い マントは いらんか 」
そして、遂に
彼ら変質者がマントの下から凶刃を覗かせて、少年に迫ろうとした
彼ら変質者がマントの下から凶刃を覗かせて、少年に迫ろうとした
次の瞬間だ!
「レン・ディルレット! (阻止して!)」
熱風のように熱い奔流が、少年と変質者の間を駆け抜ける!
大振りのナイフを少年に突き出そうとした赤マントの体が、弾き飛ばされた!
大振りのナイフを少年に突き出そうとした赤マントの体が、弾き飛ばされた!
一体何が起こったというのか!?
ユキオ少年はほぼ反射的に、声のした方向へと振り向いていた
ユキオ少年はほぼ反射的に、声のした方向へと振り向いていた
そこに立っていたのは、少女だった
鮮やかな赤い髪がユキオ少年の目を引いた
鮮やかな赤い髪がユキオ少年の目を引いた
一瞬ユキオ少年は自分の置かれた状況を忘れ、その少女に見惚れていた
「ユル・ヴェジュ――レン・レヴェット! (矢を放って!)」
少女は真っ直ぐに腕を伸ばし、叫んだ!
同時に腕の先、手に握られた何かから眩い光が迸る!
同時に腕の先、手に握られた何かから眩い光が迸る!
少女から発射された赤い閃光が尾を引くように空中を奔った!
一瞬にして赤マントに直撃!
一瞬にして赤マントに直撃!
「おごォォーーッッ!!」
赤マントは絶叫と共に吹き飛ばされる!
直撃した赤マントの体は何やら炎上しているようにも見えるぞ!
直撃した赤マントの体は何やら炎上しているようにも見えるぞ!
「大丈夫!?」
少女が駆け寄ってくる
ユキオ少年は思考が麻痺した頭で彼女の顔を見た
ユキオ少年は思考が麻痺した頭で彼女の顔を見た
「メリー! この子をお願い!」
「まかせてなのね!」
「まかせてなのね!」
少女とは別の声が、少年の手元から聞こえた
考えるでもなく、彼はそちらの方へ視線を落とす
考えるでもなく、彼はそちらの方へ視線を落とす
何時からいたのだろうか、そこには何やらぬいぐるみようなものがあった
「わたしメリー! 今、東区二丁目大通り300メートル手前南側の十字路にいるの!」
突如、未知の感覚がユキオ少年を襲う
まるで臍が外側へと思いっきり引っ張り出されるようだ
まるで臍が外側へと思いっきり引っ張り出されるようだ
「んひぃっ!!」
思わず変な声が出る
立ち眩みの時のように目の前が真っ暗になり
立ち眩みの時のように目の前が真っ暗になり
「あれ? ここ、どこ?」
未知の感覚は一瞬だった
視界が明るい、というより眩しい。思わず手で目の前を遮った。直ぐ近くの街灯の光のせいだ
視界が明るい、というより眩しい。思わず手で目の前を遮った。直ぐ近くの街灯の光のせいだ
おかしい、ユキオ少年は違和感に気付いた
ここは先程の場所ではない。変質者達から逃げていたあの道には街灯は無かったのだ
ここは先程の場所ではない。変質者達から逃げていたあの道には街灯は無かったのだ
少年はアスファルトにへたり込んだままの体勢で周囲を見回す
ここは学校町の東区、それは間違いない
ここは学校町の東区、それは間違いない
ただしこの場所は、先程いた場所とは全く別の場所で、厳密に言うと距離的に離れている
近道しようとして通った道からはだいぶ離れた、大通りに近い場所だ
近道しようとして通った道からはだいぶ離れた、大通りに近い場所だ
「えっ、どういうこと?」
「んふー」
「んふー」
可愛らしい声が手元から聞こえる
驚いてそちらを見れば、先程のぬいぐるみだった
驚いてそちらを見れば、先程のぬいぐるみだった
「んふー……。んふ、やっぱり、ピンポイントの転移は、んふー、きつきつ、なのー……」
「えっ、嘘、ぬいぐるみが、喋った……!?」
「えっ、嘘、ぬいぐるみが、喋った……!?」
ぬいぐるみ、小さな羊のぬいぐるみだ
白いもこもこに黒い顔のそれは確かに羊のぬいぐるみのはずだ
白いもこもこに黒い顔のそれは確かに羊のぬいぐるみのはずだ
ぬいぐるみが、喋った
ユキオ少年の思考は未だに麻痺したままである
ユキオ少年の思考は未だに麻痺したままである
「ぬいぐるみじゃないのー! わたしはメ……、あっ、……と、とにかく、ぬいぐるみじゃ、ないのー!」
ぷんすか、という表現が適当だろうか
そのぬいぐるみは可愛い声で抗議の意思を表明している
そのぬいぐるみは可愛い声で抗議の意思を表明している
少年はよろめきながら立ち上がった
僕は、夢でも見てるんだろうか?
僕は、夢でも見てるんだろうか?
「あっあっ、わたしも抱っこしてほしいの、ぬれぬれの地面はいやなの!」
少年は未だに喋るぬいぐるみに視線を落とし、言われるままに持ち上げた
アスファルトは数時間前の雨でひどく濡れていた。ぬいぐるみだから汚れたくはないだろう
アスファルトは数時間前の雨でひどく濡れていた。ぬいぐるみだから汚れたくはないだろう
「なんだか、瞬間移動したみたい」
「うん、そうなのー」
「うん、そうなのー」
ユキオ少年が先程起きたことの感想を漏らすと、あっさりその答えが返ってきた
驚いてぬいぐるみを見ると、何やら得意そうに鼻をふんふん鳴らしていた
驚いてぬいぐるみを見ると、何やら得意そうに鼻をふんふん鳴らしていた
「あれは、わたしの能り、あ、えっと、ソレイユちゃんの能、あっ、魔法なの。すごいでしょー、褒めてくれてもいいのー」
「ソレイユ、ちゃん?」
「うん、えっと、さっきキミを助けたお姉さんなの」
「あ……!」
「ソレイユ、ちゃん?」
「うん、えっと、さっきキミを助けたお姉さんなの」
「あ……!」
そうだ、あのお姉さんだ
ユキオ少年の頭の中で先程の出来事が鮮明に甦る
ユキオ少年の頭の中で先程の出来事が鮮明に甦る
赤い髪の、綺麗なお姉さんだった。僕より年上かもしれない
可愛い感じの羽織りものの下は、何だかエッチな格好をしていた気がする
可愛い感じの羽織りものの下は、何だかエッチな格好をしていた気がする
ユキオ少年は心臓の鼓動が駆け上がっていくのを感じていた
そしてそれが先程の恐怖の余韻なのか、はたまたあのお姉さんの為なのかは、分かっていなかった
そしてそれが先程の恐怖の余韻なのか、はたまたあのお姉さんの為なのかは、分かっていなかった
「あっ、電話なの」
ぬいぐるみの声で我に返った
羊のぬいぐるみはどこから出したのか携帯電話を抱えていた
羊のぬいぐるみはどこから出したのか携帯電話を抱えていた
「ソレイユちゃん、終わったの? うん、分かったのー」
鼓動が一際高鳴るのを感じた
通話相手はきっとあのお姉さんだ
通話相手はきっとあのお姉さんだ
「ソレイユちゃんは今、私の前にいるの」
一瞬、目の前の空間が捻じ曲がるような錯覚がした
その直後、そこにはなんと先程のお姉さんが立っているではないか
その直後、そこにはなんと先程のお姉さんが立っているではないか
「ソレイユちゃーん!」
突如ユキオ少年の手からぬいぐるみが飛び上がる
放物線を描くように、ぬいぐるみはお姉さんの手元へ収まった
放物線を描くように、ぬいぐるみはお姉さんの手元へ収まった
「お疲れメリー、ありがとね」
「もうくたくたなのー」
「もうくたくたなのー」
お姉さんと目が合う
彼女は少年に近寄ってきた
彼女は少年に近寄ってきた
「きみ、大丈夫だった?」
お姉さんは心配そうな顔でユキオ少年を覗き込む
お姉さんは白の長い手袋をしているのに今更気づいた
お姉さんは白の長い手袋をしているのに今更気づいた
「あいつらに何かされなかった? 怪我してない?」
そしておもむろにお姉さんは少年の体をあちこち撫で始めたのだ
手袋越しに撫でられる不思議な感覚が少年を襲う。ゾクゾクするのが止まらない
手袋越しに撫でられる不思議な感覚が少年を襲う。ゾクゾクするのが止まらない
「大丈夫? どこも怪我してない?」
「あっあっ、はいっ、だっ大丈夫ですっ」
「あっあっ、はいっ、だっ大丈夫ですっ」
緊張のあまり妙な声色になってしまった
返答を聞いたお姉さんの顔に安堵の表情が広がった
返答を聞いたお姉さんの顔に安堵の表情が広がった
「本当? 良かったぁ」
思わず見惚れてしまう
この瞬間、ユキオ少年は胸の奥と股間の上辺りがきゅうと甘く締め付けられる謎の感覚に囚われた
この瞬間、ユキオ少年は胸の奥と股間の上辺りがきゅうと甘く締め付けられる謎の感覚に囚われた
クラスの片想いの女の子を見つめていてもこんな風になったことは一度も無いのに
そう、ユキオ少年はこの時、思春期の扉を開け放ちその第一歩を踏み出していたのだ
そう、ユキオ少年はこの時、思春期の扉を開け放ちその第一歩を踏み出していたのだ
「あ、あの、さっきの変質者の人達は」
「大丈夫、私が全員退治したわ!」
「大丈夫、私が全員退治したわ!」
お姉さんはユキオ少年の問いにはっきりと答える
間をおいて「あ」という顔をしたお姉さんは、前屈みになってずいと顔を近づけてきた
間をおいて「あ」という顔をしたお姉さんは、前屈みになってずいと顔を近づけてきた
「それより、どうしてこんな時間にあんな暗い道を通っていたの?」
「え、あ」
「それも独りで。感心しないわ」
「あの、あっ、ごめんなさい」
「え、あ」
「それも独りで。感心しないわ」
「あの、あっ、ごめんなさい」
お姉さんは怖い顔で問い質してきた
今、僕はお姉さんに叱られてるんだ。ユキオ少年の胸に謎の興奮が生まれる
今、僕はお姉さんに叱られてるんだ。ユキオ少年の胸に謎の興奮が生まれる
お姉さんの顔はうっすらと濡れていた
それが汗なのか、だいぶ前に止んだ雨の所為なのかは分からない
それが汗なのか、だいぶ前に止んだ雨の所為なのかは分からない
お姉さんの羽織りものから覗く体に、少年は視線を奪われる
ぴったりと肌に密着するタイプの生地なのだろうか、スクール水着のようなのを着ている
ぴったりと肌に密着するタイプの生地なのだろうか、スクール水着のようなのを着ている
そして、前屈みになったお姉さんの胸に彼の目は釘付けになってしまった
その膨らみはふっくらと柔らかそうな丸みを帯びていた
その膨らみはふっくらと柔らかそうな丸みを帯びていた
グラビアのアイドルのような特別大きな胸というわけではない
でもそれは少年の同級生の女子達が持っていないものだ
でもそれは少年の同級生の女子達が持っていないものだ
心臓の鼓動がどんどん駆け上がっていく
少年は自分の内部で何かが高まっていく錯覚を覚えた
少年は自分の内部で何かが高まっていく錯覚を覚えた
「学校で暗い夜道は通ったらダメって言われなかった? 最近は変質者も増えてるから危ないのよ?」
「ごめんなさい、僕、塾の帰りで、急いで帰ろうと、近道しようとして、それで」
「近道かもしれないけど、あんな人気のない道は何があるか分からないわ」
「あ、はい……」
「ごめんなさい、僕、塾の帰りで、急いで帰ろうと、近道しようとして、それで」
「近道かもしれないけど、あんな人気のない道は何があるか分からないわ」
「あ、はい……」
お姉さんは少年の前に右手を掲げて小指を立てる
もう怖い顔はしていなかった
もう怖い顔はしていなかった
「お姉さんと約束して? もうあんな暗い道は通らないって。必ず人気のある明るい道から帰るって。約束できる?」
「あ、はい。約束します。危ない所は通りません」
「あ、はい。約束します。危ない所は通りません」
お姉さんはもう一方の手で少年の手を取って、小指と小指を絡めた
指切りげんまんである
指切りげんまんである
「うん! じゃあ、約束ね!」
「はっ、はい」
「はっ、はい」
お姉さんはにっこり笑顔で頭を撫でてきた
この時、少年の心臓は喉から飛び出そうなほどに高鳴った
この時、少年の心臓は喉から飛び出そうなほどに高鳴った
不意にお姉さんの体が離れる
未だに思考が麻痺しているとはいえ少年は愚かではない。お姉さんとのお別れの時は着実に近づいている
未だに思考が麻痺しているとはいえ少年は愚かではない。お姉さんとのお別れの時は着実に近づいている
「あ、あの! お姉さん、あの、あ、名前を、教えてください!」
「え、私?」
「え、私?」
少年の突然の質問にやや面食らったようだ。お姉さんは少し困ったようにぬいぐるみの方を見た
先程のぬいぐるみは、いつの間にかだっこちゃんのようにお姉さんの腕にしがみついている
先程のぬいぐるみは、いつの間にかだっこちゃんのようにお姉さんの腕にしがみついている
「私は……、ソレイユよ。マジカル☆ソレイユって言うの。それで、ええと、あなたのお名前は?」
「あっ、コバヤシ ユキオです」
「ユキオ君って言うのね」
「あっ、コバヤシ ユキオです」
「ユキオ君って言うのね」
お姉さんは困った顔のままだ
そしてその表情はどこか硬い
そしてその表情はどこか硬い
「あの、ユキオ君。お姉さんのことは、誰にも言わないで欲しいの」
「ソレイユちゃんの魔法が他の人にバレたら魔法の国に帰らなくちゃいけない、なの」
「ソレイユちゃんの魔法が他の人にバレたら魔法の国に帰らなくちゃいけない、なの」
お姉さんの言葉にぬいぐるみが付け足してくる
しかし少年はお姉さんの言葉を半分しか聞いていなかった
しかし少年はお姉さんの言葉を半分しか聞いていなかった
「僕、絶対に誰にも言いません。約束します!」
「本当? ありがとう!」
「本当? ありがとう!」
誰にも言うもんか、こんなエッチなお姉さんは僕だけの秘密にするんだ
ユキオ少年が胸に秘めた決意は固い、非常に固い
ユキオ少年が胸に秘めた決意は固い、非常に固い
「それで、あの。お姉さん。僕、いつかまた、お姉さんに会えますか?」
「えっ? そ、それは、あの」
「えっ? そ、それは、あの」
少年の質問にお姉さんは先程よりも露骨に困った顔をしていた
狼狽えた様にぬいぐるみの方をチラチラと見ている
狼狽えた様にぬいぐるみの方をチラチラと見ている
「ユキオ君がお姉さんとの約束を守っていたら、いつかまた会える……かもしれないなのー」
「そっ、そうね! ユキオ君が私との約束を守ってくれてたら、また会えるかもしれないわ!」
「分かりました! 約束守ります!」
「そっ、そうね! ユキオ君が私との約束を守ってくれてたら、また会えるかもしれないわ!」
「分かりました! 約束守ります!」
ユキオ少年の返答はほぼ反射的だった
未だに彼の心臓は謎の興奮で高鳴り続けている
未だに彼の心臓は謎の興奮で高鳴り続けている
お姉さんは少年の答えに頷くと、数歩後退った
そして片腕を揚げて、頭上で大きく二回円を描いた
そして片腕を揚げて、頭上で大きく二回円を描いた
突如、熱風が吹き抜けた
お姉さんの体の周囲を幾重にも赤い光の輪が取り巻いている
お姉さんの体の周囲を幾重にも赤い光の輪が取り巻いている
「ユキオ君、ばいばいなのー」
「気をつけて帰るのよ!」
「気をつけて帰るのよ!」
それは、一瞬の出来事だった
目の前の空間が歪むような錯覚と同時にお姉さんは消失した
目の前の空間が歪むような錯覚と同時にお姉さんは消失した
行ってしまった。残念な気持ちが胸いっぱいに広がり始める
少し前に怖い目に遭ったことなど遥か昔の事件のような気がした
少し前に怖い目に遭ったことなど遥か昔の事件のような気がした
ぼんやりした頭に浮かぶのは、お姉さんの格好と、体、そしてあの優しい笑顔
ユキオ少年は、未だにお腹の下の下辺りに熱が高まっていく不思議な感覚に憑りつかれていた
ユキオ少年は、未だにお腹の下の下辺りに熱が高まっていく不思議な感覚に憑りつかれていた
少年は果たしてあのお姉さんに再会できるのだろうか
実の所、彼の中でお姉さんとの約束はすべて吹き飛んでいた
実の所、彼の中でお姉さんとの約束はすべて吹き飛んでいた
あの危ない夜道を通り続けていれば、必ずまたあのお姉さんに会える
ユキオ少年はそんな、根拠はないが自信に満ち満ちた絶対の確信を握りしめていたのだ
ユキオ少年はそんな、根拠はないが自信に満ち満ちた絶対の確信を握りしめていたのだ
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